新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第三部 Eパート (最終回)


 キャーーーーーーッッ!!!

 アスカ(弐号機)は突然その場にしゃがみこんでしまった。

 「え? ア、アスカ、どうしたの!?」

 「ちょっとアスカ、一体何があったの?」

 シンジとミサトは、いきなりのアスカの行動に驚いていた。

 「……シンジ~、あんたアタシの胸触ったわね!」

 「「はぁ?」」

 シンジとミサトは、見事にハモっていた。

 「何言ってるんだよアスカ? 僕は弐号機を止めようと思って……」

 「私と弐号機はシンクロしてんのよ! 弐号機の胸を触るのは、私の
 胸を触るのと同じなの!」

 「そんな無茶な……」

 「無茶でも何でも胸触ったんだから、ちゃんと責任取りなさいよ!

 「そんな~……」

 「アスカ、胸触られると責任取ってもらえるの?」

 「そうよ、それが男ってもんよ!」

 「じゃあ碇くん、私も責任取ってくれるの?

 「うっ!!」

 シンジはめまいを感じた。

 『う~、よりによってこんな時に言うなんて……。アスカはもとより、ミサトさんや
 リツコさん……いや、発令所にいる人全員に聞かれてしまったじゃないか~』

 アスカの制裁、ミサトの冷やかし、考えるだけで目の前が真っ暗になってしまう。

 「ちょっとレイ、どーいう事よ!?」

 「前に碇くんがカードを持ってきてくれた時、私の上に乗ってきて胸に触ったの」

 「あ……綾波……だ……だから……あれは事故だって……」

 「シンジは黙ってて!!」

 「は……はい」

 この時、よほど弐号機が恐かったのか、初号機はしりもちをついていた。しかも、
 ATフィールドまで張っていた。

 はっきり言って、カッコ悪い。

 「レイ、シンジがカードを届けた時って……アンタ確か、裸でシンジの前に出たって
 言ったわね」

 「ええ、シャワーを浴びた後だったから、そのまま」

 「じゃあ何? シンジは裸のアンタを押し倒して、胸を触ったの?」

 「そうなるのかしら」

 「だ……だから……あれは事故で……」

 シ~~~ン~~~ジィ~~~!!

 ヒィ~~~!!

 この時の弐号機は使徒よりも恐かった、と後にシンジは語っている。

 そして、弐号機の左肩のパーツが開いた。

 「ん? ちょっとミサト! 何でプログナイフが入ってないのよっ!?


 「何で使徒も来てないのにプログナイフがいるのよ? 痴話ゲンカならエヴァから降
 りてからにしなさい。情報公開してるんだから、エヴァは世界中の人が見てるのよ。
 みっともない事は止めなさい!

 『良かった……。こんな事もあろうかと思ってプログナイフを抜いておいて本当に
 良かった……』

 ミサトが胸をなで下ろしている時、後ろから声が聞こえた。

 「シンジ、今の話は本当か?」

 「ち、違うんだ父さん! あれは偶然なんだ。慌てた僕が綾波にぶつかって
 ……だから……その……」

 「本当か、と聞いている」

 「う……。触ったのは本当だけど、わざとじゃないよ。すぐに離れたし……」

 「そうなのか、レイ?」

 「はい。私が『どいてくれる?』って言うと、碇くんはすぐにどいてくれたので、
 私はそのまま服を着ました」

 「そうか、話は分かった。……シンジ、お前には失望した

 「うっ……」

 「裸の女性を押し倒し、胸を触っておきながら何もせんというのは、相手の女性に
 対して失礼だ」

 はぁ~~~?」×無数

 その場にいたレイ以外の全員が見事にハモった。ちなみに、レイは何の事か良く分
 かっていないので、反応のしようが無かったのである。

 「……やはり離れて暮らしていたのがいけなかったか。シンジの教育が足りなかっ
 たな……」

 「あの~碇司令、それはちょっと違うと思いますが……」

 「何を言うか! 私の若い頃はだな……」

 「碇……ちょっと来い。どうやらお前とは徹底的に話し合う必要があるようだ」

 「こら冬月、何をする!? 私はまだシンジに話が……」

 「では葛城くん、後の指揮は任せる」

 「は、はい。冬月副司令」

 「待て冬月! ここの司令は私だぞ!」

 だが、その声は、司令席の降下と共に消えて無くなった。

 『シンジ君、お父さんと一緒に暮らしてなくて、本っ当に良かったわね』

 リツコは、しみじみそう思っていた。

 「え、え~と。とりあえず三人とも作戦を伝えるわよ。まずアスカ、あなたは弐号機
 で、まだ解体されていないビルを破壊。そして、それをシンジ君とレイで所定の位置
 まで撤去。いいわね、三人とも」

 「分かったわよ。要するに、徹底的に破壊すればいいんでしょ?」

 「そ、今のアスカにピッタリの仕事よ」

 「言われなくったって! シンジの~
 ぶぅわぁかぁぁぁっっっ!!!

 弐号機のふるったスマッシュホークの一撃は、半壊していたビルを粉々に吹き飛ばし
 た。

 「ふぅ……。ま、上はあれでいいとして……」

 「ミサト、これは賭け率が変わるわよ」

 「そうね。今までアスカの方がリードしてると思ってたのに、まさか裸のレイを押し
 倒して胸まで触っていたとは……意外だったわ」

 「でも、事故とはいえ、レイちゃんの胸を触るなんて……。シンジ君、あんな顔
 して、意外と手が早いのかも知れませんね」

 「さすがは、碇司令のお子さん……といった所かしらね」

 「意味シンな発言ね、リツコ」

 「それよりマヤ、今回の事をMAGIに打ち込んでみて」

 「はいセンパイ! でも、この事でアスカちゃんが積極的にシンジ君に迫る事も考え
 られますが」

 「でも、シンちゃんは強引なのは嫌うわよ」

 「でも、アスカが本気で迫れば、シンジ君、逃げられないんじゃない?」

 「う~ん……でも、家にはレイがいるし、それは無理なんじゃない?」

 「そうね。じゃマヤ、今の事も考慮に入れてみて」

 「はい」

 カタカタカタカタカタカタカタ……

 チーン

 「出ました! 今の所、フィフティフィフティ完全に互角です」

 「う~ん。ますます難しくなってきたわね」

 「ん? ちょっとリツコ、この大穴って何?」

 「あ、それ。シンジ君がレイとアスカ、両方に手を出す確率よ」

 「それは無いんじゃない? あのシンちゃんに限って」

 「私もそう思ったんだけど、MAGIの診断では、日に日にその確率が上がってるのよ」

 「ふ~ん。で、この超大穴ってのは、何?」

 「あ、それ。ミサトがシンジ君に手を出す確率よ」

 「何よそれ!?」

 「ミサトだってシンジ君と一緒に暮らしてるんだから、無いとは言えないでしょ?」

 「それだったら、シンちゃんが私に手を出す確率の間違いじゃないの?」

 「いえ、それは無いわね。すぐそばに自分の事を好きだと言う二人の女の子がいる
 のに、あえてミサトに手を出す必要が無いわ。MAGIもそう言ってるし。だから、あく
 までミサトがシンジ君に手を出す確率なのよ」

 「全く……身内をカケに使うなんて信じられないわね」

 「何言ってんのよ? 始めたのはミサトでしょ。もう今さら止められないわよ」

 「どうして?」

 「碇司令も参加しているからよ」

 「碇司令まで? ……で、司令はどっちに賭けてるの?」

 「……『両方とも』に賭けてるわ」

 「……まったく何を考えるんだかあのオヤジは……」

 (同感。ゲンドウ、性格変わったぞ)


 ジオフロント内でこのような会話がなされているとは知らず、地上では破壊の限りが
 尽くされていた。

 ほーっほっほっほっ!
 一度こういうのやってみたかったのよね~!
 あ~、スッキリするわ!!

 鬼気として街を破壊する弐号機を見て、シンジは背筋が寒くなるのを感じた。なぜ
 なら、街を破壊するアスカのエネルギーは、本来は全てシンジの身体に降りかかる
 はずだったからである。

 「でも、これでアスカの気が晴れてくれるといいんだけど……」

 シンジは、小さくそう呟いた。その時、七号機から通信が入った。

 「ん? 何、綾波?」

 「碇くん、さっきアスカが言ってた、『責任取る』ってどういう事なの?」

 「はぁ~~~ ……後でアスカにでも聞いてみて」

 「?」

 ……そして数時間後、エヴァ三体(主に弐号機)の活躍により、主だったガレキは
 撤去されていた。勢いに乗ったアスカが、建設中のマンションまで幾つか破壊して
 しまったが、全体の作業からすれば、微々たるものである。

 後は普通の重機でも十分出来るので、エヴァはジオフロントに戻っていった。

 街を破壊し尽くし気が晴れたアスカは、シンジへの制裁を『往復ビンタ十回』
 程度で済ませたが、それだけでもシンジは床に倒れていた。

 また、冬月に延々と説教されているゲンドウは、ネルフの女性職員から、改めて
 『危険人物』としてマークされる事となり、威厳はますます低下していった。

 ……その日の午後、シンジは、ミサトとアスカの質問責めにあい、当時の事を全て
 白状させられたのだった……。

 合掌。


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