「キャーーーーーーッッ!!!」
アスカ(弐号機)は突然その場にしゃがみこんでしまった。
「え? ア、アスカ、どうしたの!?」
「ちょっとアスカ、一体何があったの?」
シンジとミサトは、いきなりのアスカの行動に驚いていた。
「……シンジ~、あんたアタシの胸触ったわね!」
「「はぁ?」」
シンジとミサトは、見事にハモっていた。
「何言ってるんだよアスカ? 僕は弐号機を止めようと思って……」
「私と弐号機はシンクロしてんのよ! 弐号機の胸を触るのは、私の
胸を触るのと同じなの!」
「そんな無茶な……」
「無茶でも何でも胸触ったんだから、ちゃんと責任取りなさいよ!」
「そんな~……」
「アスカ、胸触られると責任取ってもらえるの?」
「そうよ、それが男ってもんよ!」
「じゃあ碇くん、私も責任取ってくれるの?」
「うっ!!」
シンジはめまいを感じた。
『う~、よりによってこんな時に言うなんて……。アスカはもとより、ミサトさんや
リツコさん……いや、発令所にいる人全員に聞かれてしまったじゃないか~』
アスカの制裁、ミサトの冷やかし、考えるだけで目の前が真っ暗になってしまう。
「ちょっとレイ、どーいう事よ!?」
「前に碇くんがカードを持ってきてくれた時、私の上に乗ってきて胸に触ったの」
「あ……綾波……だ……だから……あれは事故だって……」
「シンジは黙ってて!!」
「は……はい」
この時、よほど弐号機が恐かったのか、初号機はしりもちをついていた。しかも、
ATフィールドまで張っていた。
はっきり言って、カッコ悪い。
「レイ、シンジがカードを届けた時って……アンタ確か、裸でシンジの前に出たって
言ったわね」
「ええ、シャワーを浴びた後だったから、そのまま」
「じゃあ何? シンジは裸のアンタを押し倒して、胸を触ったの?」
「そうなるのかしら」
「だ……だから……あれは事故で……」
「シ~~~ン~~~ジィ~~~!!」
「ヒィ~~~!!」
この時の弐号機は使徒よりも恐かった、と後にシンジは語っている。
そして、弐号機の左肩のパーツが開いた。
「ん? ちょっとミサト! 何でプログナイフが入ってないのよっ!?」
「何で使徒も来てないのにプログナイフがいるのよ? 痴話ゲンカならエヴァから降
りてからにしなさい。情報公開してるんだから、エヴァは世界中の人が見てるのよ。
みっともない事は止めなさい!」
『良かった……。こんな事もあろうかと思ってプログナイフを抜いておいて本当に
良かった……』
ミサトが胸をなで下ろしている時、後ろから声が聞こえた。
「シンジ、今の話は本当か?」
「ち、違うんだ父さん! あれは偶然なんだ。慌てた僕が綾波にぶつかって
……だから……その……」
「本当か、と聞いている」
「う……。触ったのは本当だけど、わざとじゃないよ。すぐに離れたし……」
「そうなのか、レイ?」
「はい。私が『どいてくれる?』って言うと、碇くんはすぐにどいてくれたので、
私はそのまま服を着ました」
「そうか、話は分かった。……シンジ、お前には失望した」
「うっ……」
「裸の女性を押し倒し、胸を触っておきながら何もせんというのは、相手の女性に
対して失礼だ」
「はぁ~~~?」×無数
その場にいたレイ以外の全員が見事にハモった。ちなみに、レイは何の事か良く分
かっていないので、反応のしようが無かったのである。
「……やはり離れて暮らしていたのがいけなかったか。シンジの教育が足りなかっ
たな……」
「あの~碇司令、それはちょっと違うと思いますが……」
「何を言うか! 私の若い頃はだな……」
「碇……ちょっと来い。どうやらお前とは徹底的に話し合う必要があるようだ」
「こら冬月、何をする!? 私はまだシンジに話が……」
「では葛城くん、後の指揮は任せる」
「は、はい。冬月副司令」
「待て冬月! ここの司令は私だぞ!」
だが、その声は、司令席の降下と共に消えて無くなった。
『シンジ君、お父さんと一緒に暮らしてなくて、本っ当に良かったわね』
リツコは、しみじみそう思っていた。
「え、え~と。とりあえず三人とも作戦を伝えるわよ。まずアスカ、あなたは弐号機
で、まだ解体されていないビルを破壊。そして、それをシンジ君とレイで所定の位置
まで撤去。いいわね、三人とも」
「分かったわよ。要するに、徹底的に破壊すればいいんでしょ?」
「そ、今のアスカにピッタリの仕事よ」
「言われなくったって! シンジの~
ぶぅわぁかぁぁぁっっっ!!!」
弐号機のふるったスマッシュホークの一撃は、半壊していたビルを粉々に吹き飛ばし
た。
「ふぅ……。ま、上はあれでいいとして……」
「ミサト、これは賭け率が変わるわよ」
「そうね。今までアスカの方がリードしてると思ってたのに、まさか裸のレイを押し
倒して胸まで触っていたとは……意外だったわ」
「でも、事故とはいえ、レイちゃんの胸を触るなんて……。シンジ君、あんな顔
して、意外と手が早いのかも知れませんね」
「さすがは、碇司令のお子さん……といった所かしらね」
「意味シンな発言ね、リツコ」
「それよりマヤ、今回の事をMAGIに打ち込んでみて」
「はいセンパイ! でも、この事でアスカちゃんが積極的にシンジ君に迫る事も考え
られますが」
「でも、シンちゃんは強引なのは嫌うわよ」
「でも、アスカが本気で迫れば、シンジ君、逃げられないんじゃない?」
「う~ん……でも、家にはレイがいるし、それは無理なんじゃない?」
「そうね。じゃマヤ、今の事も考慮に入れてみて」
「はい」
カタカタカタカタカタカタカタ……
チーン
「出ました! 今の所、フィフティフィフティ。完全に互角です」
「う~ん。ますます難しくなってきたわね」
「ん? ちょっとリツコ、この『大穴』って何?」
「あ、それ。シンジ君がレイとアスカ、両方に手を出す確率よ」
「それは無いんじゃない? あのシンちゃんに限って」
「私もそう思ったんだけど、MAGIの診断では、日に日にその確率が上がってるのよ」
「ふ~ん。で、この『超大穴』ってのは、何?」
「あ、それ。ミサトがシンジ君に手を出す確率よ」
「何よそれ!?」
「ミサトだってシンジ君と一緒に暮らしてるんだから、無いとは言えないでしょ?」
「それだったら、シンちゃんが私に手を出す確率の間違いじゃないの?」
「いえ、それは無いわね。すぐそばに自分の事を好きだと言う二人の女の子がいる
のに、あえてミサトに手を出す必要が無いわ。MAGIもそう言ってるし。だから、あく
までミサトがシンジ君に手を出す確率なのよ」
「全く……身内をカケに使うなんて信じられないわね」
「何言ってんのよ? 始めたのはミサトでしょ。もう今さら止められないわよ」
「どうして?」
「碇司令も参加しているからよ」
「碇司令まで? ……で、司令はどっちに賭けてるの?」
「……『両方とも』に賭けてるわ」
「……まったく何を考えるんだかあのオヤジは……」
(同感。ゲンドウ、性格変わったぞ)
ジオフロント内でこのような会話がなされているとは知らず、地上では破壊の限りが
尽くされていた。
「ほーっほっほっほっ!
一度こういうのやってみたかったのよね~!
あ~、スッキリするわ!!」
鬼気として街を破壊する弐号機を見て、シンジは背筋が寒くなるのを感じた。なぜ
なら、街を破壊するアスカのエネルギーは、本来は全てシンジの身体に降りかかる
はずだったからである。
「でも、これでアスカの気が晴れてくれるといいんだけど……」
シンジは、小さくそう呟いた。その時、七号機から通信が入った。
「ん? 何、綾波?」
「碇くん、さっきアスカが言ってた、『責任取る』ってどういう事なの?」
「はぁ~~~ ……後でアスカにでも聞いてみて」
「?」
……そして数時間後、エヴァ三体(主に弐号機)の活躍により、主だったガレキは
撤去されていた。勢いに乗ったアスカが、建設中のマンションまで幾つか破壊して
しまったが、全体の作業からすれば、微々たるものである。
後は普通の重機でも十分出来るので、エヴァはジオフロントに戻っていった。
街を破壊し尽くし気が晴れたアスカは、シンジへの制裁を『往復ビンタ十回』
程度で済ませたが、それだけでもシンジは床に倒れていた。
また、冬月に延々と説教されているゲンドウは、ネルフの女性職員から、改めて
『危険人物』としてマークされる事となり、威厳はますます低下していった。
……その日の午後、シンジは、ミサトとアスカの質問責めにあい、当時の事を全て
白状させられたのだった……。
合掌。