ピピピピピピピピ……
「ん……ん~」
シンジはいつものように目覚ましを止めた。
シンジの朝は早い。誰よりも早く起き、みんなの食事を作る。朝食はいつもシンジの
担当になっていた。理由は簡単。他の人は寝過ごして起きて来ない事が多いからで
ある。そんな訳で、仕方なくシンジがやる事になっていた。
「さて、今日から四人分作るのか。確か綾波は肉が嫌いだったな。となると、朝食の
定番、ハム、ベーコン、ウインナーはダメか。玉子焼きか目玉焼きにするかな。
魚は大丈夫なのかなぁ? それだったら、塩ジャケなんかも……」
シンジは着替えをしながらも、そんな事を呟いていた。ほとんど主夫である。
顔を洗い、冷蔵庫の中を覗いていると、後ろから声がかかった。
「おはよう、碇くん」
「え?」
シンジはそう言って振り向くと、そこには、微笑んでいるレイの姿があった。
「あ、おはよう、綾波。どうしたの? こんなに早く。朝食は僕の担当だよ」
「うん、知ってる。碇くんのお手伝いをしようと思って……。迷惑かな」
「と、とんでもない! 助かるよ、綾波!」
「良かった。……それじゃあ、私は何をすればいいの?」
「そうだね……じゃ、とりあえずキャベツを切ってくれるかな?」
「はい」
そう言って、いつものシンジとお揃いのエプロンをつける。
「あ、ところで綾波、肉以外は大丈夫なの? 魚とかは大丈夫?」
「ええ、肉以外は平気」
「それと、朝食はいつもパンなの? それとも、ごはん?」
「どちらでもいい」
「じゃあ、今日は和食にしよう」
そう言って二人は朝食の準備を始めた。レイが手伝ってくれているので、いつもより
ゆとりがあり、おかずを増やす事もできた。
「……さて、そろそろ二人を起こしてこようかな」
「もう起きてるわよ」
アスカが不機嫌そうに入ってきた。
「アスカ、おはよう」
レイはにこやかにそう言ったが、アスカの不機嫌そうな表情は変わらなかった。
「おはようアスカ。珍しいね、起こす前に起きてくるなんて」
「……そりゃ、朝っぱらからイチャイチャ、イチャイチャと大声で話されたら、
おちおち寝てらんないわよ!」
「ごめんなさいアスカ。……でも、そんなに大きな声だった?」
レイの問いが論点から少し外れていたため、アスカも毒気を抜かれてしまった。
「はぁ~。な~んか、張り合いが無いわね」
「あら、三人とも朝から仲がいいわねぇ~」
ミサトも入ってきた。
「どこをどう見たらそう見えるのよ! この状況で!」
「だってホラ、『ケンカするほど仲がいい』って言うじゃない。……それより、
早く朝食食べましょ。せっかくの料理が冷めちゃうわよ」
「はいはい」
「……あら、今日はいつもより豪勢ね」
「はい。綾波が手伝ってくれたんです。それで、いつもより余分に作れて」
「へ~レイがねぇ~。……レイはきっと、いいお嫁さんになるわね」
「本当ですか!?」
レイは心底嬉しそうだった。
「もち本当よ! この私が保証するわ」
「ミサトに保証されても、嬉しくないわよね、レイ」
「……どーいうイミよ、アスカ?」
「だってミサトがお嫁さんについて話しても、全っ然説得力が無いもの。料理はでき
ない、一番最後に起きる、それに……」
「わ、悪かったわね!」
そう言ってビールを一気に飲んだ。
「そーいう所が、一番お嫁さんって感じじゃないわね」
アスカは勝ち誇ったようにミサトを見ていた。さすがのミサトも、これには言い返す
言葉が無かった。
「ところでシンジ。今日、買い物に付き合いなさいよ」
「え、何の?」
「あんたバカぁ!? レイの服に決まってるじゃないの!
レイって本っ当に自分の服持ってないのよ。だから、今日はレイの服を買いに行く
の。いいわね、レイ」
「え? ええ、私は構わないけど……」
「あんたの服の事なのよ。もっと気合入れなさいよ!」
「……で、僕は何をすればいいの?」
「シンジのセンスなんか最初から期待してないわ。あんたは荷物持ちよ。
決まってるじゃない!」
「……はいはい」
「あ……あなたたち、悪いけどそれは今度にしてくれない? 今日はちょっち仕事が
あるのよ」
「仕事?」
「ハーモニクステストじゃないんですか?」
「命令ならそうするわ」
「そ、し・ご・と」
「どんな仕事よ? まさかお金を受け取って悪い奴らを亡き者にする仕事じゃない
でしょうね……」
(おいおい、それは仕事人だろ)
「フフフ……。それは、ヒ・ミ・ツ。本部に着いてからのお楽しみよ」
そう言ってミサトは、少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「…………嫌な予感がするわね」
「うん」
「……そうなの?」
「そうよレイ。ミサトがあんな表情をする時は、ロクな事がないのよ」
「綾波も気を付けた方がいいよ」
「うん」
「何よアンタたち。……まぁいいわ。じゃ、食事が終わったら、すぐネルフに行く
わよ」
それから数時間後、三人はそれぞれのエヴァに乗り、芦ノ湖の水が抜かれ廃墟と化し
た第三新東京市の前に立っていた。
「……ちょっとミサト、まさか仕事って……」
「そ。エヴァ三体による、ガレキの撤去作業よ」
「なんでエヴァでそんな事しなきゃなんないのよ!
私は嫌よ! イメージが台無しじゃない!」
「仕方ないでしょ。いくら世界中から重機を持ち込んでも、都市まるまる一つ分の
ガレキを撤去しようと思ったら、何年かかるか分からないのよ。その点、エヴァだっ
たら一機で重機千台分以上の働きができるから、能率がいいってMAGIが判断したの
よ。あなた達だって、早く元通りの街に戻って欲しいでしょ?」
「……ガレキの撤去なら、N2爆雷で吹っ飛ばせばいいじゃない」
「何バカな事言ってんのよ! 周囲には民家もあるのよ。そんな事、できるはず
ないじゃないの!」
「一緒に住んでると考え方が似てくるのかしら。ミサトと同じ事言ってるわね」
「うるさいわねリツコ! 私は冗談で言ったのよ。……それより、アレ、本当に使
えるの?」
「もちろんよ。この日のために、私が作っておいたんだから」
そう言ってリツコは、モニター画面をうっとりと眺めていた。
「これがねぇ~……。ま、アスカの気持ちも分からなくはないけど」
そう言って、ミサトもモニターを見た。
モニターに映っているエヴァの装備は、
初号機
超巨大ハンマー + 超巨大スコップ
弐号機
ソニックグレイブ + スマッシュホーク
七号機
超巨大スコップ オプションで超巨大一輪車
といったモノだった。大きさを無視すれば、どこから見ても土木作業員である。
「あ~ん。何で花の十四歳の乙女が土木作業なんかしなきゃいけないのよ! ねぇ、
レイだってそう思うでしょ?」
「命令だから、仕方ないわ。それに、もともとエヴァは汎用兵器だから、こういう事
も想定されているのよ」
「はいはい。相変わらずの優等生な答えね。あんたに期待した私がバカだったわ。
だいいち、街をこんなにしたのはあんたでしょ。こっちに後片付けを回さないで欲し
いわね」
「碇くんを守るためよ。仕方なかったわ」
「仕方ないってねぇ……。他にもやりかたはあったでしょ。こっちはいい迷惑だ
わ!」
「なら、アスカはそこで見てればいいわ。私と碇くんとでやるから」
「何でそこでシンジが出てくるのよ?」
「一人じゃ時間かかるから、碇くん、手伝ってくれる?」
「う、うん。いいよ」
みるみるアスカの顔が不機嫌になっていった。
「ちょっとレイ! あんた、最近ずうずうしいわよっ!」
そう言って弐号機は七号機につかみかかろうとした。そこへ、初号機が間に入った。
「ア、アスカ落ち着いて。三人でやれば、きっとすぐ終わるよ」
「キャーーーーーーッッ!!!」
アスカ(弐号機)は突然その場にしゃがみこんでしまった。
「え? ア、アスカ、どうしたの!?」
「ちょっとアスカ、一体何があったの?」
シンジとミサトは、いきなりのアスカの行動に驚いていた。
果たして、アスカに一体何があったのだろうか?
<つまずく……もとい……つづく>