新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第三部 Cパート


 「あんた! なんて格好してるのよっ!!」

 アスカは怒鳴りながらシンジの後ろに回り、目を押さえつけた。

 「? 私はいつもおフロから部屋まで、この格好だけど」

 それは一人暮らしの時でしょ!! ここにはシンジも
 いるんだから、服くらい着なさいよ!」

 「私は平気。それに、碇くんには一度見られてるから」

 「うっ!!」

 「なっ!!」

 「ほ~」

 「シンジ! どういう事よ!!

 「痛い痛い痛いよアスカ! 爪立てないでよ! 違うんだ。あれは事故
 なんだ。リツコさんに頼まれて綾波にカードを届けに行ったんだよ。そしたら、綾波
 がシャワーから出てきて……いてててて! そ、そうですよねミサトさん!

 「ん~~そうね。確かにカードを届けるようには言ったけど、レイの裸を見て来い
 とは言ってないわよ」

 「そ、そんな……ミサトさん……いてててて!

 『頼む! 綾波、その先は言わないでくれ~!』

 シンジの祈りが神に通じたのか、それほど重要な事だと思わなかったのか、レイは
 それ以上の事は言わなかった。

 「とにかくレイ、これからはお風呂から裸で出てこない事! いいわね!?

 「それがこの家の決まりなの?」

 「ここだけじゃ無く、普通はそうなの!」

 「決まりなら、そうするわ」

 そう言って、レイは自分の部屋の方に歩いていった。

 「まったく……何考えてんだか……」

 「あ、あの~アスカ、手、離してくれる? 痛いんだけど」

 「何よ? そんなにレイの裸が見たかったの?」

 「そ、そういう訳じゃないよ」

 「ふ~~ん。じゃあシンちゃん、前の時にレイの裸をじ~~っくり見たのね。だから
 もう見なくてもいいんだ」

 「ミ、ミサトさん! いたたたた……アスカ、誤解だよ! 僕は別にワザと
 見た訳じゃないんだから」

 「ふん!」

 そう言ってアスカは手を離した。よほど強く押さえつけていたのか、シンジの目の
 周りは赤くなり、爪の形もくっきりと付いていた。また、目もチカチカしていた。

 「それにしてもレイって……勝った」

 何をどう比べているのか分からないが、アスカは優越感に浸っていた。しかし、
 よせばいいのにミサトがアスカにちょっかいをかける。

 「ふっ……さらに勝った」

 「何よ、ミサト? 何が言いたいのよ?」

 「べ~つ~に~。今アスカが比べていたものを私も比べてただけよ」

 「いいのよ。私はまだ発育途中なんだから。ミサトなんて、もう張りなんかないで
 しょ?」

 「失礼ね! 私のだってまだまだ張りがあるわよ。ほらほらシンちゃん、触って
 みる?」

 そう言って、ミサトはシンジの方に寄っていった。

 「ちょ、ちょっとミサトさん! よして下さいよ」

 「ミサト、何してんの? やめなさいよ。……まったく、ミサトといいレイといい、
 女の恥じらいってものがないのかしら?」

 『じゃあアスカにはあるのかな?』

 と、シンジは思った。アスカが家にいる時の格好は、どれもシンジが目のやり場に
 困るようなものばかりだった。時々、シンジの前にバスタオル1枚で出てきた時も
 あった。しかし、それを口にしたらどうなるかは分かっているので、あえて口には
 しなかった。

 そんな所に、再びレイが入ってきた。

 「これでいい?」

 そう言ったレイの身体は、先程より僅かばかり隠されただけだった。平たく言えば
 下着姿である。

 「だから! どうしてそういう格好で出てくるのよっ!? わざと
 やってんじゃないでしょうね!?」

 アスカは、シンジの目を押さえるのも忘れ、レイに詰め寄った。

 「? 私はいつも朝までこの格好だけど」

 「だからそれは一人暮らしの時でしょ! パジャマか服くらい
 着なさいよ!」

 「バジャマは持ってない。それに、制服は汚れたから洗濯してる」

 「他の服は?」

 「持ってない」

 「持ってない? ……一着も?」

 「ええ、持ってないわ」

 「信じらんない! よく今まで、そんなんで生きてこれたわね!
 ……ちょっと来なさい。私の古い服あげるから。そんな格好で
 ウロウロされちゃ、たまんないわよ」

 そう言って、アスカはレイを引っ張っていった。意外とアスカは面倒見がいいのか、
 それとも単にシンジの前にレイの裸や下着姿を見せたくないのか、どちらかだろう。

 恐らくは後者だろうが……。

 そんな二人を、いやレイを、シンジはまばたきをするのも忘れ、見つめていた。

 以前にも裸を見て、胸まで触った事があるのに、下着姿を見るのは初めてという
 訳の分からない状況の中、シンジは鼻血を出していた。

 「大変ね~、シンちゃん」

 「これじゃあ、身体が持ちませんよ」

 「そうよね~。シンちゃん若いから、きっと今晩は寝られないわね~」

 「……楽しそうですね、ミサトさん」

 「そりゃ~もう! レイが引っ越してきていきなりコレでしょ? もう楽しくって
 楽しくって……。これからイロイロあるかと思うと楽しみだわ~~。
 ああ、ビールがうまい!

 「はぁ~~~」

 シンジは溜め息をつくしかなかった。


 その後、ミサトの言った通り、レイは時々常識外れの行動で、みんなを(主にシンジ
 だが)てんてこまいさせた。

 例えば、全員で見ていたテレビドラマのえっちなシーンについて、事細かく質問して
 きたり、面白がってミサトが見せた深夜番組についても、同様に質問してきた。もち
 ろん、それにシンジが答えられるはずも無かったので、ミサトとアスカが二人がかり
 で、『十四歳の少女が当然知っている常識』を伝授する事になった。話の内容が内容
 だけに、シンジは部屋の隅に追いやられていた。

 しかし、シンジは不安だった。ミサトもアスカも、一般人の常識という所から少し
 ……いや、かなり外れている所がある。また、レイも人の言う事を素直に信じて
 しまう所がある。シンジは、レイまであの二人のようにならない事を祈るしかなかっ
 た。

 そんなシンジの気持ちが分かるのか、ペンペンがやって来て、シンジの横に座った。

 「ペンペン、男どうし、仲良くやろうな」

 「クワ?」

 ペンギンに愚痴を言うのも情けない話だが、今のシンジは、そこまで不安だらけだっ
 た。


 やがてレイは、二人の授業が終わったのか、シンジの元にやってきて、ちょこんと
 座った。そして……

 「ねぇ碇くん、ヒニンって何?」

 「ちゅどぉーーーーーーん!!!」

 そういう擬音を残し、シンジは吹き飛んだ。

 「な、な、何を教えてるんだよ二人とも!?」

 シンジは真っ赤になって、二人に抗議した。

 「私じゃないわよ。ミサトがレイに言ったのよ。シンジに聞けって」

 「ミサトさん!」

 「い~じゃない別に。それに、こんな環境じゃ何が起こるか分かんないでしょ?
 いざって時のために、知っておいた方がいいでしょ?」

 「何よミサト! そのいざって時っていうのは? 相変わらず、いやらしいわね」

 「あ~ら。私は何一つ具体例は言ってないわよ。アスカ、何を考えたのかな~?」

 「う、うるさいわね!」

 「碇くん、いざという時って?」

 「は……ははは……後でアスカかミサトさんにでも聞いて」

 「?」

 「僕、疲れたから寝ます」

 そう言ってシンジが立ち上がると、レイが声をかけてきた。

 「あ、碇くん、待って!」

 「ん? 何、綾波?」

 「あの、おやすみなさい

 そう言って、少し赤くなり、うつむく。

 「あ」

 シンジは安心すると共に、嬉しかった。

 『良かった。時々、強烈な事をやらかすけど、綾波は綾波のままだ。アスカやミサト
 さんのようにはなってないな。本当に良かった』

 二人には失礼な事だが、シンジは心からそう思い、微笑んだ。

 「うん、おやすみ、綾波!」

 「……ちょっとシンジ、私には何も言わないの?」

 「え……でもアスカ、いつも返事してくれないじゃないか」

 「今日からしてあげるわよ!」

 「じゃ、おやすみ、アスカ」

 「はい、おやすみ!」

 少し照れたように、そっけなくそう言った。

 「じゃあ私たちも寝ましょうか。おやすみ、シンジ君」

 「はい、おやすみなさい、ミサトさん」

 そう言って、四人はそれぞれの部屋に入っていった。

 シンジは元の自分の部屋に戻った。掃除をして、自分の荷物を運び込んだにも関わら
 ず、どこかアスカの匂いがするようで落ち着けなかった。

 また、寝ようとして目を閉じると、レイの裸や下着姿が浮かんできて、ミサトの言う
 ように、全く寝られなかった。

 「はぁ~。明日から毎日こんな生活なんだろうか? これじゃ、ホントに寝不足で
 死んじゃうかもな……」

 クラスの男どもに聞かれたら袋叩きにあいそうな事を呟きながらも、引っ越しと掃除
 の疲れから、やがて眠りに落ちていった。

 シンジのにぎやかな日常は、こうして始まった。

 なお、数日後、二人の料理を食べたレイが気を失ったのは言うまでもなかった。


 <つづく>


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