『そ、そうよ。問題は味よ!』
そう思い、アスカは一口食べてみる。
『う……。おいしい』
「おいしいよ綾波、本当においしいよ!」
「く~~~、この味噌汁、おいしいわ! この野菜炒めもビールにバッチリ合うわ
ね~。アスカ、おいしいわね」
「た、確かにおいしいわね」
「良かった! 口に合わなかったらどうしようかと思ってたの」
レイは、三人が食べるまで少し心配そうにしていた顔を輝かせた。
「大丈夫だよ綾波! これだけの物が作れるんだから大したものだよ」
「そうよレイ。その歳でこれだけ作れれば大したものよ。……でも、シンちゃんの
味に似てるわね」
「それは、碇くんに教えてもらってるからだと思います」
「そうね。やっぱり似てくるのね。……ところでレイ。シンちゃんに手料理食べて
もらって、うれしいでしょ?」
「はい! とっても!」
レイは素直にそう答えたが、それを聞いたアスカのまゆが(以下略)
そんなアスカを横目で見ながら、更にミサトは続ける。
「そうよね。女の子にとって、好きな人に手料理を食べてもらうのは、幸せの一つ
よね」
それを聞き、シンジもレイも赤くなる。
「ね、アスカもそう思うでしょ?」
「…………何よミサト。さっきから随分と私に絡むじゃない?」
「べ~~つ~~に~~」
「ふっ……。どうやらミサトもシンジも、私が料理を作れないと思ってるようね。
おあいにく様、天才のこの私には不可能はないのよ。私にかかれば、料理なんか
お茶の子さいさいよ」
「じゃあアスカ、今日のお礼に、今度私たちでレイに何か作ってあげましょうよ」
「い、いいわよ。じゃあ、ミサトは何が作れるの?」
「私の得意料理はカレーなんだけど」
「カレーか」
『カ、カレー……』
ミサトの言葉を聞き、シンジの脳裏にいつかの悪夢がよみがえった。
「ミ、ミサトさん。カレーは止めましょうよ」
「どうして?」
「だって、綾波のために作るんでしょ? それなら、肉の入る料理は止めましょう」
『レトルトでアレだったんだ。これが手料理となるとどんな物が出来る事やら……。
それに、肉は火が通ってないと食中毒の恐れがある。それだけは絶対に避けなけれ
ば……』
「う~ん、そうね。じゃあ、肉を使わなければいいのよ」
「え?」
「変わったところで、キノコカレーとか、シーフードカレーなんてどうかしら?」
「あ、ミサト、それいいわ! シーフードカレーにしましょう」
「よっしゃ! じゃあ決まりね!」
『しまった~~~! そっちの方が食中毒の可能性が高い。うう……後はアスカ
の腕に期待するしかないな……』
しかし、シンジの希望は、アスカの一言によってあっさり崩れさった。
「シンジ、あんた料理の本持ってんでしょ? 後で貸して」
「え? でもアスカは天才なんじゃなかったの?」
「いくら天才でも、作った事ないものは作れないわよ。シーフードカレーは
初めてなのよ」
『あああ~~、頭が痛くなってきた。せめて死者だけは出さないでくれ~~』
今のシンジにとって、もはや神頼みしか残されていなかった。
その後、シンジはシーフードカレーの作り方が載っている本を持ってきた。女性が
三人もいるのに、料理の本を持っているのがシンジだけという所に多少問題がある
ような気がするが……。
ミサトとアスカが本を見ながら色々と相談しているので、シンジは食器を洗っている
レイを手伝う事にした。
「綾波、手伝うよ」
「あ、碇くん。ありがとう」
「でもビックリしたよ。綾波があんなに作れるようになってたなんて」
「でも、まだまだ碇くんにはかなわないわよ」
「そんな事ないよ。綾波ならすぐに僕なんか追い抜いちゃうよ」
「そうかな……。じゃあ、作れる料理が増えたら、また食べてくれる?」
「もちろんさ! 喜んで食べさせてもらうよ!」
「良かった」
……そんな二人をミサトとアスカは見つめていた。
「本当にあの二人、仲がいいわね。まるで新婚さんみたいね」
『う~~~、 なによなによあの二人! いい雰囲気作っちゃって!
私だって料理くらい作れるんだから! 見てなさいレイ。いい気に
なってるのも今のうちよ』
『私の料理で、シンジなんかイチコロよっ!!』
(……別な意味でイチコロにならなければいいが……)
アスカは、自分の料理をシンジが食べ、褒めてくれているシーンを想像して、
にへら~としていたが、目の前の問題をまず解決しなければと思い、
現実の世界に戻ってきた。
『しかし……どうやってあの二人を引き離すか……。う~ん……どうしよう、どう
しよう。かいけつ・みやむーちゃんにでも頼むか……。う~ん』
『あ、そうだ!』
「レイ、あんた引っ越し作業した上に料理まで作ったんだから汗かいてるでしょ。
先にお風呂に入りなさいよ」
「え?」
「そうね。レイ、そうしなさい」
「私が先でいいんですか?」
「もちろんよ、レイ。あなたは家族なんだから、順番なんて気にする事ないのよ」
「綾波、そうしなよ。後は僕がやっておくから」
「ありがとう碇くん。それじゃあ、そうさせてもらいます」
「ゆっくり入ってなさい」
「はい」
そう言って、レイは風呂に入っていった。
『ふふふ……。狙い通りね。あんな雰囲気のままで二人だけにさせておく訳には
いかないもの』
アスカは、思い通りに事が運んで、得意になっていた。
『ふ、相変わらずアスカ、うまいわね。ま、レイばかりがシンちゃんに近づきすぎて
も面白くないものね。二人がバランス良く張り合うのが、一番面白いわ』
ミサトは、今の状況をとことん楽しんでいた。
アスカやミサトの抱く思いなど知るはずもないシンジは、食器を洗いながら、ニヤけ
る顔を止められなかった。レイの手料理が食べられた事、また作ってくれると言って
くれた事、これらの事を思い出し、舞い上がっていた。しかし、ミサトとアスカの
シーフードカレーの作り方の話が耳に入ると、一瞬にして憂鬱な気分になってしまう。
「やっぱりシーフードっていうくらいなんだから、魚を丸ごと入れればいいんじゃ
ないの?」
「それだったら、ロブスターを一人一匹付けるのなんかどう? 見栄えが
いいわよ」
「それじゃあ、豪勢にアワビやサザエを入れるとか」
「日本人はタコが好きなんでしょ? 生きたままカレーと一緒に煮込むとか」
「なかなかいいわね。それ」
シンジは、二人の会話を聞きながら、このままでは本当に死人が出ると思い、
片付けを終わらせると、二人にシーフードカレーのアドバイスを始めた。
『せめて、人間の食べれる物を作ってもらわなければ……』
シンジは必死だった。
シンジが二人に色々とアドバイスをしていると、レイが風呂から出てきた。
「あ、あや、あや……綾波! な、な、な……!」
? シンジの様子がおかしいので、二人とも後ろを振り向いた。
そこには、頭からバスタオルをかぶっただけのレイが立っていた。
「あんた! なんて格好してるのよっ!!」
<つまずく……もとい……つづく>
次回、いよいよサービス編に突入!?
鼻血を出すのは、シンジか、それとも読者か……。