新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第三部 Aパート


 シンジは、新たに家の一部となった部屋の掃除をしていた。つまり、新たにレイが住
 む事になる部屋である。

 もともと個人の荷物を殆ど持っていないレイの引っ越し自体は簡単に終わっていた。
 むしろ問題なのは部屋の掃除だった。レイが引っ越して来るにあたって、マンション
 の管理人が掃除はしたのだが、長年使っていなかった事、壁に穴を開ける時にかなり
 ホコリが飛び散った事などで相当汚れていた。そこで、レイの荷物を運び込む前に、
 全員で大掃除をする事になった。全員といっても、そういった方面の能力が欠落して
 いるミサトとアスカは殆ど役に立っていなかったので、まじめに掃除をしているのは
 シンジとレイだけだった。

 しかし、汚れているといっても、以前のレイの部屋に比べるとまだ綺麗な方だった。
 それでも、レイが一生懸命に掃除をしているのは、シンジの影響で綺麗好きになって
 いた事と、シンジと一緒に掃除をしている事自体が嬉しいからだった。

 二人は懸命に掃除したが、やはり二人だけでは能率が上がらず、おまけに二人を監視
 するかのようにアスカも同じ部屋の中にいたので、ますます能率が上がらなかった。
 そのため、レイの部屋の掃除だけで昼近くまでかかってしまった。

 そんな時、リビングの掃除をしていたミサトがやってきた。

 「シンちゃ~ん。おなかすいたんだけど、何か作ってくれない?」

 「え、もうそんな時間ですか? それじゃ、冷蔵庫の中におにぎりがありますから、
 おかずと一緒に出して下さい」

 「シンジ、おにぎりなんていつの間に作ったのよ?」

 「うん。どうせ今日は引っ越しと掃除でお昼は作れないだろうと思ってたから、朝の
 うちに作っておいたんだ」

 「ふ~ん。相変わらず、マメね」

 「さっすがシンちゃん!」

 「碇くん、すごい!」 ぱちぱち

 レイは拍手までしていた。

 「そ、そんな事ないよ。それじゃ、みんなでお昼にしよう」

 そう言って、結局はシンジが全員のお茶やおにぎり、おかずなどを用意していた。
 しかし、今回は今までと違い、レイがシンジを手伝っていた。そんな些細な事でも
 シンジは嬉しかった。

 「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……。

 ぷはぁ~ッ! カ~ッ! 

 やっぱ、働いた後のビールは、ん(う)まいわね~っ!!」

 「まったく……ミサトってホントにオヤジね。昼間っからビールなんか
 飲んで」

 「アスカ、ミサトさんは私が引っ越して来た時には、もう飲んでたわよ」

 「うん。飲んでたね」

 「じゃ、朝からじゃない! 良く酔わないわね」

 「私にとっては、みたいなモノよ。……ところでシンちゃん、シンちゃんも部屋
 替わる?」

 「え、僕ですか?」

 「そうよ。だってシンちゃんの部屋、小さいでしょ? レイの方に広い部屋がもう
 一つあるから、シンちゃんもそっちに引っ越したらいいわ。いいでしょ、レイ」

 「は、はい! 私は構いません」

 レイは心底嬉しそうにそう言った。ミサトは、少しいたずらっぽくアスカを見た。
 オヤジと言われたのを根に持っているようである。

 「な、何言ってんのよミサト! こんな仕返し、汚いわよ!

 「だって、もともとシンちゃんの部屋だったのをアスカが取ったんだからいいじゃな
 い。それに、シンちゃんだって広い部屋の方がいいに決まってるでしょ」

 「そ、それなら、私がレイの方の部屋に引っ越すわよ。シンジは元の部屋に戻れれば
 いいんでしょ?」

 「う、うん。僕はどっちでもいいけど……」

 「じゃあ、私がレイの方に引っ越すわね。いいでしょ? レイ」

 「え、ええ……

 レイは、思いっきり残念そうに、そう呟いた。

 そして、四人での大掃除、玄関先に置いていたレイの荷物の運び込み、アスカの引っ
 越し、シンジの引っ越しなど、全ての作業が終わったのは、午後五時過ぎだった。

 四人は、リビングでシンジの入れたお茶を飲みながらくつろいでいた。

 「ところでミサト、今日の夕食どうするの? レイの引越し祝いをするんでしょ?」

 「う~ん。そのつもりなんだけど、今、街がこんな状態でしょ? まともに食べられ
 るお店ってまだ無いのよ。ジオフロントに行けば、結構いい物が食べられるけど、
 お休みの日にまでわざわざジオフロントには行きたくないし。かと言って、隣町に
 まで出掛けるのも面倒だし……」

 「じゃあ、どうするのよ」

 「う~~~ん」

 「あ、あの……私が作ります」

 「え? レイ、あんた料理作れるの?」

 「はい。碇くんに教えてもらってるから、簡単な物くらいなら作れます」

 「でもいいの? 今日はレイの引っ越し祝いなのよ?」

 「私は、ここで一緒に暮らせるだけで十分です。それに……、
 碇くんに料理を作ってあげるって約束してるから」

 レイは少し赤くなり、うつむきながらそう言った。

 アスカはレイの言葉を聞き、まゆをピクピクさせていた。

 「へ~、そんな約束してたんだ。いつの間に~。やるじゃない、シンちゃん!

 「か、からかわないで下さいよミサトさん! 前に綾波にごはんを作って
 あげた時に、そのお礼にって綾波が僕に何か作ってくれるって言ったんですよ」

 「ふ~~~ん。でも、う・れ・し・いでしょ、シンちゃん」

 「は、はい」

 その言葉を聞き、再びアスカのまゆが動いた。

 「それじゃ、今から作りますから」

 そう言ってレイは、買ったばかりのシンジとお揃いのエプロンを身に付け、
 キッチンへ向かった。

 「あ、綾波、何か手伝おうか? 調味料とか分かる? 鍋や包丁の場所とか……」

 ほらシンジ! レイは自分で作るって言ってんだから、
 おとなしくテレビでも見てなさい!」

 「いててててて。ア、アスカ。痛いよ! 耳を引っ張らないでよ!」

 「何よ! ……それともレイの腕が信用できないの!?」

 「い、いや、そんな事ないけど……」

 「だったら、おとなしくしてなさい! レイだって、見られたら
 気になるでしょ!」

 「そうよシンちゃん。ここはレイに任せましょう」

 『それにしてもアスカ、うまい事言ってシンちゃんとレイを離したわね。なかなか
 やるじゃない』

 ミサトには、アスカの行動は全てお見通しだった。

 シンジは、テレビを見ながらもレイの事が気になり、キッチンの方ばかり見ていた。
 アスカも、そんなシンジの事を気にしていたので、二人ともテレビの内容は殆ど見て
 いなかった。ミサトは、そんな二人を面白そうに見ながら、ビールを飲んでいた。

 ……そうこうしているうちに、いい匂いが漂ってきた。

 「食事の支度ができたので、どうぞ」

 レイがそう言うと、シンジは真先にキッチンへ向かった。テーブルの上には、

 炊きたてのごはん、豆腐の味噌汁、野菜炒め(肉抜き)、玉子焼き……

 などが並んでいて、レイは、その横で少し照れたようにほほえんでいた。

 「すごいじゃないか綾波! いつの間にこんなに作れるようになったの?」

 「えへへ。あの後、ずっと練習してたから」

 「本当にすごいわね、レイ! ああ、豆腐の味噌汁だわ。素敵。
 日本人は、やっぱり味噌汁と、ごはんと、ビールよね~~!

 「ま、まぁまぁね」

 『う~、レイのやつ、いつの間にこんなに作れるようになったのかしら?』

 「それじゃあ、冷めないうちにどうぞ」

 『そ、そうよ。問題はよ!』

 そう思い、アスカは一口食べてみる。

 『う……』


 <つまずく……もとい……つづく>


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