新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第二部 Dパート


 「そうだ!」

 この時、ミサトの後ろに色とりどりの星がきらめいた、とシンジは語った。

 「レイ、要するに玄関を通らずに、いつでもシンちゃんに会えれば、それでいいん
 でしょ?」

 「はい」

 「じゃ、こうしましょう。どうせ隣に引っ越してくるんだから、この壁にを開け
 ましょう」

 穴?」×2

 「そう。そうすれば、ウチと隣は繋がるから、一軒の家って事になるでしょ。だから
 一緒に住んでるのと同じじゃない。これならいいでしょ? レイ」

 「はい! ありがとうございます。葛城さん!」

 「良かったね、綾波。ミサトさん、ありがとうございます!」

 「碇くん、ありがとう!」

 レイはそう言ってシンジに抱きついた。シンジは、いつものようにすっかり固まって
 いた。

 「あ~~こらこら、そこの二人。保護者の前でそういう事はしないように」

 「す、すいません……

 レイは赤くなり、すぐに離れた。シンジは、ボ~ッと鼻の下を伸ばしていた。

 「それから、一緒に住むんだから、私の事は『ミサト』って呼んでね」

 「はい! ミサトさん」

 「じゃ、引っ越しや壁の工事の手続き、上への報告は私がやっておくから。……それ
 と、シンちゃん」

 「何ですか?」

 「アスカの説得、お願いね」

 あっ!!」

 「あっ! じゃないわよ。それが一番大変なんだから。男ならしっかりやりなさいよ

 「ミサトさぁ~~ん」

 「なに情けない声出してんのよ。……とにかく、今日はもう遅いからレイを送って
 行きなさい」

 「……はい」

 「ところでシンちゃん。レイを変な所に連れ込んじゃダメよ~」

 「わ、分かってますよ!」

 シンジは、少しむくれてミサトに言った。

 「碇くん、変な所って?」

 「じゃ、じゃあ行こうか! 綾波!」

 「?」

 そして、三人で玄関に向かった時、アスカが帰ってきた。

 「ただいま」

 「あ、アスカ。お帰り」

 「え? 何でこんな時間にレイがうちにいるのよ? ……まさかシンジ、私がいない
 事をいい事に、レイを連れ込んだんじゃないでしょうね?」

 「違うよ! アスカ、だんだんミサトさんに似てきたね!」

 「何よ、それ? 私がミサトに似てきたって言うの? 失礼ね」

 「どういう意味よ、アスカ」

 アスカはこれまで、レイの事ばかりが気になって、ミサトの存在を忘れていたが、目
 の前の声を聞き、改めてミサトの存在に気が付いた。

 「え!? あ、あははは……。じゃ、じゃあ何でレイがここにいるのよ?」

 「相談があるからって、うちに来たんだよ」

 「相談? 何の相談よ?」

 「えっと……そ、それは……つまり……その……一言で言うと……だから
 ……早い話が……」

 「ちっとも早くないじゃない! ボケボケ~としてないで、さっさと言いなさいよ!」

 シンジが言いにくそうにしているので、レイが自ら話し出した。

 「アスカ、私もここに置いて欲しいの」

 「な!? ど、どういう事よ?」

 「今度、綾波のマンションが取り壊される事になって……。それで、レイもうちに
 一緒に住みたいって言うんだよ」

 「何でうちなのよ? このマンションだって、いっぱい部屋があるじゃない! だい
 いち、うちにはもう部屋は無いわよ! どうすんのよ?」

 「隣の部屋との壁に穴を開けて繋げるって、ミサトさんが言ってた」

 「お願い! アスカ、私もこの家に置いて欲しいの。もう一人は嫌なの。孤独なのは
 もう嫌なの。お願い!」

 そう言って、レイはアスカの目を真っ直ぐに見つめた。

 「だ……だからって……だからって……」

 アスカは迷っていた。レイが一緒に住む事になれば、当然シンジと二人っきりでいら
 れる時間は、殆ど無くなってしまう。しかも、レイはシンジの事がスキだとはっきり
 と言っている。恋敵を助けてやるほど、自分はお人好しではない。

 しかし、一人は寂しい、孤独は嫌という気持ちは、今のアスカにも良く理解できた。
 心でそれを認めても、感情がそれを許さない。

 この二つの相反する気持ちの中で、アスカが悩んでいると、ミサトが助け船を出して
 くれた。

 「あなたらしくないわよ、アスカ」

 「どういう事よ? ミサト」

 「いいアスカ。あなたは今、レイに対して圧倒的に優位な立場にいるのよ。
 それで勝てたとして、アスカは嬉しいの? ……それに、例え勝てたとしても、
 『一緒に住んでいるんだから、アスカを選んで当たり前』って陰口を叩かれるわよ。
 アスカは、そんなプライドの低い子じゃ無かったはずよ。女なら、同じ立場で、
 正々堂々とやりなさい!」

 ミサト、レイ、シンジが揃ってアスカを見た。

 「う……。分かったわよ。ここで私が反対したら、私一人が悪者になるじゃない。
 レイの好きにすればいいわ」

 「アスカ! ありがとう。本当にありがとう!」

 レイは、アスカの手を握り、ただお礼を言い続けた。

 「そ、その代わり、後から来るんだから、私の家事当番、一週間やってもらうわよ」

 「ええ、何でもするわ」

 アスカは照れているのか、それだけ言うと、自分の部屋に入ってしまった。

 「ミサトさん、ありがとうございます。助かりました」

 「シンちゃ~~ん。私の家事当番、一ヵ月お願いね~~」

 「…………はい」

 「じゃあシンちゃん。アスカの事は私に任せて、レイを送って行きなさい」

 「はい。じゃ綾波、行こうか」

 「うん。ミサトさん、本当にありがとうございます」

 「気を付けて行くのよ! 二人とも」

 「はい! 行ってきます」

 そう言って、二人は出て行った。

 「さ~て、シンちゃん。男になれるかな?」

 (……あんた、それでも保護者か)

 「……さて、問題はアスカね」

 ミサトは、アスカの部屋の前で話し始めた。

 「アスカ、ごめんなさいね。でも、レイの気持ちも分かってあげて。あの子も寂しい
 のよ」

 しかし、中から返事は無い。

 『アスカ、まさか泣いてるの? ……仕方ないわね、今はそっとしておくか』

 ミサトはそう思い、部屋から離れた。

 しかし、部屋の中のアスカは泣いてなどなく、燃えていた

 「ふふふふふ……。『正々堂々とやれ?』ハン!? 上等じゃない! この私が、

 あらゆる点においてレイより勝ってる事を、

 レイとシンジに見せつけてやるわよ! 見てなさいよ~。ふふふふふ……

 アスカはそう言って、こぶしを握りしめ、目を燃やしていた。

 ……同じ頃、レイは寒気を感じていた。

 ブルっ!

 「どうしたの綾波? 寒いの?」

 「え? ううん。今何か、首の後ろに風が当たった気がして……」

 「ああ、綾波も? 僕もだよ」

 「碇くんも? じゃあ、やっぱり風だったのね」

 「あ、うん! きっとそうだよ!」

 シンジはそう答えたが、先ほどの寒気に心当たりがあるので、少し憂鬱になった。

 『アスカ、怒ってるだろうなぁ……。帰ったら何されるんだろう……はぁ~』

 しかし、そう思いながらも、綾波が喜んでるからまぁいいか、と思っていた。

 「ところで綾波、引っ越しはいつになるの? 手伝いに行くから」

 「ありがとう。でも、殆ど荷物は整理してダンボール箱に入れているから、壁に穴
 さえ開けば、いつでも引っ越しできるの」

 「そうなんだ。……で、マンションはいつ取り壊されるの?」

 「十日くらい先だって言ってた。だから、碇くんに料理を食べてもらうのは、引っ
 越してからになるわね」

 「そうだね。楽しみにしてるよ!」

 「碇くんって、嫌いな物ってあるの?」

 「いや別に。特に嫌いな物は無いよ」

 「じゃあ、好きな物は?」

 綾波

 えっ!?


 <つまずく……もとい……つづく>


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