新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第二部 Cパート


 「あ、綾波。どうしたの、こんな時間に?」

 「あ、あの……碇くんに……ちょっと相談したい事があって……」

 「え、僕に? ……じゃ中に入って。今、ミサトさんもアスカもいないから何も遠慮
 する事ないから」

 「え、二人ともいないの?」

 「うん。ミサトさんは仕事だし、アスカは身体の検査に行ってるから、今は僕一人
 なんだ」

 シンジは何気なくそう言ったが、ミサトもアスカもいないという事は、
 レイと二人っきりになるという事に全く気付いていなかった。
 また、男女間の事に疎いレイも、

 『碇くんと二人でゆっくり話ができて嬉しい』

 くらいにしか思っていなかった。

 だから進展しないんだこの二人はっ!!

 「それじゃ、おじゃまします」

 レイはそう言って、キッチンの椅子に座った。シンジは、お茶とお菓子を用意して、
 レイの前に座った。

 「……それで、僕に相談って何?」

 「あの……今度、私のマンション、取り壊される事になったの」

 「えっ! ど、どうして!?」

 「第三新東京市再建計画の一環らしいの。疎開していた人たちが戻って来たときの
 ために、古いマンションは取り壊して、新たにマンションを建て直すんだって、赤木
 博士が言ってた」

 「そっか……。みんな、戻ってくるんだ」

 「ええ。零号機が自爆した時、地上にあったのは兵装ビルだけだったし、この地面も
 エヴァの作戦活動用に丈夫にできてるから、あの爆発にも耐えたの。だから、芦の湖
 の水さえ抜けば、地下のビルがまた出てこれるから、意外と復旧は早いんだって」

 「そうなんだ。それで、綾波はどこに引っ越すの?」

 「う、うん。その事なんだけど……あの……私も……私も……

 そう言ったまま、レイはうつむいてしまい、一言も話さなくなってしまった。

 『珍しいな。綾波が言いにくそうにするなんて。いつも思った事はハッキリ言うの
 に。……でも困ったな、このままじゃ話が進まない。えーと、話題、話題と』

 「そ、そうだ綾波! こんな時間にウチに来るって事は、ゴハンまだ食べてないん
 じゃないの?」

 「え? あ、そう言えば私、何も食べてない」

 そう言った途端、自分が空腹である事に気付き、小さくおなかが鳴った。

 「

 そう言ってレイは真っ赤になり、再びうつむいてしまった。

 「ははは。今、何か作るよ。幸い、ゴハンはまだあるから」

 「あ、ありがとう」

 レイは赤い顔でそう答えた。シンジは、エプロンを付け、冷蔵庫の中の残り物と卵を
 使い、手際よく料理を作った。

 「はいどうぞ。ゴメンねこんな物しか無くて。綾波が来るって分かってたら、もっと
 ちゃんとした物を用意したんだけど……」

 「ううん、そんな事ない。私がこんな時間に急に来たのがいけないんだから。作って
 くれるだけでもうれしい。じゃ、いただきます」

 「はい、どうぞ」

 シンジの作った料理はおいしかった。好きな人が、自分のために作ってくれた料理と
 いうのを差し引いても、十分においしかった。

 「おいしい! 碇くん、本当に料理が上手なのね。どうやったら、こんなにおいしく
 作れるの?」

 「ありがとう。う~ん……別に特別な事なんかやってないよ。ここに来てから、
 ずっと僕が料理を作ってるから、多分慣れただけだと思うよ。それに、綾波だって、
 最近随分とうまくなってるよ」

 「ほんと!? きっと、碇くんの教え方がいいからね」

 「そんな事ないよ。綾波の腕がいいんだよ」

 「そうかな? ……そうだといいんだけど……。あっ、そうだ! 今日のお礼に、
 今度私が碇くんに何か作ってあげる!」

 「え、本当!? うれしいな」

 「食べて……くれる?」

 「もちろんさ! 僕はいつも作るばかりだったからね。僕のために作ってくれるなん
 て、本当にうれしいよ!」

 「良かった」

 レイは浮かれていた。シンジと二人っきりの食事(シンジは食べていないけど)で、
 すっかり気分が良くなり、普段は言えないような事も、すんなり言えた。

 「ごちそうさま。ほんとにおいしかった」

 そう言って、レイは食器を片付けようとした。

 「あ、綾波、いいよ。僕がやるから」

 「え、でも……」

 「お客さんにそんな事までさせられないよ」

 シンジにとって、それは何気ない一言だったが、レイは違っていた。

 『……お客さん……』

 その一言で、浮かれていた気分が一気にしぼんでしまった。自分は、この家の人に
 とって、やはりお客さんなんだと、他人なんだと、改めて思い知らさせた。

 「どうしたの? 綾波」

 「碇くん! 私も、この家に置いて!」

 レイはついに心を決め、シンジにそう言った。相談の内容はその事だったし、シンジ
 の一言で決心がついたので、思い切って打ち明ける事にした。

 「えっ!? ど、どうしたの綾波? 綾波もこの家で一緒に住みたいの?」

 「うん。私は、もう一人はイヤなの。寂しいし、つらいし……。碇くんにお客さん
 扱いされたくないの。アスカや葛城さんのように、碇くんと一緒に、ここに住みたい
 の。お願い碇くん、私も、私もここに住まわせて! お願い!

 そう言って、レイは真剣な目でシンジを見つめた。

 「そっか。綾波もやっぱり一人じゃ寂しかったんだ」

 「うん。昔はこんな事なかったのに、最近、夜になると不安や孤独感で眠れない事が
 あるの。だから、碇くんのそばにいたいの。……だめ?

 レイは少しうつむき、上目使いでシンジにそう言った。

 うっ、か、かわいい……じゃなくって

 「僕はかまわないよ。一人じゃ寂しいって気持ちは良く分かるから」

 「本当!?」

 レイは瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。それは、見ている方が幸せになれるほど
 だった。

 「あ……。でも、ちょっと待って。ここは一応、ミサトさんの家だから、僕一人じゃ
 決められないんだ。ミサトさんに聞いてみないと……」

 「……そう……」

 レイはそう言って、またうつむいてしまった。

 「あ、た、たぶん大丈夫だよ! 僕からも頼んでみるから。だから、そんなに落ち込
 まないで!」

 「ありがとう、碇くん……」

 「ミサトさん、もうすぐ帰ると思うから、二人で頼んでみようよ」

 シンジがそう言った時、ちょうどミサトが帰ってきた。

 「ただいま~~。あら、お客さん?」

 そう言って、ミサトが入ってくる。

 「あら? レイじゃない! 珍しいわね。いらっしゃい、ゆっくりしていってね」

 「おじゃましてます。葛城さん」

 「シンちゃん、やるじゃない! 私たちのいない隙にレイを連れ込む
 なんてコノコノ!」

 ミサトは、ヒジでシンジをつついていた。

 「ち、違いますよ! 綾波は相談があるからって、うちに来たんですよ」

 シンジは真っ赤になりながら反論した。

 「相談?」

 「はい。今度、綾波のマンションが取り壊しになる事になって……」

 「ああ、その事。聞いてるわよ。レイはうちの隣に越してくる事になってるわ。
 できるだけ近い方がいいだろうと思ってね。レイ、優しい上司に感謝してねっ!」

 「あの、その事なんですけど、綾波も、その、あの、だから……」

 「何? 言いたい事があるならハッキリ言いなさい」

 「葛城さん! 私もここに置いて下さい!」

 「え? ど、どう言う事よ、レイ」

 「私、一人じゃ寂しいんです。だから、私もここでみんなと暮らしたい。
 碇くんと一緒に暮らしたい! お願いします葛城さん。
 私もここで住まわせて下さい!

 レイのあまりの迫力に、ミサトはたじろいだ。

 「え、え~と、でも、ほら、すぐ隣なんだから、いつでも来れるじゃない。それに、
 一人になりたい時だってあるわよ。そ、それにほら、うちは家事当番制だから、
 結構大変よ」

 「構いません。炊事でも、掃除でも、洗濯でも、肩たたきでも、何でもやります。
 だから、私も碇くんと一緒に、ここに置いて下さい! お願いします!」

 レイは、そう言って、深々と頭を下げた。

 「……シンジ君。ちょっと来なさい……」

 「は、はい」

 「レイ、ちょっと待っててね」

 「はい、葛城さん」

 そして、ミサトはシンジを自分の部屋に連れていった。

 「何ですか? ミサトさん」

 「シンジ君、怒らないから、ホントの事を言いなさいよ」

 「何の事ですか?」

 「何の事ですか? じゃないわよ。レイのあの態度からして、あんたたち、行く所
 まで行ったんじゃないの?」

 「な、なんでそうなるんですか!! 僕は何もしてません!!

 「じゃ、なんでレイがあんなにまでしてここに住みたがるのよ?」

 「一人じゃ寂しいって言ってたじゃないですか! それが原因だと思いますよ」

 「本当に、なにもない?」

 ミサトは、シンジの目を見つめた。

 「あ・り・ま・せ・ん!!」

 「そっか……。ぜ~~~ったい! 二人の間に何かあったと思ったけどなぁ。
 私の思い過ごしか……」

 ミサトは、そんな事をつぶやきながら、レイの所に戻ってきた。

 「レイ、あなたの気持ちは分かったわ」

 「じゃ、いいんですか!?」

 レイのが輝く。

 「 でも、ほら、うち、もう部屋がないのよ。これ以上は、ちょっち……ね」

 「……そう……です……か……

 見てる方も、読んでる方もつらくなるほど、レイは落ち込んでしまった。

 「ミサトさん。なんとかならないんですか? このままじゃ、綾波がかわいそう
 ですよ」

 「う~~~ん」

 ミサトとしても、何とかレイの望みを叶えてやりたかった。それほどまでに、今の
 レイは落ち込んでいた。

 その時! ミサトにグッドアイディアが浮かんだ!

 「そうだ!」

 この時、ミサトの後ろに色とりどりの星がきらめいた、とシンジは語った。


 <つまずく……もとい……つづく>


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