時に、2015年。

 最後の使徒が消えてから、二ヵ月が過ぎようとしていた。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第二部 Aパート


 全世界はパニックに陥っていた。国連直属の特務機関ネルフ総司令官碇ゲンドウに
 よる、全ての資料の公開が原因だった。

 西暦2000年に起きたセカンドインパクトの真の理由。使徒と呼ばれる謎の敵生体。
 国連の通常兵器では全く通用せず、最終兵器N2地雷をも受け付けない、その使徒と
 唯一戦える汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン。そしてその戦いの全記録。なお、
 この時、生命の安全とプライバシー保護の為、エヴァのパイロットの情報は非公開
 とされ、パイロットの情報を知る者たちには箝口令がしかれた。

 さらに、ゼーレと呼ばれる世界的巨大秘密結社の正体、目的、主要メンバー……。

 ゲンドウは、これらの情報をあらゆるメディアを通じて全世界に同時公開した。
 さらに、MAGIを使い、各国の秘密回線にまで侵入し、ネルフの力をあらゆる組織に
 見せつけた。

 ゼーレはこれまで、一度も表に出てきた事はなかった。しかし、今、その存在が
 あらゆる人々に知れ渡っていた。各メディアに圧力をかけて情報をもみ消そうと
 したが、ゲンドウが世界中に手を回し、そのことごとくを潰していた。ゼーレは
 あらゆる点でネルフに遅れをとっていた。何一つ有効な手を打てないまま、ただ
 時間だけが虚しく過ぎていった。

 その間にゲンドウは巧みに情報操作を行った。それは……

 ゼーレがセカンドインパクトを起こし、世界を裏から支配しようとした。そして、
 それに気付いたネルフがそれを阻止し、使徒を倒し、世界を守った。

 という内容だった。

 当然、ゼーレからさまざまな反撃があった。しかし、実際に使徒を倒したのは紛れ
 もなくネルフだった。さらにゲンドウが世界中に潜伏させているスパイの裏工作に
 より、人々は、ゼーレが悪、ネルフが世界を救った英雄だと思っていた。

 そのスパイの中でも、特に重要な働きをした人物、かつてどの組織のブラックリスト
 にも載っていた人物、既に死んでいたと思われていた人物、加持リョウジの働きは
 特に大きかった。ゲンドウの目的を知り、それに協力。死んだと思わせておいて、
 ゼーレの事を探っていたのだった。加持によりゼーレの情報は全てゲンドウに送ら
 れ、この作戦の切り札となっていた。

 このような事があり、ゼーレもうかつに動けなくなっていた。

 「碇、我々を歴史から消すつもりか?」

 「まずいぞ。我々の存在が世界中に知れ渡ってしまった」

 「左様。このままでは、世界は我等を排除しようとするぞ」

 「……加持、あの男が生きていたとは……うかつだった」

 「各ネルフ支部を味方にできんのか!?」

 「だめだ。既に碇によって抑えられている」

 「エヴァシリーズもパイロットがいなければ意味が無い」

 「碇は七号機を手に入れている。三体のエヴァ、これはまずいぞ」

 「……今、私の国においてゼーレを倒すためのデモが始まったようだ。政府もそれ
 を黙認したらしい。……君たちの国でも起こっているようだぞ」

 「バカなっ!? 早すぎる! ……これも碇の仕業か! このままでは……」

 「諸君、それぞれの国において体勢を建て直そうではないか」

 「そうだな。とりあえず自分の国を何とかしなければな」

 「左様。全てはその後だ」

 そう言って、キールを除く全てのモノリスが消えた。

 「碇、我々を潰すのがお前の目的だったのか……。これほどの準備を我々に気付か
 れずに進めていたとは……。お前の事を少しみくびりすぎていたのか……。
 このままでは……」

 そう言って、キールのモノリスも光を失った。そして、この部屋に光が灯る事は、
 二度と無かった。

 ゼーレのメンバーは、それぞれ各国の政治経済に深く関わっているため、ネルフの
 力でも完全には排除できない。しかし、その影響力は著しく低下していた。

 ゲンドウの裏工作により、それぞれの国はゼーレよりネルフを選んだ。使徒を倒せる
 唯一の兵器、エヴァの存在が何よりも大きかった。ゼーレの力よりエヴァを持つ
 ネルフの力を恐れての事だった。

 ゼーレが持つ強大な権力、経済力は徐々にネルフが受け継いでいった。今やゼーレ
 のメンバーは、それぞれの立場を守るのが精一杯だった。しかも、ゲンドウの放った
 スパイにより、その動きは全て知られていた。

 事実上、ゼーレは力を失い、ネルフは国連からも独立した組織となった。

 なお、このゼーレとの戦いの間、エヴァのパイロット達はネルフでエヴァのテストを
 行っていたが、外で何が起こっているのかは一切知らされなかった。だが、その存在
 そのものが抑止力となり、ネルフの切り札にもなっていた。

 「碇、やったな。ゼーレを抑え込む事にほぼ成功した。各国政府も我々に協力して
 くれるそうだ。

 「ああ。よほどエヴァが恐いらしいな」

 「それはそうだろうな。エヴァが三機もあれば世界を支配する事もできるからな」

 「くだらんな。今さら人間同士で争って何になる? エヴァは監視に使う。戦争など
 起こす暇があれば、世界を復興させるのが先だ」

 「そうだな。軍に回す金があれば、復興も早かろう」

 ネルフは世界の軍事バランスを監視し、世界の復興を進める組織として動きだして
 いた。また、使徒との戦いで消滅した第三新東京市は、世界を守るために消えたの
 なら、世界中の力で蘇らせよう
と、全世界から資金、資材、人材などが続々と
 集まっていた。第三新東京市は、信じられない程の速さで復興していった。

 この動きの陰にゲンドウの裏工作があった事を知る者は、殆どいなかった。

 「碇、お前は歴史上、最大のサギ師だな」

 「我々の目的は達成された。何と呼ばれようが構わん」

 「しかし、なぜこの第三新東京市にこだわる? 疎開している人達への補償なら、
 新しく町を造った方が遙かに早く安く造れるぞ」

 「使徒を倒したモニュメントとして、世界中の人々が第三新東京市を残したがって
 いるだけだ」

 「嘘をつけ。本当の目的は何だ?」

 「フ……。シンジはこの町で立派に成長した。多くの友人も出来たようだしな。
 前の所に戻りたくはあるまい。……離れたくない人も出来たようだしな」

 「それが目的か。しかし、息子のためだけに一つの町を再建するとはな……。
 今までの反動か? 随分と親バカになったものだな……」

 「彼らは世界のために命をかけて戦ったのだ。これくらいは良かろう。もう命を
 かけねばならんような戦いも無いだろうからな。この町で平和に暮らしてもらい
 たいものだ」

 「……碇がこんな事をしているくらいだからな……。世界は平和になったと
 いう事か。私も少しはのんびりと出来るか。……ところで碇、シンジとレイに
 ちゃんと話はしたのか?


 「ああ、その事か……。まだだ。内容が内容だからな。二人とも今は理解
 できまい。二人がもう少し大人になってから話す事にした」

 「…………碇、逃げてないか?

 「そ、そんな事は無いぞ。冬月。

 「唯一の肉親に嫌われたくない気持ちも分からんでもないがな……」

 「だから違うと言ってるだろう。シンジは、今やっと人と付き合えるようになった
 のだ。今、わざわざつらい話をする事も無いと思ってな。人付き合いが出来るよう
 になったとは言え、まだまだシンジの心は弱い。もっと心が強くならんとユイの話
 は出来んよ……。な、なんだ冬月、その顔は?

 「いや、お前も人の子なんだなと思ってな」

 「冬月、人の話を聞け!」

 ネルフ創設以来、初めて総司令官公務室に笑い声が響いた。


 <つづく>


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