新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第一部 Fパート (最終回)


 「ふられたな、碇」

 「…………」

 ネルフ総司令官公務室。モニターを見ていた碇ゲンドウと冬月コウゾウが会話を
 していた。

 ネルフ内においてプライバシーというものは存在しない。この部屋からなら、ネルフ
 内のあらゆる場所を映し出す事ができるのだ。彼らは、先ほどからのやりとりの
 一部始終を見ていたのだった。

 「それにしても、お前の息子は立派に成長したな。親として嬉しかろう?」

 「私は弐号機のパイロットの状態が気になっただけだ。パイロットは貴重だからな。
 ……だが、この調子なら、新たにパイロットを探す必要はないようだな」

 「……全く、お前という男は、もう少し素直に息子の成長を喜べんのか……。
 しかし、一度に二人の女性の心を盗むとはな……。それも意識的にやっているの
 ではないという所が末恐ろしい。……血は争えんという所か」

 「……冬月……」

 「そう怒るな。シンジ君はユイ君に似ているようだな。あと二、三年もすれば、
 周りの女性たちが放っておかないんだろうな。……あの二人も苦労するぞ」

 生前のユイを知る冬月は、シンジの中にユイの面影を感じ取っていた。そして、
 それはゲンドウにとっても同じだった。

 シンジはユイに似てきている。

 ゲンドウは、モニターに映る自分の息子を見ながら、生前のユイの事を思い出し、
 複雑な表情になった。

 「……ユイ、シンジは立派に成長したぞ。お前にも見せてやりたかった……」

 そう言って、少しうつむいてしまった。ゲンドウの事を良く知る冬月でさえ、こんな
 ゲンドウを見た事は殆どなかった。過去にただ一度、ユイが亡くなった時に、今と
 同じような表情をしていた事を覚えていた。

 ゲンドウの目には、かすかに光るものがあったが、冬月は気付かないふりをして、
 ゲンドウに語りかけた。

 「いいのか? 碇」

 「……あぁ。レイは自らの意思でシンジと共に生きる事を望んだ。ダミーシステム
 はもうないのだ。……赤木博士も、もう私には協力せんだろう。
 それに、私のやり方はユイにまで拒絶されたようだ。私は、……これ以上ユイに
 嫌われたくはない。……所詮、人は神にはなれんよ。死んだ人間の事をどうにか
 しようなどと……」

 「そうか。で、これからどうするんだ、碇?」

 「そうだな。シンジとレイには私が何をしようとしたかを全て話すつもりだ。その
 上で私を拒絶するのならば、それは仕方のない事だ。もし……もし私を許し、受け
 入れてくれるのであれば、父親の真似事でもしてみるさ」

 「それも良かろう。これからは、彼ら新しい世代の時代だからな」

 「あぁ、我々古い世代の人間は、新しい世代のために、この世界を残すためにのみ
 セカンドインパクトの後、生きてきたのだからな」

 「だが、それももう終わろうとしている」

 「あぁ、いつまでも古い人間が世界を支配してはならないのだ。ゼーレのように」

 「碇……。やはりやるのか? 苦しい戦いになるぞ」

 「あぁ、だが、そのための準備は進めてきた。そのために私は生きているのだから
 な。……もうすぐ、弐号機の修理が終わる。イギリスで建造中の七号機も明日には
 届くだろう」

 「……しかし、よくイギリス支部が七号機を渡してくれたな。最後の使徒を倒した
 のだから、ここにエヴァを集める理由がないぞ。……いくら極秘にした所で、
 ゼーレに気付かれるのは時間の問題だぞ」

 「イギリス支部には話をつけてある。いくらエヴァがあっても、パイロットがいな
 ければ何も出来んからな。全ての切り札は、こちらが握っている。今さらゼーレが
 気付こうが、彼らには何も出来んさ」

 「死海文書にもとづいて動いている老人たちにとって、イレギュラーな事、という
 訳か」

 「我々を阻止するだけの力は、もう残ってはいまい」

 「そうだな。だが、勝負は一瞬だぞ。失敗すれば、我々は全員死ぬ事になる。時間
 がないのは我々も同じだ」

 「あぁ、分かっている」

 二人の男が戦いの決意を新たにしている時、モニターの中では、シンジにもたれ
 かかるアスカ、それに張り合い、シンジの腕を取るレイ、冷やかすミサト。そして、
 真っ赤になっているシンジの姿が映し出されていた。

 「シンジ、あとしばらくでいい。父に力を貸してくれ」

 モニターの中に映る平和な光景を見ながら、ゲンドウはつぶやいた。

 彼らの長年の計画が、今、始まろうとしていた。

 この平和な光景を守るためにも、失敗は許されなかった。


 戦いの時は、目前に迫っていた……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第一部 


 [第二部]へGO!

 [もどる]