新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 弐拾八 怪奇! サボテン人間

 - 前 編 -


 「はぁ~~~~~~」

 「どうしたのよリツコ、大きなため息なんかついて。ひょっとして恋の悩み?

 「違うわよ」

 「じゃあ何よ?」

 「ここんとこ調子悪くてね、実験を立て続けに失敗してるのよ」

 「ふ~ん、そうなんだ」

 『ま、リツコの実験が失敗してるって事は、私や世界平和のためには良い事なんだ
 けどね』

 「で、どんな失敗してるわけ? 教えてよ」

 「……妙に嬉しそうね。私の失敗がそんなに楽しいの?」

 「やーねー、違うわよ。ひょっとしたら何かアドバイスできるかも知れないと思って
 詳しく知りたいだけよ」

 「……ま、いいわ。……どうも、ここ最近ネルフ内において私の評判が良くない
 ような気がするのよ」

 『そりゃあね、あんな事やこんな事してやしてたら評判も悪くなるわよね……。
 確か今は悪魔って呼ばれてるのよね……』

 「で、そこで手っ取り早く人気を回復するためにはどうしたらいいのか考えたのよ。
 ほら、前にお肌が綺麗になる薬作ったでしょ。だから今回も女性の心理を巧みに
 突き、誰からも感謝される物を作ろうと思って、ダイエット薬を作ったのよ」

 「え、ダイエット?」

 「ほら、女性なら確実に反応するでしょ。ミサトもちょっと腰回りふっくらして
 きてるものね。ビール止めたら?」

 「うるさいわね。人間が丸くなったと言いなさいよ。で、その薬完成したの?」

 「ええ、勿論よ。でもね、たった一つ問題点があるのよ」

 「……やっぱり」

 「……何よ、そのやっぱりって言うのは?」

 「だって、リツコの作るクスリっていつも何か副作用があるじゃないの。で、今回は
 何?」

 「それがね、効果がありすぎるのよ」

 「クスリが強力すぎるって事?」

 「ええ、そうなの。ちょっとペンペンに協力してもらったんだけど……」

 「ちょっとリツコ! あんたいつの間にペンペン連れ出したのよ!?」

 「いいじゃない、ちょっとくらい。元々実験動物だったんだし」

 「良くないわよ! ペンペンは私の大事な家族なのよ! 二度と
 おかしなマネするんじゃないわよ! いいわね!!」

 「分かったわよ。それにちゃんと元に戻ってるでしょ」

 「元って何よ、元って」

 「いやーそれがね……ペンペンにダイエット薬を試してみたんだけど……。ほんと
 びっくりしちゃった。まさかツバメになるとはね~~~」

 「な な なっ!?」

 「ペンギンが痩せ過ぎるとツバメになるなんて意外な発見だったわ。ひょっとすると
 ツバメを太らせたらペンギンになるかも知れないわね。今度実験してみようかしら
 ね」

 「リ~~~ツ~~~コ~~~」

 「そんなに怒らないでよ。それにペンペンだって喜んでたわよ。憧れの空を飛ぼう
 として必死で羽ばたこうとしてたし」

 「それは単にあんたから逃げようとしてただけよ。全くロクな事しないんだから。
 だいいち、回復するのは”人気”じゃなくて”信頼”でしょ。女性職員に媚び売っ
 てる暇があったらネルフ全体に役立つ物を作りなさいよね」

 「もちろん、それもちゃんとやってるわよ」

 「ほ~~~ちゃんとやってるの。例えば?」

 「そうねえ、エヴァに武器を渡す時に、兵装ビルを使わずに、もっとスピーディーに
 エヴァの手元に直接武器を転送するシステムとかを作ってるわよ」

 「そんな事できるの?」

 「ええ、勿論よ。ほら、進化するエネルギー、ビムラーで動いてるロボットが
 使ってたじゃない」

 「……あれアニメでしょ?」

 「ふ、私に不可能は無いわ。既に試作品は完成してるのよ」

 「へぇ、さすがね。でもどうせ何か問題点があるんでしょ?」

 「……イヤミな言い方ね」

 「無いの?」

 「…………一つあるわ」

 「やっぱり……で、何?」

 「それがね、完成した時、とりあえず何かを転送しようと思って周りを見たら、
 下っ端ーズの一人が育ててるサボテンの鉢植えがあったのよ。で、試しにそれを
 転送してみたんだけど……ちょっと問題が発生したのよ」

 「いつもの事ね。で、どうなったの?」

 「転送自体は成功したんだけど……いきなり奇妙な声で鳴きだしたのよ」

 「へ? 鳴きだしたって、サボテンが?」

 「そうなのよ。口も無いのに一体どこから声を出してるのか、ほんとに不思議だった
 わ」

 「問題点はそこじゃないでしょうが!! 何でサボテンが鳴きだすの
 よ!?」

 「転送の際に遺伝子が組み変わったのかも知れないわね」

 「まったくあんたはいつもそうなんだから。で、そのサボテンはどうなったの?
 やっぱり実験材料?」

 「そうしようと思ったんだけどね。勝手に歩き回るしトゲを飛ばしてくるし、その
 トゲが刺さった下っ端ーズは原因不明の熱病でいまだに意識が戻らないし、身体から
 トゲが生えてくるし……さすがにちょっと危険を感じたので処分したわ」

 「あんたねー、十分バイオハザードじゃないの。良く平気な顔してられるわね」

 「新しい技術に挑戦していると良くある事なのよ。それに、エヴァへ転送するのは
 生物じゃなくて機械だもの、更に実験を続ければいずれ完成するわ」

 「ちょっと待って、機械なら送れたんじゃないの?」

 「それがね、どういう訳か機械まで妙な声出し始めたのよね~~~」

 「なっ!?」

 「どうしてスパナが喋るのか、いまだに謎だわ」

 「……リツコ、その実験今すぐ止めた方がいいわよ。そのうち使徒作っちゃう
 可能性が高いわ。と言うより、今すぐ止めなさい

 「そうね、その危険性もあるわね……。しょうがないわね、今回は諦めるわ」

 「珍しく物分かりがいいわね。でも、ま、リツコも少しは大人になったのね」

 「どういう事?」

 「だって、リツコの事だから『人間を転送したらどうなるのかを調べるのは、科学者
 としての義務』とか何とか言って人間を転送させるのかと思ったけど、今回はやって
 ないようだし、ようやく人命の尊さに目覚めたのね」

 「だって、下っ端ーズの連中、私の顔を見るなり全力で逃げるのよ。まったく失礼
 しちゃうわ」

 「……そりゃあ逃げるわよ。誰だって死にたくはないもの。じゃあリツコ、もし
 下っ端ーズが逃げなかったらどうしてたの?」

 「勿論、実験してたわ」

 「………………はぁ」

 「なに溜め息ついてんのよ。それよりもミサト、私達、親友よね」 にっこり

 「………………」

 「親友よね」 にっこり

 「……あら、私ってどうして見ず知らずの人の部屋に来てるのかしら? ごめん
 なさい。すぐに出て行くわ」

 そう言ってミサトは椅子から立ち上がる。しかし、

 「ポチっとな」

 と、リツコが何かのボタンを押すと、ミサトの上からガラス状の筒が降りてきて、
 ミサトをすっぽりと包んでしまった。

 なっ!? ちょ、ちょっとリツコ、何よこれ! あんたまさか!?」

 「ふふふ。ミサト、聞こえていたら自分の生まれの不幸を呪うがいいわ。あなたは
 いい友人だった。でも、あなたの父上がいけないのよ」

 「リツコ! 謀ったわねリツコっ!!」


 <つづく>


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