新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 弐拾八 怪奇! サボテン人間

 - 後 編 -


 「ポチっとな」

 と、リツコが何かのボタンを押すと、ミサトの上からガラス状の筒が降りてきて、
 ミサトをすっぽりと包んでしまった。

 なっ!? ちょ、ちょっとリツコ、何よこれ! あんたまさか!?」

 「ふふふ。ミサト、聞こえていたら自分の生まれの不幸を呪うがいいわ。あなたは
 いい友人だった。でも、あなたの父上がいけないのよ」

 「リツコ! 謀ったわねリツコっ!! そもそも父上って何よ!?」

 「ふふふ、感謝してよねミサト、初めて転送に成功した人間として歴史に
 その名が残るわよ」

 「嫌ぁーーー! そんなんで名前なんて残したくないぃーーー!!
 それにどうせ最初の犠牲者としてしか名前残んないに決まってるんだから。
 だいいち、そんな名誉はリツコに譲るわよ」

 「あら私も世界で初めて転送させた人間として名が残るからいいのよ。大丈夫よ
 ミサト、多分痛くないから安心してね」

 「嫌ぁーーー!! ハエが! リツコ! ここにハエが!! ハエ
 人間は嫌ぁーーー!!! 早くここから出しなさい!!」

 とうとうキレた(無理もない)ミサトは銃を抜き、撃ちまくった。すぐにガラスが
 割れたので慌てて外に出る。

 「ミサト何するのよ。せっかくの装置が……」

 「あんた私を殺す気!? はぁはぁ……いっぺん死んでみる!?
 安心しなさい、最大限苦しんで死ねるよう、急所は外してあげるから」

 「その銃にもう弾は入ってないでしょ」

 「くっ、よく数えてるわね」

 「だいいちミサト、ほんの軽い冗談じゃないの。そんなに本気で怒らないでよ」

 「……目が本気だったわよ。そのうち冗談で殺されそうね」

 「あらどこに行くの?」

 「この部屋にいると何されるか分かんないから帰るのよ」

 「まーまーそう言わずに。それに私のキーが無きゃ開かないわよ」

 「さっさとキー出しなさい。だいたい何で中から外に出るのにキーがいるのよ」

 「まーいいじゃない。それよりもちょっと私のお願いを聞……」

 「イヤ」 (0.1秒)

 「……まだ何も言ってないじゃないの」

 「どうせ怪しい実験に付き合わそうってんでしょ。私はまだ死にたくないの」

 「実験の事じゃないわよ。ちょっと買って来て欲しい物があるのよ。ほら、私は
 忙しくてなかなか外に出られないから買いに行く暇が無いのよ」

 「どうせ”白い粉”とか”若い男”とか買って来いって言うんでしょ」

 「それは間に合ってるからいいわ」

 「……あんたねー」

 「私が買って来て欲しいのはニワトリよ」

 「ニワトリ? ……あ、そうか。スランプ続きだからぱぁーっと料理作って宴会
 でもやろうって事ね。そういう事なら幾らでも付き合うわよ。でもトリ肉なら食堂
 に行けば分けてもらえるし、ネルフの売店でも売ってるわよ」

 「だからニワトリって言ったでしょ」

 「ああ、丸焼きにするのね。でもそれだってちゃんと売ってるわよ」

 「私が欲しいのはトリ肉じゃなくてニワトリなの。生きてるやつね」

 「げ……自分でさばくの?」

 「さばく? ……ま、ちょっと使い方が違うけど広い意味じゃそうかもね。あと
 他にはナイフでしょ、ローソク、燭台、祭壇……あと何が要るのかしら?」

 「…………リツコ、あんた悪魔でも呼び出すつもり?」

 「ふっ……ここまでスランプが続くと非科学的な物にでも手を出そうかって
 気にもなるのよ。大丈夫よ、作者なんかネタに詰まるとしょっちゅうやってる事
 だし」

 「あんたねー、誤解を招くような事言うんじゃないわよ。読者の皆さんが信じたら
 どうするのよ」

 「だって、最近電波の受信が良くないって悩んでたじゃない」

 「それはあんたでしょ。とにかく、下らない事やってる暇があるんだったらゆっくり
 休みなさい。疲れてるからロクでもない発想しか出てこないのよ。酒でも飲んで早く
 寝なさい。だいたい、次の日仕事なのに徹夜でゲームなんかやってたら体力持つわけ
 ないでしょ。もう歳だって事自覚しなさいよね。若い頃とは違うんだから」

 (うう、耳が痛い)

 「とりあえず私は帰るから。キー貰うわよ」

 そう言ってリツコからキーを奪い、ドアを開ける。するとそこには数人の人影が
 あった。

 「な、何よあんた達?」

 「あら、下っ端ーズNo.19じゃない。意識が戻ったのね」

 「え? じゃ、こいつが例のサボテンに刺されて意識不明になってたってやつ?」

 「ええそうよ。でも顔色は緑色だし、あちこちトゲが生えてるわね。今どんな感じ
 なの? 貴重な体験のデータをぜひ提示して欲しいわね」

 「……リツコ……あんたね……もう少し人間性ってやつを持ちなさいよ」

 「……とてモ……スばらシい……デす……」

 「え?」 (ミサト、リツコ)

 「……にんゲン……と……しょク……ブつ……が……ひとツ……に……なル……
 トても……スば……らシイ……こと……デす……ハか……せモ……ナリ……
 ま……しょウ……」

 そう言うと、いきなり身体のトゲを飛ばしてきた。

 「なっ!?」

 ミサトとリツコは辛うじてそれをかわす。

 「な……ゼ……にゲ……るん……で……ス……」

 「ナ……ぜ……ニげ……るン……で……ス……」

 「ナ……ぜ……ニゲ……ルん……デ……す……」

 「げ……後ろの二人も同じ状態?」

 「仲間を増やしてるの? あのトゲに刺さると同じ状態になるとでもいうの?」

 「ちょっとリツコ、どうすんのよ?」

 「……素晴らしいわ!!

 「は?」

 「こんなに興味をそそる実験体は久し振りだわ!! あなた達、
 解剖……じゃなかった、もっと詳しく調べさせなさい!」

 そう言って白衣の中からメスを取り出す。

 「リ、リツコ危ない!!」

 リツコに向かって一斉に無数のトゲが放たれる。しかしリツコはそれら全てをメスで
 叩き落としてしまった。

 「ふッ……この私にそんな物効かないわ。さぁ、おとなしくしなさい」

 「………………」

 異様に目を輝かせるリツコに呆れながらも、ミサトはとりあえず部屋から逃げ出し、
 ロックを掛け、携帯を取り出す。

 「……あ、私。リツコの部屋に第一種非常事態宣言発令。……そう、また
 なの。うん、うん、この付近へ近づかないように皆に伝えておいて。それと、完全
 装備の職員を何人か張り付けといて。あと、体中緑色になってトゲの生えてるやつ
 を見つけたら近づかないで。……そう、麻酔銃か何かで捕獲して隔離しておいて。
 うん、そう、じゃあ後よろしく」 ピッ

 「ふ~ とりあえずこれで良し、と。まぁ結果的に閉じ込めちゃったけど……。
 大丈夫よね、リツコはこれくらいじゃ死なないと思うし……」

 と言いながらも少し心配になり部屋を見る。すると……

 「ほーっほっほっほ!! さぁ解剖させなさい!!」

 という、とても嬉しそうなリツコの声が聞こえてきた。

 「……心配するだけ無駄か……。さーて、帰ってシンちゃんの美味しい料理でも
 食べてビールでも飲んで今日の事はさっさと忘れる事にしよっと」

 そう言ってミサトは帰ってしまった。

 なおこの後、ネルフ全館に非常事態宣言が出され、三日三晩に渡って死闘が繰り
 返され、リツコの評判はますます落ちたという話である。

 PS.

 この作品はフィクションです。作者は決して怪しい儀式や宇宙からの電波の
 命令で書いているわけではないので誤解しないようにお願いします。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 弐拾八

 怪奇! サボテン人間 <完>


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