新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Iパート -


 「シンジ!!一体どういう事よ!!」

 「え、何、アスカ? 全然聞こえないんだけど」

 「ファースト!! あんたいつまで押さえてんのよ! さっさと放しな
 さい!! いい、シンジ、もう一回聞くわよ。あんたとファーストが
 他人じゃないって、一体どういう事よ!!」

 「……(思考停止中)……   ほえええっ!?

 「ほえええっ! じゃないわよ。事と次第によっちゃあ、この場で死んでもらう
 わよ」

 「ええっと、レ、レイ」

 「何、お兄ちゃん?」

 「だ、だ、だから、その……ど、どういった意味で使ったの?」

 「 何が?」

 「え、いやだから……」

 「あーもうまどろっこしいわね! ファースト、あんたシンジと他人じゃない
 って言ったわよね」

 「ええ、そうよ」

 「どういった意味で使ったか説明しなさい」

 「? 良く分からない。あなたは何が聞きたいの?」

 「いいから説明しなさい」

 「? お兄ちゃんと私は兄妹、あなたは他人。だからお兄ちゃんと私は何をしても
 いいけど、他人のあなたは口出ししないで、と言ったのよ。……あ、お兄ちゃん
 どうしたの? 沈んじゃだめ。溺れちゃうわ。しっかり私に掴まっていて」

 「……そらまぁ、力も抜けるわな」

 「そんな事だろうと思ったけどね。シンちゃんも大変ね~~~」

 「あ、あんたねぇ、いい加減意味も分からずそういう事言うの止めなさい。迷惑
 だわ」

 「お兄ちゃん、しっかりして」

 「あ、う、うん。大丈夫だから」

 「良かった」

 「人が話ししてる時はちゃんと聞きなさい!!」 ザバーッ

 「アスカ、気持ちは分かるけど、そんなに勢い良く立ち上がるとタオルが取れちゃう
 わよ。シンちゃんの前だけならともかく、今はこいつ(加持)がいるんだから気を
 付けなさいよ。でないと妊娠しちゃうわよ」

 「おいおい、人聞きの悪い事を」

 「お兄ちゃんの前ではだめです」

 「はいはい。それとレイ、特にあなたは気を付けるのよ。人前で裸になる事を何とも
 思ってないようだけど、世の中には危険人物もいるって事を認識しておくのよ。
 いいわね」

 「はい、分かってます。私はもうお兄ちゃんと二人きりの時にしか裸になりません
 ので、心配しなくて大丈夫です」

 「良くないわよ!! ミサト! 今こいつが何言ったか分かってる
 の!?」

 「え? ああ、そういえば……ちょっと問題があるか……」

 「大ありよ!!」

 「でもアスカ、所構わず誰の前でも裸になるより、シンちゃん一人の前でだけ裸に
 なる方が、世間一般的には正常と言えるんじゃないの?」

 「いいえ、だめよ。女のつつしみってやつを私が徹底的に教育してやる」

 そう言ってアスカはひたすらレイに女のつつしみとやらを伝授しようとして必死に
 なっていた。が、レイは耳を貸さず、シンジの腕にしがみついたままだった。シンジ
 もどうしていいか分からず、ただオロオロするだけだった。

 そんな三人を見ながら、加持とミサトはそっと寄り添う。

 「……しっかし、この三人がこんな事してるとこ見ると、本っ当に世の中平和に
 なったんだなと痛感するな。俺の任務が終わるわけだ」

 「全くね~。平和だからこそこうして美味しいお酒が飲めるってもんよ。それに、
 あの子達も明るくなったみたいだし、ほんと、この偶然に感謝しなくちゃね……。
 ……偶然?

 「どうした葛城?」

 「偶然にしちゃ出来過ぎてるわね。まさか、これってユイさんが……」

 「ああ、正解だ。葛城達をこの温泉に連れてきて欲しいと冬月副司令に頼んだ
 らしい。冬月副司令にとってはユイさんの頼みは最優先らしいからな。ユイさんは
 シンジ君とレイちゃんを葛城やアスカと会わせたかったようだな。あと、どうやら
 俺と葛城の再会も演出したかったようだな。ま、今までの葛城や俺の働きに対する
 報酬らしいから有り難く受け取っておくけどな」

 「じゃあどうして最初から同じ所に……そっか、これは碇司令の企みだったのね。
 私達が乱入してこないように沖縄に放っぽり出した……。結局、私達は邪魔者扱い
 なのか……」

 『ん? シンちゃんとレイが今ここにいるって事は、二人も碇司令に追い出されて
 きたって事か……』

 「でも、ま、碇司令の企みもエンジントラブルで水の泡というわけね。……あ、
 ひょっとして……まさかあんたが……」

 「正解。相変わらずいい勘してるな。たまたま日本に帰ってきた直後にユイさんから
 指令が入ってね。ちょっと旅客機のコンピュータに侵入したってわけだ。もちろん、
 葛城達以外の乗客は特別機を用意してすぐに沖縄に向かってもらった」

 「フォローはばっちりってわけね」

 「そうだ。ちなみに付け加えると、この大浴場に他の客がいないのも、俺が細工
 してる」

 「え……どうりで誰もいないわけだ……。それもユイさんの指令?」

 「ああ、全くたいした人だよあの人は。どうやら俺達の再会を演出したらしいな」

 「そうみたいね。完全に碇司令を尻に敷いてるわね。どんなに企んでもすべてユイ
 さんにはお見通しってわけか。まさに手のひらの孫悟空状態ね」

 「そうだな。だがそれは悪い事じゃないさ。碇司令の場合、そういう人の方が幸せに
 なれるさ」

 「そうね。その方がネルフも平和だろうしね。いっその事、ユイさんがネルフの司令
 になればいいのに……。ま、実際はもうそうなってるようなもんだけどね」

 「ああ、全くだな」

 「しっかし、シンちゃんって本っ当に碇司令のまんまね。今から尻に敷かれてちゃ
 将来どうなる事やら」

 そう言って呆れたようにシンジを見る。

 「いや、そうとも限らないさ」

 「? どういう事?」

 「アスカはああ見えて、結構男で変わるタイプだと思うな。今まで本気で好きに
 なったやつがいないようだし、一度好きになったら、ひょっとすると尽くすタイプに
 なるかも知れない。レイちゃんの方は自分のしたいように行動してるようだが、
 ”シンジ君のため”というのが最優先のようだし。……どっちにくっつくにしても
 碇司令とユイさんの関係とはまた違ったもんになるんじゃないかな」

 「そうかも知れないわね。あ、亭主関白にだけはならないわね、絶対」

 「ははは、そうだな。……さてと」

 「ん? どうしたの、加持君?」

 「ん、ちょっとな。シンジ君、取り込んでる所悪いが、ちょっといいかい」

 「え? 何ですか加持さん?」

 「後で部屋まで案内して欲しいんだ。ご両親に挨拶しておきたいからね」

 「挨拶?」

 「ああ、特別休暇の他にこんな旅行まで招待してもらってるからね。一言お礼を
 言っておきたいんだ」

 「そうね、私も挨拶に行かなきゃね。アスカも行くでしょ」

 「え、私?」

 「来なくていい」 (レイ)

 「うるさいわね。ちゃんとお礼くらい言うわよ」

 「私が伝えておくわ」

 「こういう事は直接伝えるものなの!! シンジ、さっさと案内しな
 さい!」

 「で、でも……」

 「何よ、私は来なくてもいいとでも言うわけ!?

 「え、ち、違うよ。そういう意味じゃないよ。ただ……」

 「ただ、どうしたんだい、シンジ君?」

 「はぁ……あの……どうも父さん、母さんと二人きりでいたいらしくて、僕達も
 追い出された形なんです」

 「なるほど……確かにいい雰囲気の所に俺達が押しかけていったら殺されかねん
 な……」

 「はい、僕もそれが心配で……」

 「じゃあシンちゃん達も迂闊に部屋に帰れないって事?」

 「はい、そうなんです。父さんから小遣いくれて……全部使うまで帰ってくるな
 って言われてるんです」

 「ははは、碇司令もまた随分と分かりやすい行動を取るもんだな」

 「あんたバカぁ!? それならさっさと小遣い使い切っちゃえばいいじゃないの。
 それなら何の問題も無いじゃない」

 「でもまだ殆ど減ってないんだ。ゲームセンターじゃいくら使っても知れてる
 し……」

 「ちなみに、今どれくらい残ってるの?」 (ミサト)

 「まだ二十九万以上あると思います」

 「二十九万以上? これはまた随分と……。普通に遊んでたら一晩で使い切る額じゃ
 ないわね。ひょっとして、一晩帰ってくるなって事じゃないの?」

 「私は構いません」

 「ええっ! レイ!?」

 「なーにバカな事言ってんのよあんたは!!」

 「ははは、相変わらずもてるなシンジ君」

 「からかわないで下さいよ」

 「ねーねーシンちゃん。それじゃあ、そのお金で新しい部屋を借りるとかそんな訳
 じゃないんでしょ?」

 「あ、当たり前じゃないですか」

 「そうよミサト、バカな事言ってんじゃないわよ」

 「私は構いません。お兄ちゃんと二人でいられるのなら……。お兄
 ちゃん、部屋借りよう、ね」

 「ええっ!?」


 <つづく>




 「<つづく> じゃない!! そんなの私が許さないんだから!」

 「はいはい、アスカ落ち着いて。そうね、ここで <つづく> というのはちょっと
 認められないわね。いいレイ、さすがに二人きりというのは認められないわ。
 だから私達の部屋にいらっしゃい」

?  「え? 葛城さんの部屋?」

 「ちょっとミサト、何勝手に決めてんのよ。私がシンジに襲われでもしたらどう
 するつもりよ?」

 「それはないわよ。私もいるんだし。ま、襲って欲しいなら私は消えてあげるわよ
 ん」

 「な、な、な、何言ってんのよ! そんな事あるわけないでしょ!!
 ミサトこそ何だかんだ言って、加持さんと二人っきりになりたいだけなんでしょ」

 「な、何でそうなるのよ。アスカの考え過ぎよ」

 「ふん! どうだか」

 「……あなたは何も心配しなくていいわ。お兄ちゃんは私と二人で部屋を借りる
 から」

 「だからそれはだめだって言ってるでしょ!!」

 「どうして?」

 「ど、ど、どうしてって……とにかく、そういう事は世間一般では非常識な
 事なの!! 特にあんた達は異常なの! だから駄目なの、いい
 わね!!

 「そうなの?」

 「そうなの!!」

 『アスカも必死ね。しようがない、助けてやるか

 「ねぇシンちゃん……」


 <つづく>


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