新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Jパート - (最終回)


 『アスカも必死ね。しょうがない、助けてやるか』

 「ねぇシンちゃん、そんなに大金持ってても使い切れないでしょ。どうせ部屋には
 戻れないんだし、この際みんなで宴会やらない?」

 「宴会?」

 「そ。そのお金で朝までパーーーッとやりましょ、パーーーッと!
 ね、いアイディアでしょう?」

 「勝手に決めるんじゃないって言ってるでしょ!! それにミサト、
 あれだけ飲んどいてまだ飲むわけ!?」

 「いいじゃないの。再会を祝して飲みたい気分なのよ」

 「フン! 加持さんに会えたのがそんなに嬉しいの」

 「な、何言ってんのよ。シンちゃんとレイとの再会を祝してに決まってんじゃない
 のよ」

 「シンジとファーストならいつも会ってるじゃないのよ。説得力がまるで無いわね」

 「だ、だからそれはネルフでの話でしょ? こういう場所で会えた事を祝してに
 決まってるでしよ。せっかく助けてやったのにそういう事言うわけ?」

 「何をどう助けたって言うのよ?」

 「少しは考えなさいよ。あのまま二人っきりにしてもいいわけ? それより、目の
 届く所にいた方がいいじゃないの。ああ、この親心を分かってもらえないなんて
 悲しいわ。でも、ま、安心しなさい」

 「何がよ?」

 「不参加のアスカの横で騒いだりしないって事よ。私達は加持君の部屋に行くから、
 アスカはゆっくり寝てていいわよ」

 「参加するに決まってんでしょ!! なーんで私一人除け者にされ
 なきゃなんないのよ!!」

 「最初から素直にそう言やーいいのに」

 「フンだ!」

 「相変わらず強引だな、葛城は」

 「まぁいいじゃない。要は楽しければいいのよ。てな事で話がまとまったけど、
 シンちゃんもそれでいいかしら?」

 「え? ええ、別に僕は構いませんけど……」

 「レイもいいかしら?」

 「…………」

 「そんな残念そうな顔しなくてもいいじゃない。ほらほら、シンちゃんも説得して」

 「あ、はい。レイ、部屋に帰れないんだし、みんなでいた方がきっと楽しいよ。そう
 しようよ、ね」

 「お兄ちゃんがそう言うのなら……」

 「よーし、決まりね。じゃあ早速、部屋に戻って大宴会よ!!

 そう言ってミサトは風呂を出る。

 「ほらほら、あなた達も早く出なさい。何グズグスしてんのよ」

 「ああ、分かったよ。俺達だけで貸し切るのも悪いからな。さ、シンジ君、行こう
 か」

 「はい」

 「……言っとくけどファースト、女の脱衣所はこっちよ。シンジに付いてくんじゃ
 ないわよ」

 「…………分かってるわ」

 「じゃあ今の間は何よ?」

 「アスカ、そういう面白そうな事は宴会中に私の前でしなさい。ほら、行くわよ」

 ミサトはレイとアスカの手を取り、ずんずんと歩いていく。

 「……ミサトさん、張り切ってるな……」

 「そうだな。さてと、俺達もゆっくりしてたら葛城に何言われるか分からんからな。
 急いだ方がいいな」

 「そうですね、急ぎましょう」

 こうして、風呂から出て浴衣に着替えた一行はミサトの部屋に向かう。もちろん、
 レイはしっかりとシンジの腕にしがみつき、再び指輪も装備されている。


 「ん? おい、あれ、さっきの奴じゃないか?」

 「ああ、間違いない、さっきの奴だ。しかもまたあんなにくっついてる」

 「それだけでも許せんのに別の女まで連れてる」

 「しかもあっちの女もすげー可愛い……まさかあれも妹ってんじゃないだろうな?」

 「許せんな」

 「ああ、万死に値する

 「ガルルルル……

 など、シンジ達の周りからヒソヒソ話が聞こえてくる。

 「シンちゃん、相変わらず敵ばっかり作ってるようね。ま、無理もないわね。普通の
 男の子からしてみれば、美少女を二人も連れて歩いてるやつなんて敵以外の何者でも
 ないもんね」

 「シンジ君も苦労してるようだな。ま、その分いい目にもあってるんだから仕方ない
 かな」

 「あ、あは、あはははは……」

 もはやシンジは笑うしかなかった。

 と、その時。

 「あ、あれ? 父さん、母さん?

 「シンジ……。ぬぅ、なぜ君達がここに? 沖縄に追い出し……あ、いや、沖縄
 旅行に行ったはずではなかったのかね?」

 『やっぱり私達を追い出そうとしてたわけね。まったくこのオヤジは……』

 「はい、せっかくの碇司令のご好意、私達も心から感謝して楽しみにしていたの
 ですが、あいにくとエンジントラブルが発生しまして、途中で引き返さざるを得なく
 なりまして……。そこで冬月副司令が気を利かせて下さり、こちらに変更して
 下さったのです。本当にありがとうございます」

 『ぬぅ、冬月のやつ、余計な事を……』

 「俺は少しゆっくりしようと思い、この温泉に来ていたら、バッタリ出くわしたと
 いうわけです」

 『……ハッ! ユイ、これは君の仕業だな?』 ひそひそ

 『あら、何の事でしょうか? でも、ほんと偶然ってあるものなのね』 ひそひそ

 『ぬぅ……』

 『それよりあなた、レイちゃんの左手見て下さい』

 「レイ、その指輪はどうしたのだ? さっきはしていなかったと思ったが?」

 「はい、お兄ちゃんがプレゼントしてくれたんです」 ポッ

 「あら、良かったわね、レイちゃん」

 「はい、私の宝物です」 にっこり

 「フッ。シンジ、良くやった。それでこそ私の息子だ。だがなシンジ、婚約指輪なら
 もっとしっかりした物を買うべきだ。金なら渡してあるだろう。足りんのなら幾ら
 でも出してやる。百万か? 二百万か?」

 「だ、だからそういうんじゃないよ。ただのゲームセンターの景品だよ」

 「フッ、照れる必要などない。男が女に指輪を贈る。意味がないはずはない」

 「ほんとに深い意味はないよ」

 「ではなぜその指にさせている? 説得力がないぞ」

 「こ、これはレイが自分で……」

 「そうなのか、レイ」

 「はい、お兄ちゃんの言う通りです」

 「フッ、良くやった、レイ」

 「あら、レイちゃんも結構やるわね。それとあなた、プレゼントに額は関係ありま
 せん。何かをプレゼントする。プレゼントしてもらって感謝する。その心が大切なの
 です。高ければいいというわけではありません」

 「しかしなユイ、やはり男としてはだな」

 「いいえ、気持ちの問題です。ねえレイちゃん、その指輪、大切な物なんでしょ?」

 「はい。とっても嬉しいです」

 「ほらご覧なさい。レイちゃんはこの指輪で満足してるでしょ」

 「ぬぅ……」

 「あの、お母さん。この指に何か意味があるんですか? みんなが驚くような顔を
 するんです……。私はお母さんと同じ指にしただけなのに……。この指に指輪を
 はめちゃいけないんですか?」

 「全く問題ない。シンジからもらったのであればその指でいい。他の男からもらった
 場合はその指だけはいかん。それだけ覚えておけば何の問題もない」

 「そうね。特に問題ないわね。もし外す時があるとしたら、シンジが新しいのを
 プレゼントしてくれた時だけね。シンジ、今度は自分で稼いだお金でプレゼントして
 あげなさいね。それが男ってもんよ」

 「う、うん」

 「じゃあ、この指にはめててもいいんですね。良かった、お母さんと同じ……。
 それとお父さん、私はお兄ちゃん以外の人から何ももらうつもりはありません」

 「うむ、よろしい」

 『……何だか勝手に話が進んでるような……』 (シンジ)

 『何よシンジのやつ、またファーストにプレゼントするつもりなわけ? しかも
 自分の金から……。冗談じゃないわよ』

 『アスカ、ピーンチね。これは後で危機感を煽っておかないとね。今のアスカの様子
 からして、本人も不利な立場を自覚しているようだし、一気に既成事実を作るくらい
 やりかねないかもね。楽しみだわ~~~』

 『フッ……これでシンジの将来は確定だな』

 『ふふふ、アスカちゃんの目の前でこれだけやれば、きっと何か行動を起こすわね。
 さて、どう出るかしらね』

 『やれやれ、結局はユイさんの思惑通りって事か。シンジ君も大変だなこれは』

 「あの……それより父さん、どうしてここに? 部屋でゆっくりするんじゃなかった
 の?」

 「無論、そのつもりだったが、ユイがどうしても大きい露天風呂に入りたいと言って
 聞かんのだ」

 「のんびり過ごす時間もいいけど、大勢で楽しく過ごす時間もいいものよ。せっかく
 の旅行だもの、色々と楽しまなくちゃね」

 「でも、いいの父さん?」

 「何がだ?」

 「ここの露天風呂、混浴だよ?」

 「帰るぞ、ユイ」

 「あなた」

 「いかん! 何と言われようとそれだけはいかん! 露天風呂なら
 部屋に帰ってから入ればいい」

 「……では、せっかくこんな旅先で皆さんに会えた事だし、みんなで宴会をやり
 ましょう。そうしましょう」

 な!? ま、待てユイ! なぜそうなる!?」

 「さっきも言ったでしょ。大勢でワイワイやるのも旅の楽しみの一つですよ」

 「し、しかし今回は家族旅行なんだぞ」

 「じゃあ私は露天風呂に入ります」

 「それだけはいかん!!」

 「じゃあ宴会ですね」

 「ぬ……くっ……。ハッ! ユイ、お前まさかここまで計算して……」

 「さーて、宴会宴会。葛城さん、一緒に楽しみましょう」

 「え? あ、はい、そうですね。でも場所はどうします? 私達の部屋ではこれだけ
 の人数だとちょっと狭いと思いますし……」

 「それは大丈夫よ。私達の部屋へいらっしゃい。部屋もたくさんあるし、朝まで
 騒いでも何の問題もないわよ。さ、行きましょう」

 そう言ってユイは楽しそうに歩き始める。

 「お兄ちゃん、行こ」 ぎゅ

 「あ。う、うん、そうだね」

 「あ、こらあんた達、私も置いて行く気!?」

 「あ、アスカちょっと待った」

 「何よ、ミサト?」

 「いいアスカ、これはチャンスよ。レイの隙をついてシンちゃんに迫りなさい。
 いっその事、押し倒してもいいわよ

 「……ミサト、酒に酔ってるってーのを差し引いても、その発想はおかしいわよ。
 私は中学生なのよ」

 「ちっちっちっ……。そーんな甘い事言ってたらあの二人の間に入るなんて不可能
 よ。見たでしょ、さっきの碇司令たち。両親揃ってくっつけようとしてるのよ。ここ
 でポイント取らないと後々厳しいんじゃない?」

 「私は……別に……」

 「…………そっか、ま、いいわ。アスカにその気が無いんならしょうがないわね」

 「…………」

 「じゃ、私もシンちゃんとレイの応援するから先に行くわね」

 「ちょ、ちょっとミサト、何でそうなるのよ?」

 「あら、だって私はあなた達の上司よ。部下の幸せを願うのは当然じゃない。シン
 ちゃんとレイには両親という強力な助っ人がいるでしょ。だからアスカにその気が
 あるのなら、不公平にならないように私がアスカの応援しようと思ってたんだけど
 どうやらアスカにはその気がないみたいだし……。だから私も遠慮なくシンちゃん
 とレイの応援しようってわけよ。何か問題あるかしら?」

 「う……それは……でも……」

 『フフン、もう一押しか』 (ミサト)

 「でも、少し意外だったわね」

 「え?」

 「アスカがこんなにあっさりと身を引くなんて意外だったと言ったのよ」

 「な、何の事よ?」

 「でも、無理もないか。レイは美人だし、シンちゃんも嬉しそうだし……。今更
 何をやっても無駄か……。ま、勝てない戦いと分かって手を出すバカはいないわよ
 ね」

 「気に入らないわね、その言い方。それじゃあまるで、この私がファーストに
 勝てないって言ってるみたいじゃないの!!

 「あら、違うの? だから手を出さないんだと思ったんだけどな~」

 「冗談じゃないわよ! 私は余裕があるから慌てないだけよ!
 変に勘違いするんじゃないわよ!!」

 「余裕?」

 「そうよ! 私が本気になればシンジなんて一発で落とせるんだ
 から!」

 『そうよ、キスした時みたいに私から迫ればシンジは絶対に逃げない。ファースト
 より私の方がスタイルだって顔だって上なんだし、私の方がシンジと過ごした時間
 長いんだから。キスだってしてるし、シンジは絶対に私を選ぶに決まってるんだ
 から』

 「でもね~~~口だけなら何とでも言えるわよね~~~。見せてもらおうか、本気
 のアスカの実力
とやらを」

 「フッ、いいわ。そこまで言うんだったら見せてあげるわよ。シンジの事なんか
 何とも思ってないけど、これ以上ファーストに大きな顔されるのもしシャクだしね。
 ファーストがシンジと一緒にいられるのは単に『妹』だからという事を徹底的に
 教えてあげるわ。ぜーーーったいに妹以上にはさせないんだから。

 指輪をもらって嬉しい? ハン! せいぜいそんなおもちゃで満足してればいいわ。
 シンジが自分で働いたお金で買う指輪は私の物なんだから。絶対にファーストの指
 にはさせないんだから。フフフ、見てなさい、誰が勝利者か……。最後に笑うのは
 この私なんだから。フフ、フフフ、アハハハハ!!

 「おお、アスカが、アスカが燃えている!!

 「おいおい葛城」

 「ん? 何、加持君?」

 「アスカのやつ、一体どうしたんだ? いくら葛城に挑発されたとはいえ……
 ちょっとおかしいんじゃないのか?」

 「あぁ、平気よ。ちょっと暗示が効いてるだけよ」

 「暗示?」

 「そ。リツコからもらった白いクスリをアスカの食事に少しずつ混ぜてるのよ。で、
 アスカが寝た後、耳元で『シンちゃん取られる』『もう戻ってこない』『先手必勝』
 とか色々と不安になるような事をささやいてるのよ」

 「おいおいおい、また無茶な事を……」

 「だーって、アスカっていっつも一人で寂しそうにしてるのよ。でも意地っ張り
 だから自分に素直になれないのよ。だからきっかけを作ってあげたのよ」

 「しかしな~」

 「大丈夫よ。『シンちゃんと付き合え』とかそういったような事は一言も言ってない
 し、全てはアスカが決めた事よ。あの三人はこれでいいのよ。さてと、最高の酒の肴
 ができた事だし、私達もパーーッ! とやりましょ、パーーーッとね!

 「ははは、シンジ君も大変だなこりゃ。しょうがない、ここは俺が二人の女性と
 うまく付き合う方法をこっそり伝授してやるとするか」

 「ほほう、そんな技を持っていたとは初耳ね」 ジロリ

 「あ、いや、もちろん冗談さ。俺は葛城一筋だからな」

 「ま、その辺はゆ~~~っくりと聞かせてもらおうじゃないの」

 「イタタタタ。お、おい葛城、耳を引っ張るなって。イタタタタ」

 (……何か、この話に出てくる男って全員尻に敷かれてる……)

 そして、一人取り残されたゲンドウはと言うと……。

 「ふっ、さすがはユイだ。今回は私の負けを認めよう。しかし、この私がこんな事で
 引き下がるとでも思ったのか……。ふっふっふっ……既に第二、第三の計画は進行
 中だ。今後こそ二人っきりでゆっくりと旅行に出掛ける! そのための
 邪魔者の排除も今度は徹底的にやる。フッフッフッ……。一時間ほど全員を宇宙に
 送るか……。それとも私がユイと二人で宇宙に行くか……。フッ……私がその気に
 なれば……フッフッフッフッフッ……」

 と、不穏な発言をブツブツと繰り返した後、ユイの後を追った。


 その後の宴会は、ヤケになり酒を飲みまくったゲンドウがシンジの服を脱がし、レイ
 にプレゼントしたり、逃げようとするシンジをこれまた酔っぱらっているレイが押し
 倒したり、同じく酔っぱらっているアスカがシンジに迫ったりと、阿鼻叫喚の世界
 が出来上がっていた。

 そんな様子を、ユイはただにこにこと見守っていた。

 ちなみに、ミサトはひたすら嬉しそうに加持に絡んでいたという。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 弐拾七

 ユイさん温泉旅行に行くの巻 <完>


 [もどる]