新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Fパート -


 「ん? 誰かいるのかな?」

 「あ!」


 ここで時間を少し遡る。


 「ぷはぁ~~~くぅ~~~っ! いや~~~雪景色を見ながら
 のんびりと温泉につかり、酒を飲む。まさにこの世の極楽ね!
 あ~ぁ、酒が美味しいわぁ~~~!」

 「何言ってんのよ! さっきは美味しい料理とビールが最高だって
 言ってたじゃないのよ!」

 「それはそれ、これはこれよ。あらゆるシチュエーションを楽しむのが大人って
 もんよ」

 「ハン! 単にアルコールが飲みたいだけじゃないの! まったく
 オヤジなんだから」

 「……あのねアスカ、せっかくの旅行、しかもタダなのよ。いつまで拗ねてるのよ。
 いい加減機嫌直したら? 何がそんなに気に入らないのよ?」

 「決まってるじゃないの! 何で沖縄がこんな温泉になっちゃうの
 よ!!」

 「しょうがないじゃないの、エンジントラブルが起きたんだし……。中止になる
 よりはマシでしょ」

 「次の便で行けばいいじゃないのよ」

 「どれも満席だったのよ。冬月副司令が気を利かせてくれて、ここに変えてくれた
 のよ。むしろ感謝するべきよ。それに、日本じゃ雪なんてここに来なければ見る事も
 できないし。結構、ここの温泉って人気高いのよ。楽しまなきゃ損よ」

 「ドイツじゃ雪なんて珍しくも何ともないのよ!! まったく、また新しい
 水着着損ねたじゃないのよ」

 「いいじゃないの別に。見せたい相手は家族旅行中なんだし。それじゃあ張り合いも
 ないでしょ?」

 「何でこの私がシンジなんかに見せてやんなきゃなんないのよ!!」

 「あ~ら、アスカまだそんな事言ってるの? 相変わらず意地っ張りね。そんなん
 じゃレイに取られちゃうわよ」

 「フンだ!!」

 「いいアスカ、思い出してごらんなさい」

 「何をよ?」

 「シンジ君と二人で暮らしてた時の事をよ」

 「二人って……ミサトもいたじゃないのよ。変な言い方しないでよ」

 「でも私がいない時は二人っきりだったわけだし、もしその時どちらかが……或いは
 二人共がその気になればいくらでも進展できたわけよね」

 「……それがどうしたのよ?」

 「今、シンジ君とレイはその状態なのよ。アスカがそんな調子じゃあどうなる事
 やら」

 「フン! シンジにそんな度胸ないわよ」

 「まぁ、確かにシンジ君にはそんな度胸ないだろうけど、レイの方は度胸……という
 より自分の気持ちを全く隠そうとしないわけだし、シンジ君だってレイの事嫌いな
 わけないし、どちらかというと好きだろうし。シンジ君だって年頃の男の子なんだ
 から、何かきっかけがあれば一気に突っ走るなーんて事も無いとは言えないわよ」

 「無いわ!!」 きっぱり

 「……きっぱりと否定したわね。ま、それだけシンジ君の事を信頼してるって事
 かしら?」

 「だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!!」

 「まーまー、そう怒らないで。ん? 誰か入ってきたみたいね。アスカ、ひょっと
 したら美味しそうな美少年かも知れないし、早速見に行きましょ」

 そう言ってミサトはアスカの手を取り、入口の方へ引っ張っていく。

 「何バカな事言ってんのよ。ここ女湯よ」

 「あらアスカ、やっぱり気付いてなかったの? ここ、どうも混浴みたいよ」

 な!?

 「他の客がいないから分かりにくいだろうけど、入口は別々でも中は繋がってるって
 いうパターンみたいね」

 「じょ、冗談じゃないわよ! 私はもう出る! 見ず知らずの奴に
 見せる気なんてさらさら無いんだから!」

 「はいはい、分かったわよ。だからこうして入口に向かってるんでしょ」

 「男だったらどうするのよ。いくらタオル巻いてるからって、私は嫌よ」

 「そん時ゃそいつが出るまで待つか、自分が出るかのどっちかね」

 「う~~~ 女、女、女でありますように……」

 とその時、風が吹き、湯気が晴れる。

 「あ、アスカ!?

 な!? シ、シンジ!? キャ!!

 アスカは慌ててしゃがみ込み、湯の中に身体を隠す。

 「あら~~~偶然ね」

 「…………」

 「何でシンジ達がここにいるのよ!?」

 「それは私のセリフ。どうしてあなたがここにいるの? 沖縄に行ったはずよ」

 「それがね~~~飛行機のエンジントラブルで行けなくなって、急遽こっちになった
 のよん。でもシンジ君とレイは家族旅行だと聞いてたけど……新婚旅行だった
 ようね」

 「な な な 何言ってるんですかミサトさん! 単なる家族旅行ですよ」

 「そうよミサト! バカな事言ってんじゃないわよ!!」

 「新婚旅行……新婚……はい、そうです。お兄ちゃんと新婚旅行です」

 「おお、はっきり言うわね」

 「ちょ、ちょっとレイ?」

 「あんたもバカな事言ってんじゃないわよ! その天然ボケいい加減
 直しなさい!! ん? な、何よその指輪は!?」

 さすがアスカ、めざとくレイの指輪を見つける。

 「これ? お兄ちゃんがプレゼントしてくれたの」 にっこり

 「んな!?」

 「あら~やるわねシンちゃん、やっぱり新婚旅行なのね」

 「ち、違いますってば」

 「じゃあどういう訳よ! 納得のいく説明してもらおうじゃないのよ!」

 「ただ単にゲームセンターの景品だよ。レイが綺麗だからと言って欲しがったから」

 「じゃあ何でその指にはめさせてんのよ!?」

 「いや……その……これはレイが自分で……」

 「ほほぉ、やるわね、レイ」

 「? 何がですか?」

 「へ?」

 「……ちなみにファースト、あんたどういう理由でその指に指輪はめてんのよ?」

 「 お兄ちゃんも言ってたけど……この指に何か理由でもあるの?」

 「はぁ?」

 「私はただ、お母さんがこの指に指輪をはめてるから同じようにしてるだけだけど
 ……何か特別な意味でもあるの?」

 「はぁ~~~。あのねレイ、その指に指輪をはめるという事はね……」

 「ミサト、余計な事教えなくていい。もし理由を知ったら、この女絶対に外さない
 わ」

 「ん~~~確かにそうね。でも今のままでも絶対に外さないと思うけどね」

 「うう……確かに……」

 「ところでレイ、その指輪、大切な物なんでしょ?」

 「はい、私のです」

 「だったら脱衣所に置いてきた方がいいわよ」

 「え? どうしてですか? 私、外したくない……」

 「気持ちは分かるけどね。温泉の成分って結構いろんな物に影響与える事もある
 から。せっかくの愛しのお兄ちゃんからのプレゼントが変化しちゃうかも知れない
 わよ。だから今だけ外しておきなさい」

 「そうなんですか、ありがとうございます」

 ミサトにお辞儀をすると、脱衣所に向かう。しかしすぐに引き返してくると、アスカ
 の方をチラっと見る。

 「ん? どうしたのレイ?」

 「お兄ちゃん、一緒に行こ」

 そう言ってシンジの手を取る。

 「ほええっ!?」

 「な、何言ってんのよ! あんたバカぁ!!

 「ど、ど、どうして!? あっちは女性用の脱衣所だよ」

 「大丈夫、誰もいないから」

 「で、で、でも、そういうわけには……」

 「ふ~~~ん、つまりレイはアスカのいる所にシンちゃんを一人残して行きたくない
 って事ね」

 「はぁ? 何よそれ、バカじゃないの?」

 「お兄ちゃん、ここは騒がしいわ。部屋に帰ってお風呂に入り直しましょう。また
 身体洗ってあげるから。ね、帰ろ」

 「ちょ、ちょっとレイ」 アセッ

 「ほほう、今、何と」

 ファースト! 今あんた何って言ったのよ!?

 「お兄ちゃん、ここは騒がしいわ。部屋に帰ってお風呂に入り直しましょう。
 また身体洗ってあげるから。ね、帰ろ。と言ったのよ」

 またって何よ! またって!!」

 「また。以前行った事をもう一度行う時に使う言葉」

 「じゃあ何、あんたシンジと一緒に風呂に入って、身体まで洗って
 やったって言うわけぇ!?」

 「ええ、そうよ」

 「ええ、そうよったって……」

 「そこまでやるとはさすがレイね。あ、ひょっとして身体の洗いっこもした
 とか~~~?」 にやり

 「はい」

 『ぐあ~~~~~~』 (シンジ)

 「おお、やっぱり新婚旅行なんだ」

 シ~~~ン~~~ジィ~~~!! あんた
 一体何やってんのよ!!!

 アスカ、堪忍袋の緒が切れる。


 <つづく>


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