新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Dパート -


 しばらくして、レイの看病により、シンジはようやく目を覚ました。

 「お兄ちゃん! 良かった!」 ぎゅ~~~

 レイは嬉しさのあまりシンジの頭を抱きしめる。

 「う、うわっ! ちょ、ちょっと」

 意識が戻った途端、目の前が真っ暗になり、顔中柔らかいものに包まれる。多少
 息苦しいが妙に安らぐ感じがする。レイは事あるごとにシンジに抱きつくので、
 シンジにしても今自分がどういう状態にあるのかすぐに理解できた。しかし、
 何度抱きつかれてもシンジが慣れるはずもなく、安らぐどころかパニックに陥る。

 「レ、レイ、その……い、息が……苦しいよ……は、放して」 じたばた

 「あ、ごめんなさい!

 慌ててシンジの頭を開放する。しかしすぐにまた抱きつく。

 「良かった。お兄ちゃんが無事でほんとに良かった。もしこのまま目を覚まさなかっ
 たら私……私……」

 再び抱きつかれ慌てるシンジ。今度は息が苦しいという理由では逃げ出せない。
 何より、自分の身を真剣に心配してくれているのに逃げるという事などできるはずも
 なかった。

 「ありがとうレイ、僕は大丈夫だからそんなに心配しないで」

 「ほんとに? 大丈夫? どこも痛くない?」

 「うん、ほんとに大丈夫だから」

 「良かった」

 心の底から安心したようにそうつぶやくと、神妙な顔になる。

 「ごめんなさい、お兄ちゃん」

 「え、何? 何を謝ってるの?」

 「私のせいでお兄ちゃんが倒れてしまった……」

 「え? な、何で?」

 「私が無理に身体洗ってもらったから……。きっとそのせいでお兄ちゃんが……」

 「ち、違う、違うよレイ。それは違うよ。レイのせいじゃないよ」

 「でも……」

 「ほんとに違うから。そんなに自分を責めないで。僕がちょっとのぼせただけだよ。
 レイは全然悪くないんだから」

 「ほんとに? 私のせいじゃないの?」

 「うん、絶対に違うから」

 「良かった。じゃあまたお願いしてもいいのね」 にっこり

 「え……」

 「……だめなの?」

 「あ、あの……その……」

 「……やっぱり私のせいなの? だからもう洗ってくれないの?」

 「だ、だからレイのせいじゃないって」

 「だって、お兄ちゃんもう洗ってくれない……」 クスン

 「わぁ! 泣かないでレイ! うん、いいよ、洗ってあげるから。お願いだから
 泣かないで、ね、ね」

 「うん、嬉しい。ありがとうお兄ちゃん!」 ぎゅ~~~

 レイは嬉しさのあまりさらに強く(レイはいまだにシンジに抱きついている)抱き
 つく。

 「うわぁ! ちょ、ちょっとレイ、そんなにしたら……」

 『ム、ムネが……。はっ!? ムネ……そ、そうだレイに謝らないと』

 「あ、あのさレイ、ちょっと離して。僕、謝らないと……」

 レイはシンジの首筋に埋めていた顔を離し、シンジの顔を覗き込む。

 「 何を? お兄ちゃん何もずるい事してない」

 「あの……だから……さっき……その……ム、ムネを……その……触っちゃって……
 ごめん! ほんとにごめん!

 「 なぜ謝るの?」

 「え?」

 「胸を触る事は悪い事なの?」

 「は? い、いや、その……」

 「前に私の胸に触れた時も慌てて謝ってたけど……そんなに悪い事なの?」

 「な、何と言っていいやら……」

 「良く分からないけど、例え悪い事だとしても、お兄ちゃんならいいよ
 にっこり

 「ぐあ! だ、だめだよレイ! そんな事言っちゃ。色々と問題が……」

 『レイは理解してないだろうけど、その発言は非常にまずいんだよ~~~。いいか
 僕、余計な事考えちゃだめだ、考えちゃだめだ、考えちゃだめだ……』

 レイのN2爆弾レベルの発言にシンジはクラクラしていた。そこに追い打ちをかける
 ように……

 「ふッ……レイ、良く言った。それでいい。シンジ、何も問題などない。遠慮は
 いらん。本能のおもむくままに進め。何なら、私達は散歩にでも行ってきてやる
 ぞ」 ニヤリ

 「わ、わぁ!! と、父さん!? いつからそこに!?」

 「ん~三十分くらい前からかしらね。食事は家族四人で食べようと思ってシンジが
 起きるのを待ってたのよ。それとあなた、まだ早いって言ってるでしょう」

 「しかしだな」

 「さっきも言ったように、まだ早いです。いいですね。それとレイちゃん、さっきの
 ような発言はシンジ一人の時か、私達の前でだけにしといてね。色々と大騒ぎになる
 かもしれないから」

 『それはそれで面白いだろうけどね』

 「? 分かりました」

 「それにしても、あなた達は本当に仲が良いわね。母さん嬉しいわ。ね、あなた」

 「ああ、問題ない。だが、そろそろ食べんとせっかくの料理が冷めてしまう。シン
 ジ、抱き合うのは食事の後にして、今は飯を食え」

 「え?」

 『そ、そうだった。僕はずっとレイと……抱き……』 ぐはっ!

 「? どうしたのお兄ちゃん? また具合が悪くなったの?」 おろおろ

 「い、いや、そ、そうじゃないよ、心配しないで……。あ、あの……レイ……
 ご、ご飯にしようか」

 「うん」

 ようやくシンジを開放すると、早速レイは箸を取る。そして、にこにこしながら
 シンジに聞く。

 「お兄ちゃん、どれから食べる?」

 「ええっと……じゃあ、これ」

 「これね、はいっ」

 「ありがとう」 ぱく

 「次はどれがいい?」 にこにこ

 「その前にレイも食べないと。どれがいいかな?」

 「お兄ちゃんの選んでくれるものなら何でもいいよ」

 「じゃあこれを……はい」

 「ありがとう」 ぱく

 一緒に暮らすようになり、レイの好みも分かってきたため、なるべく好きそうな
 おかずを選んでいく。もちろんレイもそうしている。

 ちなみに、なぜシンジがパニックに陥らず比較的普通にレイと食べさせあっている
 のかというと、碇家ではレイの最大のライバル(アスカ)がいないため、シンジの
 食事は全てレイが執り仕切っているからであった。もちろん、最初シンジは恥ずか
 しいからと断ったのだが、
 「全く問題ない、そうしたまえ」
 「兄妹が仲良くしてくれて母さん嬉しいわ」
 「いいでしょ、お兄ちゃん」 にっこり
 という三人の前で勝てるはずもなかった。

 その際、レイはシンジの事を最優先で考えるため、シンジが食事を終えるまで自分は
 食事を取ろうとしない。そんな状況でシンジが平気で食べられるはずもなく、結果と
 してレイはシンジに食べさせ、シンジはレイに食べさせるという、万年新婚さん
 状態ができあがってしまったというワケである。

 ちなみに、ネルフの食堂内でも同じようにしているため、アスカからは『バカップル』
 と呼ばれているが、レイは全く気にしていない。というより、カップルという部分
 が結構気に入ってるようであり、アスカのイヤミはまるで通じていない。シンジに
 至っては、客観的にそう言われても仕方ないと理解しているので、何一つ反論できず
 にいた。

 (なお、この後シンジとレイのラブラブな描写が三百行ほど続くのですが、特に
 進展があるわけでもないので思い切ってカットします。皆さんの頭の中で補完して
 下さい)


 やがて食事を終え、一息つく。

 「シンジ、レイ、やはりこういうのんびりとした時間は、お前達にはまだ早いかも
 知れんな。退屈なだけだろう」

 「え、そんな事ないけど……」

 「私もお兄ちゃんのそばにいられればそれで構いませんけど」

 「無理する事はない。そこでだ、お前たちにいい事を教えてやろう。この宿の地下
 にはシェルターが設置されている。そしてそこから緊急脱出用の地下トンネルが
 延びている。十キロ程進めば あるホテルの地下施設に着く。そこには若者用の
 設備も整っているから、遊ぶのには困らんはずだ。何、心配はいらん、ちゃんと車も
 用意されている。完全に自動化されているから、乗っていれば勝手に着く。そこに
 行って遊んで来い。小遣いだ、受け取れ」

 「こ、こんなに? いらないよ」

 ゲンドウが渡した額は、どう見ても三十万以上あった。

 「気にする事はない。金とは使うためにあるものだ。そして、使う時には一気に
 使うものだ。その為に普段働いているのだからな。いいなシンジ、全部使って来い。
 それがというものだ」

 「う、うん……」

 要するに、ゲンドウは全部使い切るまで戻ってくるな、と言っているのである。

 「そうね。シンジ、レイちゃんと一緒に遊んできなさい。ホテルなら大きなお風呂
 もあるだろうし、結構楽しめるはずよ」

 『ふッ……ユイ、良く言った』

 ユイも賛成したので、ゲンドウは踊りだしそうなほど喜ぶ。

 「じゃあ、レイ、行こうか」

 「うん、お兄ちゃん」

 「シンジ、このカードを持って行け。何重にもセキュリティが施されているからな。
 無くすと帰ってこれないぞ」

 「ありがとう父さん、じゃあ行ってくるよ」

 「ああ、何も問題ない」

 「じゃああなた、お茶でも入れ直しましょうか?」

 「ああ、頼む」

 こうしてシンジを追い出したゲンドウは、ようやくユイとの落ち着いた時間を過ごす
 事ができ、満足そうであった。

 シンジとレイ、二人っきりのデート(?)が始まった。


 <つづく>


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