新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Cパート -


 「そうだ。お兄ちゃん、身体洗ってあげる」

 「え、ええっ!?」

 「フッ……問題ない。洗ってもらえ、シンジ」

 『レイ、良く言った』

 「そうね、兄妹のスキンシップをはかるのはいい事だわ。シンジ、そうしてもらい
 なさい」

 「で で で でも でも……」

 「……お兄ちゃん……嫌……なの?」

 不安そうな目でシンジを見る。

 「そ、そうじゃなくて……えーと、ほら、レイに迷惑だろうし……」

 「ううん、そんな事ない。お兄ちゃんのためだもの、迷惑なんて思わない。お兄
 ちゃんのために何かするのは私の望みだもの」 にっこり

 「あ……う、うん、ありがとう」

 笑顔でこんな事を言われて断れるシンジではなかった。



 「 お兄ちゃん、どうしてそんなに背中を丸めてるの?」

 「い、いや、その……一身上の都合と言うか……レイが洗いやすいようにしてる
 んだよ」

 「そうなんだ。ありがとう、お兄ちゃん」

 『ふー、何とかごまかせたか……それよりも、余計な事考えちゃ駄目だ。考えちゃ
 駄目だ考えちゃ駄目だ……。レイは親切でしてくれてるんだから』

 シンジは必死で平常心を保とうと、涙ぐましい努力をしていた。

 しかし

 「はい。お兄ちゃん、背中終わったよ。次、前ね

 ほええええっ!? い、いやいい、前はいい!」

 「 どうして?」

 「ど、どうしてって……」

 「私何か失敗した? だから洗わせてもらえないの?……」 しゅん

 「え、い、いや、そうじゃないよ。背中は自分じゃ洗いにくいけど、前は自分で
 洗えるだろ。だからいいよ、レイに迷惑だし」

 「私は別に構わないのに……」

 「ありがとう。でも人の身体を洗うのは背中だけだというルールがあるんだよ。
 だから背中だけで十分だよ。ほんとにありがとう、レイ」

 「うん、良かった。お兄ちゃんに喜んでもらえて」

 『そんなルールなど聞いた事もないが』と口にしかけたゲンドウだが、ユイに止め
 られた。ユイはさすがにこれ以上はシンジが可哀相と思ったようである。しかし、
 ゲンドウは別の事を口にする。

 「シンジ、何かをしてもらったらお礼をせねばならん。今度はお前がレイの
 身体を洗ってやれ

 「え、ええええっ!?

 「あら、それはいい考えね」

 「か、母さんまでそんな事を……」

 今度はユイも止めようとしなかった。結構楽しんでいるようである。

 「いいじゃないのシンジ、さっきも言ったように兄妹のスキンシップをはかるのは
 いい事よ。レイちゃんだってそうしてもらいたいだろうしね」

 「え……そ、そうなの……かな……。あの……レイ?」

 シンジは恐る恐るレイを見る。すると、

 「洗って、お兄ちゃん」 にっこり

 『うわーーーか、かわいい』

 「は、はい」

 その笑顔に逆らえるはずもなく、結局シンジはレイの身体を洗う事になった。

 「ああっ! ちょ、ちょっと待ったレイ! タオル取らないで!!」

 「え? でもタオルしたままじゃ洗ってもらえない……」

 「だ、たから背中だけ洗えるようにして、前は押さえてて」

 「どうして?」

 「え、いや、その……ほ、ほら、さっきも言ったようにそれがルールだからだよ。
 ね、ね」

 「そう、分かった。これでいい?」

 そう言ってレイは背中を出す。

 「あ、う、うん、ありがと……そ、それじゃ洗うよ」

 「うん、お願い」

 シンジはガチガチに緊張しながらも、慎重にレイの身体を洗い始める。

 『ま、間違っても背中以外に触っちゃ駄目だぞ、余計な事考えちゃ駄目だぞ。背中
 以外見ちゃ駄目だぞ。ただ単に兄弟のスキンシップのためなんだ。そうだよ、それ
 以外の事なんて何にもないんだ。レイだってただ身体を洗ってもらってるとしか
 思ってないんだし、早く洗ってしまえばそれでいいんだ……。

 ああ、でもレイのうなじって可愛いな……。

 ハッ!? 何を考えてるんだ僕は!?
 いかん いかん いかん いかん……。
 平常心 平常心 平常心 平常心……。

 でも、ほんとに白い肌だな……。

 だ、だから余計な事を考えちゃ駄目だって!
 どうして僕はこうなんだ。ただ背中を洗ってるだけなんだから。

 そう言えば、レイの肌を見るのって久し振りだな……。初めて見たのは確かレイの
 部屋に行った時……。綺麗だったな……。

 ハッ!? いかんいかん、まずい、このままじゃまずい。落ち着け、落ち着け、
 落ち着くんだ。明鏡止水の心になるんだ……。水の一滴を見極める平常心
 を養うんだ!!

 シンジも正常な十四歳の男の子。押し寄せる煩悩の波に流されないように、理性を
 総動員して必死に戦っていた。そのため、身体はほとんど動かず固まっていた。

 「フッ……シンジ、背中を洗っていて泡で手が滑るというのは良くある事だ。遠慮
 はいらん、単なる事故だ。気にする事はない」

 「そ、そんなお約束 するはずないだろ!!」

 ゲンドウの言うようなお約束は絶対にしない。それがレイの身体を洗う時にシンジが
 心に誓った事であり、今まで慎重に行動してきていた。しかし、ゲンドウに反論した
 瞬間、意識が逸れた。

 つるっ

 フニュ

 「あ」

 うわあああぁぁぁ!!!

 「フッ」

 「あらあら」

 シンジは頭の中が真っ白になり、様々な思いがグルグルと回り、とうとう気を失って
 しまった。その時、”レイの身体には倒れない” ”うつむけに倒れる”というのが
 意識を失いかけながら取ったシンジの、せめてもの抵抗だった。

 「お、お兄ちゃんどうしたの!? しっかりして、お兄ちゃん!

 「フッ、しようのないヤツだ」

 風呂から上がり、シンジを軽々と担ぐと、ゲンドウはシンジを脱衣所まで連れて
 いく。それを追いかけようとしたレイをユイが止める。

 「レイちゃん、落ち着いて。シンジは大丈夫よ」

 「でも……でも……」 オロオロ

 「ちょっとのぼせただけよ。心配いらないわ。それよりレイちゃんも泡を流して
 浴衣を着ないと風邪をひいちゃうわよ。その後でシンジの看病をお願いね」

 『裸のままシンジを看病してちゃシンジは起きられないものね』

 「はい」

 慌ててお湯をかぶり、お湯を洗い落とす。そして着替えを済ませて部屋に入ると、
 ゲンドウに浴衣を着せられたシンジが寝かされていた。

 「お兄ちゃん!!」

 「大丈夫だ、涼しくしていればすぐに目を覚ます。私はまだ風呂に入っているから
 シンジを頼むぞ」

 「はい」

 レイは早速シンジの頭を自分の膝に乗せ、うちわ(どんなに高級な旅館でもこれは
 ある)でシンジの顔に風を送る。すると、苦しそうだったシンジの顔が安らいで
 いったので、ようやくレイも安心できた。

 「良かった……」

 レイは心の底から安心したようにつぶやき、愛しそうにシンジの顔を見つめながら
 風を送り続けていた。

 一方、再び風呂に入ったゲンドウはというと……。

 「それにしてもシンジは情けないやつだな。せっかくレイがあそこまでしてくれて
 いるのに。さっさと一線を超えてしまえばいいものを何を遠慮しとるんだ」

 「レイちゃんはそこまで考えてないわよ。まだそういった知識を持ってないようだし
 今はただシンジのそばにいて、触れ合っていたいだけよ」

 「しかしシンジは一応知識としては持っているだろう。シンジが望めばレイは拒まん
 だろうに。何をグズグズしてるんだまったく……」

 「シンジにもそれが分かるからこそ何もしないんですよ。レイちゃんの事を大事に
 思ってる証拠よ。ほんと、優しい子。さすが私の子供だわ」

 『レイちゃんにはやましい下心が一切ない分、無邪気でシンジも大変だろう
 けど……』

 「しかしなユイ、男としてだな」

 「まだ十四歳なんですよ、早すぎます。あなたも妙な事をしないて下さいね。いい
 ですね」

 「しかしな、いつまで経ってもあの調子では、いつか他の男に取られてしまうかも
 知れんぞ」

 「それは100%ないわ。レイちゃんはシンジしか見てないんだから。とにかく、
 余計な手出しは無用です。いいですね、あなた」 ジロリ

 「ああ、分かっているよ、ユイ」

 『フッ……まだこの先チャンスはいくらでもある。慌てる事は
 ない』 ニヤリ


 <つづく>


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