新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Bパート -


 『まぁいい、まだ旅は始まったばかりだ。この先チャンスはいくらでもある』

 『まったく……この人はいくつになっても子供なんだから……』

 きっちりユイにはバレているようである。まさにお釈迦様の上の孫悟空
 状態と言えよう。


 ゲンドウ達四人が見えなくなった頃、数人の男が現れた。

 「作戦は失敗だな」

 「ああ、そうだな。機材の撤収にかかるか」

 「しかし……俺達何やってんだろうな」

 「言うな! 虚しくなる。仕事として割り切るしかなかろう」

 「しかしな、血と硝煙の匂いの中で生死を懸けていた頃が懐かしいな……。まさか
 こんな事を命令されるとは……とほほほほ……」

 「仕方ないだろ。今や世界の裏も表もネルフが仕切っているようなもんだからな。
 敵対勢力など殆ど無いさ。リストラされないだけマシってもんだよ」

 「……それもそうか。……しかし、何でユイさんはあんなの(ゲンドウ)と結婚
 したんだろう。あんなに綺麗なのに……理解できん」

 「お、おい、滅多な事は言うなよ。もし司令の耳に入ったりしたらえらい事に
 なるぞ」

 「だが事実だろ。お前だってそう思うだろ?」

 「う……そりゃあ、まぁ……」

 「だろ。それに仲間うちじゃ密かにユイさんファンクラブまで結成されてるからな。
 そのうちネルフの総司令はユイさんになるのは確実だな」

 「今でも実質はそうだけどな。副司令もユイさんの味方のようだし。ところで、その
 ファンクラブの入会方法を教えてくれ」

 「なんだ、お前もか」

 ……世界はとことん平和だった。


 そして話はシンジ達に戻る。


 しばらく道を歩くと目的の宿が見えてきた。純和風の建物で落ち着いたたたずまいの
 一軒宿だった。周りには他に何一つ無く、見事に自然の中に調和していた。

 『……なんか高そうな宿だな……でもこんな山の中にぽつんとあるなんて……。
 お客さんちゃんと来るのかな?』

 シンジの思った通り、宿の料金は非常に高い。普通のサラリーマンではまず無理と
 いった所である。というより、この宿は一般には知られていない。政財界の大物のみ
 を対象にしているため地図にすら載っていない。また、大物が集まるため、警備
 システムも異常なほど徹底しており、付近の山などには各種センサーや警備員が
 常駐し、宿の従業員も皆一流の腕を持っていた。

 もっとも、そんな事はシンジには全く知る由もなかった。

 「なかなか良さそうな宿ね。のんびりできそうだわ」

 「勿論だ。その為にここを選んだのだからな」

 ユイも宿を気に入ったようである。ちなみに、レイの感想はというと、
 『お兄ちゃんと一緒ならどこでもいい』
 であった。

 「碇様ですね。お待ちしておりました」

 「うむ」

 一連の手続きを済ませ、シンジ達は部屋に入る。外見同様、派手さは全くないが、
 一目見て高そうだと思う調度品があふれている。しかし、それでいて落ち着いた感じ
 がするのはさすがと言えた。

 「では、各種装備についての説明を……」

 「いらん。全て知っている。用がある時はこちらから連絡する。出来る限りこちら
 には干渉するな」

 「かしこまりました。では食事の準備ができましたらご連絡します」

 そう言って係の者は去っていった。

 ユイは早速お茶を入れ始める。ゲンドウは当然のようにユイの隣に座り、お茶が入る
 のを待っている。シンジとレイはこういう所が慣れていないので、どうしていいか
 分からず、とりあえずテレビをつける。

 『……に向かっていた321便がエンジントラブルのため……』 ピ

 『今日の株価は……』 ピ

 『世界の動きについて……』 ピ

 「どのチャンネルもニュースばかりだな」

 「ほんと、変わってるわね」

 「この宿を利用する人間はバラエティなど見んからな。必要な情報が最優先で映る
 ようにしてある。もっともテレビを見る者など殆どおらん」

 「え、何で?」

 「それはねシンジ、こういった山奥の宿はのんびりとした時間を過ごすためのもの
 なのよ。だからあえて外の情報は全て断ち切るのよ。忙しい生活から離れ、ゆっくり
 とした時間を買う。それがこういう宿の目的なのよ」

 「そうなんだ。じゃあ消しておくよ」 ピ

 「ん? お兄ちゃん、あれ何?」

 「え、どれ?」

 「窓の外に何かのような物が……」

 「ほんとだ、何だろう?」

 「露天風呂だ」

 「露天風呂?」

 「外にあるお風呂の事だよ」

 「外に?」

 「そっか、レイは入った事ないんだったね」

 「うん」

 「じゃあ早速家族で入りましょう。吹雪で冷えた身体を温めないといけないし、
 レイちゃんが入った事ないって言うし」

 「はい」

 「ええっ!? か、か、家族でって……」

 「もちろん、その文字通りの意味よ。大丈夫よシンジ、この宿には他のお客さん
 いないし、恥ずかしがる事なんか無いわよ」

 いかーーーん!!!

 「うわっ!」

 「きゃっ!?」

 「な、何ですかあなた急に!?」

 いかん いかん いかん!! いくら息子といってもシンジは男!
 他の男にユイの裸を見せるわけにはいかん!!」

 「…………」

 「…………」

 「ま、まぁ、そこまで言ってもらえれば悪い気はしませんけど……」

 「そうか、ならば中止だな」

 「そうはいきません。シンジをお風呂に入れるなんて十年振りなんだから」

 「し、しかしだな……」

 「心配しなくてもちゃんとタオルは巻きますよ。それなら問題ないでしょ、家族
 なんだから」

 「う、う~~~む……」

 「さ、シンジ、レイちゃん、行きましょう」

 「はい」

 「で、でも……母さん……」

 「シンジ、深く考え過ぎよ。普通にしてればいいのよ普通に。レイちゃんだって
 きっとシンジと一緒に入りたいはずよ。ね、レイちゃん」

 「はい! お兄ちゃん、一緒に入ろ、ね」

 「う、うん」

 『ああ、この笑顔には逆らえない』

 「あ、そうだ。レイちゃん、不本意だろうけどタオル巻いてね」

 「え? タオルですか? どうして?」

 「それはね、いかに娘だといっても、他の女性の裸を見せるわけにはいかないから
 よ。いいですね、あなた」 ジロリ

 「も、問題……ない……」 びくびく

 こうしてユイに仕切られ、四人は露天風呂に入る事になった。


 「ふ~ 雪を見ながらの露天風呂というのも良いものね」

 「ああ」

 「家族の事を大事にするなんてさすがです」

 「ああ」

 ゲンドウはユイに褒められ、(表向きは平常だが)すっかり舞い上がっていた。

 「子供達も喜んでるようだし、ほんとに来て良かったわ」

 そう言ってにこやかにシンジとレイを見る。ユイの言うように、レイは初めての露天
 風呂が嬉しく、というよりシンジと一緒にいるのが嬉しいらしいく、にこにこしながら
 シンジの腕にしがみついていた。一方シンジの方はというと、いくらタオルを巻いて
 いるとはいえ、湯につかって柔らかくなっている上、ここまで密着されればどうしても
 レイの肌(特に胸)の柔らかさを感じてしまい、全身真っ赤になって固まっていた。

 と、そんなシンジにさらに追い打ちをかけるようにレイの爆弾発言が飛び出す。

 「そうだ。お兄ちゃん、身体洗ってあげる

 「え、ええっ!?


 <つづく>


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