温泉旅行?」×3

 「ああそうだ。日本で唯一雪が降る場所にある温泉だ。今から出掛ける。すぐ準備
 したまえ」

 「随分と急ですね」

 「ふっ……驚かそうと思ってな。それに、シンジやレイは修学旅行にも行かせて
 やれなかったからな。どこかに連れていかねばならんと思っていた所だ」

 「そうですか。さすがは一家の大黒柱

 「ふっ……無論だ」

 『お兄ちゃんと旅行……嬉しい』

 「でも、それならアスカちゃんも誘ってあげないといけないわね」

 『え? あの人も来るの……いや……』

 「問題ない。彼女には葛城君を保護者として沖縄旅行を与えてある。今頃空港に
 着いている頃だろう」

 『良かった……あの人来ないんだ……』

 「……随分と手回しがいいんですね」

 「我々だけが遊ぶ訳にはいかんからな。当然の処置だ。ところでシンジ、レイ、
 お前達には温泉などより沖縄の方がいいかも知れんな。行きたいのなら二人で沖縄に
 行ってもいいんだぞ」

 「私温泉がいいです。お兄ちゃん、温泉にしよ。ね、ね、そうしよ」

 「え? う、うん。そうだね。レイは前の時も温泉行けなかったしね」

 「うん。私、温泉楽しみ」

 「チッ」

 「なんですかあなた。その『チッ』っていうのは?」

 「な、何でもない。家族旅行なんだから家族で行くのは当然だからな。四人で行く
 事にする」

 「ええ、その通りです。じゃあ早速服とか準備しましょう」


 こうして、シンジ達の温泉旅行が始まった。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾七 ユイさん温泉旅行に行くの巻

 - Aパート -


 「……あなた」

 「なんだ、ユイ?」

 「旅行というものは移動中の景色も楽しみの一つなんですよ。それがなぜこんな
 ネルフのヘリコプターなんて使うんですか? しかもこんなに護衛を付けて」

 「当然の処置だろう。考えてもみろ、私はネルフの司令だし、ユイは私の妻だ。
 そしてエヴァのパイロットも二人もいるのだ。護衛を付けるのは当たり前だ。なに、
 心配する事はない。ユイの言う通り、移動中の景色を楽しむためにも、このまま
 目的地まで行くつもりはない。途中で降り、三キロほど山道を歩く事にする。その
 方が旅行気分が出るからな。それで問題あるまい」

 「……まぁ、そういう事なら構いませんけどね」

 『……何か企んでるわね、きっと……』

 『ふッ……シンジ達には消えてもらうとするか』 (ニヤリ)


 その後、ゲンドウの言う通り、雪山の中に四人で降り立ち、旅館までの道のりを
 景色を楽しみながら歩いていた。

 「お兄ちゃん、雪ってとっても綺麗」

 「ほんとだね。真っ白で全然汚れてなくて、とっても綺麗だね。何だかレイに似てる
 ね」

 「え? お兄ちゃん……」 ポッ

 「あらシンジ、結構言うわね。それって、レイちゃんが雪みたいに綺麗って事
 でしょ」

 「え? あ、ぼ、僕はその……レイは……は、肌が白いし……その……何だか雪
 みたいだと思って……あの……」

 「でも、雪の事を全然汚れてなくて綺麗だって言ってたでしょ。その直後にレイ
 ちゃんに似てるって言ったって事は、レイちゃんもそうだって言ってるようなもの
 よ。良かったわね、レイちゃん

 「はい」

 レイはとても嬉しそうに返事をすると、シンジの手を取り、にっこりと微笑む。

 「お兄ちゃん、嬉しい。私、とっても嬉しい」

 白一色の世界の中で、雪のように白いレイの肌が赤く染まっていく。
 それはとてつもなく美しい光景で、シンジは息をするのを忘れるくらいだった。

 『ふッ……シンジ、良く言った。それでこそ私の息子だ。早くレイと結婚して家を
 出ろ』

 『初孫は思ったより早いかしらね。早く抱きたいわ。もちろん同居よね』

 ゲンドウとユイの考えは180度食い違っていた。

 両親の思惑など全く知らず、シンジとレイは手を繋いで雪道を歩いていた。すると
 ケンドウが声を掛けてくる。

 「シンジ、ちょっと来い」

 「え? 何、父さん」

 「連れショ○だ」

 「え?」

 「いいから来い」

 そう言って強引にシンジの手を引く。

 「あ、お兄ちゃんどこ行くの? 私も行く

 「え? いや、それはちょっと……」

 「レイ、女はついてこんものだ。ここにいなさい

 「……でも……」

 「命令だ」

 「………………でも……」

 「あなた! 家族に対して命令するなんてどういう事ですか!」

 「い、いやしかしユイ、普通ついてこんものだろう」

 「そうはそうですが、もう少し別の言い方があるはずです!

 「う、うむ……」

 「一緒に行ってもいいの?」

 「あのねレイちゃん、それはちょっと問題があるのよ。だから今回は我慢しなさい。
 その間に温泉でのルールとか教えてあげるから。そんな顔しなくてもシンジは逃げ
 たりしないわよ。すぐに戻ってくるわ」

 「ほんと、お兄ちゃん?」

 「うん。すぐに戻ってくるからレイはここにいて」

 「うん、分かった」

 「じゃあ温泉のルールについて説明するわよ」

 「はい」

 ユイによる温泉のルール教育が始まったので、シンジとゲンドウは少し歩き、場所を
 替える。

 「ここまで来ればいいだろう。シンジ、はぐれるぞ

 「は?」

 「この先で道は二つに分かれている。そこまで行くと吹雪が発生する。そこで
 レイの手を取って左へ行け。私はユイと右へ行く。いいなシンジ?」

 「ちょ、ちょっと待ってよ父さん。何でそんな事を……」

 「問題ない。道はどちらに進んでも宿に着く。途中で迷う事はない」

 「いや……あの、そういう事を聞いてるんじゃなくて……。だいいち、こんなに
 いい天気なのに吹雪なんて……」

 「山の天気は変わりやすいものだ。さて、あまり時間を掛けるとユイが怪しむ。
 帰るぞ、シンジ」

 「はぁ……?」

 シンジは何が何だか分からないままゲンドウの後を追った。

 そして再び四人で歩き始めると、ゲンドウの言うように道が二つに分かれていた。

 『フッ……』

 ゲンドウはポケットに手を入れ、何かのスイッチを押した。すると、見事に
 カムフラージュされていた大型ファンが回転し、凄まじい吹雪を発生させた。

 「うわっ!?」

 「きゃあ!!」

 「ぬう、これはいかん! 吹雪のようだ。ユイ、はぐれるなよ!」

 「ええ、あなた」

 「え、え……と、レイ、はぐれないように手を離さないで」

 「うん、お兄ちゃん。絶対に離さないから」


 吹雪が発生してから一分ほど経った頃、ゲンドウはスイッチを切る。するとすぐに
 青空が回復した。

 「ユイ、大丈夫だったか? 山の天気は変わりやすいからな、気を付けなければな」

 「ええ、あなたが落ち着いて対処してくれたおかげで無事よ。さすがはあなたね」

 「ふっ、当然だ」

 「それにシンジも偉いわよ。ちゃんとレイちゃんを守る事を最優先にするなんて、
 それでこそ男の子ね」

 「お兄ちゃん、ありがとう、守ってくれて……。私、嬉しい

 レイは心から嬉しそうにシンジの腕にしがみつく。

 「え? う、うん。無事で良かったよ」

 『ぬぅ、シンジのやつなぜここに!?』

 ゲンドウが理由を探ると、答えはすぐに見つかった。シンジの手をユイがしっかりと
 握りしめていたのである。さすがに母は強しといったところである。

 『ぬぅ……。シンジめ、はぐれる事もできんのか。せっかく左の道には色々と仕掛け
 をしておいたのに……。雪道で遭難させてレイと二人きりの夜を過ごさせて
 やろうという親心を無にしおって……』

 「あなた、どうしたの? 早く行かないとまた吹雪が発生するかも知れないわよ」

 「ああ、そうだな。とりあえず宿に着いて冷えた身体を温めんといかんな。よし、
 出発だ」

 『まぁいい、まだ連載は始まったばかりだ。この先チャンスはいくらでもある。
 期待しているぞ、作者


 <つづく>


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