新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾四 シンジハチャメチャ! 酔いどれてプッツン

 - Eパート -


 「初号機、発進!!」

 ミサトの命令で、初号機は勢い良く地上に上がっていく。

 「いいのミサト? あんな状態で出して……」

 「仕方ないでしょ。今のままじゃレイとアスカがただやられるのを見てる事しか
 できないのよ。シンジ君に賭けるしかないわ」

 「そうね。どっちにしろ、この戦いに敗れたら私達の未来は終わりだものね」

 「頼むわよシンジ君、あなた達の未来のためにも」

 ミサト達の真剣な願いとは裏腹に、シンジは至って気楽だった。地上に出て、使徒
 と戦うレイとアスカを見つけると、無防備に近づいていく。


 「まったく、二人掛かりでそんなやつにいつまで掛かってるんだ?」

 「碇君気を付けて。こちらの攻撃は全て防がれてしまうの」

 「シンジ、あんた今まで遊んでて良くそんな事言えるわね。そこまで言うんだったら
 さっさとこいつやっつけなさいよ」

 「言われなくてもそのつもりさ。綾波、アスカ、左右から攻撃! 使徒の気
 を逸らせ!

 「はい」

 命令に弱いのか、今のシンジに弱いのか、レイは素直に指示に従う。

 「何よ、偉そうに……」

 文句を言いながらも、なぜかアスカも言われた通りに動く。そんな自分に疑問を
 感じながらも……。

 そして、一瞬 使徒の注意が逸れた瞬間、初号機が走り出す。

 「初号機、通常の三倍以上のスピードです!!」

 「は、速い。さすがツノが付いてるだけの事はある。赤く塗り直そうかしら……」

 ミサトが唖然とバカな事をつぶやいている間に、初号機は急速に使徒に接近して
 いく。そして、左手を空間を切るように動かすと、あれほど強固だった使徒のAT
 フィールドが いとも簡単に切り裂かれた。そして、いつの間にか手にしていた
 プログレッシブナイフを、使徒のコアに深々と突き付けた。

 「……そんな……私があんなに手こずったやつを……一撃で……? ……シンジ
 ……あんた……」

 「碇……君……すごい……」

 零号機と弐号機が全く歯が立たなかった程の強力な使徒の、あまりにあっけない
 最期。そして、あっさりとそれをやってのけた初号機の姿に、ネルフ本部の人々は
 一言も話せず、ただ見続ける事しかできなかった。

 「さ~て、終わった終わった。アスカ、帰って飲むぞ。付き合え

 あくまで軽いシンジであった。

 「あんた、まだ飲む気? いい加減にしなさいよ。まったく酒グセ悪いんだから」

 「何だよ付き合い悪いな。じゃあ綾波、家に来て一緒に飲もう。何も用事無いん
 だろ?」

 「は、はい。何も用事無い。私、碇君と一緒に飲みたい。誘ってくれてありがとう。
 嬉しい……」 ぽっ

 「綾波は付き合いいいね」

 むかーーーっ!

 「何よそれー! いいわ、とことん付き合ってやろうじないのよ!
 ドイツ育ちは伊達じゃないわよ!!」

 と、その時、プラグナイフを突き立てられ、光を失っていたコアが輝きだす。

 「自爆する気!? 三人とも逃げて!!」

 「後片付けが大変なんだ。自爆ならヨソでやれ、ヨソで」

 そう言って、シンジ(初号機)は使徒を軽々と持ち上げると、上空へ向けて投げ
 つける。

 「初号機、通常の五十倍のパワーです」

 第三新東京市の遥か上空で十字の光となり、使徒は消滅した。

 「ふ~、今度こそ終わったな。じゃあ綾波、アスカ、帰って三人で飲も」 にこっ

 「うん」 にこ

 むかむか……

 「シンジ、ところでおつまみはどうするのよ? ただ飲んでるだけなんて私は嫌よ。
 あんた、今の状態で料理できるの?」

 「ミサトさんがおつまみたくさん買ってるからあれでいいじゃない。それとも、
 アスカ何か作ってくれるの?」

 「私が作れるはずないじゃないの」

 「いばって言う事じゃないだろ。そうだ、綾波 何か作れる?」

 「え? 肉以外なら……。卵料理でいい?」

 「うん、お願いするよ。綾波の手料理って食べた事ないから楽しみにしてるね」

 「え? 碇君……。うん、頑張る」 にっこり

 むか むか むかー……

 「ちょっと待ちなさいよ! ファーストに作れるんなら私にだって
 できるわよ! と言うわけでファースト、シンジの相手は私がするわ。料理も
 私が作る。あんたは来なくていいわ」 しっしっ

 「私は碇君に誘われたの。あなたが決める事じゃないわ。それに、あなた碇君と
 一緒に飲むの嫌なんでしょ。それなら無理に付き合う必要はないわ。私が碇君と
 一緒に二人で、二人っきりで飲むし、料理も私が作って食べてもらう。だから、
 あなたは来なくていい」

 「何ですってーーー!?」

 「あーこらこらあなた達、痴話ゲンカはそのくらいにして戻ってらっしゃい」

 『エヴァに乗ったままケンカされちゃたまんないものね』



 「ふ~、何とかうまくいったわね。寿命が縮まる思いだったわ」

 「ミサトがビールなんて飲ませるからよ」

 「う……そりゃあそうだけど……。しっかし、シンジ君って酔うとああなるんだ。
 結構強気ね」

 「そうね。アルコールが入る事で、抑圧されてたものから開放したのかしらね。
 ひょっとすると、シラフに戻っても、これまでの人格に何らかの影響があるかもね」

 「いいんじゃない別に。シンジ君は少しくらい強気になった方がいいわよ。レイ
 だって今のシンジ君に戸惑いながらも惹かれてるみたいだしね」

 「アスカもね」

 『ふふふ、レイの変化に碇司令、戸惑ってるようね。これまで反抗された事なんて
 なかったし、相当ショックなようね。いい気味だわ』 くすくす

 『ぬぬぬ、シンジの奴、調子に乗りおって。レイもレイだ。シンジと酒を飲むだと?
 手料理を食わせるだと? この私ですら……。おまけにシンジに微笑むだなんて
 ……許せん!! ここは父親の威厳を示すためにも、ガツンと一発
 お見舞いせねばならん!

 ゲンドウがバックにを燃え上がらせながらシンジが来るのを待っていると、レイ
 は余程気に入ったのか、シンジと手を繋いでやってくる。もちろんその横ではアスカ
 が怒鳴り散らしているのだが、レイは全く気にしていない様子だった。

 その光景を見たゲンドウは、とうとうブチ切れ、シンジのもとへ詰め寄る。しかし、
 その雰囲気を察知したレイが、シンジとゲンドウの間に入る。

 「レイ、何の真似だ? そこをどけ!」

 「嫌です。碇君私が守るの」

 「命令だ。そこをどけ!」

 「拒否します」

 「レ、レイ……お前……何故だ……?」

 「碇君の言う通りです。司令はもっと碇君を大事にするべきです。今の戦いだって、
 碇君がいなければ勝てなかった。司令にもそれは分かっているはずです。碇君が
 とても大切な人だという事が。そして、私にとっても……」

 『ほほほほほ! レイ、もっと言ってやりなさい! この際、徹底的に
 思い知らせるべきよ。まぁ、ミサトにとっては災難だろうけど』

 『あああ……レイ、それ以上司令を刺激しないで。このままじゃ八つ当たりが私に
 来る……。私の処分がきつくなる~~~。お願い、もうそれ位で止めて』

 「ありがとう綾波、でも、僕一人だけ大事にされても意味がないよ。綾波やアスカも
 大事にしてもらわないとね」

 「碇君……ありがとう」 にっこり

 自分以外の人間に向けられるレイの笑み(それも極上)にゲンドウは我慢できず、
 シンジに殴り掛かろうとする。

 「碇! 何をする!? 落ち着け! 暴力はいかん!!」

 「ええい冬月! 離せ! 離さんか!!

 「落ち着けと言っている! まずは話し合え!」

 「話し合えだと!? 必要ない! シンジの奴、よりによって私のレイを」

 「私はあなたの物じゃないわ。私は私。誰の物でもないもの」

 「その通り。父さん何か勘違いしてない?」

 『ほほほほほほほほほ!!』( リツコ)

 『あああああ……二人とも止めて~~~』 (ミサト)

 レイのとどめの言葉で、ゲンドウはその場に崩れ落ちる。

 『やれやれ』 (冬月)

 そして、更に追い打ちをかけるように、キールを始めとする人類補完委員会の面々が
 再びホログラフで現れる。その顔が赤いのは、ゲンドウの土下座の映像を肴に、宴会
 をしていたためである。

 「どうした碇、何を落ち込んでいる?」

 「議長? ……申し訳ありません。この度はとんだ失態を……。二度とこのような
 事は起こしません」

 「うむ。だがな碇、我々は決してお前を責めているわけではないぞ」

 「は? と言いますと?」

 「初号機が出撃してから使徒殲滅までに要した時間は僅か四十八秒。これまでで最も
 短い時間だ」

 「おまけに、その際の損害はプログレッシブナイフ一本だけだ」

 「これまでとは比べ物にならん程の軽微な損害だ」

 「最後の爆発にも街は巻き込まれなかったしな」

 「左様。これからもエヴァの運用はこうあってもらいたいものだな」

 「という訳で、今後も出撃の際には、初号機パイロット、及び他のパイロットに
 アルコールの摂取も義務づける事となった」

 「し、しかし、今日たまたまうまくいっただけで、次がうまく行くとは限りません。
 不確定要素が多すぎ、危険です」

 「碇、これはゼーレによる正式な決定事項だ。まさか逆らいはせんだろうな?」

 「ぐ……。分かりました」

 「うむ、よろしい。なお、その際、初号機パイロット及び他のパイロットから何らか
 の要求がなされた場合、君はネルフ総司令として、可能な限り要求を受け入れた
 まえ。それが君の仕事なのだからな」

 「な? な? なっ!?

 「では碇、くれぐれも今言った事を忘れるでないぞ。パイロットには絶対服従
 だぞ」

 そう言い残すと、キール達は消えていった。

 「へーいい事言う連中だな。じゃあ父さん、帰るけど文句ないね?」

 「くっ! 好きにしろ!」

 「あー、そうするよ。綾波、アスカ、帰ろ……」

 ぱたっ

 シンジはいきなり倒れてしまう。

 「い、碇君っ!?」


 <つづく>


 [Fパート]を読む

 [もどる]