新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾壱 災い転じて福来る?

 - Bパート -


 「シンジ、初号機を傷つけるような戦い方をするな。
 今度このような事をすれば、初号機から降りてもらう」

 「!!」×6

 『…………やっぱり僕はいらない子供なんだ…………』

 「碇司令、今の言葉はあんまりです! シンジ君は腕を折ってまで
 レイを助けたんですよ! 仲間を助けるのは当たり前じゃないです
 か!!」

 自分自身、父親に対する様々な思いがあるため、ミサトはどうしても今のゲンドウの
 態度が許せなかった。

 「そうよ、戦ってるんだから傷つくのは当たり前じゃないの。私たちは命を
 懸けてんのよ。傷くらいで文句言われちゃたまんないわ!

 「碇、今のは関心せんぞ」

 「司令、初号機の修理は明日には終了します。そこまで仰らなくても……」

 「…………」

 ゲンドウの言葉に、その場にいた全員が激しい憤りを覚えた。

  そう、全員が。

 特にレイの心に大きな変化があった。ゲンドウの言葉は、初号機を傷つけてまで
 レイを助ける事はないという事を意味している。

 道具として作られ、道具として扱われる。そう思っているために、自分の事を代わり
 の効くパーツとして扱われる事に文句を言うつもりはない。しかし、そんな自分を
 シンジは腕を折ってまで助けてくれた。そのシンジを傷つける者が誰であれ、許せ
 なかった。

 かつて、シンジがゲンドウの事を悪く言った時に感じた感情の数百倍もの思いが
 心の中に広がり、あの時と同じ行動を取る。


 パチーーーン!!


 その場にいた全員……レイ以外の者は、信じられない物を目撃した。
 レイがゲンドウの頬を思いっきり叩いたのである。
 そして、ゲンドウの眼鏡がゆっくりと落下していく。

 これまでの、そしてこれからの二人の信頼関係を象徴するかのように、ゲンドウの
 眼鏡は床で砕け散った。

 その場にいた全員が、何一つ話せずにいた。

 「……そんなに初号機が……初号機だけが大切なら、戦いに出さなければいい。
 そうすれば司令の大切な初号機が傷つく事はない。何より、碇君が傷つかなくて
 済むもの……。碇君、帰りましょう、ここにいてはいけないわ」

 「え?」

 「そうね、シンジ、帰るわよ。今日はファーストの言う事に賛成ね。こんなとこ
 (ゲンドウのいる場所)にいるだけで気分が悪くなるわ」

 「リツコ、シンジ君連れて帰ってもいいんでしょ」

 「ええ、腕の治療は終わってるし、問題無いわ」

 「じゃあシンジ君、帰るわよ」

 「は、はい」

 「碇君、行こ」

 レイはシンジがベットから降りるのを手伝い、左手を掴み、部屋の外に連れていく。
 冬月も、やれやれといった態度で部屋を後にする。一人残されたゲンドウは、ただ
 呆然と、床で砕け散った眼鏡を見つめていた。



 「……綾波、いいの?」

 「ええ、いいの。碇君は私を守ってくれる。だから私は碇君を守るの。何も心配
 しなくていいから」 ニコ

 「綾波……」 ぽ

 「お、もってるわね~シンちゃん!

 ふん!! ハナの下延ばしちゃって……だらしないんだから!」





 「……で、何であんたが家にいるわけ?

 「言ったでしょ。碇君を守るって。司令の次に碇君を傷つけるのはあなただもの。
 だから、あなたから碇君を守るの

 「ぬわんですってぇ!!」

 「あははははは。まぁまぁ二人とも、そういう面白そうな話は後に取っとくとして、
 お腹すいたから食事にしましょう」

 「食事ったってコンビニ弁当じゃないのよ」

 「仕方ないでしょ。まさか怪我してるシンちゃんに作ってもらうわけにもいかない
 し。私の作る料理はアスカ食べないじゃないの」

 「あれは料理なんてもんじゃないのよ!!」

 「すいません、ミサトさん」

 「あ、いいのよ、シンちゃんは気にしなくても。名誉の負傷なんだから」

 「ふん! まったくどんくさいんだから」

 「葛城三佐、問題ありません。料理は私が作ります

 「へ?」

 「綾波?」

 「何でそうなるのよ!!」

 「碇君は私のために怪我をしたの。だから、碇君がするはずだった仕事は全て私が
 やるの」

 「綾波、いいよ、そんなに気にしなくても」

 「いいの、碇君はゆっくりしてて。私がやるから」

 「さっすが優等生ですこと。で、あんたに料理なんか作れるわけ?」

 「作った事はないわ」

 「な…………あんた、ふざけてんの?」

 「ふざけてなんかないわ。碇君」

 「え? なに、綾波?」

 「私、料理とか掃除とか家事をした事ないから、やり方教えてくれる?」

 「そりゃあ……いいけど……」

 「そう、良かった」

 「家事って……まさかここに住み着く気?

 「だって、そうしないとこの家の事を何もできないでしょ。碇君を守らなきゃ
 いけないし」

 「そんなの認めないわよ! 何考えてんのよまったく……」

 「じゃあ、アスカがシンちゃんに代わって家事全般をやってくれる?」

 「う……」

 「背に腹は変えられないって事ね。いいわね、アスカ?」

 「ううう……分かったわよ。好きにすればいいじゃないの。その代わり、この家の
 ルールには従ってもらうわよ。いいわね?」

 「ええ、構わないわ」

 「シンジ、ぼさっとしてないでとっとと弁当温めてお茶入れなさいよ!

 「あ、う、うん。分かった。

 「碇君は座ってて、私がするから」

 「いいよ綾波、これくらい片手でもできるから」

 「でも……」

 「シンジがやるって言ってんだからやらせとけばいいのよ。甘やかすとつけあがる
 だけなんだから」

 「…………」 じぃ~~~

 「な、な、何よ?」

 「あなたは何もしないの?」

 「は?」

 「怪我してる碇君に働かせて、あなたは何もしないの?」

 「う……」

 「こりゃあ痛いところを突かれたわね、アスカ」

 「うっさいわね。そういうミサトだって何にもしてないじゃないの!
 とにかく、この家ではそういう事は全てシンジの仕事なの!!
 この家のルールに従うって言ったんだからちゃんと従いなさいよ!」

 「そう、なら手伝うわ。碇君、お茶どこ?」

 「あ、お茶ならここだよ。お湯、気を付けてね」

 「ええ、ありがとう」

 こうして、シンジとレイは二人で食事の準備をする。準備といっても、弁当を温めて
 お茶を入れるだけだが……。ちなみにペンペンはデラックス鮭弁当であった。
 左手のみのため、シンジは弁当のラップを外すのさえ手間取っていたので、レイが
 代わりに開ける事になった。

 「ごめん、綾波」

 「いいの。それよりどれが食べたい?

 「え?」

 「私が食べさせてあげる」

 「ええっ!?」

 「んなっ!?」

 「あらあら」

 「何でそうなるのよ!!」


 はっ。この展開はどこかで見たような気がする……まぁいいや。

 それはそれ、これはこれ

 という事で。

 ではまた来週!


 <つづく>


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