「私が食べさせてあげる」
「ええっ!?」
「んなっ!?」
「あらあら」
「何でそうなるのよ!!」
「言ったでしょ。碇君のするはずだった仕事は全部私がするって。だから今は
碇君の右手の代わりになるの」
「スプーンで食べりゃいいじゃないのよ!!」
「ご飯は箸で食べるものよ。それとも、右手を怪我した時は左手で
スプーンで食べなきゃいけないというルールでもあるの?」
「ぐっ!」
「ま、確かにそんなルールは作ってないわね」
「ミサト!」
「いーじゃないの別に」
「バカシンジも赤くなってないで、嫌なら嫌とはっきりそう言い
なさいよ!!」
「え?」
「……碇君……いや?……」 じぃ~~~
「そ、そんな事ないよ。嬉しいよ、うん」
「そう、良かった」
「このぶわぁかシンジ!!」
「あははは! んーいいわねこういうの。ビールがうまいわ!」
「で、でもほんとにいいの?」
「ええ、いいの。遠慮しないで」
「シンちゃん、レイは責任を感じてるのよ。それで、少しでもシンちゃんのために
何かしたいのよ。少しでも気が済むのならレイの好きなようにさせてあげなさい。
そ、れ、に、滅多にない事だし、レイに甘えときなさい」
「は、はぁ……」
「はい、碇君」
「あ、い、頂きます」
ぱく もぐもぐ……
「次はどれがいい?」
「あ、じゃあ、これ」
「はい」
『お弁当ってこんなに美味しかったんだ……』
ぱく
「う~ん、シンちゃんもやっぱりおっとこの子ね~。嬉しそうにしちゃって。
それに、レイって意外と尽くすタイプかもね」
「フンだ!! 責任感じてるだけよ。それにしても不味い弁当ね」
「ふふふ。でも、それって確かアスカの好きな弁当じゃなかったかしら?」
「ミサトの気のせいよ!」
「お~こわ……。それにしても……レイ、何だか嬉しそうね」
「え、そうですか? 私……嬉しそうにしてますか?」
「ええ、そう見えるけど、嬉しくないの?」
「そりゃあ、嫌々、仕方なくシンジに食べさせてやってんだから嫌でしょうよ」
「そんな事ないわ。嫌じゃない。でも、何だか不思議な感じ……今まで、こんな
気持ちになった事ないのに……どうして……分からない……」
「むぅぅぅ!!!」 (アスカ)
「あの、綾波?」
「何? どれが食べたいの?」
「あ、そうじゃなくて、綾波は食べないの?」
「私は後でいい」
「でも、綾波が食べて無いのに僕だけ食べさせてもらうのも悪いし……。綾波も
食べなよ」
「そう、ありがとう。碇君、優しいのね。なら、私も食べる事にする」
「うん、そうしなよ」
かなり赤くなりながらも、シンジはレイが食事を始めたので安心していた。
「はい、碇君」
「あ、ありがとう、綾波」
レイは自分とシンジ、交互に食事をしていった。
「ちょっとバカシンジ!! あんた何のんきに平気な顔して
食べてんのよ!! その女、同じ箸使ってんのよ!!」
「え、ええっ!?」 赤っ
そう、レイはシンジに食べさせるのと 自分の弁当を、同じ箸で食べていた。
「あら、レイって なにげにやるわね~見直したわ」
「……何がですか?」
「え?」
「何か問題でもあるんですか?」
「大ありよ!! 普通、別の箸を使うものなの!!」
「? ……でも、すぐ隣にいるのにわざわざ持ち変える必要もない」
「そういう問題じゃないのよ!! あぁもう! あんたが目の前に
いるだけでイライラするわね! シンジ、腕の一本や二本くらい
気合で治しなさいよ!!」
「そんな無茶な……」
「無茶でも何でもやるの! 今日からシンジの食事は牛乳と小魚
のみ! カルシウム以外口にするのも禁止! とっとと腕を治して
この女を追い出すのよ!!」
「……あなたはやっぱり碇君を傷つけるのね……。私が守らなきゃ。それに、
碇君を守るのに期限を付けた覚えはないわ……」
「え? ど、どういう事よ?まさかあんた……」
「ええ、そうよ。碇君の腕が治っても私はここに残って守り続けるわ。特に、
あなたから」
「させないわよ、そんな事」
二人の間に思いっきり火花が飛び散り、その間で、シンジは頭を抱えて小さく
なっていた。
「う~ん……でもねレイ、その理論突き進めていったら、一生そばにいて、
シンちゃんを守るためには結婚するって事になるんだけど、気付いてる?」
「え、結婚?」
「ミサト、余計な事言うんじゃないわよ」
「……そうですね、それが最も合理的ですね。そうします」
「ええ!? 綾波?」
「そうしますじゃなーーーい!! いい、とにかく……」
「私と碇君が結婚したら……ずっと私を守ってくれる……ずっと守っていられる……
ずっと二人でいられる……ずっと二人で……」 赤
「人の話を聞けぇぇぇっっっ!!!」
シンジはレイの発言で石と化し、レイは自分の世界に入りきっているようで、
アスカが何を言っても耳に届いていないようだった。それでもアスカは、レイに
対してひたすら文句を言っている。そんな二人を、ミサトはビールを飲みながら
面白そうに見つめていた。
『ん~~~何か面白い事になってきたわね。とりあえずレイにはどこで寝てもらおう
かしらね~。アスカの部屋……は問題外として……シンちゃんの部屋……
シンちゃんがレイを襲う可能性はゼロだし……レイはシンちゃんを守るって
言ってるから反対しないだろうけど、間違いなくアスカが反対する……。
やっぱり私の部屋かな……片づければ二人くらい何とかなるし。
それにしても、レイってシンちゃんの手の代わりになるって言ってたけど、
お風呂とかトイレとかどうする気なのかしら……楽しみだわ』
そんな事を考えながら、騒がしい三人……(いや、シンジは石になっているし、
レイは自分の世界に入っているので、騒いでいるのはアスカ一人だが)を、
面白そうに見つめていた。
その頃、ネルフ本部では、いまだにゲンドウが固まったままだった……。