新世紀エヴァンゲリオン-if- 


 外伝 拾九 おおきなおくりもの そのつづき


 作 Ophanim (投稿作品)


 「じゃあ、これ、どうする気なのよ?」

 アスカはレイに詰め寄った。

 「だから、中に入って……

 「ちっがああああああああああう!」

 アスカが怒筋を幾何級数的に増大させているとき、ミサトの目が妖しく光った。

 「いいわね、それ!」

 「?」

 リツコが怪訝そうに、しかし、何かを期待するようにミサトを見た。

 「いい? リツコ、ごにょごにょごにょ……」

 「なるほど! で、誰が入っているか判らない状態に……」

 くすくすくす……

 「あぁ、おほん、おほん。アスカ、レイ、ちょっと来なさい」

 ミサトはわざとらしく咳払いをした。

 「なによ! どうせまたろくでもないこと企んでるんでしょ?」

 ……図星である。

 「い、いやねぇ。ちょっとあんたにも誤解があるっていうのを教えようと
 思っただけよぉ……」

 ミサトは表情の変化を最小限に抑えると、勿体ぶってアスカに背中を見せた。

 「ほ、ほら。あんたはキリスト教徒(なのか?)かもしれないけど、日本の
 クリスマスには仏教の思想も入っているのよ(嘘だけど)
 判る? だから、あんたの考えるクリスマスとは少し意味が違うのよ
 (これはこれで当たってるかもしれない……)」

 リツコが素晴らしいアドリブで説明を加える。

 「へぇ、そうなんだ

 純真無垢なレイはその言葉をそのまま受け入れた。

 「そう! そうなのよ!!

 ミサトは勢い込んでアスカの肩に手をかけた。

 (怪しい。なにか、絶対、企んでる……)

 勘のいい(ちょっと! 頭もいいんだけど……あ、ついでに顔も……(本人談))
 アスカは心の奥深くからごくごく表層まで疑いの気持ちでいっぱいだったが、
 隣にいるレイが神妙に聞いているのを見ると無碍に反発もできない。

 「クリスマスっていうのは、男の子が好きな女の子を一人選んで
 一夜をともにし、己の煩悩に耐えられるかどうか試す
 修行の場なのよ!」

 リツコはびしっとアスカとレイを指さした。

 あまりにも見え見えの嘘で脱力しているアスカに、ミサトが悪魔の囁き
 見舞った。

 (どう? ここらで決着つけておくのも、いいかもよ?)
 きらりん!

 アスカの目に輝きが戻る。

 「そ、そうなのよ。精神修養の行事なのよねぇ……」

 「それで、くりすますにはかっぷるが増えるのね?」

 そうなんだよ、そうなんだよ。きっとみんな耐えているに違いないんだよ、
 うんうん。

 「いいこと? あなた達はあの靴下の中に入るの。青いのはレイ、赤いのはアスカよ。
 で、シンちゃんが中に入ってきた方が一晩一緒に靴下の中で過ごすの。
 いいわね?」

 ミサトはきびきびと楽しそうに指示を出した。

 「判りました。で、紫のがミサトさん、黄色のがリツコさんの分なんですね?」

 レイはにこにこと微笑みながら答えた。

 「ん? ど、どうして私たちも入るのかな?」

 ミサトは不思議そうに首を傾げた。

 「だって、”男の子が「女の子」を選ぶ”んでしょう?」

 どどーん。

 「ば! こ、こいつらのどこが女の子……あうっ……

 さくっ!

 アスカは身体を貫通するかのような手刀をくらって目を回してしまった。

 「そ、そう! そうなのよ! わ、私もそう言えば、女の子だった
 わ……」

 「そうよねぇ……ま、まだまだ現役よねぇ……」

 こうして四つの靴下は四つの芋虫に変わっていった。



 「ただいまぁ……って誰もいないの???」

 シンジは両手いっぱいの荷物を抱えて台所に入ってきた。

 「ちぇ……なんだこれ? 変な靴下……

 『へ、へんっ!?』

 ひーん……

 青い靴下の中で泣き声がしていた。

 だが、シンジは卵を溶くのに夢中で泣き声に気がつかない。

 「綾波にケーキ作るの手伝ってもらおうと思ったのに……。アスカはどうせ食べる
 の専門だしな……。しっかも、好き嫌い多いんだよなぁ……。何が食べられない
 か聞きたかったのに……」

 ぐは……

 赤い靴下の中から怒りのオーラが噴き出してきたが、シンジにはオーラなんぞ見える
 はずがない。

 暢気にクリームを塗りつけ、てきぱきとケーキの形が出来ていく。

 「ミサトさんはまぁ、いない方が助かるな。味見役にもなんないし……リツコさん
 がいても変な薬混ぜられるだけだしね」

 なにをぉ?

 紫の靴下と黄色の靴下は面妖なフィールドを展開したが、シンジにはその危険性を
 察知することが出来なかった。

 シンジはチョコレートで簡単に文字を書き込むと、仕上げの飾り付けを終えた。

 「でも、どうしようかな……スポンジもまだ少しあるし……。チーズケーキとか
 作りたいし……。そうだ! マヤさん呼ぼう! あの人ならケーキとか簡単に
 作ってくれそうだし……。でも、空いてるかな?」

 シンジは楽しそうな足取りで台所を後にした。
 芋虫達はもぞもぞと集結すると会議を始めた。

 「リツコ、ちゃんと設定してあるわね?」

 紫芋虫は黄芋虫をつついた。

 「勿論よ。あの子は一番の危険人物だからね。ほら」

 ぴ

 あははははは……

 楽しそうな笑い声が漏れてくる。

 「と、盗聴器?」

 赤芋虫が驚いたような声を出した。

 「しー……」

 そうなんですよ。で、マヤさん、今日、お暇ですか?
 やぁねぇ……私だって予定の一つや二つ、あるのよ? ……って言いたいところ
 だけど、シンジ君にお呼ばれしちゃおうかなぁ……。
 本当にいいんですか?
 いいのよぉ……ね、本当に誰もいないの?
 えぇ。だから気がねしないで下さい。
 へぇ……じゃ、酔ったふりしてシンジ君、襲ってくるかもねぇ?
 あはは……そうですねぇ。それもいいですねぇ……。
 まぁ……じゃ、綺麗な下着つけていかないとね。

 「不潔!」

 青芋虫がぷんぷんまーくを作った。

 「それはマヤの台詞でしょ?」

 黄芋虫が青芋虫につっこみをいれる。

 じゃ、これから行くわ。待っててね。
 はい、あ、ゆっくりでいいですから。

 ちん

 「さぁて、プレゼント、何にしようかなぁ?」

 シンジは大急ぎで着替えると、部屋を飛び出していった。

 もぞ、もぞ、もぞ……

 「どうしてくれましょ?」

 紫芋虫が他の芋虫を見回した。

 「あたし、強烈な睡眠薬持ってるわ」

 黄芋虫が平然ととんでもないことを言った。

 「な、何するために持ってんのよ、そんなもん!」

 赤芋虫が蹴りを入れる。

 「い、いい男がいたら拉致監禁してピーを取るために
 決まってんでしょ!!」

 ピーーーーーーーーーーーー

 放送不可能

 ピーーーーーーーーーーーー

 「はぁはぁはぁ……まぁ、いいわ。今回はシンジを懲らしめないといけないから、
 それの使用を許可するわ」

 赤芋虫は思う存分暴れた後で結局「核」の使用を認めた。

 黄芋虫は内心、つ、使うんだったらあんたも同じ穴の狢じゃん? とか思いながら
 も、これ以上の抵抗はせず、ぴっぴっとケーキに睡眠薬を注いだ。

 「もっと」

 青芋虫が静かな声で要求する。

 こ、こっちの方がこわーい……と思いつつ、黄芋虫は更に数滴をケーキに
 ふりかけた。



 「お邪魔しまーす」

 マヤの声が部屋に響いた。

 「どうぞどうぞ……」

 シンジは飛び跳ねるようにして玄関先に走っていった。

 「はい、プレゼント」

 マヤはいかにもくりすますぷれぜんと、という感じの包み紙をシンジに
 差し出した。

 「あ、すみません。僕、何も用意してないや……」

 「いいのよ、あなたの、その、気持ちだけで……」

 むっかあああああああああああ……。

 「ま、待ちなさい、アスカ、まだ行ってはいけないわ……」

 紫芋虫が必死で赤芋虫を止めた。

 「でも、さっき街に出て、これを……」

 シンジは背中に隠していた小さな包みをマヤに手渡した。

 「あ……ありがとぉ……」

 きらりん!

 「ま、待って待って! レイ! もうちょっとだから……」

 黄芋虫が青芋虫の暴走を体を張って止める。

 「今日は二人きりのクリスマスだね」

 「えぇ……」

 「マヤさんと僕の今夜に、乾杯……」

 ぴきっ!

 「あれ? 待って! まだじゃなかったっけ???」

 紫芋虫と黄芋虫は怒筋を全身に張り巡らせながら立ち上がった。

 「え ?あれ? ミ、ミサトさんと、リツコさん???」

 「きゃあ!い、いるじゃないの!!」

 ぱっっっっこぉん!

 「十年早いわっ!」

 めきっ!

 「台詞が臭すぎ!」

 どげしっ!

 「経験もないくせに変なシナリオ書くんじゃないっ!」

 あ? あれ?

 「人の外伝の続き書いてる暇あったら自分のを書けっ!!」

 え、えぇと、それは隣の人にも……。
 も、もしもし???

 ごぉおおおん……


 「さぁて、どうやって料理しましょ?」

 「まずは”皮”をむかないと……」

 「は、裸にしちゃうんですか?」

 「なぁに赤くなってんのよ?」

 「あんたも充分赤いわよ、アスカ」

 脱がせ脱がせ……

 「じーっと見てんじゃないわよっ!」

 「だ、だって……」

 「じゃじゃーん。これでシンジサンタを作るわよっ!」

 「なぁるほどぉ!」

 「マヤさんはどうなるんですか?」

 「マヤは今日はマリア様の役なのよ」

 「それって……」


 ぴーーーーーーーーーーーーーーー、ぷつっ!

 放送はここまで。
 みなさん、楽しい聖夜を……。

 って、もう年が明けたのに……(^^;


 <おしまい>


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