新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾八 ハッピーバースデイ・アスカ!

 -前 編-


 「はぁ~~~」

 アスカは一人、学校からの帰り道、今日何度目かの大きなため息をついた。

 今、アスカには三つの大きな悩みがあり、先ほどまで近くの公園でブランコに乗り
 ながら悩んでいたのだが、結論が出ず、家に帰るところだった。


 まず、一つ目の悩み。

 最近、シンクロ率の伸びが著しいシンジにとうとう抜かれてしまった事。


 二つ目。

 暴走を繰り返すエヴァンゲリオンというものが良く分からなくなってしまった事。


 そして、三つ目。最もアスカを悩ませている問題。

 『……あの女……どんな命令にも黙って従う人形だと思ってたのに……。撤退命令
 に意見するなんて……シンジの身を案じて……私より早く……シンジのために……。

 それに、シンジの事を悪く言ってたら怒ってたし……あの女があんな反応するなん
 て……。何かあったのかな……シンジとの間に……。

 私とシンジの間にあるものって何だろう?

 ……同じエヴァのパイロット……一緒に暮らしてる……一度だけキスした事がある
 ……ただそれだけなんだ……。

 ユニゾンで使徒を倒した時に感じた一体感も、いつの間にか無くなってしまってる
 し……溶岩の中で助けてくれた時に感じた喜びや感謝の気持ちも無くしてる……。

 今の私にはシンジとの間に何もないんだ……。

 あの女にはあるのかな……シンジとの絆が……。私が日本に来る前、シンジと二人
 で使徒を倒した時、私と同じようにシンジとの間に何かあったのかな……。

 あの女……シンジの事……好き……なのかな……。

 ……なんでこんなに気になるんだろ……あの女が誰を好きになろうと、シンジが
 誰と付き合おうと私には関係のない話なのに……。ひょっとして私……。

 な、何考えてんのよ私……そんな事あるわけないじゃない……。ただ私は、目の前
 であの女とシンジがいちゃつくのを見たくないだけなんだから……。あー、考えた
 だけでも腹立つわね。あんな女に引っかからないように、シンジに強く言っとか
 ないといけないわね。

 ……でも、どうすればいいのかな……。最近、シンジにきつい事ばかり言ってきた
 し……どうしよう……私の話なんか聞いてくれないかも……。

 ……そういえば、明後日は私の誕生日か……。何かのきっかけになればいいんだ
 けど……無理かな……』

 「はぁ~~~~~~」

 と、また大きなため息をつく。

 ・
 ・
 ・

 「ただいま~」 ふぅ~

 「あ、アスカ、おかえり。どうしたの、こんな時間まで?」

 「ん。ちょっとね……」

 「元気ないみたいだけど、どこか具合でも悪いの?」

 「ありがと。でもそういうわけじゃないの……部屋にいるからご飯になったら呼ん
 で……」 ふぅ~

 「う、うん……」

 シンジにそう告げると、アスカは自分の部屋に入ってしまった。

 「……どうしちゃったんだろアスカ、ほんとに元気ないな……あれ……そういえば
 アスカとまともに話したのって久し振りだな……え? ……『ありがとう?』……
 アスカが僕にお礼? ……? ? ? 初めて聞いた……。元気ないけど、機嫌は
 いいのかな……? ? ?」

 と、シンジは混乱していたが、考えても分かるはずもないので、夕食の準備を再開
 した。


 そんな二人のやり取りを、ミサトは缶ビールを口に付けながら、じーっと見つめて
 いた。

 『……アスカも色々と悩んでるみたいね……シンジ君にシンクロ率を抜かれた事を
 ……というより、それに伴って、シンジ君の扱いをどうするかで悩んでるのね……
 一人前のパイロットとして認め、正当に評価するのか……それとも、自分を追い
 落とした嫌な奴として、妬み、攻撃するのか……どちらにしろ、二人の関係はかなり
 変わるわね……。でも、今のアスカの様子からして、シンジ君の事を認め始めてる
 みたいだし、それほど心配する事はないかな……。後は、それを認めたくない心に
 どう決着を付けるか、ね……。何かきっかけがあればねぇ……しようがない、ここは
 私が一肌脱ぐとするか』

 「ねーねーシンちゃん、明後日何の日か知ってる?」

 「え? 明後日って……四日ですよね……え~~~と……何の日なんですか?」

 「やっぱり知らないんだ……。明後日はアスカの誕生日なのよ」

 「え? そうなんですか? ちっとも知らなかった……」

 「一緒に暮らしてる女の子の誕生日を知らないなんて、ちょっと酷いんじゃない?」

 「だ、だってアスカ、何も言ってくれなかったし……」

 「シンちゃんから聞いて欲しかったんじゃないの? アスカだって女の子なんだし。
 ……それに、一緒に暮らしてる男の子に自分の誕生日を教えるのって、露骨にプレ
 ゼントを要求してるみたいで嫌だったんじゃないのかな?」

 「そんなもんなんですか?」

 「そんなもんよ。で、どうするのシンちゃん? アスカの誕生日を知ったわけだし。
 放っとくの?

 「え、えーと……やっぱり、プレゼントとかした方がいいんでしょうか?」

 「ええ、そうしなさい。きっとアスカも喜ぶわよ。それと、この事はアスカには
 内緒よ。いきなり渡した方が効果的だから」

 「は、はい。でも、僕すぐに顔に出るからアスカに気付かれちゃうかも……」

 「あ、それならきっと大丈夫よ」

 『今のアスカは一人で悩んでるから、他人の事まで気が回らないだろうから』

 「シンちゃんはアスカへのプレゼントの事だけ考えてればいいわ。頑張ってね」

 「は、はい」

 『ふふふ……アスカはどういう反応するかしらね。二人とも優しい上司に感謝して
 ね。……二日後が楽しみね』

 という事で、二日後に……


 <つづく>


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