新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾八 ハッピーバースデイ・アスカ!

 -後 編-


 そして、あっという間に二日後。


 「ふぁ~~~。おはよ、シンジ」

 「あ、アスカ、おはよう」

 『ほら、シンちゃん、今よ』

 『は、はい』

 「あ、あの……アスカ」

 「ん? なに、シンジ?」

 「今日、誕生日なんだろ。おめでとう。これ、プレゼント

 「え? な、何でシンジが私の誕生日知ってるの?

 全く予想していなかった展開に、アスカはうろたえてしまった。

 「ミサトさんが教えてくれたんだ。今日がアスカの誕生日だって」

 「ミサトが?」

 アスカがミサトを見ると、ミサトはVサインを出していた。

 『まったく、余計な事を……』

 と思ったが、怒る気は全くなく、むしろ感謝さえしていた。

 「ま、まぁ、そういう事ならありがたく頂いておくわ。シンジ、開けてもいいんで
 しょ?」

 「う、うん。喜んでくれるといいんだけど……」

 「何かな……」 ドキドキ

 ガサガサ

 アスカは、早く中身が知りたくて、急いでリボンと包装を外していく。もちろん、
 決して破いたりはしないで、大事に扱っている。

 『シンちゃん、アスカのプレゼントに何を選んだのかしら。楽しみね』


 「あ、これ……」

 小箱の中には、落ち着いた感じの赤いブローチが入っていた。

 「シンジ、知ってたの? 私がこれ欲しがってた事……」

 「良かった。やっぱりそれだったんだ。前にアスカがお店の前で欲しそうにしてた
 から、多分それだろうと思ったんだ。他のと間違えなくて良かった」

 「ありがとうシンジ、これ欲しかったんだ。本当にありがとう」

 「うん」

 『やだな……何でこんなにときめいてんだろ……シンジ相手に……。でも、今まで
 いろんなやつからプレゼントもらったけど、欲しがってる物をもらったのって初めて
 ね……だからかな……だからこんなに嬉しいのかな? ……それとも……シンジが
 くれたからかな……だからこんなにドキドキしてるのかな……。シンジ、私の欲しい
 物を分かってくれてたんだ……。私の事、分かってくれてるんだ……。なんだか嬉し
 いな……。何だろう、この気持ち……心が満たされていく……シンジと一体感を感じ
 る……。ユニゾンの時と同じ……。無くしたくないな……この気持ち……』

 今の気持ちを無くしたくない。

 その想いを込め、アスカはブローチを制服の胸の所に付けた。

 「シンジ……似合う……かな……?」

 「う、うん。良く似合ってるよ。

 「ほんと? 嬉しいな」 にこっ

 ドキッ

 『え? あ、アスカってこんなに可愛かったのかな……知らなかった……』

 ドキドキドキ……

 『ふ~ん、ブローチ一つでこんなに可愛らしくなるとは……アスカも女の子ね~』

 『良かった、似合ってるんだ……シンジ、優しいな……。何で私はシンジの事あんな
 に嫌ってたんだろ? シンクロ率で抜かれて私が二位になったから? でも、良く
 考えてみたら、私自身のシンクロ率が下がったわけじゃないんだ……。私の能力、
 価値は何も下がってない。シンジのシンクロ率が上がったのは、シンジの能力が
 上がったから……。なのに、私はそれを妬んでたんだ……私らしくないな。負けた
 のなら努力すればいいだけなのに、シンジ一人を悪者にしてた……情けないな……。

 それに、シンジのシンクロ率が上がったって事は、エヴァの力も上がったって事。
 つまり、一緒に戦ってる私の生き残る確率が上がるって事よね。いい事じゃないの。
 こんな簡単な事に気が付かなかったなんて、天才少女の名が泣くわね……。また
 あの時のように、心を通じ合わせる事ができるのかな? ……そうなりたいな……』


 「アスカ? どうしたのアスカ?

 「え? あ、シンジ? 何?」

 「いや、あの、天才少女がどうとか言ってたけど……」

 「え?」

 『や、やだ……口に出てたの? どうしよう……変な事聞かれてないわよね……。
 ご、ごまかさなきゃね。えーと、えーと……』

 アスカは必死で話題を変えようとした。

 「ね、ねえシンジ、プレゼントをくれた事はとっても嬉しいんだけど、どうせなら
 もっと雰囲気とかムードを大切にして欲しかったわね」

 「え? ムード?

 「そ。例えば、高台の公園で二人で夕日を見ながら渡してくれるとか、おしゃれな
 レストランで食事しながらとか。そうしてくれたらもっと嬉しかったんだけどな」

 「ご、ごめんアスカ、僕、そういう事良く分からないから……」

 「あ、違うの、シンジ。私は別に怒ってるわけじゃないのよ。からはそうして
 欲しいな、と思って」

 「え、次?

 「あ、そ、その……だから……今日だけなんて……ヤだから……」 真っ赤

 アスカ…… 真っ赤

 『ほぉ~~~ あのアスカがねぇ~ 変われば変わるもんだわ』 (ミサト)

 「あ、あのさ、アスカ」

 「え?」

 「だから……その……僕、そういうお店とか良く知らないから……今日ってわけには
 いかないけど……週末までには調べておくよ」

 「え?」

 「プレゼント……その時渡した方がいいのかな?」

 「シンジ……。あ、ううん、いいの。だってこれは私のバースデイプレゼントで
 しょ。やっぱり誕生日にもらうのが一番嬉しいもの。ほんと、ありがとう、シンジ」

 「そう? でも喜んでもらえて良かった。あ、今日、アスカの好きな料理作るから
 楽しみにしててね。ケーキも作るから」

 「ほんと? シンジの作る料理美味しいから楽しみにしてるね。それと……」

 「え? 何、アスカ?」

 「だから……その……プレゼントは今日もらったから無理しなくていいから……
 ……その……週末の……デート……楽しみにしてるから……」 ぽっ

 「ア、アスカ……」

 「シ、シンジがうまく私をエスコートしてくれたなら……その…………キス……
 くらいまでなら……許してあげてもいいから……

 アスカは、シンジに聞こえるかどうかというような小声でそうつぶやいた。

 「え、えと……あの……」 真っ赤

 しっかりシンジには聞こえたようだった。しかし、シンジに聞こえた事が分かっても
 アスカはごまかしたりはしなかった。むしろ、聞こえて良かったとさえ思っている。

 「……ねぇ、シンジ……」

 「は、はい」

 「いざというとき失敗しないように……キスの練習……する?

 アスカは頬を染め、潤んだ瞳で、少し上目遣いでシンジを見る。
 シンジに逆らえるはずもなかった。

 「ア、アスカ……」

 「シンジ……」

 シンジはアスカの両肩を掴む。アスカはそっと目を閉じる。

 『アスカってこんなに可愛かったんだ』

 一気に盛り上がり、二人の距離は限りなくゼロになっていく。

 「あ~~~もしもしそこのお二人さん、私の存在忘れてない?

 シンジとアスカの頭の中からすっかり消えていたが、ここにはミサトもいるのだっ
 た。二人は慌てて離れる。

 「ミ、、ミサト!? いつからそこにいたのよっ!? 真っ赤っ赤

 「いつからって……最初からいたじゃないの。アスカだって私の顔見たでしょ?
 まぁ完全に二人の世界ができちゃってたから無理もないか」

 「ううう~~~」

 「それと、シンちゃ~~~ん?

 「は、はい」

 「んふふふふふ。週末のデート頑張ってね。門限気にしなくてもいいから。
 何ならお金貸してあげようか? 何かといるでしょ」

 「ミサトーーー!」

 「ミサトさ~~~ん」

 「いいじゃない、わーっかいんだから!

 二人はすっかりミサトに手玉に取られていた。


 葛城家の食卓に、数週間振りに笑いが戻ってきていた。

 そして、シンジとアスカはお互いに認め合い、いつか心を通じ合わせる仲になって
 いった。

 なお、その後アスカは、頭のインターフェイスヘッドセット同様、シンジから買って
 もらったブローチを常に身に付け、外す事はなかった。
 いつまでも……いつまでも……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 拾八

 ハッピーバースデイ・アスカ! <完>


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