新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 拾六 どんどん・ドタバタ大騒動 ~ユイと愉快な仲間たち~

 - Fパート -


 「どういう事よシンジ!? やっぱり相田の言うように危ないヤツ
 なの!?」

 「ち、違うよ。さっき母さんが言ったろ。まだ一緒に暮らす前の事だよ。それに、
 事故だし……」

 シンジは何とか弁解しようとしたが、アスカの耳には『別々に暮らしてた時の事』
 『事故』という単語はまるで聞こえてないようだった。ただ、シンジがレイの胸を
 触った、と言う事だけがアスカの頭の中でグルグルと回っていた。

 「ファースト、どういう事よ!? シンジがあんたの胸を触ったって
 本当なの!? 答えなさい!!

 「ええ、本当よ。まだあなたが日本に来る前の出来事。私とお兄ちゃんだけ
 の秘密なの」

 今度はレイが勝ち誇ったようにアスカを見る。あえて『事故』という事は口にしない
 ようだった。

 「んなっ!?」

 「レ、レイ、何もわざわざ誤解を招くような言い方しなくても……」

 「でも事実でしょ」

 「そ、そりゃ……そうだけど……」

 「ううう……じゃあファースト、キスはとっくに済ませてるってーの?」

 「いいえ、私はお兄ちゃんとキスした事はないわ」

 「あんたバカぁ!? キスもさせないでいきなり胸を触らせる女が
 どこにいるってーのよ!? まったく非常識なんだから」

 「そうなの? 順番ってものがあるのね……。キスが先でその次に胸なの……。
 じゃあ、あなたは次にお兄ちゃんに胸を触らせるの?

 「な、何言ってんのよ!? なんでこの私がバカシンジなんかに
 胸を触らせてやんなきゃなんないのよ!?」

 「触らせなくていい」

 「え」

 「あなたはもう二度とお兄ちゃんに触れなくていい。触れちゃだめ

 「だから何であんたが決めるのよ!?」

 「『お兄ちゃんに触られたくない』と言ったのはあなたでしょ」

 「う……それは……その……」

 「お兄ちゃん、私、こういう事に順番があるなんて知らなかった。だから順番が逆に
 なったけど、胸を触ったのだから……私とキス、する?」 ぽっ

 「え……レ、レイ?」

 「お兄ちゃん……」 うるうる

 「だーーーっ!! 何やってんのよ! 二人して見つめ合ってんじゃ
 ないわよ!! シンジ、こんな危ないヤツと暮らしてたら絶対ロクな
 事になんないわよ! 今すぐ私んとこに戻ってきなさい!」

 「おーアスカ、ようやく言えたわね。その調子よ」

 「だめ。お兄ちゃんは私と暮らすの。あなたの元には戻らないわ」

 「戻ってくるわよ。シンジが決められないのなら、シンジのためにも、私が連れ
 帰る」

 「させない」

 二人はそう言い、シンジを挟んで言い合っている。シンジはと言うと、ただ頭を
 抱えているだけだった。そして、そんな三人をトウジ達はやや呆然と眺めている。

 ユイとミサトは、ただ心から嬉しそうにそんなシンジ達を見ていた。

 一方、ふすまの外にも、そんな様子に聞き耳を立てている人物がいた。言わずと
 知れたゲンドウである。ゲンドウは、ユイがシンジやレイをあんまり可愛がるので、
 それにやきもちを妬いており、ユイの様子が気になって仕方がないのである。

 (……情けない……)

 しかし、シンシがレイの胸を触っていた事を聞いて、ある計画を立てていた。

 『シンジの奴いつの間にレイとそんな関係に……。だがそれならそうと言えばいい
 のに……。照れているのか? 私に一言言えば、今日からでもレイと二人で暮らさ
 せてやるのに……。シンジとて、親の目が届かん方が都合がいいだろう。私は
 理解力のある父親だからな。早速手配しておこう』

 と、ケンドウはどこか暴走した危ない考えを持っていた。

 さて、話を室内に戻して……

 部屋の中では相変わらずレイとアスカが言い合いを続けていた。もはやユイの目の前
 だという事は、綺麗に頭から消えていた。

 「ん~~~いいわね~。やっぱりこれよね、あ~ビールが欲しいわ

 「葛城さんもこういうのがお好きなようですね」

 「え、ええ、まぁ。でも、前までと違って随分とレイが積極的になってて、さらに
 面白くなってますね」

 「でしょ! 私も毎日楽しくて。……さて、シンジ達三人はこのままでいいと
 して……確かあなたが鈴原君よね?」

 「はい、そうです。ワシがシンジの友達の鈴原トウジです、よろしゅう」

 「ええ、こちらこそよろしくね。……鈴原君にはまず謝らないといけないわね」

 「は?」

 「あの時、シンジの叫び声でようやく正気に戻ったんだけど、ダミーシステムの力が
 予想以上に強くて……間に合わなくて……鈴原君の足を傷つけてしまって……本当
 にごめんなさい」

 「は、はぁ……よう分からんけどワシの足ならちゃんと元に戻してもろたし、もう
 ええですよ。気にせんといて下さい」

 「そう言ってくれると助かるわ。でも、ちゃんとうちの人に謝罪させるから、シンジ
 と友達でいて下さいね」

 「えぇ、もちろんです。ワシはシンジの事、これっぽっちも恨んどりゃしません
 から」

 「ありがとう鈴原君、シンジはいい友達を持ったわね……」 じ~ん

 ユイはトウジの言葉に感動していたが、シンジはレイとアスカの間で頭を抱えたまま
 だった。ちなみに、ふすまの外では、ダミーシステムの事でユイに怒られるのでは?
 と、ゲンドウが青くなっていた。まったく碇家の男は何やってんだか……。

 「それで、あなたがヒカリちゃんね」

 「はい、よろしくお願いします」

 「ええ、よろしくね。確かヒカリちゃんは鈴原君の意識が戻らない頃から、毎日
 お見舞いに来てたわね。ほんと、仲いいわね……羨ましいわ」

 「あ、あの……その……」 真っ赤

 「え? イインチョ、ワシが目ぇ覚まさん頃から毎日来てくれとったんか?」

 「う、うん……」

 「す、スマンな……なんぞ礼でもせんといかんな」

 「そうね。鈴原君、何かプレゼントしてあげたら? ヒカリちゃんきっと喜ぶわよ」

 「そうですね。イ、イインチョ、何がええ? ワシはこーゆーの、よう分からんの
 や。イインチョの好きなモン言うてくれ」

 「わ、私は鈴原が選んでくれるものなら……」

 と、何だか二人ともいい雰囲気になってしまった。ヒカリは、普段なら『公務として
 来た』とか言ってごまかすのだが、ユイの誘導のためか、あえてごまかしたりは
 しなかった。そして、そんな二人をユイは嬉しそうに見ていた。

 『うまい。さすがユイさんね。冷やかしたりからかったりはするけど、基本的に
 二人の仲を進展させるわね。恨まれないタイプだわ。私も見習わなくっちゃね。
 あ、それじゃあ、シンジ君はどっちとくっつける気なんだろ? 今のまましばらく
 様子見って所かしらね?』

 と、ミサトが感心していると、ユイはケンスケに話し掛けた。

 「あなたが相田君ね」

 「はい、はじめまして、よろしくお願いします」

 「ええ、こちらこそよろしくね。それで、相田君にお願いがあるんだけど、いい
 かしら?」

 「え、僕にですか? 何でしょうか?」

 「さっきのデータ、シンジが嫌がるから返してあげてね

 「。な、なぜその事を……」

 「ふふふ。私は何でも知ってるのよ」

 「はぁ……分かりました……」

 さすがのケンスケも、被写体の母親から直接返すように頼まれたのでは返さない
 わけにもいかなかった。どうやら、最低限の常識は持っているようである。
 ケンスケは、渋々カバンの中からディスクを取り出した。

 「ケンスケ、いつの間にしまってたんだよ? 全然気が付かなかった……」

 「ふ。生活の知恵ってやつさ……」

 「変態。将来絶対に犯罪者ね」

 アスカは自分の写真を売られた事への不満から、軽蔑の目つきでそう言った。

 「相田君、私、お兄ちゃんにだけ見ていてもらえればそれでいいの。他の人に見られ
 るのは嬉しくない」

 「あんた、まだそんな事を!!」 (アスカ)

 「だって、ほんとの事だもの」

 「ううう……相変わらず言いにくい事さらっと言うわね」

 「ふふふ、仲がいいわねあなた達。相田君は私に任せて、三人で遊んでなさい」

 「母さん、止めてよ」

 「いいじゃないシンジ、女の子二人から取り合いされるなんて男として幸せじゃ
 ないの。それとも、嫌なのかしら?」

 「嫌じゃあ……ないけど……」

 「ならいいじゃないの。そっちの二人、任せるわよ」

 「そ、そんな……」

 「さてと、シンジ達三人はいいとして、相田君?」

 「え? まだ僕に何か?」

 「ええ、さっきのディスク回収したお詫びと言っちゃ何だけど、私の写真なら
 幾らでも撮らせてあげるわよ

 「え!?」

 『な、何だと!?』 (ゲンドウ)


 <つづく>


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