新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 拾六 どんどん・ドタバタ大騒動 ~ユイと愉快な仲間たち~

 - Gパート - (最終回)


 「私の写真なら幾らでも撮らせてあげるわよ」

 「え!?」

 『な、何だと!?』 (ゲンドウ)

 「でも、こんなおばさんの写真じゃ売れないわよね……」

 「そ、そんな事ありません! 売れます! 間違いなく売れます!
 おばさんだなんてとんでもないですよ」

 「ありがとう、相田君、じゃあ撮ってもらおうかしら」

 「はい、喜んで!」

 「母さん、止めてよ。恥ずかしいよ」

 「あらシンジ、私だって女よ。綺麗に撮ってもらいたいという欲求はあるのよ。
 まぁいいじゃない。じゃ相田君、お願いね

 「はい!」

 『なんておいしい展開なんだ……生きてて良かった

 と、ケンスケが感動している頃、ふすまの外では、ゲンドウがどこかに電話を掛け
 ていた。

 「私だ。第四次選抜候補の中に相田ケンスケという者がいる。ああ、ああ、そうだ。
 今私の家にいる。帰宅途中、一人になったら身柄を拘束せよ。その際、ビデオ及び
 ディスクは破棄しろ。最重要機密データが入っているからな……。ああ、そうだ。
 ……いや、消す必要はない。
 『そんな事をしたら私がユイに殺される』
 ……ああ、そうだ。単なる強盗の仕業に見せかければいい」

 それだけ告げると、ゲンドウは携帯を切る。

 部屋の中では、自分の身に何が起きるのかを全く知らないケンスケが、ディスクの
 容量限界までユイを撮り続けていた。

 そして、ケンスケが撮り終えたのを確認してから、ユイはミサトに話し掛けた。

 「最後になってしまったけど、葛城さん」

 「は、はい?」

 「母としての挨拶はさっき済ませたからいいとして……ちゃんとご飯食べて
 ますか?

 「…………あ、あははは……もちろんです」

 「ほんとですか、ミサトさん? なんだかペンペンの毛並みが悪い気がするんです
 けど……」

 「も、もちろんほんとよ。ね、ねぇアスカ、ほんとよね」

 「そ、そうよシンジ、私たちはちゃーんと暮らしてるわよ」

 「ほんとかなぁ……そうだ、トウジ達マンションに行ったんだろ?どうだった?」

 「どうだった、言われても……なぁ、ケンスケ?」

 「そうだね、本当の事言っていいのかどうか……」

 「ちょっと問題あるわね、あれは」

 「やっぱり……だめですよミサトさん、インスタントばかり食べてちゃ。コンビニ
 物でもいいですから、せめてお弁当を食べて下さいよ。それに、掃除や洗濯も……」

 「わ、分かってるって。そんなに心配しなくても大丈夫だから」

 「ふふふ、でも葛城さん、アスカちゃんはこれから覚えればいいとしても、葛城さん
 の歳で何もできないというのは問題ね」

 「ははは……すいません」

 「そうだ、シンジの面倒を見てくれたお礼に、私が色々と教えてあげるわ。練習
 しましょ」

 「へ?」

 「葛城さんだって一通りの家事ができるようになった方がいいでしょ」

 「そりゃ……まぁ……そうですけど……」

 「美味しい料理を作れば、加持さんもきっと喜んでくれるわよ

 「しかし……あいつは……」

 「そうね、確かに任務で外国に行ってて、なかなか会えないのは分かるけど、帰って
 来た時に手料理を食べさせてあげると、きっと喜んでくれるわよ」

 「え? し、しかしあいつは……もう……」 ひそひそ

 話の内容が内容なので、シンジ達に聞かれないようにそっとユイに耳打ちする。

 「あら、葛城さん、どこにそんな描写があったかしら?」 ひそひそ

 「へ? いや……あの……そんな一言で片付けちゃっていいんでしょうか?」

 「だって、銃声がしただけじゃない。大丈夫よ、ちゃんと生きてるわ。ほとぼりが
 冷めるまで姿を隠してるだけだから、そのうちに会えるようになるわ」

 「……ほんと……ですか…………あいつ……生きてるんだ……」

 「ええ、本当よ。だから、再会のためにも、美味しい料理を作れるようになりま
 しょう」

 「はい!」

 「じゃあ早速今日から練習しましょうね」

 「はい、よろしくお願いします」

 ミサトは加持が生きている事が余程嬉しいらしく、満面の笑みを浮かべていた。

 「アスカちゃんはどうする? 一緒に練習する?」

 「わ、私は……」

 「練習しないの?」

 「…………」

 「じゃあ、いい事教えてあげる」

 「え?」

 「最近レイちゃんがね、お料理の勉強始めたの。そして作った料理をシンジに食べて
 もらってるのよ。シンジが美味しいって誉めると、とても喜んでるのよね~」

 「わ、私、練習します! シンジが好きな物教えて下さい!」

 「ええ、その意気よ。毎日習いに来てもいいから頑張りましょうね」

 『毎日……毎日シンジに会える……毎日……頑張らなきゃ』

 「お母さん……」

 「あら、いいじゃないレイちゃん」

 「……でも……」

 「ふふ、レイちゃん、私は応援はするけどひいきはしないわ。それに、ライバルが
 いた方が自分を磨く事ができるし、自分のためになるのよ。それとも、戦う前から
 負けを認めちゃうの?」

 「そんな事ありません! 私、頑張ります!」

 「ええ、良く言ったわ。それでこそレイちゃんね。それと、シンジも、好かれてる
 からって安心しちゃだめよ。いい男にならないとふられちゃうわよ」

 「う、うん。分かってるよ母さん」

 「ええ、いい返事ね。さてと、それじゃあ皆さん、聞いての通り、今日はたくさん
 お料理ができるので、食べていって下さいね」

 「え、いいんですか?」

 「迷惑なんとちゃいます?」

 「こんなにたくさんいるのに……」

 「もちろん迷惑なんかじゃないわよ。私は大勢で食べる食事って大好きなの。心配
 しなくても、私がちゃんと美味しい料理に仕上げてみせるから、安心して下さいね」

 「はい、それじゃあご馳走になります」

 「すんまへん」

 「ありがとうございます」

 ケンスケ、トウジ、ヒカリがお礼を述べると同時に、我慢できなくなったゲンドウが
 部屋に飛び込んでくる。

 『これ以上ユイと二人きりの時間を邪魔されてはたまらん』

 「ユイ、葛城君達にも予定というものがあるだろう。無理に誘ってはいかん」

 「あらあなた、盗み聞きしてたんですか? あまりいい趣味じゃありませんね」

 『お前が言うか……?』

 と思っても口にはできないゲンドウであった。

 「とにかく、人の予定を勝手に決めるのはいかん」

 「あら、あなたがそれを言います?」

 こちらははっきりと口にするユイであった。力の関係が一目瞭然である。

 「葛城君」

 「あ、はい、何でしょうか?」

 「妻が強引に話を進めて迷惑を掛けたようだが、君にも予定があろう。無理に付き
 合う事はない。色々と忙しいだろうからな」

 「い、いえ、私は迷惑だなんて少しも……むしろ感謝しています」

 「忙しいな、葛城君」 ギロリ

 「う……」

 「あなた!! 人様の予定を勝手に決めてはいけないと自分で
 言ったところでしょう! 私は葛城さんに提案しただけだし、
 葛城さんも自分で練習したいって言ってるのよ! どこに問題が
 あるんですか!? それに、シンジのお友達がせっかく訪ねて
 来てくれてるんですから、もてなすのは当然です!」

 「し、しかしな、ユイ……」

 ゲンドウは完全に圧倒されていた。

 「碇、何を騒いでいる?」

 「ふ、冬月!? な、なぜここに!?」

 「ユイ君に頼まれてな、十一年の間に更に屈折したお前の性格を直してくれ、とな」

 「冬月先生、お忙しいところを無理に来て頂いたのに、お出迎えもしませんで申し訳
 ありません。少したて込んでたものですから……」

 「なに、気にしてないよ。ユイ君の手料理が食べられるとあらば、どこにでも出掛け
 るさ」

 「まぁ、先生ったら、お上手ですこと」

 「さて碇、夕食までにはまだ時間がある。ゆっくりと話し合おうじゃないか。お前
 の性格を直しきれなかったのは、私にも責任があるし、何よりユイ君の頼みとあらば
 尚更だ」

 「ふ、冬月……目が恐いぞ……

 「当然だ。今日の俺は甘くはないぞ」 じろっ

 「ふ、冬月……先生……」

 「お前とて、ユイ君に嫌われたくはあるまい。さ、行くぞ、碇。お前の部屋はこっち
 か?」

 そう言って、冬月はゲンドウを引っ張っていった。

 「さすがは冬月先生、頼りになるわ。さーて、うちの人は冬月先生に任せて、早速
 お料理の練習を始めましょう」

 「はい、ユイさん。よろしくお願いします」

 「ええ、葛城さん。頑張りましょうね」

 「はい」

 「それじゃあシンジ、私の料理の先生、よろしくね」 (アスカ)

 「え?」

 「私は今まで料理なんて作った事ないから、手取り足取り、親切に教えてね」

 「そりゃ……いいけど、母さんに教えてもらうんじゃなかったの?」

 「何言ってんのよ。あのミサトに料理を教えるのよ。ミサト一人で精一杯
 だろうから、私はシンジに頼んでんじゃないのよ」

 「ちょっとアスカ、どーいう意味よ!?」

 「そのまんまの意味よ。シンジが出てってからミサト、一度でもまともな料理
 作った?

 「。そう言われると……」

 「でしょ。だから私はシンジに教えてもらうの」

 「大丈夫よ。お母さんはお料理の天才だし、とっても教え方がうまいの。いくら
 葛城さんが不器用でも、あなたと同時に教える事はできるわ」

 「うう、レイまで……」

 「つまり、あんたは私がシンジと一緒に料理の勉強するのが嫌だって事ね」

 「ええ、そうよ。お兄ちゃんは私と一緒にお料理を作るの。あなたとじゃないわ」

 「なに勝手に決めてんのよ!」

 「だって……お兄ちゃんは私のだもの……

 「……あんたね、単語が入れ替わってるわよ。『私のお兄ちゃんだもの』ならまだ
 見逃してもいいけど、今の言い方は気に入らないわね」

 「別に単語を入れ替えたつもりはないわ。お兄ちゃんは私の、私はお兄ちゃんの
 もの」

 「だめよ、そんなの私が認めないわ。シンジは私に料理の作り方を教えるの。そして、
 私が料理を覚えてシンジに食べさせるの。これから、ずーーーっとシンジは私の
 料理を食べて生きていくの」

 「だめ。お兄ちゃんの食べる料理は全て私が作るの。一生私が作るの。そして、
 私が食べさせてあげるの

 そう言って、レイはその光景を思い浮かべる。

 「なに自分の世界に浸ってんのよ! シンジに食べさせるのは私
 なの! あんたは引っ込んでなさい!」

 「させない」

 「はいはい、二人とも仲がいいのは分かったから、仲良くシンジに教えてもらって
 ね。いいわね、シンジ?」

 「僕は構わないけど……母さんは?」

 「私は葛城さん一人に集中しようと思ってね。もちろん、三人とも教える事もできる
 けど、レイちゃんやアスカちゃんはシンジと一緒の方が喜ぶみたいだし、シンジ
 だって嫌じゃないでしょ?」

 「う、うん」

 「じゃあ、早速始めましょ」

 「あ、私もお手伝いします」

 「せやな、ご馳走してくれるんやから、なんぞ手伝わんといかんな」

 「何でも言ってください、手伝いますから」

 「あら、みんな優しいわね。じゃあみんなで作りましょうか。大勢で何かするって
 とても楽しい事だしね」

 『ふふふ、最近楽しい事ばかり。十一年分取り返さないとね。そうだ、葛城さんと
 加持さんの再会を演出してあげようかしら……きっと喜ぶわね……。シンジ達の
 事も面白くなりそうだし。ああ、生きてるって素晴らしいわ』

 と思いながら、ユイはシンジ達全員を連れてキッチンへと向かった。



 お祭り女、ユイ。

 彼女にかかれば、全ての人達は手のひらの上で遊ばされているようなもの。
 しかも、悪意がないときている。

 事実上、ネルフの指揮権はユイに移っているので、ユイさえ無事なら、世の中は常に
 平和が保たれる事であろう。


 ユイの最強伝説が、今、始まった。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 拾六

 どんどん・ドタバタ大騒動 ~ユイと愉快な仲間たち~ <完>


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