新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 拾六 どんどん・ドタバタ大騒動 ~ユイと愉快な仲間たち~

 - Eパート -


 「どうだね? 悪い話ではあるまい」

 「そうですよね、やっぱり男の子はいつまでも親元でぬくぬくと
 暮らしてちゃいけませんよね」

 『シンジ君、これはシンジ君の自立のためなのよ……』

 「やはり君もそう思うかね?」

 「はい、もちろんです」

 「では早速手続きを進めておこう。あ、それと葛城君、今回の話、私は反対したの
 だが、作戦部長の君が、作戦上パイロット三人をまとめておくため、どうしても
 必要だと強引に引き取った、という形にしておく」

 「そ、それはズルいのでは……」

 『そんな事されたら、私、ユイさんに殺されるのでは……』

 問題ないな、葛城君」

 ギロ とゲンドウはミサトを睨みつける。

 「は、はぁ……。わ、分かりました」

 「うむ。分かればいい」

 「あら。あなた、何のお話?」

 「ユ、ユイ!? い、いや別に……た、ただの業務連絡だ……」

 いきなりユイが現れたので、ゲンドウは思いっきり慌てていた。

 「と、ところでユイ、どうしてここに……」

 「お茶を皆さんに出そうと思って入れ直して来たんです。あなたもどうです?
 お一つ」

 「う、うむ、もらおう」 ゴクゴク

 「どうですか?」

 「……ぬるいな」

 「どういう事か、お分かりですよね?」 にっこり

 その笑みを見て、ゲンドウは真っ青になってしまう。

 つまりユイは、お茶が冷えるまで先ほどの話を全て聞いていた……と言っている
 のである。

 「か、か、葛城君。き、君の提案だが、父親として認めるわけにはいかん。子供は
 親元で暮らすのが当たり前だからな。で、では失礼する」

 そう言って、ゲンドウは自分の部屋まで逃げ帰ってしまった。

 「あ、碇司令、ずるい

 「葛城さん」

 「は、はい。す、すみません」

 「ごめんなさいね」

 「は?」

 「うちの人がバカな事言ってしまって……。ほんと、ああいう上司を持つと苦労
 するでしょうけど、これからも懲りずに支えてあげて下さいね」

 「は、はい。もちろんです」

 ミサトは、とりあえず怒られずに済んだ事を神に感謝していた。なぜなら、あの
 ゲンドウの慌てぶりから、ますますユイの力に恐れをなしているからである。
 実際、背中は脂汗でびっしょりとなっていた。

 「まったく……あの人にも困ったものね。いつまで経っても子供なんだから……。
 ま、そこが可愛い所でもあるんだけど……」

 『あ、あれが可愛いとは……。さすがユイさん、無敵だわ』

 「一度冬月先生にきつくしかってもらわないといけないわね……。あ、そうだ、
 葛城さん」

 「は、はいっ?」

 「お茶、もう少し待って下さいって皆さんに伝えておいて下さる?」

 「い、いえ、お手伝いさせて頂きます」

 「そんな、お客様にそんな事させられません」

 「いえ、ぜひお手伝いさせて下さい、お願いします」

 「そうですか、ならお願いしようかしら」

 「はい、喜んで」

 『ユイさんに取り入った方が絶~~対得だわ。もう碇司令はダメね』

 こうして、ますますゲンドウの威厳は落ちていった。

 こんなやりとりが、ふすま一つ隔てた廊下で繰り広げられていたとは知らず、レイと
 アスカは再び不毛な戦いを続けていた。

 しかし、お茶を持ったユイとミサトが部屋に入って来ると、二人ともピタっと静かに
 なってしまう。やはり、将来自分の母親になるかも知れない人の前ではおとなしく
 なってしまうらしい。


 その後、ユイはこれまでのいきさつをみんなに話し始めた。もちろん真実ではなく、
 ネルフが発表したシナリオなのだが……。

 そして、身寄りの無かったレイを引き取り、シンジの妹として一緒に暮らし始めて
 いる事など、トウジ達の聞きたかった事を全て話した。

 「……という訳なの。分かって頂けたかしら?」

 「は、はぁ……」

 「良く分からなかったかしら? 分からない所はどんどん質問してね」

 「い、いえ、良く分かりました」

 「そう? 良かった。それじゃあ、今度は私が質問していいかしら?」

 「え?」

 「さっきも話したように、私は事情があってシンジと一緒に暮らす事ができなかった
 から、シンジのお友達の事を何も知らないの。だから色々と聞きたい事があるの。
 いいかしら?」

 「ワシは別に構いませんけど」 (トウジ)

 「僕も別にいいですよ」 (ケンスケ)

 「私も構いませんけど」 (アスカ)

 「私もいいですよ」 (ヒカリ)

 「ありがとう。それじゃあ……あなたがアスカちゃんね」

 「は、はい」

 「アスカちゃんと一緒に暮らしてたおかげで、人付き合いの苦手だったシンジが
 随分と明るくなれたみたいだし、ほんとにアスカちゃんには感謝してるわ」

 「い、いえ、そんな……私の方こそ迷惑ばかり掛けて……」

 「どうしたのアスカ? アスカがそんな事言うなんて、何か悪い物でも食べたの?」

 「う、うるさいわねバカシンジ!」

 「あ、いつものアスカだ」

 「あ」

 アスカは慌てて口を塞ぐ。

 「ふふ、いいのよアスカちゃん、無理しなくて。私は元気な女の子って好きだから
 隠す事ないのよ」

 「は、はい……」

 「ところで、私の知る限りでは、シンジとの間ではキス止まりでしょ? あれから
 二人の仲に進展あったのかしら?

 「え?」
 
 「か、か、母さん! 何言ってんだよ!?

 「何やてー! シンジお前!?」

 「いつの間に!?」

 「ふ、不潔だわ!」

 「なんだアスカ、ちゃんとやる事はやってたのね」

 「…………」

 「ちょ、ちょっとバカシンジ! 何でそんな事までお母さんに話す
 のよ!? 信じらんないわねまったく……」

 「話すわけないだろ!」

 「じゃあ、何でお母さんが知ってるのよ!? シンジと私しか知ら
 ないはずの事よ!」

 「だ、だから……その……詳しくは言えないけど、母さんはちょっと前までの僕と
 レイの記憶を全部持ってるんだよ。だから話さなくても全部知ってるんだよ」

 「そ、そんな事って……」

 「ふ~~ん。すると、シンジ君とキスしたってのは本当なのね。何にもないって
 言ってたのにね~~~。ふ~~ん

 「な、何よミサト、こんな事、人に言う事じゃないでしょ」

 「ま、そりゃそうだけど。でもアスカ、どうせならもう一歩踏み込んどけばシンジ君
 だって……」

 あ~~~っ!! な、何言ってんのよミサト!」

 アスカは慌ててミサトの口を塞ぐ。このまま喋らせると何言い出すか分からないので
 アスカも必死である。

 一方、その頃、レイはというと……

 「お兄ちゃん、本当? 本当にあの人とキス……したの?」

 「え? あ、あの、その……」

 「そうよファースト、私とシンジはキスした事あるのよ」

 アスカは勝ち誇ったようにレイを見る。

 「……くすん」

 うわぁー!! レイ、泣かないで! お願いだから泣かないで!」

 「……もうしない?」

 「え?」 「な!?」

 「もう、アスカとキスしないと約束してくれる?」

 「え……そ、それは、その……」

 「ちょっとファースト! 何言い出すのよ!?」

 「……くすん」

 「し、しない! しない! もうしないから! だから泣かないで
 お願い!」

 「うん。なら許してあげる」

 「ほんと? 良かった~」

 「くぉら、ぶわぁかシンジ! あんた何でそんな約束するのよ!?
 取り消しなさい!」

 「ええ?」

 「……どうして? あなたお兄ちゃんとまたキスしたいの?」

 「そ、そんな訳ないでしょ!

 「ならいいじゃない」

 「うるさいわね。あんたには関係のない事でしょ! 無理矢理そんな
 約束させてんじゃないわよ!」

 「関係あるわ、お兄ちゃんは私の。あなたには渡さない」

 そう言って、レイとアスカは再び臨戦態勢に入る。

 「……しかし、あの惣流がシンジとキスしとったやなんて意外やなぁ~」

 「そうだね、あんなに仲が悪かったのに……」

 「アスカと碇君が……そんな関係だったなんて……」

 「やっぱりどんなに仲が悪くても、一緒に暮らしてるとそういう関係になってしまう
 ものなのかな……。するとシンジ、次はやっぱり血の繋がらない妹ってパターンか?
 やっぱり危ない奴だな

 「違うって言ってるだろ!」

 「ふふふ。大丈夫よ相田君、シンジとレイちゃんは一緒に暮らし始めてから、残念
 だけど特に何もないわよ。レイちゃんのムネを触ったのはまだ別々に
 暮らしてた頃だしね

 「か、かぁさん……」

 シンジは思いっきり情けない声を出す。

 「どういう事よシンジ! やっぱり相田の言うように危ないヤツ
 なの!?」


 結局、こうなるのか(笑)


 <つづく>


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