新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 拾六 どんどん・ドタバタ大騒動 ~ユイと愉快な仲間たち~

 - Dパート -


 「魔法の呪文?」

 「そ、簡単な言葉なのに効果は最大よ。

 あなたが好きです

 この一言でいいんだから、簡単でしょ」

 「う…………」

 「ちょっとだけ勇気が必要だけどね」

 「で、でも……」

 「ん~~迷ってる場合じゃないと思うんだけど……。そうだアスカ、この際、シンジ
 君と既成事実作っちゃえば?」

 「な、何言ってんのよ!? それが中学生に薦める事!?」

 「もちろん、普通ならそんな事薦めたりしないわよ。でも、今は緊急事態でしょ。
 このままシンジ君とレイが深い仲になってもいいの? それこそ取り返しの付か
 ない事になるわよ。だから、そうなる前に手を打つのよ。恋は先手必勝よ。アスカ
 にその気があるのなら、私が色々手配してあげるわよ。どうする?」

 「…………ミサト、どうしてそんなに協力的なのよ?」

 「そりゃあもちろん、可愛い同居人の幸せの為よ」

 「……要するに、私をダシに使ってシンジに戻って来て欲しいだけ
 なんでしょ」

 「あ、分かった? でもいいじゃない、二人の利害は一致してるんだから。私は
 全面的に協力してあげるわよ。アスカだってそれでシンジ君が戻って来てくれる
 んなら、安いもんでしょ?」

 「…………う、うん」


 ……と、こんな事をミサトとアスカが話し合っている頃、レイは女の直感で何かを
 感じ取ったのか、防衛本能でシンジの腕にしがみ付く。

 「、レイ?」

 「こ、こらファースト! 妹以上の行動するんじゃないって言った
 でしょ! 離れなさい!」

 「どうして? お兄ちゃんと妹が仲良くするのはいい事よ。何も問題ないわ」

 「あんた達の場合は問題あるのよ! だいたい、兄妹が仲良く手を
 繋いだり、一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりしていいのは
 子供の時だけなの! そんなの常識じゃないの!!」

 「私、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たりなんてしてない」

 (……手は繋いでいるらしい……)

 「当ったり前でしょ! そんな事してたらそれこそ大問題よ。そういう
 事は血の繋がりも戸籍上の繋がりも何もない、赤の他人のする事
 なのよ!!」

 「例えばシンちゃんとアスカとか」

 「そうよ。私とシンジなら何の問題もないのよ」

 「あ、アスカ?」

 「………………だめ」

 「おおおおお~~~!!」 (その他)

 「え? ……あ、ちょ、ちょっとミサト! 何言わせるのよ!?

 アスカは恥ずかしいのか怒っているのか、真っ赤になっていた。

 「あら、私はアスカの心を代弁してあげただけだわ。それに、今のがアスカの本心
 なんでしょ? 言えて良かったじゃない」

 ううう…… (真っ赤)

 ミサトに冷やかされ、アスカは更に赤くなってしまう。ついでにシンジも赤くなる。

 『アスカはお兄ちゃんと一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり
 するのを企んでいる』

 そう思ったレイは、シンジとアスカの間に入り、両手を広げアスカを睨み付けた。

 「な、何のつもりよ、ファースト?」

 「お兄ちゃんは私が守る

 「何よ、私が使徒みたいにシンジを攻撃するとでも言うの?」

 「使徒の方がまだまし。使徒はお兄ちゃんとお風呂に入ったり、一緒に寝ようなんて
 思わないもの」

 (……いや、そういう使徒がいたような気もする……)

 「なんですって~!?」 (アスカ)

 「お兄ちゃん、心配しないで、私が絶対にこの人から守ってあげる。お風呂も、布団
 の中も、いつも一緒にいて守ってあげる

 「えええっ!?」

 「なんでそうなるのよ!?」

 「だって、私がいつもそばで守ってればお兄ちゃんは安全だもの」

 「バカな事言ってんじゃないわよ。あんたといる方がよっぽどシンジの身が危ない
 わよ。……ともかく、そんな事絶対に許可しないわよ」

 「あなたの許可は必要ないわ」

 「うるさい! ダメなものはダメなの!」

 二人は一歩も引かず睨み合っていた。そして、シンジはいつものように、どうして
 いいのか分からず、ただオロオロしている。



 「……なぁ、ケンスケ」

 「んー、なに、トウジ?」

 「ワシら、セリフ少ないんとちゃうか?」

 「仕方ないよ。ヒロイン二人がシンジを取り合っている場面で僕たちがどうこう
 できるわけないし。作者のヤツだって、ついさっきまで僕たちの事忘れてたくらい
 だからね」

 「いい加減なやっちゃな」

 「委員長も何か喋っておかないと存在を忘れられるよ」

 「そう言われても……何だかアスカも本気みたいだし……。私だってどう言って
 いいのか……。ここはやっぱり、大人のミサトさんに何とかしてもらうしか……」

 ヒカリはそう言ってミサトを見る。しかし、ミサトは心底この状況を楽しんでいる
 ようだったったので、ヒカリは事態の収拾を諦めてしまった。

 『んふふふ~~~。やっぱり、この子たちはからかいがいがあるわね~。さすがに
 ネルフ内ではそんなにからかえないから十日ぶりね~。ん~~~やっぱりいいわ
 ね~。私の人生の楽しみの半分を占める事だものね。あ~あ、毎日これが見られ
 るユイさんがうらやましいなぁ~~~』

 と、ミサトはそんな事を考えていた。ちなみに、楽しみの残り半分は酒を飲む事
 である事言うまでもない。


 そして、ミサトがうらやましがっているユイはというと……随分前からふすまの
 向こうにいたりする。

 そして、そこにゲンドウがやって来た。


 「……ユイ、そんな所で何をしている?」

 「あら、あなた。いえね、お茶を持って来たんだけど、中で話が盛り上がってる
 みたいなので、入るタイミングを見計らってるんですよ」

 「タイミング?」

 「ええ、話のこしを折るわけにもいかないし……。これが結構難しいんですよ」

 「盗み聞きしてるようにしか見えんが……」

 「あら、それはあなたの考え過ぎですよ」

 「そうか……しかし、そんな冷えたお茶を持って行けば、盗み聞きしてたと思わ
 れても仕方ないのではないか?」

 「あら、私とした事が……。すぐに入れ直さなくっちゃ」

 そう言ってユイはキッチンに入っていった。ゲンドウはそれを見届けた後、ふすまを
 開ける。

 ユイの尻に敷かれ、威厳が地に陥ちたとはいえ、ユイ以外の人物に対しては相変わ
 らず見下したような態度を取るので、部屋の中は一気に静かになる。

 「葛城君、少し話がある。こちらに来たまえ」

 「は、はい」

 ミサトがゲンドウの元に来ると、ゲンドウは話をシンジ達に聞かれないように、
 ふすまを閉めてしまう。

 「碇司令、話とは一体何ですか?」

 「うむ。話というのは他でもない。シンジが出て行ってから君達の暮らしは随分と
 荒んでいると聞いているが、そうなのかね?」

 「い、いえ、そのような事は……」

 「葛城君、上司に嘘はいかん」

 「は、はぁ……。申し訳ありません」

 『このオヤジ……諜報部でも使って調べたわね。まったく何考えてんだか……』

 「うむ、分かればいい。……そこでだ。葛城君、再びシンジと一緒に暮らしたく
 はないかね?」

 「え? そりゃあまぁ、シンジ君が戻ってきてくれれば色々と助かりますけど……」

 「そうか、ならばそうしたまえ」

 「え? で、でも、せっかく両親と一緒に暮らしてるのに、シンジ君が今さら私たち
 と一緒に暮らすとは思えませんが……」

 「葛城君、私はね、『男たる者、いつまでも親元でぬくぬくと育っていてはいかん』
 と考えている。そう思ってシンジにはきつく接して来たのだ。だから、再び葛城君
 の元に預けようと思っているのだ」

 「は、はぁ……。でもシンジ君が嫌がるのでは……」

 「何、心配はいらん。シンジもレイが一緒に行くとなれば、そんなに反対も
 しないだろう」

 「え? レ、レイまで私が引き取るんですか?」

 「無論だ」

 「し、しかし、四人で暮らせるほど私の家は広くありませんし……。まさか壁に穴
 開けるわけにもいけませんから……」

 「心配いらん。部屋はネルフで用意させる」

 「は、はぁ……」

 『……このオヤジ、そんなにシンジ君やレイが邪魔なのかしら? せっかく二人とも
 家族で暮らせる幸せを手にしたってのに……。ユイさんと二人っきりになるため
 なら、子供の事なんてどうでもいいってわけ? この私がそんな悪魔の計画に加担
 するとでも思ってるのかしら?』

 「……ちなみに、シンジ、レイ、アスカの食費などの養育費は当然支給するし、
 葛城君の給料及び有給休暇、ボーナスは来月から二倍になる」

 『まったく、この私がそんなもので買収されるとでも…………でも給料二倍……
 有給休暇二倍……ボーナス二倍………………………………。
 ……シンジ君が戻ってくれれば確かに助かるし……碇司令の言うように、レイが
 いるならシンジ君も文句は言わないかも……。アスカも、レイが来たとしても、
 シンジ君が戻ってくるのなら納得するかも……。レイはシンジ君がいればどこでも
 いいだろうし……』

 「どうだね? 悪い話ではあるまい


 果たして、ミサトは金で買収されてしまうのか!?


 <つづく>


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