新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾伍 ハッピーバースデイ・シンジ (True)

 - Aパート -


 シンジ、レイ、アスカの三人は、いつものようにハーモニクステストを終え、ネルフ
 を後にした。

 そんな中、レイはシンジ達と別れた後、何か気になる事があるのか、一人ネルフに
 戻り、ミサトの執務室の前にやって来た。

 しかし、その扉には『不在』と記されていた。

 『いない……赤木博士の所?』

 そう思うと、レイはリツコの研究室へと向かった。

 コンコン

 「はい、どうぞ」

 「失礼します」

 そう言って、レイは部屋の中に入った。思った通り、ミサトはリツコの所にいた。

 「あら、レイじゃない、どうしたの? 今日はもう何のテストも無いわよ」

 「何か忘れ物でもしたの?」

 「葛城三佐に聞きたい事がありまして……」

 「私に? 何かしら?」

 「今日、碇君何かあったんですか?

 「シンジ君? どういう事?」

 「テストが終わった後、碇司令とすれ違ったんですが、その時碇君とても悲しそう
 な顔してたから、何かあったのかと思って……」

 「碇司令に何か言われたの?」

 「いえ、碇司令はいつものように、私たちの方を見ようとせずに横を通り過ぎただけ
 でした」

 「確かにいつもの通りね。シンジ君だって今さらそんな事くらいで落ち込んだりは
 しないだろうし……。何が原因かしら……」

 「でも確かに今日のシンジ君はシンクロ率がいつも程上がらなかったわね。何か気に
 なる事があって集中できないみたいだし…………あ、ひょっとして

 「何、リツコ? 何か心当たりでもあるの?」

 「ちょっと待ってて、確か今日は……」

 そう言ってリツコはキーボードを叩く。

 「……やっぱり、今日六月六日はシンジ君の誕生日なのよ」

 「あ、それでか」

 「? どういう事ですか?」

 「つまりね、今日はシンジ君の十五歳の誕生日なのよ。で、シンジ君としては、普段
 あんな父親でも、自分の誕生日くらい何か言ってくれるだろうと思って期待してた
 のよ。にもかかわらず、何一つ父親らしい言葉を掛けてくれなかったから、期待が
 大きかった分、落ち込んでるのよ」

 「その期待と不安からシンクロ率が伸びなかったのね、きっと」

 「そうだったんですか……」

 「それにしてもひどい父親よね。一人息子の誕生日なんだから祝ってあげればいい
 のに」

 「それができない不器用な人なのよ」

 「でも父親としての役割ってもんがあるはずよ。最低限、父親の役割は果たさなきゃ
 だめよ」

 ミサトもシンジ同様、父親に対して複雑な思いがあるので、シンジの気持ちが痛い
 ほど良く分かっていた。そのため、ゲンドウの態度にはかなり頭にきていた。

 「それで、シンジ君はどうしたの?」

 「惣流さんに叩かれながら帰りました」

 「アスカに叩かれながら?」

 「はい。『暗い!』とか言ってました」

 「はは。アスカらしいわね。もうちょっと、レイのようにシンジ君に優しくして
 あげてもいいのに」

 「でもレイが人の心配なんて珍しいわね。結構優しい所があるのね。見直したわ」

 「わ、私はその……碇君が元気なかったから……どうしたのかと
 思って……」

 ミサトとリツコに優しいと言われ、レイは珍しく動揺していた。

 「あ、そうだ。ここは一つ、ぱぁ~っ! とシンジ君のために
 バースデーパーティーを開いてあげよ~っと!」

 「あら、いいわね。私も今日はもう仕事ないから参加させてもらうわ」

 「バースデーパーティー?」

 「そ、みんなでシンジ君の十五歳の誕生日を祝ってあげるの。おいしい物やケーキ
 食べたり、プレゼント渡したりするの。楽しいわよ、レイも来るでしょ?」

 「え、私も? ……いいんですか?」

 「もっちろんよ。レイが来るとシンジ君だって喜ぶしね」

 「……なら……そうします……」

 『シンジが喜ぶ』 そうミサトが言うので、レイは参加する事にした。

 「よーし、ここはシンジ君のために、この私が久し振りに特製カレーをご馳走
 してあげよーっと!

 「……ミサト、シンジ君のためを思うのなら、それは止めておいた方がいいわよ。
 だいいち、ミサトが料理作るんなら私行かないわよ」

 「何よリツコ、どういう意味よ?」

 「気にしなくていいわ、そのまんまの意味だから。だいいち、シンジ君の事だから
 もう食事の準備始めてるんじゃないの?」

 「え? あ、もうこんな時間なんだ」

 「『料理を買って帰るから夕食の準備をしなくていい』って連絡しておく?」

 「う~ん……でもいきなりパーティーを開いて驚かせてあげたいし……。今日は
 ケーキとフライドチキンくらいにしておくか」

 「ええ、それがいいわ。私も久し振りにシンジ君の作る料理を食べてみたいしね」

 「それじゃレイ、先に行っててくれる? 私たちはもう少し書類の整理とかあるし、
 ケーキとか買って帰るから少し遅くなるから」

 「はぃ、分かりました。失礼します」

 そう言って、レイは部屋を出ていった。


 「ありがとリツコ、忘れる所だったわ」

 「しっかりしなさいよ、保護者なんだから」

 「ほんと、感謝してるわ。私まで忘れてたら、シンジ君 とことん落ち込んじゃう
 もんね」

 「シンジ君、立ち直るの遅いものね。それにしても、レイにしては意外な反応ね。
 シンジ君の事心配してるんだ、と指摘されたら動揺してたし、レイが来ればシンジ君
 が喜ぶって言えば嬉しそうにしてたし……。あれじゃぁまるで、恋する乙女
 反応ね」

 「恋する乙女なんじゃないの? レイだってお年頃なんだし」

 「レイがねぇ……ところでミサト、いいの? レイを先に行かせて」

 「え? 何が?」

 「何が? じゃないわよ。レイが先に行けば、パーティーするのがバレるわよ。
 驚かせるんじゃなかったの?」

 「あ、そっか。レイの事だから、気を利かせてパーティーの事を話さないって事は
 ないだろうし、だいいち、用も無いのにうちには来ないし……」

 「どうする? 私たちの仕事が終わるまで待っててもらう? 今から追いかければ
 間に合うわよ」

 「う~~ん……でもレイに悪いし……しょうがない、今日は喜ばせてあげるだけに
 するか」

 「そうね、祝ってあげる事が一番大事なんだしね。さ、私たちも早く仕事を終わらせ
 ましょう」

 「ええ、そうね。さっさと終わらせてぱぁ~っと騒ぎましょう」

 そう言って、二人は今日のテストの報告書などを作成していた。


 その頃、シンジは……。


 「はぁ~……なんだよ父さん、今日くらい何か言ってくれたっていいのに……。
 もしかして僕の誕生日なんて忘れてるのかなぁ~……はぁ~~~

 と、今日何度目かの大きなため息をつく。

 ちなみにアスカはというと、

 『あ~もう! 暗いわね! ヒカリの家に遊びに行ってくる! 晩
 ごはんいらないから!』

 と言って出ていってしまったので、ここにはいなかった。賑やかなアスカがいれば
 だいぶ気も紛れるのだが、一人っきりになったため、ひたすら暗くなっていた。

 そんなシンジの背中をペンペンが突ついた。

 「ん? なに、ペンペン?」

 シンジが振り向くと、ペンペンはくわえてきた魚をシンジの前に置いた。

 「え……と……くれるの?」

 シンジがそう聞くと、ペンペンは大きくうなずいた。

 「……ありがと、ペンペン。そうだね、父さんがあんなのは今に始まった事じゃ
 ないし、ミサトさんが帰ってくるんだから夕食の準備しなくちゃいけないし……
 落ち込んでる暇はないか

 「クゥ~」

 その通り、といった感じでペンペンはうなずいた。

 「さて、夕食の準備でもするか。ペンペンにはご馳走作るから期待しててね」

 『ご馳走』

 そう聞いて、ペンペンは目を輝かせていた。

 ……しかし、ペンペンにとってのご馳走って何だろう? ……謎だ。


 ちょうどその頃、チャイムが鳴った。

 「ん? 誰だろう……はーい、今出ます」

 そう言って扉を開ける。

 「あれ? 綾波、どうしたの?」

 「あの……お……お……

 「ん?」

 「お誕生日おめでとう」


 <つづく>


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