新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾弐 2年A組・お弁当決戦!

 - Cパート -


 「私、ばかな事を言って、碇君を傷つけてしまった……。碇君、きっと私の事嫌いに
 なる……。嬉しかったのに……素直に喜べば良かったのに……。私は……私は……」

 レイは、今にも泣き出しそうになっていた。


 「いいよ、綾波。僕が勝手な事したのがいけないんだ」

 「そんな事ない。碇君は何も悪くない。悪いのは私……」

 「綾波、僕は本当に気にしてないから。だから、そんな風に言わないで。ほんとに
 気にしてないから」

 「ほんと……。碇君、怒ってないの……?

 「うん、ほんとだよ。それじゃあ、明日からも作ってきていいの?」

 「うん、ありがとう。嬉しい……。本当にありがとう……」

 「……あの、それじゃぁさ、好きな物とか嫌いな物を教えてくれないかな? 僕、
 綾波の好み、殆ど知らないから……」

 「いいの。碇君が作ってくれるのなら、何でも食べるから」

 「え? でも、肉嫌いなんだろ?

 「いいの、嫌いなだけ。食べられないわけじゃないから平気」

 「そう? じゃぁ少しずつ入れてみるから。でも、嫌なら気にしないで残してくれ
 ればいいからね」

 「ありがとう碇君……ありがとう……ありがとう。本当に嬉しいの……。とても
 嬉しい……ありがとう」

 レイはとても嬉しそうに、本当に嬉しそうにシンジを見ていた。

 そして、シンジも、そんなレイから目が離せずにいた。


 「……アスカ、ねぇ、アスカってば……

 何よっ!?


 「え? あ、あの、アスカ?」

 あ! ご、ごめん、ヒカリ! 何?」

 「うん。碇君って本当に優しいのね。それに、綾波さんもあんなに嬉しそうにして
 る」

 「……それにしてもボキャブラリーの少ない女ね。『ありがとう』しか知ら
 ないんじゃないのかしら?」

 「でも、普段極端に無口で無表情の綾波さんが、あんなに感情を込めて言ってるん
 だから、本当に嬉しいんでしょうね」

 「…………」

 「ねぇアスカ、いいの?」

 「しょうがないじゃないの。シンジが勝手にファーストの弁当を作るって言うん
 だから。私からやめろって言うわけにはいかないわよ」

 「そうじゃなくて、綾波さんの事」

 「え、どういう事?」

 「だから、綾波さん、あんなに喜んでるでしょ。そのうち、自分でも碇君にお弁当
 作ろうとするんじゃないのかな、と思って」

 「まさか! ヒカリの考えすぎよ。ファーストがそんな事まで考えるとは思え
 ないし、料理なんてできないだろうし」

 「そんな事ないわよ。この前の調理実習の時、綾波さんちゃんと作ってたわよ」

 「嘘? この前の調理実習って、私がスプリンクラー作動させちゃった時?」

 「ええ、結局食べられなかったから分からないけど、見た目はちゃんとできてた
 わよ」

 『嘘!? ファーストが料理作れる? シンジに弁当を作る? 嫌! そんなの
 嫌!!

 「ねぇアスカ、私ね、おかずのレパートリー増やそうと思って料理の本買ったんだ。
 だからアスカも一緒に料理の勉強しない?」

 アスカは、ヒカリの何気ない優しさが嬉しかった。

 普段なら、意地を張って、『何で私がそんな事を!?』と言う所だが、今は
 そんな事を言っていられる状況ではなかった。

 「でも、私にできるのかな……」

 「大丈夫よアスカ。料理なんてちょっとしたコツを掴めば簡単なんだから。きっと
 すぐに作れるようになるわよ」

 「そ、そうよね。何しろ私は大学を出てる天才なんだから。天才が努力するんだ
 もの。できない事なんて何もないわ」

 「その意気よ。頑張って、アスカ!

 「ふっ ふっ ふっ。見てなさいよシンジ。ファーストなんかより私の料理の方が
 美味しいって事を証明してやるわ。それとファースト、私はシンジと一緒に暮らし
 てるし、毎日シンジの料理を食べてるから、シンジの好きな物とかも知ってるん
 だからね。私の方が圧倒的に有利なんだから。シンジなんか、私の料理
 (私)無しで生きられない体にしてやるんだから!」

 「な、何だか過激な発言ね、アスカ。でもやっぱり、碇君のために作るんだ

 「え?」

 「私は、料理の勉強をしようって言っただけなんだけどなー」

 !」

 アスカは思わず赤くなる。

 「ふふふ。でも女の子なんだから、料理を作れるようになるのは、結局は自分の
 ためになるものね」

 「そ、そうよね、自分のためよね。私はミサトのようになるのは嫌なだけよ。それに、
 ファーストがシンジに料理作るんだったら、比較するために私のも食べさせないと
 いけないでしょ。それだけなんだから。それだけよ。絶対に負けないん
 だから!

 そう言って、アスカはバックに炎を上げて燃えながら、シンジとレイを
 見つめていた。


 その頃、レイはと言うと……。

 『碇君が優しくしてくれる。私のためにお弁当を作ってくれる。嬉しい、とても
 嬉しい。ありがとう、感謝の言葉。それはさっき伝えた。でも足りない。もっと
 伝えたい。この気持ちをもっと伝えたい。

 お礼。何かしてもらった時にする行為。でも、こんな時、どうすればいいのか
 分からない。どうすれば碇君が喜んでくれるか分からない。

 ……そう言えば、洞木さん、鈴原君にお弁当作ってあげてる。鈴原君、嬉しそうに
 してた。洞木さんも嬉しそうにしてた。

 なぜ?

 鈴原君が嬉しいのは分かる。私も、碇君にお弁当作ってもらうと嬉しいから。でも、
 なぜ洞木さんも嬉しそうにしてるの?』

 レイは、なぜヒカリが嬉しそうにしてるのかが分からなかったので、シンジと自分を
 トウジとヒカリに入れ替えてみる。

 『私が洞木さんのように、碇君にお弁当作ると、碇君食べてくれるかな? 喜んで
 くれるかな?

 碇君が喜んでくれると、私は嬉しい。

 ……そう、だから洞木さんは鈴原君にお弁当を作るのね。鈴原君が喜んでくれるの
 が嬉しいから……。洞木さんは鈴原君の事を…………。

 じゃあ、私は碇君の事を……。

 うん。私も碇君にお弁当作る

 まさに、女の勘は冴えまくっていた。

 『でも私、碇君の好きな物も嫌いな物も何も知らない、悲しい……。碇君に教えて
 もらおう……でも、ちゃんとした料理が作れるまで知られたくない。碇君をびっくり
 させたい。……どうしてこんな風に思うの? とても変……。

 弐号機パイロット……きっと教えてくれない。それに、なぜだか弐号機パイロット
 にも知られたくない。不思議な気持ち……。

 碇司令……きっと碇君の好きな物知らない……。
 葛城三佐……後で聞いてみよう。碇君に秘密という事で……。

 待っててね碇君。きっと喜んでもらえるお弁当作ってくるから』

 レイは瞳を輝かせて、シンジを見つめていた。

 トウジとケンスケは、そんなシンジ達を見比べていた。

 「見てみーケンスケ! 惣流のやつ燃えとるぞ。これはバンソウコウどころでは
 済まんなー。シンジのやつ、明日包帯巻いて来るんと違うか?」

 「いや、僕は学校に来れないんじゃないかと心配してるんだけど……」

 二人は、まるで見当違いの事を考えていた。


 一方、この日から、レイとアスカの料理の特訓が開始された。

 レイはこれまで料理を作った事はあるが、学校の授業なので必要に迫られて作った事
 があるだけなので、自分のため、ましてや人のために作った事など一度もなかった。
 また、シンジの好みをまるで知らないし、料理を教えてくれる人もいなかったので、
 どうしても独学となるため、アスカに比べると圧倒的に不利だった。

 しかし、レイが作る料理は、なぜかシンジにとって懐かしい味、いわゆるお袋の味
 なるし、後にこの事を知ったミサトとリツコが協力したので、不利な要因はなくな
 った。

 ちなみに、ミサトが協力したのはシンジの好みの部分だけであり、料理の手ほどきは
 リツコが行った。なぜリツコが全面的に協力したのかはDパートで語られる。


 『料理……私には必要ない事だと思ってた。でも、こんなに楽しいものだとは思わ
 なかった。碇君が喜んでくれる事を思うと嬉しい。早く碇君に食べてもらえるよう
 な料理が作れるといいな……。もっと練習しなくちゃ』

 レイの料理の特訓のためにマンションに来ていたミサトとリツコは、嬉しそうに
 料理を作るレイを、ほほえましく見つめていた。

 「ねえリツコ、レイ急にどうしたのかしらね? あんなに嬉しそうに料理を作るなん
 て、今までからは考えられないわね」

 「シンジ君に食べてもらって喜んでもらいたいんでしょうね。嫌いなはずの肉料理も
 ちゃんと味見してるのよ」

 「へー、レイがねー、シンジ君の事をねー。でもシンジ君も結構やるわね。あの
 レイをこんなに変えちゃうなんてね。

 「それだけ好きなのね、シンジ君の事を」

 「赤木博士、ここ教えて下さい」

 「ええ、今行くわ。…………ミサトも練習してみたら?

 「あはははは。ワタシはパス!」

 「まったく……しょうがないわね」

 「あの、赤木博士……」

 「あ、ごめんなさい」

 そう言って、リツコはレイに料理を教えていた。


 一方、アスカはと言うと、これまで料理をまともに作った事がなかったので、何から
 手を付けたらいいのかまるで分からなかったが、ヒカリが親切丁寧に指導したし、
 天才が努力すれば不可能は無い、の言葉通り、アスカ本人が本気で努力したため、
 急速に腕を上げていった。ここで、シンジの好みを知っているという点が、大きく
 役に立っていた。

 ちなみに、シンジに料理を作っているのがばれないように、アスカは毎日ヒカリの
 家で料理の特訓を繰り返していた。

 『うん、なかなか美味しくできたわね。これならシンジの料理にだってそうひけを
 取らないわね。ふふ、シンジの喜ぶ顔が目に浮かぶわね。

 ……あ、そうか、ヒカリは鈴原の喜ぶ顔が見たくて弁当を作ってるんだ……。
 今なら何となく分かる気がするな……。ヒカリってやっぱり鈴原の事……。
 え、ヒカリの気持ちが分かるって事は、私、シンジの事……

 「どうしたのアスカ、顔が赤いわよ?

 な、何でもない。ちょっと火に近づいただけよ」

 「そう。でもさすがアスカね。たった数日でここまでできるようになるなんて」

 「そりゃあね。私が本気になればざっとこんなもんよ」

 「そうね、アスカのあんなの一生懸命な顔、初めて見たもの。よっぽど碇君に喜んで
 欲しいのね」

 「だ、だから違うって……」

 「大丈夫よアスカ、この味ならきっと喜んでくれるって。自信を持って

 「う、うん、ありがと、ヒカリ」

 そしてアスカは、翌日学校にシンジのための弁当を持っていくため、シンジにばれ
 ないよう、ヒカリの家に泊まる事にした。



 そして、運命の日

 レイとアスカは、同時にシンジへの弁当を作って来ていた。

 「碇君、お弁当作って来たの。あの……食べて

 「シンジ! この私が作って来てやったんだから、ありがたく思うのよ!


 <つづく>


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