新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾弐 2年A組・お弁当決戦!

 - Dパート -


 「碇君、お弁当作って来たの。あの……食べて

 「シンジ! この私が作って来てやったんだから、ありがたく思うのよ!

 二人の意外な行動に、クラス中はパニックに陥った。

 「だぁーーー!!」

 「なぜシンジばかりがぁぁぁ!?」

 「この世の終わりだぁーーー!」

 「俺は信じん!! これはだ! に決まってる!!」

 「くそー! サードインパクトが今すぐ起きればいいのにーー!」

 と、大騒ぎになった。


 「え? あ、あの、僕に?

 「うん、食べて、碇君

 「ほら、恥ずかしいからさっさと食べてよ!

 「あ、ありがとう二人とも。嬉しいよ、ほんとに嬉しいよ、僕のために……」

 「何よシンジ、泣く事ないでしょ?」

 「だって、嬉しくて……。今までずっと作るばっかりだったから、嬉しくて……」

 「碇君……良かった」

 シンジはとても嬉しかったが、一つ大きな問題がある事に気が付いた。


 目の前に二つの弁当が並べられている。

 レイもアスカも期待して自分を見ている。


 そして、二人の間には、火花のような物が散っている気がした。

 『ど、どうしよう……どっちから食べても問題があるような……』

 シンジは、レイとアスカの期待に満ちた目、クラス中の嫉妬の視線の中で、
 硬直していた。

 「どうしたの、碇君?」

 「ちょっとシンジ、どうしたのよ?」

 「え、えと、だから……」

 と、その時、見るに見かねたヒカリが助け船を出す。

 「ねぇ碇君、一口目は二人のお弁当を一緒に食べてあげたら?」

 「あ、そうだね。うん、そうするよ」

 シンジには、この時、ヒカリが女神に見えたという。

 その後、シンジは、交互に二人の弁当を食べる事にした。

 レイの弁当は、リツコが教えたためか、きちんと栄養のバランスが整った作りに
 なっていた。そして、自分が苦手なはずの肉も、シンジが好きな料理だからという
 事で、ちゃんと入っている。もちろん、ちゃんと味見もしている。

 その想いは、ちゃんとシンジに伝わっていた。

 そして、アスカの弁当は、レイのより派手で、シンジの好きな物ばかり入っていた。
 シンジは、家では全然料理をしないアスカがいつの間に? と思ったが、その指に、
 細かな傷が幾つもある事を見つけた。アスカが、ヒカリの家に毎日遊びに行くように
 なってからの努力の跡が、痛いほど分かった。

 アスカの想いもまた、シンジにちゃんと伝わっていた。

 レイもアスカも、シンジが食べ終わるのを、じ~~~っと見つめていた。そして、
 シンジは、二人の弁当を少しも残さず、全て綺麗に食べ終えた。

 「二人とも、とっても美味しかった。ありがとう、ほんとに美味しかったよ」

 シンジは、満面の笑みを浮べ、心からそう言った。

 技術的な物もお世辞抜きで美味しかったし、何物にも代え難いスパイス『愛情』
 入っているので、今まで食べたどんな物よりも美味しかった。

 「良かった、碇君、喜んでくれた。良かった」

 「シンジ、ほんとに美味しかったの? お世辞じゃないでしょうね?」

 「ほんとだよ。お世辞なんかじゃないよ。ほんとに二人とも美味しかった。
 ありがとう」

 二人とも……

 その言葉に、自分の料理だけを誉めてもらいたいという思いは閉ざされ、少し不満
 だったが、そんな事は、シンジの笑顔と、『美味しかった』の一言で、綺麗さっぱり
 消えていた。

 そして、二人の少女は新たに誓いを立てる。

 いつの日か、自分の料理(自分)だけを選んでくれるために、もっと
 努力しよう。

 と。


 以上が、後に2年A組名物となる、シンジ争奪お弁当合戦のプロローグ部分である。


 ちなみに、この日、シンジが自分用に作ってきていた弁当はと言うと、

 「シンジは二つも食ったんだから、これはいらないよな!」

 という、ケンスケを中心とした男子生徒の腹の中に、ヤケ食いと共に消えていた。


 なお、これまでよく学校を休んで、ネルフ本部で秘密の任務に就いていたレイだった
 が、シンジのために弁当を作るようになってからは、一度も休まなくなった。

 『私が休むと、せっかく碇君が私のために作ってくれるお弁当が無駄になる。碇君に
 お弁当を届けられない。弐号機パイロットのお弁当だけ食べるのは嫌。毎日、碇君の
 美味しかった、という言葉と笑顔を見ていたい』

 との理由からだった。

 そのため、ゲンドウがダミーシステムのデータを取るので、学校を休むように命令
 しても、

 「嫌、碇君のお弁当作るのに忙しいの。失礼します」

 と言い、一礼すると、目が点になっているゲンドウを後に、さっさと帰ってしまっ
 た。

 このレイの変化を一番喜んだのはリツコだった。レイがゲンドウの命令を聞かず、
 シンジの元に行くなど、リツコにとっては願ってもない事だったので、レイの恋を
 何とか実らせようと、全面的に協力していた。

 また、マヤにはきつく言ったが、リツコ自身もダミーシステムには嫌悪感を持って
 いたため、『レイが協力しないからデータが取れない』などと言い、わざと実験を
 失敗させるなどしていたため、ついにダミーシステムは完成せず、後の悲劇は起こ
 らなかった。

 そしてアスカは、シンジに隠れて料理する必要がなくなったので、シンジに甘える
 ように料理を教わっていた。

 『んふふふふふ、なんかいいわね、こういうのって。ミサトは今日は帰りが遅い
 って言ってたし……んふふふふふ』

 と、その時、甘い時を破るように、チャイムが鳴った。

 「? 誰だろう、こんな時間に。ミサトさんは鍵持ってるし……」

 そう思い、シンジは玄関に向かい、扉を開ける。

 「こんばんは」

 「え、綾波?

 「なんですってーーーっ!?」

 奥にいたアスカは、玄関まで走ってきていた。

 ファースト!? 何しに来たのよ!?」

 「お料理の勉強してたんだけど、分からない所があるから碇君に聞こうと思って」

 「そうなんだ、じゃあ上がって。今、アスカと料理作ってたんだ。一緒にやろう」

 「ええ、お邪魔します」

 「邪魔よ!」

 「あ、アスカ、いいじゃない。一緒にやろうよ

 「う~~~~~~!」

 『この女、まさかこのまま居座るつもりじゃないでしょうねー?』

 アスカが危惧したように、居座る事はなかったが、毎日、何かと理由を付けて遊びに
 来るようになり、今では一緒に夕食を食べるようになっていた。

 そして夜遅くまで滞在するので、シンジがレイのマンションまで毎日送っていった。
 もちろん、アスカもついてくるのだが。

 『碇君と散歩、嬉しい』

 『二人きりにはしないわよ。あんた送った後は私たち二人っきりだしね』

 というような、平和な三人の関係がずーっと続いたという。

 なお、レイとアスカが張り合い、料理をたくさん作るので、葛城家の夕食はやたら
 と豪華になっていた。

 『う~ん、ビールのつまみが増えるのはいーけど、このままじゃちょっと太るのが
 心配ね~。ま、シンジ君やレイ、アスカが楽しそうにしてるんだから、少しくらい
 太ってもいいかな』

 結果として、シンジがレイの弁当を作った事により、世界の在り方まで大きく変わ
 ってしまった。多くの人が不幸にならずに済み、また、自分自身幸せになれたのは
 あの日から全て変わったのだと、シンジは気付かずにいた。

 世界はあらゆる所で無限に分かれている。これもまた一つの世界の在り方。

 この世界では、ゲンドウ一人が、

 「なぜだーーー!?」

 と、叫んでいたという。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 拾弐

 2年A組・お弁当決戦! <完>


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