※ 今回の外伝は、トウジがパイロットに選ばれる少し前の出来事です。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾弐 2年A組・お弁当決戦! 

 - Aパート -


 キーンコーンカーンコーン

 午前の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

 「じゃあ、今回はここまで」

 「きりーつ! 礼!」

 ヒカリの挨拶の号令で、教師と生徒達は挨拶を交わし、教師は教室から出ていった。

 「さーメシやメシや! 学校で一番楽しい時間や」

 トウジはそう言うと、机の中からヒカリ特製のお弁当を取り出した。

 ヒカリは直接トウジに渡すのが恥ずかしいらしく、人に見られないように誰よりも
 早く教室に入り、そっとトウジの机の中に弁当を入れていた。

 もっとも、クラス中にその事は知れ渡っているのだが……。


 トウジは弁当を持ってシンジのもとにやって来る。そして、近くの空いている机を
 動かし、シンジの机と合わせる。そこに、ケンスケも学校に来る途中にコンビニで
 買った弁当を持って現れた。シンジ達三人はいつもこうやって三人で食事を取って
 いる。学生にとって、何気ない会話をしながら友人と昼ご飯を食べるのは、最も
 楽しい時間だった。

 シンジは、自分の弁当を取り出しながら、トウジの弁当を見る。

 「ふーーーん。これが噂の委員長特製の弁当か。いいなートウジは」

 「ほ~~~んと、うらやましい限りだね」

 「な、なんやお前らその顔は? 別にえーやないか」

 「悪いなんて言ってないだろ、なーケンスケ」

 「そうそう、僕たちはうらやましいな、と言ってるだけじゃないか」

 「こ、これはやな、イインチョが残りもん捨てるのがもったいないゆーから、ワシが
 残飯処理しとるだけや。ただそれだけや」

 「ほーーーーーー」×2

 「どう見ても残りもんじゃないよな、シンジ?」

 「うん。これなんか結構作るのに手間が掛かる料理だよ。どう見ても余りもん
 じゃないね

 「う……」

 「料理の天才のシンジがここまできっぱりと言い切るんだ。トウジ、もう言い逃れは
 できないぞ。さぁ、委員長との間に何があったのか全て白状するんだ。
 そうすれば楽になれるぞ

 「ワシは犯罪者か!?」

 「毎日コンビニ弁当や食堂のパンを食べてる僕から見れば、十分犯罪者だね」

 そう言って、ケンスケはトウジをジトーと睨んでいた。

 そこへ、アスカがやって来た。

 「シンジ、私のお弁当持って来てるんでしょうね?」

 「うん、持って来てるよ。はい、アスカ」

 「ん、ご苦労」

 アスカはそう言って弁当を受け取ると、ヒカリのもとへと向かった。

 「なんやあれは!? あれが弁当を作ってもろうとる態度か? シンジ、
 ここは一発、ガツンと言うてやらなあかん!

 「いいよ別に、いつもの事だから。それに、アスカ相手にそんな事でいちいち怒って
 たら、疲れるだけだからね」

 「かーーーっ! ほんま、飼い慣らされとるなシンジは。恥ずかしゅう
 ないんか?」

 「分かったろトウジ、今のシンジを見れば、今の自分がどれほど幸せな状況下にいる
 のかが」

 「あー、確かにな。シンジに比べたらワシはホンマ幸せもんや」

 「僕は別に不幸とは思ってないんだけど……」

 「ところでシンジ、僕は最近思ったんだがな、惣流がああいう態度をとるのは、
 シンジと会話したいためなんじゃないか、と思うんだが、シンジはどう思う?」

 「え?」

 「どういうこっちゃ、ケンスケ?」

 「つまりさ、シンジに弁当を持たせておけば、昼休みに弁当の受け渡しをする時、
 今みたいに会話するだろ? それを楽しみにしてるんじゃないかと……」

 「まさか……なんでアスカが? だいいち、今のが会話と言えるのかな?」

 「いーーーや、あのひねくれもんなら、それくらいやるかも知れん。
 そもそも、あの女は……」


 ガン! ガン! ガン!


 「つーーー……」

 「いたたたたたた……」

 「痛いやないかー! 何するんや!?」

 「バカがバカな事言ってるからよ! 殴られて当然でしょ!!」

 「なんで僕まで……」

 「ついでよ!」

 「ついでったって……」

 「シンジ! 前から言おうと思ってたんだけど、こんなバカと一緒に
 いると、ますますバカになるわよ!」

 「なんやてーーー!」

 「うるさいわねー。あんたはおとなしくヒカリの弁当でも食べてりゃ
 いいのよ!」

 「う、うう……」

 さすがのトウジもヒカリの弁当の事を持ち出されると弱いらしく、しぶしぶ引き
 下がった。

 アスカは、勝ち誇ったように再びヒカリのもとへ向かった。

 「ねえねえアスカ、さっきの事、本当なの?」

 「え? 何の事、ヒカリ?」

 「だから、碇君と話がしたいから、ああいう態度をとるって事」

 「な、なによヒカリまで。そんな事あるわけないじゃないの!」

 「そうなの、ごめんね。でも、碇君にお礼くらい言った方がいいと思うけどな」

 「いーのよ。あいつにはこれくらいしか特技が無いんだから。それより、ヒカリは
 何であんな奴に弁当作るわけ?」

 「だ、だから、その……前にも言ったでしょ。余り物を捨てるのもったいないから
 鈴原に食べてもらってるだけよ……」

 「じゃあ、余らないように作ればいいじゃないの」

 「で、でも、お料理はまとめて作った方が味が良く染み込むし、美味しくなるのよ。
 ね、ねぇアスカ、お互い、この話はヤメにしない?」

 「そ、そうよね。じゃあ、お弁当食べよっか」

 「うん、そうよね」

 そう言って、二人は食事を始めた。

 「うわー! 相変わらず碇君って料理上手ね。なかなか十四歳でここまで作れる男の
 子っていないわよ」

 「ま、これしか能の無い奴だからね」

 『ん……今日の料理、私の好きなやつばかりね。……たまにはお礼言ってやるか』

 「なんだか嬉しそうね、アスカ。碇君と同じお弁当を食べてるのが嬉しいの?」

 「な、なによ。ヒカリだってあいつと同じ弁当じゃないのよ。この話はヤメにしたはず
 でしょ?」

 「あ、そ、そうね……」

 二人は赤くなりながら食事を続けた。

 一方、シンジ達はと言うと、トウジはブツブツ言っていたが、とりあえず食事に専念
 する事にしていた。

 「ん? シンジ、惣流に弁当を渡したのに、なんでまだ二つも弁当持っとんのや?
 そなに食うんか?」

 「え、いや、そうじゃないんだけど……」

 「そうか、すまないなシンジ。僕のために弁当を作ってくれたんだな。
 くーーー! やっぱり持つべきものは、料理のうまい親友だなーーー」

 「そうなんか、シンジ?」

 「ごめん、そうじゃないんだ」

 「 だったら何のためなんだよ?」

 「だから……その……」

 シンジは、そう言いながらレイの方を見る。

 レイはいつも食堂でパンと牛乳を買ってきて、一人で食べている。今は食堂が混雑
 しているので、もう少し人数が減ってから買いに行くつもりなのか、窓の外をぼん
 やりと見ていた。

 シンジは、そんなレイのもとへ向かった。

 「綾波」

 「何、碇君?」

 相変わらずそっけない言い方だが、それでも会話の時にはちゃんとシンジの顔を見る
 ようになっていた。

 もっとも、クラスの中でこういう反応を見せるのはシンジだけに限られていたが。

 「だから……その……綾波、いつもお昼パンだけだろ。それじゃあ、ちゃんと栄養
 が取れないだろうから……その……弁当作って来たんだ。……良かったら、
 食べて

 「え……」

 シンジは赤くなりながらも、何とかそう告げて、レイに弁当を差し出した。

 レイは、いきなりの事にキョトンとしていた。また、クラス中、シンジの意外な
 行動にざわめいていた。

 「どうして、私に?」

 「だから……綾波が心配だったから……」

 「……いいの?」

 レイはちらっとアスカを見る。

 「うん、もちろんいいよ。二人分作るのも、三人分作るのも大して変わらないから。
 全然気にしなくていいから」

 レイが言った『いいの?』というのは、そういう意味ではなかったが、シンジが
 そんな事に気付くはずもなかった。

 「嫌いな物があったら残してくれていいから。はい」

 そう言って、シンジは弁当を渡した。

 「あ……ありがとう……」

 レイは少し赤くなっているようだった。


 見慣れないものを見たクラスメイト達(特にアスカ)は、動揺を隠せなかった。


 <つづく>


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