新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾壱 勇気を出して、アスカ!

 - Bパート -


 「あ、委員長。ごめん、何度も電話して……」

 「私は構わないわよ」

 「あ、あの、アスカ行ってないかな? あちこち探したんだけど、アスカの行き
 そうな所って委員長の家くらいしか知らなくて……」

 「ええ、アスカなら来てるわよ

 「え、ほんと? あ、あの、アスカ迎えに行ってもいいかな?」

 「え、今から?」

 「うん、アスカ探してるうちに、委員長の家のそばまで来てるんだ。迎えに行っても
 いいかな?」

 「いいと思うわよ。アスカ、自分がここにいる事、碇君に教えてもいいって言ってた
 から」

 「じゃ、じゃあ今から行くよ」

 そう言って、シンジは慌てて電話を切った。

 『ふふ、碇君よっぽどアスカの事心配だったのね。いいなー、アスカ』

 ・
 ・
 ・

 「シ、シンジ何て言ってた?」

 「今から迎えに来るって」

 「え、今から?

 「うん、アスカ探してて私の家のそばまで来てるんだって」

 「私の事……探してくれてたんだ……」

 アスカは少し下を向き、嬉しそうにしていた。そんなアスカを見て、ヒカリも嬉しく
 なる。


 ピンポーーーン!


 「あ、もう来たのかな。じゃあ、ちょっと待ってて」

 「う、うん」

 「えーと、あなたもヒカリのお友達?」

 「あ、はい。夜分遅くすいません」

 「あ、おねーちゃん、私の友達だから。じゃあ碇君、上がって」

 「お邪魔します」

 ヒカリはシンジを連れ、自分の部屋に入る。アスカはうつむいたままで、シンジの
 顔が見られないでいる。

 「あ、あの、アスカ……」

 「…………」

 「あ、じぁあ私、別の部屋にいるから。ゆっくりしてってね、それじゃあ」

 「あ……う、うん」

 ヒカリは二人に気を使い、自分の部屋から出た。その直後、何者かに口を
 塞がれた。

 んーーー!? んぐんぐんぐっ!?」

 「シッ! 静かにしなさいヒカリ、気付かれるでしょ!」

 「おねーちゃん、じっとしてよ!」

 「な!? おねーちゃん、ノゾミ、何やってんのよこんなとこで……まさか、覗く
 つもり……んぐんぐんぐ」

 「静かにしなさいって言ってるでしょ!」

 「そうよ、おねーちゃん、静かにしてて」

 「どういうつもりよ」

 「だって、何度も電話が掛かってきたり、立て続けに深刻そうな顔した男女が来れば
 何かあると思うじゃないの」

 「そうそう」

 「だからって覗く事ないでしょ」

 「いいヒカリ、あの二人はヒカリを頼って来たんでしょ? だったら、あの二人が
 どうなるか、責任持って見届けるのが筋ってもんよ。違うかしら?」

 「そ、それは、そうだけど……」

 ヒカリもさすがに中の様子が気になるのか、反論の力が弱まる。

 「あ、おねーちゃん達、始まったよ」

 「どれどれ」

 「ほ、ほんとはいけない事なのよ! で、でも二人を見守る義務ってもんが……」

 「ぶつぶつ言ってないで、静かにしなさい」

 こうして、ドアの隙間から中を伺う新幹線三姉妹であった。

 ・
 ・
 ・

 「アスカ、ごめん

 「え?」

 「アスカがそんなに僕の事嫌ってたなんて知らなかったから。その、す、好きだ
 なんて言って困らせたみたいで……。ほんとにごめん。もう困らせたりしないから、
 帰ろうよ。一緒に帰ろうよ」

 「何よシンジ、そんないい加減な気持ちで私の事好きだなんて言ったの?」

 「え?」

 「私が嫌いだって言えば簡単に諦められる程度の気持ちだったの? そんな事で
 私をこんなに悩ませたって言うの?」

 「だ、だってアスカ、僕の事嫌いなんだろ?」

 「あんたバカぁ!? 私は嫌いなら嫌いってはっきりそう言うわよ!
 私と一緒に暮らしててそんな事も分からないわけ? ほんとにバカ
 なんだから」


 「ちょっ、ちょっとヒカリ! あの二人、一緒に暮らしてるわけ?」

 「おねーちゃんと同い年なんでしょ、もう同棲してるの?」

 「あ、後で詳しく話してあげるから、少し静かにしててよ」


 「え、そ、それじゃあアスカ……」

 「待って」

 「え」

 「私は……今、シンジの気持ちに答える事はできないの」

 「え? だ、だって僕の事嫌いになったんじゃないんだろ?」

 「嫌いじゃない。嫌いじゃないけど……今はだめなの……」

 「どうして……」

 「私はこれまで、使徒を倒すためだけに生きてきたの。それが全てだった。他の事
 なんて考えた事もなかった。今の私には、他の事を考えるだけのゆとりがないの。
 好きだとか、そんな事言ってるだけのゆとりが今の私にはないの。だからシンジ、
 少し待って欲しいの。使徒を倒し、平和になるまで、私がもっと心にゆとりが持てる
 大人になるまで答えは待って欲しいの。

 勝手な事言ってるのは分かってる。でも、今のままの私じゃきっと……。シンジ、
 平和な時が来れば、私はきちんと返事する。約束する。だから、もう少し時間が
 欲しいの。もう少し、今のままの二人でいさせて欲しいの。お願いシンジ、分かっ
 て……」

 「……そ、そうだね。確かに僕たちは使徒を倒さないといけない。世界そのものが
 無くなっちゃ、好きとかそんな事も言ってられなくなるし……。僕ももっと強く
 ならないといけないし……」

 「ごめんね、シンジ。せっかく私の事好きだって言ってくれたのに。その事はほんと
 に嬉しいの。ほんとよ。でも今は待って欲しいの」

 「うん。いいよ、アスカ。僕はアスカに嫌われてるわけじゃないって分かっただけ
 でも嬉しいよ」

 「シンジ…………」


 「う~ん……。なかなか言うわね、あの子」

 「なんだかドラマみたい」

 『いいなーアスカ、碇君にあんなにまで思われてるんだ、いいなー』


 この時、アスカは激しく悩んでいた。今、心に全くゆとりのない今の自分では、些細
 な事でシンジを傷つけ、だめになってしまうかも知れない。それは嫌だった。シンジ
 の気持ちを受け入れるためには、もっと大人になる必要があった。それに、自分が
 本当にシンジの事が好きなのかどうかはっきりしなかった。

 好きだと言われたから、自分もそうだと思っているだけかも知れない。

 ただ、寂しいから、誰でもいいのかも知れない。

 自分を愛してくれなかった両親の子である自分が、一人の男性を本気で愛する事が
 できるのか不安だった。

 自分の気持ちを確かめるためにも、今は時間が必要だった。しかし、それと同時に、
 シンジに好きだとはっきりと言われて喜んでいる気持ちも確かにある。

 ヒカリに言われたように、自分はシンジの事を好きなのだろうとも思う。今まで
 こんな気持ちになった事はなかった。

 せっかく好きだと言ってくれたのだから、恋人のように振る舞いたい。

 他の人に恋人同士に見られたい。

 今よりもっと親密な仲になりたい。

 という気持ちも確かにある。

 その二つの考えが激しくせめぎあっていた。


 「……あ、あの……シンジ……」

 「え、何、アスカ?」

 「だ、だから……その……」

 「ん?」

 アスカの声が段々と下がり、ほとんど聞き取れなかった。良く聞こえるように、
 シンジは顔を近づけた。

 すると、不意にアスカはシンジの唇を奪っていた

 『!? !? ア、アスカが僕にキスしてる!?』


 <つづく>


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