洞木家では食事も終わり、コダマ、ヒカリ、ノゾミがそれぞれ自分の時間を過ごして
 いた。

 ヒカリは、自分の部屋で明日のお弁当のおかずを何にしようかと、おかずの本を
 見ながら真剣に考えていた。

 そんな時、玄関のチャイムが鳴った。

 「はーい」

 どうやら姉のコダマが出たらしい。

 『誰だろ、こんな時間に?』

 「ヒカリー! お友達が来てるわよー!!」

 はーい! 今行くーーー!!」

 『友達? 誰かな……』

 もう随分と遅いのでこんな時間に誰だろうと思いながら、ヒカリは玄関に向かった。

 アスカじゃないの!?」


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾壱 勇気を出して、アスカ!

 - Aパート -


 「どうしたの、こんな時間に?」

 「うん……。ちょっと、相談したい事があって……」

 「私に相談? あ、とりあえず上がって」

 「お邪魔します」

 『どうしたのかな?アスカ、随分悩んでるみたいだけど……』

 「じゃあ、ちょっと待ってて、今お茶入れるから」

 「ありがと、ヒカリ」

 アスカを部屋に残し、ヒカリは急いで紅茶とクッキーの準備をし、再び部屋に戻って
 くる。

 「それで、相談って何?」

 「…………」

 アスカは話しにくそうに下を向いている。話すきっかけを掴めずにいるようだった。

 ヒカリは無理に聞き出そうとはせず、アスカが話しだすのを、ゆっくりを待つ事に
 した。

 やがて、紅茶から湯気が出なくなった頃、アスカはぽつりぽつりと話し始めた。

 「……あのね……シンジが私の事……好きだって言ったの……」

 「え? 碇君が!? アスカの事好きだって言ったの!?」

 「うん……。私の目を見ながら、はっきりそう言ったの……」

 「そうなんだ、碇君が……。それでアスカは何て答えたの?」

 「……どう答えていいのか分からなくて、飛び出してきたの。それで、ヒカリに
 相談しようと思って……」

 「でも、私で役に立てるかな? そういう事はアスカの方が詳しいんじゃないの?
 いつもラブレターたくさんもらってるし」

 「そりゃあ、ラブレターなんて数えきれないほどもらったし、好きだとか付き合って
 くれって言われた事も何度もある。でも、頼まれてデートした事はあっても、一度
 だって本気で付き合った事なんてないの。いつも軽くあしらってきたの。だから、
 こんな時どうすればいいのか分からないの……」

 「つまり、碇君の事は軽くあしらえないって事なの?」

 「だって、私とシンジは一緒に暮らしてるのよ。もし私がシンジの事嫌いだって
 はっきりと言ったら、気まずくなるじゃない。シンクロ率にも影響でるかも知れない
 し……」

 「ウソでしょ、アスカ」

 「え?」

 「アスカは良くも悪くも自分の気持ちをはっきりと言うはずよ。気まずくなるとか、
 シンクロ率が下がるかもという理由で、好きでもない人と嫌々付き合ったりはしない
 はずよ」

 「…………うん」

 「今のアスカは何だか自分に言い訳してるみたいに見える。ねぇアスカ、ひょっと
 して、アスカも碇君の事好きなんじゃないの?

 「…………分からない」

 「じゃあ、嫌いなの?」

 「……嫌いじゃないと思う」

 「そうよね、いくら命令だからって、嫌いな人と一緒になんて暮らせないわよね」

 「うん」

 「客観的に見て、アスカは碇君の事が好きなんだと思うけどな」

 「私が、シンジの事、好き?」

 「うん。だって最近のアスカ、授業中とか休み時間とかに碇君を見てる事が
 多いもの

 「え、それほんとなの? 私、シンジを見てるの?」

 「やっぱり自分じゃ気付いてないんだ。ねぇアスカ、何か碇君を好きになっちゃ
 いけない理由でもあるの? 何だか自分の気持ちにわざと気付かないようにしてる
 みたい」

 「……私とシンジは、朝起きてから学校に行って、ネルフで訓練して、家で食事
 して、寝るまでずっと一緒なの。いつもお互いに言いたい事言って、しょっちゅう
 ケンカして……。今さら好きだなんて言われても、どんな態度取っていいか分から
 ないの」

 「そっか。アスカにとって碇君は身近すぎるのね」

 「うん。だから私とシンジの間で、好きだとかそんな感情を持っちゃいけないんじゃ
 ないかと思うの」

 「そんな事ないと思うよ、アスカ」

 「え」

 「誰かの事を好きになるのはとても自然な事よ。むしろ、自分の気持ちを抑えようと
 する方がよっぽど不自然だと思う。アスカと碇君は一緒に暮らしてるし、命懸けで
 戦ってる仲間でしょ。好きになったとしても、ちっとも変じゃないじゃない」

 「…………」

 「アスカ、一つ聞いてもいい?」

 「何?」

 「今まで、好きだとか付き合ってくれって言われた事が何度もあるって言った
 でしょ? どうしてその人達とは本気で付き合わなかったの?」

 「…………」

 「あ、ごめん。嫌なら無理に答えなくてもいいから」

 「……好みの問題もあるけど、ほんと言うと、恐かったの」

 「? 恐かった?」

 「うん。もし私が誰かの事を本気で好きになって、その人の事しか考えられなく
 なったとして、その人に裏切られたらと思うと恐かったの。だから、誰も好きに
 ならないようにしてきた。そうすれば、自分が傷つく事もない。裏切られる事も
 ない。だから、いつも表面的な付き合いに逃げてたの」

 「そうだったの……」

 『つまり、碇君の事は、これまで好きだと言ってきた人達とは違うのね』

 「それでどうするのアスカ、また逃げるの? 碇君から、自分の気持ちから」

 「分からないの、どうしていいか分からないの……」

 「アスカ、逃げてちゃ何も変わらないわよ。大丈夫よ、碇君なら絶対にアスカを
 傷つけるような事はしないと思うから。それはアスカが一番良く知ってるでしょ?」

 「う、うん」

 「ねぇアスカ、自分の気持ちを誰かに伝える事ってすごく勇気がいる事だと思う。
 こう言っちゃ失礼だけど、碇君って気が弱いとこあるでしょ。その碇君がアスカの
 目を見ながら、はっきりと好きだって言うには、とても勇気がいったと思うの。
 そして、それだけアスカの事を好きなのよきっと。だからアスカ、碇君の気持ちを
 受けるにしても断るにしても、はっきりと返事をしてあげて。それがお互いのため
 だと思うから。勇気を出して、アスカ」

 「……ヒカリの言う事は分かる。でも、私はまだ自分の気持ちが良く分からないの。
 今まで誰も好きにならないように生きてきたから、この気持ちが良く分からないの。
 本当にシンジの事が好きなのかどうか分からないの……」

 「そうよね、女の子にとって、最も大事な問題だもの、そう簡単には答えを出せない
 わよね…………ねぇ、碇君は今すぐ答えてくれって言ったの?」

 「ううん、そんな事は言ってなかったと思う」

 「それじゃあ、少し返事を待ってもらったらどうかな? 中途半端な気持ちで返事
 するより、その方がいいかもね」

 「シンジ、待ってくれるかな?」

 「大丈夫だと思うけど。碇君優しいし」

 「うん、じゃあシンジにそう言ってみる。ありがとヒカリ、随分と楽になれた」

 「私でも役に立てた?」

 「うん、やっぱりヒカリに相談して良かった。お茶頂くね」

 「ふふふ、冷えちゃったけどね。……ねぇアスカ、私の所に来るまで随分と悩んで
 あちこち歩いたんじゃないの?」

 「え、何で分かるの?」

 「ほんと言うとね、随分前に碇君から電話があったの」

 「シンジから?」

 「うん、アスカが私の所に来てないかって、随分心配してたみたい」

 「そう……なんだ……。シンジが私の事……それで、どうするのヒカリ? 私が
 ここにいる事、シンジに教えるの?」

 「教えて欲しいの?」

 「…………分からない」

 その時、コダマから声が掛かった。

 「ヒカリー! また碇君って子から電話よー!!」

 話の展開上、ヒカリは携帯を持ってません。

 「はーい!」

 アスカはシンジから電話が掛かってきたと聞き、ビクッとしている。

 「アスカ、どうするの? アスカがここにいるって碇君に教えていいの?」

 「…………」

 「いいのね?」

 「…………うん」

 ヒカリはアスカを残し、電話に出るため玄関に向かう。

 「はい、ヒカリです」

 「あ、委員長。ごめん、何度も電話して……」


 <つづく>


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