時に、2017年。

 第三新東京市消滅事件から二年が過ぎ、この街は急速に復興していった。

 また、アスカとシンジは、しばらくは何もできない状態だったが、やがて立ち直り、
 レイも、シンジ達との間に新たな思い出がたくさんでき、シンジと二人きりの時には
 笑顔を見せるほどになっていた。

 三人とも、週に何度かはネルフに通い、ハーモニクステストなどを繰り返していた
 が、それ以外の日は、ごく普通の高校生として暮らし、それなりに高校生活を
 楽しんでいた。

 世界は、一見すると平和になったかのように見えた。

 ……しかし、それは突然やってきた。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 四 使徒、再来 ~雪の降る街で~

 -前 編-


 同年、12月24日。

 街はクリスマス商戦で活気づき、あちこちからクリスマスソングが聞こえてくる。
 さすがに、年中夏なのでサンタクロースの格好をしている人々は暑そうにしていた
 が、子供達が読む本に書かれているのは、この時代でも冬服のサンタとトナカイ、
 そしてクリスマスツリーだったので、今さら変えるわけにもいかず、暑いのを我慢
 せざるを得なかった。

 そして、そんな町並みを、レイ、アスカ、シンジの三人が並んで歩いていた。

 三人は、夜に行われるクリスマスパーティーの準備のため、料理の材料や、飾り付け
 の買い出し中だった。レイは最初、こういったイベントには興味を示さなかったが、
 シンジとアスカが勧めるので、参加する事にしていた。

 シンジたちが楽しく買い物をしているとき、小さな子供が母親に、

 「ママ、この白いものは何?」

 と聞いていた。それに対して、母親も優しく答えた。

 「ああ、これはね、雪と言ってね……!?

 答えた母親自身驚き、空を見た。ついさっきまで晴れ渡っていた空がにわかに曇り
 出し、雪が降り始めていた。店の中にいた人々も次々と表に出て、雪を見て驚いて
 いた。

 この日本で、雪が降るのはおよそ十七年振りなので、人々が驚くのは無理もなか
 った。シンジやレイですら雪を見た事がないので、小さい子供が雪を知らなくても
 さして不思議ではなかった。

 「これが、雪……きれい」

 「うん、そうだね。テレビや本で見た事はあるけど、実際に見るのは僕も初めて
 だよ」

 「でも、日本は年中夏になったんじゃなかったの? それに、さっきまであんなに
 暑かったじゃない。クリスマスイブに雪が降るのはいいんだけど、少し不自然じゃ
 ない?」

 確かに、アスカの言う通り、この雪は不自然だった。雪自体は普通の雪なのだが、
 今の日本には降るはずの無いものだったため、子供達ははしゃいでいるが、大人達
 は、何か良くない事が起きるのではないか?と、不安がっていた。

 その時、シンジ達の携帯が鳴った。

 「ん? ネルフからの呼び出しだ。何だろう?」

 シンジは少し疑問に思った。ここ一年ほど平和だったので、呼び出される事など、
 一度もなかったのだ。降るはずのない雪と相まって、シンジは不安になった。

 「はい、碇です」

 「シンジ君!? そこにレイもアスカもいるの!?」

 連絡はミサトからだった。声からして、ひどく慌てているようだった。

 「はい。二人ともいますけど。……どうかしたんですか?」

 「悪いけど、三人とも今すぐ本部まで来て欲しいの」

 「何かあったの、ミサト? それに、この雪、何か関係があるの?」

 「確かに、この雪は少しおかしいわ」

 「それが、こっちでもまだ事態を掴みかねてるのよ。何たって、この雪、第三新東京
 市にしか降っていないの。……とにかく、急いで来てちょうだい」

 そう言って、ミサトとの通信は切れた。三人は一度顔を見合せた後、一番近いジオ
 フロントへと通じるゲートへ向かった。

 シンジ達がゲートに着く頃、雪は吹雪となっていた。町の人々も、慌てて自分の家に
 引きこもり、店は全て閉まっていた。

 「どう? この雪の正体は分かった?」

 「いえ。MAGIは『解答不能』を表示してます。でもセンパイ、雪そのものは
 普通の雪です。それは間違いありません。しかし、この気象データを見る限り、
 雪なんか降るはずないんですが……」

 「……しかも、この第三新東京市の上空だけ雪雲があるなんて、いくらMAGIでも
 分かるわけないか……」

 「地上の温度が低下し続けています!!」

 『これは一体どういう事? ……まさか使徒のしわざ? ……それにしちゃ、
 クリスマスにわざわざ雪を降らせるなんて、気の利いた事をしてくれるわね』

 それぞれ、どうしていいのか分からずにいる時、ゲンドウが口を開いた。

 「葛城君、第三新東京市全域に非常事態宣言。市民をシェルターに避難させたまえ」

 「では、この雪は使徒のしわざの可能性があると?」

 「断言はできん。だが、手は打っておくべきだ」

 「分かりました。今すぐ非難命令を出します。日向君、全市民が避難するまで、
 何分かかる?」

 「この雪ですから、いつもよりは時間が掛かると思いますが、二十分もあれば可能と
 思われます」

 「今、ケイジにシンジ君達が着きました!」

 「分かったわ。プラグスーツに着替えて、エントリープラグの中で待機するように
 伝えて」

 「はい!」


 シンジ達はプラグスーツに着替え、それぞれのエヴァに向かう分岐点にいた。その
 顔には、はっきりと緊張感があらわれていた。中でも、特にアスカの顔が怖ばって
 いた。

 「アスカ、エヴァに乗るの、大丈夫?」

 アスカはエヴァに乗れるほどには回復していたが、それでも、またいつ動かせなく
 なるか分からない、という恐怖から、以前ほどのシンクロ率は出せずにいた。

 「うん、大丈夫よ。……それに、乗りたくないから乗らないって訳にはいかない
 でしょ? あなた達だけ戦わせる訳にはいかないもの」

 「まだ、使徒と決まった訳じゃ……」

 「でも、その確率は高いわね」

 「でしょ。だったら、なおさら私も出なくちゃ」

 「アスカ……私も碇君も、出来る限り、アスカをフォローするから」

 「だから、アスカは心配しなくていい。それと、もし危なくなったら……アスカは
 嫌かも知れないけど……撤退して欲しい」

 「……分かってる。前のような事はしないわ。だって、これが終わったら、みんな
 でシンジの作ったクリスマスケーキを食べるんだからね。無茶はしないわ」

 「うん。これが終わったら、みんなでクリスマスパーティーだ!

 「ええ、絶対、三人とも生きて帰ってきましょう!

 三人は手を重ね、再び三人とも生きて会う事を約束し、それぞれのエヴァへと向か
 った。ちなみに、全壊した零号機も元通りに復元されている。


 ゲンドウは、この様子を自分のデスクのモニターを通し、少し微笑みながら見つめて
 いた。

 「彼らも成長したな」

 「ああ」

 「この雪は、使徒のしわざだと思うか?」

 「まず間違いないな」

 二人は、他人に聞こえないように話し合っていた。


 「市民の避難、完了しました!」

 「早いな。普段の訓練の成果か」

 「地上温度、マイナス二十度を超えました!!」

 「市民を避難させておいて正解ね。あのままだと、凍死者が出るとこだったわ」

 「地上での雪がやみました」

 「地上温度、マイナス四十度を突破! この下がり方は異常です!」

 その時、ネルフ中に警報が響き渡った。

 「何!?」

 「バターン、青! 使徒です!!」

 「くっ! やはり使徒、まだ来るの!?」

 「碇……死海文書に載っている使徒は、十七体ではなかったのか?」

 「ああ。恐らく、一番目のやつか、二番目のやつだ。あの時、見失ったやつが
 今になって出てきたのだろう」

 「状況は!?」

 「たった今、直上に現れました! いきなりです!」

 「メインモニターに回します!」

 ネルフの巨大なスクリーンに、第三新東京市の上空の映像が映し出された。

 そこには、オオカミの姿をした使徒が映し出されていた。それだけではなく、複数
 のヘビの頭を持つ姿をした使徒まで映し出された。

 「な……複数の使徒の同時侵攻!?」

 ミサトは、これまでなかった使徒の同時侵攻に、一瞬、我を忘れた。

 「あ、対空迎撃戦、用意!!」

 「ダメです!! 異常低温で兵装ビルの97.8%が使用不能です!」

 「くっ! 吹雪はこのためだったの!?」

 「碇……まさか二体同時に来るとはな……」

 「ああ、これが最後の戦いになるな」

 「しかし、形が違うぞ」

 「使徒は光の性質を持っている。姿形など、いくらでも変えられるのだろう」

 「しかし、この使徒は知恵を持っているようだな。今までのやつのデータをフィード
 バックしているのかも知れんな。……苦しい戦いになるぞ」

 「だが、今までの戦いで学んできたのは、使徒だけではない。我々もまた、使徒との
 戦い方を学んだのだ。……負けはせん!」

 「エヴァを芦の湖の反対側に出して! 少しでも低温の影響から遠ざけるの。それと
 シンジ君、使徒を第三新東京市から、できるだけ引き離して! せっかく復興したの
 に、また壊されたらたまったもんじゃないわ!」

 「ミサトさんらしいですね」

 「本当、緊張が取れるわ」

 「そうね」

 「ごめんなさいね、あなたたち。今、兵装ビルが殆ど使えないの。だから、支援も
 できないの。でも、芦の湖の反対側なら殆ど温度変化はないわ。それと、あの山には
 色々な仕掛けがあるの。今、大量に武器を送っている所よ。だから、もう少しすれば
 支援体勢が整うわ。でも、この使徒は、どんな能力を持っているか分からないから
 慎重にね」

 「はい!」

 「分かったわ!」

 「分かりました!」

 「いい返事ね。全員、ちゃんと帰って来なさいよ! パーティーするんだから!」

 「支援体勢、整いました!」

 「よし!エヴァンゲリオン、全機発進!!

 ミサトの命令のもと、エヴァ三機は発進していった。

 『……死なないでよ、三人とも……』


 <つづく>


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