「支援体勢、整いました!」

 「よし!エヴァンゲリオン、全機発進!!

 『……死なないでよ、三人とも……』


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 四 使徒、再来 ~雪の降る街で~

 -後 編-


 シンジ達は芦ノ湖の反対に出現し、使徒をおびき出すためATフィールドを張った。
 それに気が付いた使徒は、シンジ達の方にゆっくりと近づいてくる。

 ポジトロンライフルやパレットガン、バズーカなどを一斉に使徒に向けて放つが、
 ことごとく敵のATフィールドでふさがれてしまう。

 「だめか……。やっぱりラミエル並みのATフィールドを張ってる。危険だけど、
 接近してプログナイフでやるしか……」

 そこまで言った時、シンジは背筋に寒いものを感じ、慌てて飛びのいた。レイや
 アスカも同じように何かを感じ、横に飛んだ。

 その時、シンジ達が元いた場所が大爆発を起こし、巨大なクレーターが出来ていた。

 「なんて威力だ……」

 「ゼルエル……いえ、それ以上の破壊力ね」

 「今、ATフィールドを抜けてきたわ」

 「うん……。こっちのATフィールドは役に立たない。向こうのATフィールドは完璧。
 苦しいな……」

 その後、オオカミの姿をした使徒が、接近戦を仕掛けてきた。この使徒は、幸い
 加粒子砲のような武器は持たないようだが、その動きは早く、鋭いツメとキバは
 やすやすとポジトロンライフルなどを砕いてしまい、シンジ達はかわすのが精一杯
 だった。

 しかも上空からは、複数のヘビの頭からの加粒子砲が次々と襲ってきた。

 三人とも、辛うじて逃げ回っている状態だった。

 そしてミサトは、それを冷静に見つめていた。

 『この使徒、ヤケに人間くさい攻撃をしてくるわね。それなら、作戦の立て方も
 あるわ』

 「三人とも聞いて! 今からこのポイントへ向かって。そこであのオオカミの形の
 使徒に対して陽動をかける。この使徒はなぜか人間的な動きをしてるから、こっちの
 罠に掛かるかも知れないわ」

 三人は返事をする暇もなく、指定されたポイントへ向かうと、オオカミもエヴァの
 後を追った。

 シンジ達は、オオカミの視界から隠れるように山すそに寝そべった。すると、正面の
 山すそにエヴァの姿が現れた。


    ---     ->     ---
   /   \E  オオカミ  E/   \
  /  山  \V      V/  山  \
 /       \A    A/       \
        (本物)  (ダミー)


 「あ、ホログラフィ?」

 「なるほど、そういう事ね」

 「チャンスは一瞬ね」

 ホログラフィとも知らず、オオカミは初号機の喉に噛みつこうとして、山すそに頭を
 めり込ませた。その一瞬のスキをつき、三機のエヴァのプログナイフが、一斉に
 オオカミのコアを突き刺した。オオカミはすさまじい絶叫と共にコアにヒビが入り、
 色を失っていった。

 「やった!」

 誰もがそう思った時、シンジ達は再び背筋に冷たいものを感じ、その場から飛び
 のいた。

 すると、元の場所に次々と加粒子砲が命中していった。オオカミを姿をした使徒は、
 その攻撃で跡形もなく吹き飛んだ。

 「なんて奴だ! 仲間ごと僕たちを撃つなんて!」

 「いくら人間的な動きをしても、やっぱり使徒なのね」

 「ん? アスカ、その腕……」

 シンジは驚いて弐号機を見る。弐号機の両腕は吹き飛ばされていた。

 今のアスカのシンクロ率は、三人の中で一番低かった。おそらく、一瞬逃げ遅れた
 のだろう。

 「くっ! 私とした事が……ドジったわね」

 両腕に激痛が走り、アスカは苦しそうだった。


 「アスカ、大丈夫? 立てる?」

 シンジがアスカを助けている間、レイは無駄だと知りつつも使徒に向かってパレット
 ガンを撃ち続けていた。また、ミサトも、アスカが撤退する時間稼ぎのため、ミサ
 イルを撃ち込んでいた。もちろん、倒そうとしてではなく、煙幕としてだが。

 「……アスカ」

 「分かってる。このままじゃ二人の足手まといになるだけだもの……。悔しいけど
 私はここまでね……。シンジ、絶対勝ちなさいよ! 死ぬんじゃない
 わよ!

 「うん、分かってる」

 「……レイ。シンジを頼むわよ。私は撤退するから……シンジを守ってあげて。
 それと、あんたも死ぬんじゃないわよ! いいわね!

 「ええ、任せて」

 何とかアスカをジオフロントへ続くゲートに送り届けたシンジ達は、激しい加粒子
 砲の攻撃にさらされていた。これまで三機に振り分けられていた攻撃が、二機に
 対して行われるようになったので、これまで以上に苦しかった。

 その時、再びミサトがポイントを指定してきた。シンジ達は、またも無言で指定
 されたポイントへ向かった。

 そこは、強力な加粒子砲を持つ使徒と戦うために造られた場所だった。地面から
 いくつものシールドがせり出し、エヴァが完全に隠れる事ができた。

 また、シールドには把手が付いていて、エヴァの楯としても使用できるように
 なっていた。

 レイは、それを手にして、シンジの前に立っている。

 今、シンジと使徒の間には、レイの持つシールドを含め、十七枚ものシールドが
 あった。その一つ一つは、ヤシマ作戦の時に使用した物よりもはるかに強固な物
 だった。

 それを見た使徒は、まるであざ笑うかのように、そのシールドの前に降りた。


  使徒 IIIIIIIIIIIIIIIII零 初

 (Iはシールド。零号機は、最後のシールドを楯として使用している)


 「やはり人間的な思考パターンを持ってるわね。こちらの誘いに乗ってきたわ」

 ミサトは、『しめた!』と思った。しかし、複数のヘビの頭から同時に撃ち出される
 加粒子砲は、シールドをいともたやすく溶かしていった。

 「うそ! 一枚のシールドが二秒も持たないなんて! ラミエル程度なら三十秒は
 持つはずなのに……」

 しかし、すでに十六枚のシールドは飴のように溶け、今まさにレイの持つシールド
 に到達しようとしていた。

 「「ATフィールド、全開!」」

 シンジとレイが同時に叫ぶ。二体のエヴァによるATフィールドは、辛うじて加粒子
 砲を防いでいた。しかし、レイの持つシールドは、徐々に溶け始めていた。

 「碇君!」

 「分かった!」

 シンジは、躊躇する事なくレイの横を通り抜け、使徒に向かって走っていった。

 もし、ここでレイの身を案じ躊躇していたら、いずれ二人とも死ぬ。それならば、
 少しでも二人で生き残れる方法……少しでもレイが持ちこたえている間に、一撃
 で使徒を倒す……。言葉は無くとも、二人の心は通じ合っていた。

 シンジが突っ込んでくるのを見た使徒は、そちらに顔を向けるが、今までレイに
 向けて撃っていたせいか、すぐには撃てなかった。

 そして、それぞれのヘビの目が白く輝きだした時、シンジはプラグナイフをコアに
 突き刺していた。

 ヘビの目から輝きが薄れ、黒い穴と化していく。

 「勝ったな」

 「ああ。あのまま空中から攻撃を続けられたら、我々は勝てなかった。下手に人間の
 事を知ったがため、自滅したようなものだ。……所詮、付け焼き刃では何もできん」

 だが、勝ったと思った瞬間、使徒は初号機の手足、頭に巻き付いてきた。

 「まさか、自爆する気!?」

 「碇君、逃げて!!」

 「くっ! 外れない!!」

 使徒の体が白く輝き始める。

 「全神経接続カット! 急いで!!」

 ミサトが指示を出したと同時に、これまで無かったほどの閃光と爆風を残し、最後の
 使徒は自爆した。

 「どうなったの!? シンジ君は!? 初号機は!?」

 「だめです! モニターが真っ白に焼き付いています!!」

 「強力な光と熱で、光波、電磁波、粒子、何もモニターできません」

 「シンジ!!」

 回収された弐号機から降りたアスカは、激しい揺れを感じ、とてつもない不安に
 襲われた。

 「モニター、回復します!」

 回復したモニターに映し出された初号機の姿を見て、誰もが息をのんだ。

 両腕、両足は吹き飛び、コアまであらわになっていた。辛うじて原型はとどめている
 が、パイロットの生存は絶望と思えた。

 「シンジ君はどうなったの!? 生きてるの!?」

 「だめです! 初号機との回線、一切繋がりません! パイロットの
 生死不明です!」

 「レイ、シンジ君の救出、急いで!」

 ミサトがそう命令するより先に、レイはシンジの元に駆け寄っていた。

 「碇君、死なないで! 生きてて! お願い!!」

 レイは祈るように初号機の延髄あたりの装甲を剥がし、エントリープラグを取り
 出す。エントリープラグは、奇跡的に破損はしていなかった。そして、エントリー
 プラグを芦ノ湖のそばまで運び、そっと下ろした。

 初号機は爆発の恐れがあったため、できる限り離れる必要があった。このままジオ
 フロントまで運ぼうかとも思ったが、先の爆発でアンビリカルケーブルが溶けて
 しまっていたので、この場で救助を待つ事にした。

 レイはエントリープラグから降り、過熱したハッチをこじ開け、初号機のエントリー
 プラグに入った。

 シンジは中で横たわっていたが、胸がかすかに上下していたので、気を失っている
 だけのようだった。レイは、自然と涙があふれ出ていた。

 そして、そのままシンジを運び出して零号機の近くまで運び、自分の膝を枕にして
 シンジを寝かせ、じっとシンジの顔を見ていた。

 その時、零号機のエントリープラグを通してゲンドウの立体映像が浮かび、レイに
 話しかけてきた。その音でシンジは目を覚まし、ぼんやりとした意識の中で、
 ゲンドウとレイの話を聞いていた。

 「レイ、良くやった。恐らく今が最後の使徒だろう。これまで、私の命令通り働いて
 くれた事を感謝している」

 「いえ、私は自分の意思でやった事です」

 「そうか。では、現時刻をもって、お前に与えた全ての命令を解除する
 後はお前の好きに生きるがいい。今後、私は何も口は出さん」

 「はい、分かりました」

 そしてゲンドウは、そっとシンジの方を見る。その顔は、少し微笑んでいるようでも
 あった。

 『父さんが……僕に微笑んでる?』

 シンジは、父がそんな顔を自分に向けるのを見たのは初めてだった。

 やがて、ゲンドウの立体映像は、ゲンドウが電話を切ったために消えていった。

 「……綾波……僕……生きてるの?」


 「碇君! 気が付いたのね! 良かった。本当に良かった。碇君がいなく
 なったら私……私は……」

 レイは再び大粒の涙を流していた。そして、その涙はシンジの頬に落ちていった。
 その時、シンジは自分がレイに膝枕されているのに気付き、慌てて起き上がった。

 「……あの、綾波。……さっき父さんと何か話してたよね」

 「……ええ」

 「あの……命令って、一体、何?」

 「……私は、碇司令からずっと一つの命令を受けてたの」

 「一つの命令?」

 「ええ、ずっと碇君を守るようにって命令されてたの」

 「僕を? 父さんが……そんな事を……あの父さんが?」

 「でも、今倒した使徒が、恐らく最後の使徒だから、命令を解除するって。これから
 は好きに生きろ、ですって」

 「そ、そうなんだ。じゃ……じゃあ、綾波はもうネルフを……」

 「いいえ、私はここに残るわ」

 「え? もう命令は解除されたんだろ? それに、もう使徒も来ないって……」

 「私……命令だけで碇君を守ってた訳じゃないの……碇君を失いたくなかった
 から……碇君の事が好きだから守ってたの」

 「え!? 綾波……」

 「これからもよろしくね、碇君。メリー、クリスマス!」 チュッ

 そう言って、レイはシンジの頬に優しくキスをした。

 シンジにとって、それは生まれて初めての、心のこもったクリスマスプレゼント
 だった。何しろ、レイの心という、最高のプレゼントをもらえたのだから。

 「ありがとう綾波。嬉しいよ……本当に嬉しいよ。僕も綾波を守るように頑張るよ」

 「だから、これからもよろしく、綾波。メリークリスマス!」 チュッ

 そう言って、シンジもレイの頬に優しくキス。二人は揃って真っ赤になっていく。

 ……そんな二人を、雲の隙間からのぞいた光が優しく照らしだしていた。


 綾波に、ありがとう

 使徒に、さようなら

 そして、全ての読者に……


 メリークリスマス!


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 四

 使徒、再来 ~雪の降る街で~ <完>


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 「はう~~~。いつの間にかシンジとレイのラブラブな話になってる~。
 おかしいな、こんなハズじゃなかったのに。どこで脱線したんだ?」

 「いつもの事じゃないか、ブザマだな」

 「だ、誰だお前はっ!?」

 「僕は、キミの心の中にいる、もう一人の作者さ。人は常に二人でできているから
 ね。……それよりこの話、『ああっ、○神さまっ』じゃないのか?」

 「うっ!」

 「しかも、マンガとアニメの話がごっちゃになってる」

 「うっ!」

 「オオカミの形をした使徒や、ヘビの形をした使徒は、フェンリルとミッドガルド
 じゃないのか?」

 「ううっ!!」

 「いいのかこんな事をして? 使徒の形だけで、分かる人には分かるぞ」

 「いいじゃないか別に! 僕は、この話をシンジとレイでやってみたかったんだ!
 こんな世界があってもいいじゃないか! 僕は……自分自身のためのクリスマス
 プレゼントとして、この話を作ったんだ!」

 「つまり、自分自身以外、プレゼントしてくれる人がいないんだな」

 「うっ! ……お前、自分をいじめて楽しいか?」

 「……確かに、ちょっと辛くなってきた。ここらでやめよう」

 「そうだな、それがいい。……それでは皆さん、メリークリスマス!


 「次はめぞん一刻ネタで……。(懲りてない)」


 <後書き 終わり>


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