新世紀エヴァンゲリオン-if- 他所投稿作品集 壱

 カヲルのカタチ シトのカタチ

 - Cパート -


 『ああっ僕はどうすれば! どうすればいいんだ!? こんな事、今までなかった
 し、僕がこんなにもてるなんて思わなかったし……ど、どうすれば……』

 シンジの頭の中は、すっかりパニックになっていた。


 ハッ!


 「……知らない天井だ。は……ははは……。な、何だ、やっぱり夢オチか。
 そうだよな。自分が言うのも何だけど、僕があんなにもてるわけないもんな……。
 ……でも、少し惜しかったな……」

 しかしその時、シンジは自分のベッドに誰かがいるような気がして、横を振り向いて
 みた。そこには、眠っているカヲルがいた。

 う、うわぁぁぁ!! カ、カヲル君! な、何で僕のベッド
 の中に!?」

 「ん? やぁシンジ君、気が付いたのかい? いきなり倒れるから心配したよ」

 そう言って、カヲルはにっこりと微笑んだ。

 「あ、ありがとう……。じゃなくて、何でカヲル君が僕のベッドの中にいるんだ
 い?」

 「ああその事かい? なに、簡単な事さ。シンジ君が寂しくならないように、
 添い寝してたんだよ」

 シンジはア然として、口をパクパクさせていた。
 と、その時、病室のドアが開いた。

 「あ、やっぱりここにいた」

 「ちょっとあんた、どういうつもりよ?」

 「やぁ二人とも、意外と早かったね。それより、君、確かアスカ君だったね。いいの
 かい? そんな体で走り回って」

 「誰のせいだと思ってるのよ。こんな時に寝てらんないわよ! それよりあんた、
 なかなかやってくれるじゃないの。私たちが騒ぐとシンジが目を覚ますからって、
 全員で部屋から出て、その後いなくなったと思ったら、ちゃっかりシンジのベッド
 に潜り込んでいたとはね……。で、
 シンジに手ぇ出してないでしょうね!!

 「碇君、大丈夫? 何もされてない?」

 「う、うん。大丈夫だと思うけど」

 シンジはそう言って自分の体を確かめていた。

 「失礼だね君たちは。僕は意識の無いシンジ君に何かしたりはしないよ。こういう事
 は、お互いが起きてないと面白くないんだよ。さ、シンジ君、今は君の意識もあるし
 僕たちはベッドの上だし、二人を遮る物は何もな……」

 ドゲシィッ!!

 レイとアスカの飛び蹴り(二点同時の荷重攻撃)が、カヲルの顔面にヒットした。
 その勢いで、カヲルはベッドから転がり落ちた。

 「まったくこの変態は……。油断も隙もあったもんじゃないわね」

 「さっ碇君、行きましょ」

 「あっ! こらレイ! 抜け駆けはダメよ」

 「はぁ……夢じゃなかったのか」

 シンジはボソッとつぶやいた。

 「碇君、夢だった方が良かったの? 私が碇君の事好きだと迷惑なの?」

 レイは、心配そうにシンジを見つめている。

 「え? い、いや、そんな事ないよ。僕は、その、嬉しいよ」

 「良かった。やっぱり碇君って優しい」

 「くぉら! シンジ!」

 「さぁシンジ君、僕にもその言葉を」

 「お前は寝てろ!!」 ゲシゲシゲシゲシ!

 アスカがカヲルを踏みつけている。

 「……ふぅ。これで一人減った」

 「じゃあ碇君、二人で静かな所へ行きましょう」

 「え? でも、綾波……」

 「さぁさぁ。こっちこっち」

 「あっ、ちょっと! 手を引っ張らないで!」

 「こらー! 待てー二人とも!」

 「あ、シンジ君! 待っておくれ!」

 こうして、シンジを巡る戦いは、ネルフの名物となっていった。


 アスカは、シンジを追いかけたり、連れて逃げたり、カヲルを叩きのめしたりするの
 がリハビリとなり、順調に回復していった。

 カヲルは、ネルフの女性職員や一部の男性職員に圧倒的な人気があったが、いつも
 シンジばかりを追いかけていた。『それがまたいい』と言う、困った人達もかなり
 いたが……。

 レイは、シンジとの明るい未来を守るため、シンジを変態にしないため、シンジを
 守るため、日夜二人と戦っていた。

 そして、この騒ぎの中心人物、シンジは……

 「はぁ~。みんな僕の事を好きだと言ってくれるのは嬉しいんだけど、僕の話を全然
 聞いてくれないんだもんな……。一体、僕って何?
 僕って何なんだーーー!!

 と、シンジの絶叫はジオフロントにこだました。

 しかし、シンジ本人が全く知らない所では、

 『二股かけてる』 とか、

 『三股かけてる』 とか、

 『実は両方ともOK』 とか、

 男にとって名誉なんだか不名誉なんだか分からない称号を付けられていた。


 一方、長時間の議論でも結論の出なかったゼーレは、ゲンドウと口喧嘩をしていた。

 「だいたい碇、お前の教育がなってないから、男にちょっかいを出す
 ような育ち方をするんだ!」

 「何を言っている。シンジはまともだ。レイやアスカといった彼女もちゃんといる。
 シンジにちょっかいかけているのは、むしろフィフスの方ではないか。一体、ゼーレ
 ではどんな教育をしてきたんだ?」

 「碇、貴様、我々ゼーレが悪いとでも言うのか?」

 「あんな性格に育つという事は、周りの環境がそんなんじゃないのか? これだから
 ゼーレの連中は……」

 「何を言うか碇! 私はノーマルだ」

 「私だってそうだ。もちろん、シンジもだ。第一、あのフィフスの少年、タブリスと
 言ったか、あれは使徒だそうじゃないか。なぜゼーレが我々の敵の使徒と行動を共に
 する? 説明してもらいたい」

 「君には関係の無い事だ。君は我々の命令通り、使徒を倒せばそれでいい」

 「ならば、なぜあんな格好の使徒をよこす? あれではシンジでは倒せん」

 「どういう事だ?」

 「シンジは使徒に乗っ取られた参号機の戦いの時、人が乗っているから戦えないと
 言って、戦いを拒否した。その時はダミーシステムで何とかなったが、あんな外見が
 人間と変わらない使徒など、戦えるはずがない」

 「ダミーシステムを使えば良かろう」

 「初号機はダミーを拒絶した。もうその手は使えん」

 「ならば、どうすると言うのだ?」

 「ゼーレが送り込んで来たのだから、ゼーレで処分してもらいたい」

 「使徒を倒すのはネルフの役目だ。そのために作ったのだからな」

 「だったらあんなのを送り込んで来るな。もっと、『いかにも使徒っぽい奴』なら、
 いくらでも倒してやる」

 「貴様、それがゼーレに対する口の利きかたか! だいたい、最近お前の行動は
 不信な点が多い。一体何をしている?」

 「ゼーレこそ、エヴァを揃えて何をする気だ?」

 「だいたい、貴様がロンギヌスの槍を使わなければ、タブリスだって倒せるもの
 を!」

 「使徒を倒すのを最優先したのだと何回言えば分かる! これだから、頭の固い
 老人は困る」

 「お前だってもう年だろうが!」

 「あんたらよりは若い」

 その後も、延々と口喧嘩は続いた。

 『……やれやれ。子供の喧嘩だなまるで』

 冬月は、呆れたようにゼーレとゲンドウの口喧嘩を見ていた。

 『……しかし、あのフィフスの少年、タブリスと言ったか……あの使徒を倒さぬ
 限り、碇のシナリオもゼーレのシナリオも失敗という事か……。だが、あの少年、
 好きになった人のために、あっさりと元の組織を裏切るとは、まるで、

 テレビ版のデビルマン

 のような奴だな……』

 冬月は、この時代の人が何人理解できるのか分からないような事を考えながら、もう
 一方のモニターを見た。そこでは、ネルフ名物のシンジ奪い合いが始まっていた。

 状況に流されるままのシンジは気付いていないが、この時、世界の運命はシンジが
 握っていた。なぜなら、シンジが誰を選ぶかが、世界の存続そのものを決定する事
 になるのだから……。

 少年はこの日、神話になった……のかも知れない。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 他所投稿作品集 壱

 カヲルのカタチ シトのカタチ <完>


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 今回の話、久し振りに読み返してみましたが……
 自分で書いといて何ですが、カヲルって変なヤツですね。元々どう扱っていいのか
 分からなかったキャラなので、まぁ一度くらい使ってみようかという事で書いて
 みたら、見事にホモキャラになってしまいました……。

 まぁ、レイとアスカを元に戻すための登場だからこれで良かったのかな~とも思い
 ます。レイの場合は元通りというより、TVの最終回のようなキャラになってしまい
 ましたが……たまには(?)いいでしょう。

 あと、ゼーレとゲンドウ……子供ですね。ま、世界が平和だからシンジとレイと
 アスカとカヲルの戦い(?)も延々と続いていく事でしょう。

 今後はもうカヲルが登場する事はないと思いますが、こんなカヲルのカタチもありと
 いう事で、そろそろ後書きを終わりたいと思います。それでは!


 [もどる]