新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十七部 Fパート (最終回)


 「碇……くん……」

 レイは嬉しくて嬉しくて何も言えず、ただシンジの身体をきつく抱きしめた。

 また、アスカも何の打算もなく、自然にシンジの身体を抱きしめていた。そして、
 自分の中のシンジの存在が、自分が思っていた以上に大きい事に気が付く。

 『そっか、レイに言ったように、私、ほんとにシンジの事が好きなんだ……。
 恋人同士って言ったのも私だし……他の男に乗り換える気なんて無いし……。
 ミサトの言うように、キスくらい別にいいのかな……レイのように……。自分の
 心を全く隠さなければ、今以上にシンジとの絆は強くなるのかな……』

 そう思い、少しうらやましそうにレイを見ると、

 『ん?』

 「どうしたのレイ?」

 「え? 何が?」

 「いや、今、何か複雑な顔してたから……シンジが元に戻って嬉しくないの?」

 「ううん、そんな事ないよ。とっても嬉しい」

 「よね。何か一瞬寂しそうな顔に見えたけど、やっぱり気のせいかしら」

 「寂しい? ……そうね、少しそう思ってるかも知れない」

 「何で?」

 「だって……碇くんはこんなにも私たちの事を大切にしてくれているのに、私は
 碇くんの力になれない……何もできない……。だから、私たちの事を頼りにして
 くれるって言ってたさっきの碇くんがいなくなったのが、少し寂しいかなって思った
 の。こんなに幸せなのに、私ってほんとにわがままね」

 「……ま、確かにね……」

 『そう言えば……私も好きだとか恋人同士とか逃がさないとか責任取ってもらう
 とか……勢いとはいえ色々言ったな……。う~~~恥ずかしい……でも……シンジ
 は覚えてないのか……。せっかく言えたのに……』

 「あの……綾波さん、アスカさん

 「え?」

 「シンジ?」

 「そ、その……僕は……覚えているから……二人が言ってくれた事……してくれた
 事……。二人の気持ちもちゃんと覚えているから……。ありがとう、とっても嬉しい
 よ。僕も……綾波の事も、アスカの事も大好きだから」

 「碇くん、私も……私も碇くんの事が大好きだから!」 (涙)

 「シンジが逃げずにはっきり言ってるのに、この私が逃げるわけにはいかないわね。
 しょうがないわね、はっきり言ってあげるから感謝しなさいよ。私もシンジの事が
 好きよ!

 そう告げるとプイッと横を向く。その目の涙を見られたくないようである。

 「ありがとう。それと綾波、さっき何の力にもなれないって言ってたけど、そんな事
 ないよ。綾波やアスカにはどれだけ助けられてるか分からないよ。僕は二人が思って
 くれてるほど強くはないし、二人がいなくちゃ何もできないよ。
 だから……その……これからも、逃げたり、甘えたりする事があるかも知れない
 から……。え……と……その時はよろしく面倒見てね」

 「うん、任せて、碇くん」

 「フッ……もちろんよ。その代わり、ちゃんと私たちを守りなさいよ」

 「うん、頑張るよ」

 こうして三人は最高の笑顔で見つめ合う。

 そして、そんな三人を、懲りずにドアの隙間から覗く四つの目。

 「う~ん、シンちゃんたらいつの間にあんな事言えるようになったのかしら……。
 これは『二人とも』確定かしらねん?」

 「…………やっぱり若い子はいいわね」

 「……リツコ、しつこいようだけど、シンちゃんに手ぇ出したら駄目よ。本気で
 二人に殺されるわよ」

 「わ、分かってるわよ。それより、ミサトこそ余計な事言ったわね。普通なら
 このままキスするはずよ。でもミサトがカメラがあるなんて言うから無意識のうちに
 ここで止めちゃってるじゃないのよ」

 「あ、やっぱり私のせいかな。でもほら、あのままだとひょっとして一線を超え
 ちゃうかも知れないから、ちょっとブレーキ掛けといた方がいいかなーと思った
 のよ。まだ中学生だしね」

 「まぁ確かにね。随分盛り上がってるし、百パーセント無いとは言い切れないわね」

 「でしょ」

 「ミサトさん、リツコさん、これからもよろしくお願いしますね」

 「え?」

 ミサトとリツコが話していると、いきなり部屋の中のシンジから声が掛かる。

 「あら~~~気付かれてた?」

 「ミサトが大きな声出すからよ」

 ドアを開け、ミサトとリツコは部屋に入ってくる。

 「いつもの事ですから」

 「そ、ミサトやリツコが覗かないわけないじゃないの」

 「私たちの事、見ててそんなに面白いですか?」

 「あははははは、ごめんごめん。保護者としてあなた達の仲がどこまで進むのかを
 見届ける義務があると思っての事なのよ。悪気は無いのよ。そ、れ、に、お詫びと
 言っちゃ何だけど、今日、私、外泊してあげるわ。ゆ~~~っくりと三人だけ
 の時間を楽しむといいわ~~~

 な な な 何言ってんですかミサトさん!?

 そ、そうよ! 変な気遣うんじゃないわよ!!

 「またまた無理しちゃって~~~」

 無理なんかしてない!!

 「? ? ? アスカ、どういう事なの? ミサトさんがいない夜なんて良く
 あるのに……」

 「いや……その……何ていうか……タイミングというか……場の盛り上がり具合と
 いうか……様々なシチュエーションというか……と、とにかく今日はミサトがいた
 方がいいの。じゃなきゃ、その場の盛り上がりでもしもっていう事もあるかも
 知れないし……その……」

 「? ? もしも?」

 「いーじゃないの、別に。”もしも”とやらが起きても私は大目に見てあげる
 わよん

 「う、うるさい!! とにかく変な気遣うんじゃない!! 分かった
 わね!!」

 「はいはい、分かったわよ」

 「はぁ~~~。ミサト、さっきと言ってる事が全然違うわね。ほんっとに冷やかす
 のが好きなんだから。そんな事ばっかりやってるとまた料理のカロリー増やされる
 わよ」

 「う、それは困る……」

 「だったらこれくらいで止めておく事ね。それより宴会するんでしょ。私も結構お腹
 すいてるし、早く行きましょうよ」

 「あ、そうだったわね。シンちゃんの記憶が戻った事 あ~~~んど お互いの
 気持ちを確かめ合った記念で、ぱぁーーーっとやりましょ! ぱぁーーーっと!
 何でも好きな物御馳走してあげるわよ。何がいいかな?」

 「カレー以外お願いします」

 「う。言うようになったわね」

 「ま、あんな目に遭えば当然ね」

 「私もカレー以外がいい。碇くんと同じ物食べたいから」

 「私もそうするわ。シンジが決めた物三人前ね」

 「う~~~ん、すっかりラブラブね!

 そう言ってシンジにヘッドロックを掛け、頭をグリグリする。

 「女の子にここまで言わせるなんて大したもんよ。まさに男冥利に尽きるわね。
 ちゃ~んと守って、幸せにしてあげなさいよ」

 「はい」

 「よーし、いい返事ね」 グリグリグリ

 「痛たたたたた」

 「まったく、ほんとの兄妹みたいね、あなた達」

 一方その頃レイとアスカはというと、ミサトがシンジの頭を抱えたため、渋々シンジ
 から離れた。

 「ねぇアスカ」

 「ん、何、レイ?」

 「後で碇くんと三人で誰も見てない所に行こうね」

 「う」

 「誰も見てなければいいんでしょ?」

 「いや……その……」

 「恋人同士って言ったのアスカよ。何か問題あるの?」

 「そりゃあ……言ったけど……」

 「アスカ、いや?」

 「そんな事……ない……」

 「じゃ行こ、ね」

 「う、うん」

 『ま、いいか。シンジと二人で私の目の届かない所に行かれるよりは私もいた方が
 いいに決まってるし、こ、恋人同士なんだし、別に初めてってわけじゃないし、
 キスの一つや二つや三つや四つ、問題無いわよね。うん、問題無い』

 「それじゃレイ、甘えさせる係ってのを私もやらせてもらうわよ。いいんでしょ」

 「別にいいけど……あんまり碇くんをきつく叱ったりしないでよ」

 「それはシンジ次第ね。ま、今のシンジならきっと大丈夫だと思うけどね」

 「うん。……あ、ミサトさん!碇くんに酷い事しないで下さい!

 レイは慌ててシンジにヘッドロックを掛けているミサトを引き離し、シンジの腕に
 しがみつく。

 「碇くん大丈夫? どこも痛くない?」

 「うん、大丈夫だよ。心配しないで」

 「ミサト、どさくさに紛れてシンジに抱きつくなんて何考えてんの
 よ!!」

 そう言ってアスカもシンジの手を取る。

 「何言ってんのよ。全く独占欲丸出しにしちゃって。そんなに独占したいのなら、
 今日家空けるって言ってるんだから、さっさと自分のにしちゃえばいいじゃない
 の」

 「だ、だから、そういう事言うのは止めなさいって言ってる
 でしょ!!」

 じ~~~~~~っ

 「う。あ、あのねレイ、別に私はあなた達からシンちゃんを取ったりしないから
 そういう目で見るの止めてくれないかしら」

 「碇くんに抱きついた」

 「いや、あれは抱きついたんじゃなくて、単なるヘッドロックであって……
 んーと……その……」

 じ~~~~~~っ

 「シンちゃん、何とかして」

 「あ。は、はい。えーと、綾波、ミサトさんはふざけてやっただけだし、そんなに
 痛くもなかったし、別に何ともないからそんなに睨まなくても大丈夫だよ」

 「そう? 碇くんがそう言うのなら」

 「そ、ミサトなんて放っといて、さっさと行きましょ」

 「うん、そうね。行こ、碇くん」

 「うん、何食べようか」

 「碇くんに任せる」

 「せっかくおごってくれるって言ってるのに遠慮なんかしたらミサトに悪いわよ。
 ここは思いっきり高い料理を御馳走してもらいましょ」

 と言いながらシンジ、レイ、アスカの三人は部屋から出て行った。

 「すっかり三人だけの世界が出来上がってるわね」

 「そうね、シンちゃんも照れてはいるけど嬉しそうにしてるし。一気に絆が深まった
 って感じね。でもあの子達……まさか家や学校でもこのままラブラブなの
 かしら?」

 「学校はともかく、家じゃこのまんまでしょうね。ミサトも大変ね。目の前で新婚
 生活見せられちゃたまったもんじゃないわね」

 「うう、確かに」

 「ミサトも対抗して加持君と新婚さん状態になればいいじゃない」

 「う、うるさいわね。私の事よりリツコこそさっさと男作りなさいよ。あ、言っとく
 けど、男作れって言っても培養装置の中でゼロから造り出せって言ってるわけじゃ
 ないから誤解するんじゃないわよ」

 「分かってるわよ。ちゃんと私の好みをマギに入力して全世界のネットワークを
 使って私にふさわしい男を探してるわよ」

 「見つかったらどうするのよ?」

 「もちろん拉致監禁して私に絶対服従するように調教を……」

 「……あのね」

 「もちろん冗談よ」

 「あんたがそう言うと冗談に聞こえないのよ」


 「ミサトさん、リツコさん、どうしたんですか?」

 「行かないんですか?」

 「サイフが来なけりゃ始まんないんだから早く来なさいよ」

 「あ、はいはい。今行くわよ。給料日前だからお手柔らかに頼むわよ」

 「仕方無いわね。私も少し出してあげるわよ」

 「さっすがリツコ、やっぱ持つべきものは心の広い友よね~~~」

 「あくまで少しよ。そうね、1/5くらいかしら」

 「……それって自分の分しか出さないって事?」

 「何言ってんの。ミサトは一人で3/5くらい食べて飲むんだから、私の分以上は
 出してるわよ」

 「そこまで食べてないわよ。せめて2/3くらいよ」

 「増えてるわよそれ」

 「あ」

 一人墓穴を掘るミサトを呆れながら、五人は歩き出す。シンジの左右にはそれぞれ
 レイとアスカが寄り添っている。それは、これからの三人の進む道そのものであるか
 のようであった。

 三人で同じ道を進む、もたれ合うのではなく、支え合いながら。
 それは、シンジ達にとっての幸せな未来に繋がっていた。


 追伸。

 その後、シンジ達は三度目のキス(頬のは数に入っていない)をしていた事が、
 ミサトのハンディカメラによって撮影された映像によって確認する事ができたと
 いう事である。

 なお、どこからかその情報を掴んだゲンドウにより高値で取引され、ミサトの懐が
 潤ったのだが、後にその事がシンジ達にばれ、また太らされてしまったとの事で
 ある。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十七部 蘇る悪夢・輝く未来 


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