『……この寝息からして三人とも寝たようね。さ~てと……』
ミサトは三人を起こさないように静かに起きると、自分の部屋へ向かい、何かの準備
を始めた。その動きはまさにプロの動きだった。
しばらく経って、ミサトはかなり怪しい格好で再びリビングに入ってくる。
どういう格好かというと、ネルフ特製暗視ゴーグルを被り、同じ機能の付いたカメラ
を手にしている。このカメラは全く明かりが無くても真昼のように見え、フラッシュ
など点けなくても全く問題なく撮影できるため、被写体は撮られた事に気付かない
という、芸能レポーターやケンスケがよだれを滴らすようなカメラであった。
先ほど『仕事の残りがある』と言って部屋に入ったのは、この準備のためのよう
だった。
『んふふふふ~ こういうイベントを思い出の写真として残して
あげるのも保護者の義務よね~(はーと) 優しい私に感謝してよ。
わざわざこんな真夜中まで起きててあげたんだから。あ~私って優しいわね。
……それにしても、三人とも幸せそうな寝顔をしちゃってるわね……』
カシャ カシャ
『……ん~~~でも、ちょっとインパクトに欠けるわね~~~。
もうちょっとくっつけちゃおうかな……』
(……三人並んで寝てるだけでも十分インパクトがあると思うが……)
『くっつけちゃおうかな……でもさすがにそこまですると目を
覚ましちゃうかも知れないし……。う~ん……どうしようか』
と、ミサトが悩んでいると、レイがもそもそもと動き始め、シンジの方へ
転がり始めた。
『あらあら……早速得意技の発動ね』
そしてシンジにくっつくと、動かなくなった。
『……寝息からして確実に寝てる……。海に行った時もこうだったようね。
まぁ、考えてみれば、寝てるうちにふすま開けてシンジ君のベッドに潜り込むくらい
なんだから、隣で寝てればこうなるのは当たり前か……。ま、どっちにしても、
シャッターチャンスね、これは……ん?』
シャッターを押そうとした時、何かが動いたような気がしてそっちを見ると、アスカ
も動き出していた。
『ふ~~~ん、アスカもか。こっちも確実に寝てるし、わざとじゃないようね。
眠ってまでレイに張り合うあたりがいかにもアスカね。それとも、やっぱり
シンちゃんがフェロモン出してるのかな? ……ま、アスカもシンちゃんに
くっついたし、くっつける手間が省けたわね。早速撮影撮影っと』
ミサトはニヤニヤしながら三人を撮影しまくっていた。ちなみに、(話の展開上)
シンジが腕を広げている所に二人が転がってきたので、W腕枕状態だった。
……ミサトが喜ぶわけだ。
結局、ミサトはデータ容量限界までシンジ達を撮影した。
『あ~、いい写真が撮れたわ。これ見せたら三人ともどんな顔するのかな~~~?
想像しただけでも楽しそうね。そうだ、碇司令にも見せてみようかしら。ひょっと
すると高く売れるかも知れないしね』
半分冗談でそんな事を考えていたミサトだが、後日写真を見たゲンドウが、全データ
との引き替えに有給休暇十日分という条件を出したので、裏取引は成立した
ようだった。
……いいのかネルフ、そんな事で? ま、後で冬月に没収されたようだったが。
そして次の日の朝。
CASE 1 碇シンジの場合
目覚ましを仕掛けるのを忘れていたが、シンジはいつもの習慣で目を覚ます。
『ん……朝か……。あれ? ここ……そうか、みんなでリビングで寝たんだ。
……何時だろ? ……朝ご飯作らないと……』
しかし、身体を起こそうとしても起き上がれなかった。
『……こ、これって……確か前にも一度あったような……。
た、確か海に行った時……』
一気に全身から汗が噴き出す。
『た、確か、綾波はこっちで寝てたと……』
そう思い振り向くと、予想通りレイの幸せそうな寝顔がそこにあった。
『や、やっぱり…………』
かなり動揺しながらも思わず見とれるシンジであった。さすがに二度目という事も
あり、多少は冷静になれたようだ。
『ど、どうしよう……。こんなとこアスカやミサトさんに見られたらまた……。
特にアスカに見られたら……。アスカが起きないうちに何とかしなきゃ……。
アスカ、まだ寝てるよな……』
と思い、アスカの方を向く。
『……え?』
そこには、アスカの寝顔があった。
『…………』 思考停止
『な、な、な、何でアスカまで!? またミサトさんの仕業? ? ?
……どうしよう……僕は一体どうすればいいんだ……誰が目を覚ましても
問題あるし……でも動けないし……どうしよう……どうしよう……
ど……う……し……よ……う………… 寝よ』
とうとう現実を拒否したらしく、成り行きに身を任せる事にしたらしい……。
困ったもんだ。
CASE 2 綾波レイの場合
シンジが再び寝てから数分後、レイが目を覚ます。
『……朝……何だろ? ……とても暖かい……碇くんのにおいがする……。
安心できる……この感じ……前にも……』
『!! 碇くん!? 私、また? ……そう言えばミサトさんが言ってた……
寝てる間の事は仕方ないって……。良かった……わざとじゃないもの……
目を覚ましたからって離れなくてもいいよね……嬉しい……腕枕……。昨日は腕枕
してあげたし、してくれたし(アスカが耳掃除についてゴネたため、結局シンジが
レイとアスカの耳掃除をするという事で話がまとまったらしい。もちろん膝枕付き。
提案者は言うまでもなくミサトである) 碇くんが目を覚ますまでこうしてよ』
レイは目を閉じ、今の状況を楽しむように、更にシンジの方へすり寄る。
CASE 3 惣流アスカラングレーの場合
『……朝か……シンジに起こされる前に目を覚ますなんて珍しいな……。
そうだ!! 昨日、みんなで寝たんだから、まさかレイのやつ、また前と同じ
になってないでしょうね!?』
そう思い、レイの方を向く。
『……え?』
しかし、すぐ目の前にシンジの顔がある。
『え? え? え? ま、まさかこれって……わ、私も腕枕?』 赤~
『私もレイと同じように転がってきたの? それともミサトの仕業? ……でも、
前と違って今回は疲れてないから、身体に触られたら気付くわよね。じゃ、私も
やっぱり転がってきたわけ? ……そ、そうだ、レイは?』
アスカは少し顔を上げ、レイの方を見る。
『……やっぱりこうなってるのか……どうしよ……今すぐ起こして引き離すべき
かしら……。いっか、私も同じようにしてればいいだけだし、今騒ぎを起こしたら
何かレイだけいい目を見そうだし。シンジやレイが寝てるって事はまだ朝早いって
事よね……。誰かが目を覚ますまで寝てよ』
と思い、シンジを起こさないようにゆっくりとシンジの腕に戻り、目を閉じた。
『……どうしたんだろ? 二人とも目を覚ましたような気がするんだけど……。
アスカなんて頭起こしたはずなのに何で何も言わないんだろ? 寝ぼけてるのかな?
……それとも、僕と同じように成り行きに身を任せるようにしたのかな? でも、
なんか二人ともさっきより近くに来たような気がする……。
どっちにしても、これじゃますます動けないよ』
現実逃避とはいえ、あれから眠れるはずもなく、シンジは起きていた。もっとも、
今はレイとアスカも起きているのだが……。
CASE 4 葛城ミサトの場合
「ふわぁ~~~っっっ!! ふぅ。ああ、良く寝た。ん? ……あらまぁ、
こんなにくっついて寝ちゃって……仲のいい事……。
『やっぱり二人ともが一番可能性高いかな……』
……げっ! もう九時!? ちょっとあなた達、早く起きなさい!」
「ええっ!? もう九時!?」
「大変! 朝ご飯作らなきゃ!」
「何言ってんのよ! そんな暇ないわよ。早く学校行かなきゃ!」
「……あんた達、随分と反応早いわね……。ひょっとして起きてたの?」
「な、何言ってるんですかミサトさん! そんな事ありませんよ!」
「そ、そうよ。そんな事より早く着替えなきゃ。ほら、シンジ、レイ、着替える
わよ」
「う、うん」
「ええ、そうね」
ミサトの追求をかわすため、三人はそれぞれの部屋に向かった。一人残された
ミサトは一言呟く。
「……怪しい……」
『状況を分析すると……三人とも起きてた可能性は高いわね……現状を楽しみたい
から?』
「ん? し、しまった! 私もこんな事してる場合じゃなかった。時間が……。
またリツコにイヤミ言われる」
ミサトも慌てて部屋に飛び込む。
結果として、シンジ達三人は派手に遅刻してトウジ達にからかわれ、ミサトは
予想通り、リツコに文句を言われていた。
と、このような事を繰り返しつつ、ついに写真提出の朝がやってきた。
……って、そうか! この話は撮影大会がメインだった!
いよいよ次週から撮影大会再開される! ……はず。
<つづく>