新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十五部 Hパート


 『……この寝息からして三人とも寝たようね。さ~てと……

 ミサトは三人を起こさないように静かに起きると、自分の部屋へ向かい、何かの準備
 を始めた。その動きはまさにプロの動きだった。

 しばらく経って、ミサトはかなり怪しい格好で再びリビングに入ってくる。

 どういう格好かというと、ネルフ特製暗視ゴーグルを被り、同じ機能の付いたカメラ
 を手にしている。このカメラは全く明かりが無くても真昼のように見え、フラッシュ
 など点けなくても全く問題なく撮影できるため、被写体は撮られた事に気付かない
 という、芸能レポーターやケンスケがよだれを滴らすようなカメラであった。
 先ほど『仕事の残りがある』と言って部屋に入ったのは、この準備のためのよう
 だった。

 『んふふふふ~ こういうイベントを思い出の写真として残して
 あげるのも保護者の義務よね~(はーと) 優しい私に感謝してよ。
 わざわざこんな真夜中まで起きててあげたんだから。あ~私って優しいわね。
 ……それにしても、三人とも幸せそうな寝顔をしちゃってるわね……』

 カシャ カシャ

 『……ん~~~でも、ちょっとインパクトに欠けるわね~~~。
 もうちょっとくっつけちゃおうかな……』

 (……三人並んで寝てるだけでも十分インパクトがあると思うが……)

 『くっつけちゃおうかな……でもさすがにそこまですると目を
 覚ましちゃうかも知れないし……。う~ん……どうしようか』

 と、ミサトが悩んでいると、レイがもそもそもと動き始め、シンジの方へ
 転がり始めた。

 『あらあら……早速得意技の発動ね』

 そしてシンジにくっつくと、動かなくなった。

 『……寝息からして確実に寝てる……。海に行った時もこうだったようね。
 まぁ、考えてみれば、寝てるうちにふすま開けてシンジ君のベッドに潜り込むくらい
 なんだから、隣で寝てればこうなるのは当たり前か……。ま、どっちにしても、
 シャッターチャンスね、これは……ん?』

 シャッターを押そうとした時、何かが動いたような気がしてそっちを見ると、アスカ
 も動き出していた。

 『ふ~~~ん、アスカもか。こっちも確実に寝てるし、わざとじゃないようね。
 眠ってまでレイに張り合うあたりがいかにもアスカね。それとも、やっぱり
 シンちゃんがフェロモン出してるのかな? ……ま、アスカもシンちゃんに
 くっついたし、くっつける手間が省けたわね。早速撮影撮影っと』

 ミサトはニヤニヤしながら三人を撮影しまくっていた。ちなみに、(話の展開上)
 シンジが腕を広げている所に二人が転がってきたので、W腕枕状態だった。
 ……ミサトが喜ぶわけだ。

 結局、ミサトはデータ容量限界までシンジ達を撮影した。

 『あ~、いい写真が撮れたわ。これ見せたら三人ともどんな顔するのかな~~~?
 想像しただけでも楽しそうね。そうだ、碇司令にも見せてみようかしら。ひょっと
 すると高く売れるかも知れないしね』

 半分冗談でそんな事を考えていたミサトだが、後日写真を見たゲンドウが、全データ
 との引き替えに有給休暇十日分という条件を出したので、裏取引は成立した
 ようだった。

 ……いいのかネルフ、そんな事で? ま、後で冬月に没収されたようだったが。


 そして次の日の朝。


 CASE 1  碇シンジの場合

 目覚ましを仕掛けるのを忘れていたが、シンジはいつもの習慣で目を覚ます。

 『ん……朝か……。あれ? ここ……そうか、みんなでリビングで寝たんだ。
 ……何時だろ? ……朝ご飯作らないと……』

 しかし、身体を起こそうとしても起き上がれなかった。

 『……こ、これって……確か前にも一度あったような……。
 た、確か海に行った時……』

 一気に全身から汗が噴き出す。

 『た、確か、綾波はこっちで寝てたと……』

 そう思い振り向くと、予想通りレイの幸せそうな寝顔がそこにあった。

 『や、やっぱり…………』

 かなり動揺しながらも思わず見とれるシンジであった。さすがに二度目という事も
 あり、多少は冷静になれたようだ。

 『ど、どうしよう……。こんなとこアスカやミサトさんに見られたらまた……。
 特にアスカに見られたら……。アスカが起きないうちに何とかしなきゃ……。
 アスカ、まだ寝てるよな……

 と思い、アスカの方を向く。

 『……え?』

 そこには、アスカの寝顔があった。

 『…………』 思考停止


 『な、な、な、何でアスカまで!? またミサトさんの仕業? ? ?
 ……どうしよう……僕は一体どうすればいいんだ……誰が目を覚ましても
 問題あるし……でも動けないし……どうしよう……どうしよう……
 ど……う……し……よ……う………… 寝よ

 とうとう現実を拒否したらしく、成り行きに身を任せる事にしたらしい……。
 困ったもんだ。


 CASE 2  綾波レイの場合

 シンジが再び寝てから数分後、レイが目を覚ます。

 『……朝……何だろ? ……とても暖かい……碇くんのにおいがする……。
 安心できる……この感じ……前にも……』

 『!! 碇くん!? 私、また? ……そう言えばミサトさんが言ってた……
 寝てる間の事は仕方ないって……。良かった……わざとじゃないもの……
 目を覚ましたからって離れなくてもいいよね……嬉しい……腕枕……。昨日は腕枕
 してあげたし、してくれたし(アスカが耳掃除についてゴネたため、結局シンジが
 レイとアスカの耳掃除をするという事で話がまとまったらしい。もちろん膝枕付き。
 提案者は言うまでもなくミサトである) 碇くんが目を覚ますまでこうしてよ』

 レイは目を閉じ、今の状況を楽しむように、更にシンジの方へすり寄る。


 CASE 3  惣流アスカラングレーの場合

 『……朝か……シンジに起こされる前に目を覚ますなんて珍しいな……。
 そうだ!! 昨日、みんなで寝たんだから、まさかレイのやつ、また前と同じ
 になってないでしょうね!?

 そう思い、レイの方を向く。

 『……え?』

 しかし、すぐ目の前にシンジの顔がある。

 『え? え? え? ま、まさかこれって……わ、私も腕枕?』 赤~

 『私もレイと同じように転がってきたの? それともミサトの仕業? ……でも、
 前と違って今回は疲れてないから、身体に触られたら気付くわよね。じゃ、私も
 やっぱり転がってきたわけ? ……そ、そうだ、レイは?

 アスカは少し顔を上げ、レイの方を見る。

 『……やっぱりこうなってるのか……どうしよ……今すぐ起こして引き離すべき
 かしら……。いっか、私も同じようにしてればいいだけだし、今騒ぎを起こしたら
 何かレイだけいい目を見そうだし。シンジやレイが寝てるって事はまだ朝早いって
 事よね……。誰かが目を覚ますまで寝てよ』

 と思い、シンジを起こさないようにゆっくりとシンジの腕に戻り、目を閉じた。



 『……どうしたんだろ? 二人とも目を覚ましたような気がするんだけど……。
 アスカなんて頭起こしたはずなのに何で何も言わないんだろ? 寝ぼけてるのかな?
 ……それとも、僕と同じように成り行きに身を任せるようにしたのかな? でも、
 なんか二人ともさっきより近くに来たような気がする……。
 どっちにしても、これじゃますます動けないよ』

 現実逃避とはいえ、あれから眠れるはずもなく、シンジは起きていた。もっとも、
 今はレイとアスカも起きているのだが……。



 CASE 4  葛城ミサトの場合

 「ふわぁ~~~っっっ!! ふぅ。ああ、良く寝た。ん? ……あらまぁ、
 こんなにくっついて寝ちゃって……仲のいい事……。

 『やっぱり二人ともが一番可能性高いかな……』

 ……げっ! もう九時!? ちょっとあなた達、早く起きなさい!

 「ええっ!? もう九時!?」

 「大変! 朝ご飯作らなきゃ!」

 「何言ってんのよ! そんな暇ないわよ。早く学校行かなきゃ!」

 「……あんた達、随分と反応早いわね……。ひょっとして起きてたの?」

 「な、何言ってるんですかミサトさん! そんな事ありませんよ!」

 「そ、そうよ。そんな事より早く着替えなきゃ。ほら、シンジ、レイ、着替える
 わよ」

 「う、うん」

 「ええ、そうね」

 ミサトの追求をかわすため、三人はそれぞれの部屋に向かった。一人残された
 ミサトは一言呟く。

 「……怪しい……」

 『状況を分析すると……三人とも起きてた可能性は高いわね……現状を楽しみたい
 から?』

 「ん? し、しまった! 私もこんな事してる場合じゃなかった。時間が……。
 またリツコにイヤミ言われる

 ミサトも慌てて部屋に飛び込む。

 結果として、シンジ達三人は派手に遅刻してトウジ達にからかわれ、ミサトは
 予想通り、リツコに文句を言われていた。


 と、このような事を繰り返しつつ、ついに写真提出の朝がやってきた。


 ……って、そうか! この話は撮影大会がメインだった!

 いよいよ次週から撮影大会再開される! ……はず。


 <つづく>


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