「私に……キスされるの……いや……なの?」
「そ、そんな事ないよ、嬉しいよ」
「ほんと? 良かった」 にぱっ
「ふっ……そりゃそうよね。何しろ、この私からキスしてもらえるんだから、
嬉しくないわけないわよね。さ、シンジ、帰るわよ」
そう言って、アスカはシンジの手を取る。
「あ」
「碇くん、私、美味しい物作るからね」
そう言ってレイもシンジの手を取る。
「う、うん、ありがとう」
『二人とも……柔らかい手だな……』
照れまくっているシンジの手を、二人で引っ張りながら家路につく。
「いや~しかし、あの子達はほんと酒の肴として最高ね。今日はぷわぁーっ
と騒げそうね」
「ま、確かにあの子達が酒の肴として最高なのは認めるけど、今日は飲んじゃ駄目
よ。いいわね、ミサト」
「えーーーなんでーーー!?」
「決まってるでしょ。私達は一応勤務中なのよ。何か起きた時どうするのよ?」
「日向君達に……」
「ダメっ!! 私達は責任者なのよ! これ以上ゴネるのなら
ネルフに連れて帰るわよ!!」
「う~~~分かったわよ……はぁ~~~ 責任者って辛いわねぇ~」
(普通の責任者はこの時間は仕事してるはず……)
「そうね。でも、責任者やってるからこそ、今ここに来れたのよ。今日はシラフで
我慢するのね」
「仕方ない……コーヒーでも買って帰るか……」
「ええ、お祭り女のミサトならビール無しでも十分騒げるしね。さ、早く行かないと
置いてかれるわよ」
「え? あ、こらー! 待ちなさいってばー!!」
ミサトはそう叫びながら、リツコを引き摺り、シンジの後を追った。
そして、そのミサト達を物陰から見つめる人物がいた。
かなり巨大な集音マイクを仕掛け、そこから延びるヘッドフォンを耳に付けている
という、どこから見ても怪しい二人組である。
言うまでもないが、ゲンドウと冬月である。
「やれやれ、葛城君や赤木君にも困ったものだな……。使徒が来なくなって久しい
とは言え、勤務中に現場を抜けるとは……。まぁ、今我々もここにいるのだから、
人の事は言えんがな。しかし碇、実弾を使わなかっただけ成長したという事か?」
「ここは人目が多い。揉み消すのは骨が折れるからな。それより、行くぞ 冬月」
「? どこへだ?」
「決まっている。葛城君が勤務中にビールを飲むかどうかのチェック
だ。ボーナスの査定に影響するからな」
「……要するに、引き続きシンジ君達を覗くというわけか」
「あくまで監視だ」
「……で、これ(サブロー)はどうする?」
「問題ない。この辺りに置いておけばそのうち誰かが気付く」
「機材はどうする? 置いて行くのか?」
「保安部の連中が回収する。放っておけば良い」
「……公私混同も甚だしいな……」
「問題ない、責任者は私だ」
「だからこそ問題なんだ! いいか碇、そもそも組織のトップに立つ者として
の心構えというものが……こ、こら待て! 碇!」
冬月は逃げるゲンドウを追いかけていった。
そして、話はミサトのマンションまで一気に飛ぶ。
ミサトとリツコは、『とりあえずネルフに連絡を入れる』と言って、マンションの
前で携帯を取り出し、シンジ達を先に部屋の中へ入れた。もちろん、シンジ達
を三人だけにする作戦のためで、既にこっそりと部屋の中に入り、いつもの
ようにふすまを少し開けて、シンジ達をこっそり覗いていた。
『さ~て、どうなる事やら……』
『楽しみね、ミサト』
「じゃあ碇くん、お祝いのキスを……」
「ちょっと待ちなさい、レイ」
「何? まだ何かあるの? ここには私たちしかいないわよ」
「だ、だから、キスなんてものはそうあっさりポンポンとするもんじゃないのよ。
だいたい、レイの読んでる少女マンガに出てくる女の子だって、キス一つするのに
随分と手間掛けてるでしょ? こういうのはシチュエーションが大事なのよ」
「? しゅちゅえーしょん?」
「そ。いかにしてその段階まで持って行くかってーのが醍醐味なのよ」
「……つまり、キスするのには何か理由がいるという事?」
「そう、ようやく分かったようね」
「碇くんが優勝したからお祝いにキスしてあげるというのではいけないの?」
「ヘ? ………………」
『あぁ~~~しまった~~~っ! 思いっきり明確な理由がある!
うう、どうしよ~。でも、レイのようにあっさりキスするのも私のキャラクターじゃ
ないし……う~~~!』
アスカが一人で唸っていると、レイが一つの提案をする。
「じゃあ、碇くんが私たちにキスしてくれるというのはどう?」
「え?」
「へ?」
・
・
・
「な、な、何で?」
「そうよレイ、どこをどうやったらそういう発想が出てくるのよ?」
「だって、アスカ 一人で何か悩んでるみたいだったから、発想の転換を
した方がいいんじゃないかと思って……駄目なの?」
「……そ、そうね。確かに発想の転換が必要ね」
「え? アスカまでそんな事を……? だって……あの……キス……してくれるん
じゃ……なかったの? ……ど、どうして僕が……その……キス……する……の?」
シンジは、キスしてくれるものだと思っていたのに、自分からキスする事になりそう
なので慌ててしまう。
キスするのとされるのでは心構えがまるで違う。
シンジの性格では、とてもそんな事ができるはずもなかった。
「だ、だからその……そ、そうよ。シンジ、あの時緊張してガチガチになってた
でしょ。でも、私たちのキスのおかげでリラックスできたんじゃないの。
言い換えれば、シンジが優勝できたのは、私たちのおかげと
言えなくもないでしょ。だから、そのお礼にキスするのよ。分かったかしら?」
「そうね、何も問題ないわ」
「あ、綾波ぃ~……」
「じゃあレイ、シンジが悩まなくていいように、どっちが先にキスしてもらうかを
じゃんけんで決めましょ。恨みっこなしね」
「ええ、いいわよ。じゃ、勝った方が先にキスしてもらうって事でいいのね」
「そうね、それでいいわ。シンジもいいわね?」
「い、いいわねって言われても……あの……」 モジモジ
シンジはどう言っていいのか分からず口ごもってしまう。しかし、レイとアスカは
すでにじゃんけんを始め、順番を決めてしまっていた。
『う~ん、さすがはレイね、羞恥心が無いわ』
『でも、結構赤くなってるわよ』
『そうね、でもやっぱりシンちゃんやアスカの方が真っ赤ね』
『でも、アスカも良く今の提案に乗ったわね。断るかと思ったのに……』
『アスカだってシンちゃんの事好きなんだし、キスしたくないって事じゃないのよ。
きっかけが欲しかったんでしょ。さーて、シンちゃんがどう出るか見物ね』
『ええ、楽しみね』
その後、シンジは固まってしまい、レイとアスカは じぃ~~~っと待っている。
一分後
二分後 イラ
五分後 イラ イラ
七分後 イラ イラ イラ
十分後 ブチン!
その時、ガラッとふすまが開く。
「あーーーーーーっもう!! イライラするわねー!!
やるのかやらないのかはっきりしなさい! まったくもう!
男でしょ!!」
「シンジ君って おくてね~」
「元気があっていいぞ、続けたまえ」
「やれやれ……」
「な?」
「と、と、父さん!?」
「碇司令!?」
「し、司令!? どうして私の家に?」
「全く気が付かなかったわ……」
「問題ない。今はそれよりシンジの方が問題だ。シンジ、続けるのなら
早くしろ。でなければ、続けろ」
「……日本語になってないぞ、碇」
「問題ない。それより葛城君、あと一息という所でふすまを開けてはいかん。
こういう物はじっくりと時間を掛けるものだ」
「はぁ……。しかし、あまりに進展が無いので……ん? アスカ、どうしたの?」
「で で で ……
出てけーーーーーーっっっ!!!」
この時のアスカの怒りの声は町中に響き渡ったという。
第三新東京市は、今日も平和だった。
-if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き
ああっ、これでは らんま1/2 そのまんま~!
ま、まぁいい、黙ってたら分からんだろう。次の話を書く事にするか。
じゃ! (逃げたな、作者)