「それじゃあミサトさん、行ってきます」

 「行ってくるわ」

 「行ってきます。ペンペン、行ってくるね」

 そう言って、レイはペンペンの頭をなでる。

 「クゥ~~~」

 「はい、行ってらっしゃい。車に気を付けてね。あ、それから、今日は先生の話だけ
 なんでしょ?シ ンクロテストは夕方からだから、ゆっくりおしゃべりしてくると
 いいわ」

 「もっちろん、そのつもりよ」

 「じゃあミサトさん、ガスの元栓は閉じましたから。出かける時はカギをちゃんと
 掛けて下さいね。それから、ペンペンの昼ご飯はいつもの所に置いてますから。
 それと……」

 あーーーもーーーっ! 分かってるって! 毎日毎日同じ事
 言わないでよ」

 「何言ってんのよ。普通、こういう事はミサトが言う事でしょミサトが頼りない
 からシンジがやってんじゃないの。だいたいミサトは……」

 「ほらほら、早くしないと学校遅れるわよ」

 「あ、もうこんな時間!」

 「二人とも急ごう」

 アスカはまだミサトに色々言いたい事があるようだったが、シンジとレイに付いて
 エレベータに向かって走り出した。

 「やれやれ、やっと行ったか。それにしても、あの子達が三人仲良く学校に行くよう
 になるなんてね……。変われば変わるもんね……。さ、私もネルフへ行く準備する
 か」

 そう言って、ミサトはシンジ達を見送った後、出勤の準備を始めた。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第九部 Aパート


 第三新東京市の復興もほぼ終わり、ネルフ職員の家族達の殆どが戻ってきていた。
 また、兵装ビルの半数近くは普通のビルに建て替えられ、数多くの企業を誘致した
 ため、それらの会社の社員も多く移り住んできていた。そのため、今、この街は
 朝の出勤で賑わっていた。

 そんな中に、これまでこの街でしばらく見られなかった風景、学校に通う生徒たち
 が加わった。これにより、ようやくこの街に平和な日常が戻って来た事を表していた。

 シンジ達三人も、それを感じながら、少し早足で学校に向かっていた。

 「この街もすっかり元通りになったね」

 「ほんと。こんなにたくさんの人や車が戻ってきてる」

 「そりゃあね。この街を日本の経済の中心地にしようって計画らしいから、まだまだ
 人は増えるんじゃないの?」

 「そうだね。最新の施設で固めた街だから、情報の収集とか、経済活動には向いてる
 のかも知れないね」

 「世界中で一番新しい都市だものね」

 「でも、どーせなら学校もぱぁーーーっ! と新しいやつに建て替えてくれれば
 良かったのに……」

 「でもアスカ、学校は何の被害も無かったんだから、その必要も無いんじゃないの?
 それに、あの学校も建てられてからまだ十年年くらいしか経ってないから、そんなに
 古くないし」

 「ま、そりゃあそーだけどね。……ところでレイ、あんたさっきから、随分と嬉し
 そうね。何かいい事でもあったの?」

 「うん。こうして碇くんやアスカと一緒に学校に行けるのがとっても嬉しいの」

 「え? あんた、そんな事で浮かれてるの?」

 「だって、私はこれまでずっと一人だったから……。だから、こうして話をしながら
 学校に行くのって初めてなの」

 「ふーん。ま、気持ちは分からなくもないわね」

 「そうだね、一人より大勢の方が楽しいからね」

 「うん、だから、今とっても楽しいの。だから、アスカがうらやましいな……。
 これまでずっと碇くんと一緒に学校行ってたんでしょ?」

 「…………そうでもないわよ。シンジと一緒に学校に行った事なんて殆ど無いもの」

 「え、そうなの?」

 「そうだね。アスカと一緒に学校に行った事ってあんまり無かったね」

 「どうして? 一緒に暮らしてたんでしょ、ケンカでもしてたの?」

 「別にケンカしてたってわけじゃないんだけど、あの頃の私はシンジとそんなに仲が
 いいって事なかったし、シンジは鈴原や相田が迎えに来てたしね」

 『う~ん、今考えると結構チャンスあったのに、もったいない事したかな……』

 「そうだったの……ねぇ碇くん、私、一緒に学校行ってもいいよね?

 「もちろんだよ。一緒に暮らしてるのにわざわざ別々に行く事もないしね。
 三人で行けばいいと思うよ」

 「ほんと? 良かった。そうよね、一緒に行った方が楽しいものね」

 「うん、そうだね」

 「シンジ、三人と言った以上、私たち三人で行くのよ。あいつらが来ても断りなさい
 よ」

 「え? で、でも、せっかく迎えに来てくれるのに、それはちょっと……」

 「……まぁ、しょうがないわね」

 『もっとも、あいつらがいてもこのポジション(シンジの右側)は絶対に譲らない
 けどね。レイだってシンジの左側から絶対離れないだろうし……』

 「ところでシンジ、さっきから気になってたんだけど、何で私のとの間に
 カバン持つわけ? そんなにレイの近くを歩きたいわけ?

 「は? 何言ってんだよ? 別にそういうわけじゃないよ。ただ単に、僕は右利き
 だから右手に持ってるだけだよ。深い意味なんて無いよ」

 ちなみに、シンジの右側を歩いているアスカは、右手にカバンを持ち、左側を歩いて
 いるレイは、左手にカバンを持っている。

 「深い意味が無いんだったら、左手で持ちなさいよ」

 「 別に構わないけど……」

 そう言って、シンジは左手にカバンを持ち替える。

 「……碇くん、私のそば歩くの、嫌?

 「そ、そんな事ないよ」

 シンジは慌ててカバンを右手に持ち替える。

 「シンジ!」

 「どーすりゃいいんだよぉ!?」

 シンジは思わず頭を抱えてしまった。結局、電信柱一つおきに、カバンを
 持つ手を入れ替えるという、小学生のような事をする事になった。

 そして次の日から、シンジのカバンは背負うタイプに変わったという。


 平和だね~~~。


 学校では、久し振りに友人に会った生徒達で賑わっていた。シンジ達は、下駄箱で
 上履きに履き替え、自分達の教室へと向かう。

 「あ、そうだレイ、今私たちと一緒に暮らしてるって事、しばらく秘密にしておき
 なさいよ」

 「? どうして?」

 「どうしてって、私とシンジが一緒に暮らしてるのがばれた時の騒ぎ忘れたの?
 この上、レイまで一緒に暮らしてるって事になれば、嫉妬に狂った男どもに、
 シンジが何されるか分かったもんじゃないわよ。だから、秘密にしておく
 の。いいわね?」

 「それが碇くんのためになるの?」

 「もっちろん」

 「ならそうする」

 「ありがとう二人とも、でも多分、意味が無いと思うな

 「? どういう事、シンジ?」

 「だって、他ならぬトウジとケンスケに知られてるんだよ。今ごろきっと、話に
 尾ひれ、背びれ、胸びれ、その他もろもろが付いて、足まで生えて一人歩き
 してる頃だよ」

 「なるほど、確かにシンジの言う通りかも知れないわね。ま、私たちと暮らしてる
 幸せに比べたら、ケガの一つや二つ、安いものよね。後で保健室に連れてってあげる
 から、安心しなさい」

 「は、は、は……。やっぱりそうなるかな?そう思って、バンソウコウは持って
 来てるけどね」

 そう言って、シンジはカバンからバンソウコウを取り出した。

 「あら、用意いいじゃないの」

 「そりゃあね、アスカの時の事があるからね」

 「何? 碇くん、何かケガするの? どうして……?」

 レイが不安そうにシンジに聞いてくる。

 「あ、大丈夫だよ綾波。そんなに心配してくれなくても、そんなにひどいケガは
 しないと思うから」

 「そうなの、良かった……。あの……碇くん、碇くんがケガをするのは嫌だけど、
 もしケガしたら私が包帯巻いてあげるから」

 そう言って、レイはカバンから包帯を取り出した。

 「あ、ありがとう」

 「レイ、あんた何でそんなもん持ち歩いてんのよ?」

 「私は良くケガしてたから、その時に渡されてたの。大丈夫、これはキレイだから」

 「まぁ、包帯を巻かなきゃならないような事にはならないと思うから安心なさい」

 「ほんと? 良かった……」

 「じゃ、教室に入ろうか?」

 シンジは勇気を出して、教室の扉を開けた。

 「おはよぉぉおおぉぅっ!?

 シンジは挨拶の途中で、教室の中に引きずり込まれてしまった!

 「あ、碇くんっ!!」

 シンジっ!!」


 <つづく>


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