新世紀エヴァンゲリオン-if-

 海 編 Aパート


 いよいよ待ちに待った土曜日!

 まるで海水浴に行ってくれ! と言わんばかりの晴天。

 降水確率もゼロ、まさに絶好の行楽日和

 そんな中、シンジとレイは楽しそうにお弁当を作っていた。もちろん海の家にも
 ちゃんとしたレストランがあるので、まずくて高い焼きそばや、学園祭で作る
 タコヤキのような物を食べさせられる心配は無いのだが、『こういう時はお弁当に
 限る』というミサトの意見により、お弁当を持っていく事になっていた。

 大勢で賑やかにどこかに行く事が苦手だったシンジだったが、自分が泳げない事も
 忘れて、楽しそうにしていた。また、レイも初めての海に初めてシンジと遊びに
 行けるのがよほど嬉しいのか、ニコニコしながらおにぎりを握っている。そして、
 そんな二人を見ているアスカも、この日を相当楽しみにしていたようで、それほど
 やきもちを焼いたりせずに、ニコニコしている。

 ミサトはそんな三人を見て、嬉しそうにしていた。

 『やっぱり無邪気なもんね。これが歳相応の子供たちの反応ね。よっぽど今日の事
 楽しみにしてたんだわ。あんなに楽しそうにして……。この子たちがずっと
 微笑んでいられたらいいのに……。もう使徒なんて二度と来ないで欲しいわ。
 少なくとも、旅行中には絶対に来ないで!』

 ミサトも歳相応に、大人らしい考えでシンジ達を見ていた。

 『やっぱりアスカ、何か企んでるのかな? ひょっとして、一気に既成事実
 作っちゃうつもりなのかも……。これはしっかり監視しなくちゃね。あんまり
 あっさりと決着が着いちゃ面白くないもんね』

 結局、一番はしゃいでいるのもミサトだった。


 そして四人は、待ち合わせ場所の駅前に到着した。しかし、まだ少し早かったので、
 まだ誰も来ていなかった。

 「ほら。まだ誰も来てないじゃない。だからもっとゆっくりでも大丈夫だって言った
 のよ」

 「でもアスカ、時間決めたのこっちなんだから、遅れる訳にはいかないだろ」

 「そりゃあそうだけど……。あ、ヒカリだ! おはよーヒカリー!

 アスカはヒカリを見つけ、駆け出していた。

 「あ、おはよーアスカ、いい天気で良かったね」

 「ほんと。これも私の日頃の行いの賜物ね。ところでヒカリ、随分と
 気合の入った格好してるじゃない。やっぱり鈴原のため?」

 アスカは、少しからかうような口調でそう聞いた。

 「な、何言うのよ!? そう言うアスカだって気合の入った格好じゃない。
 碇君のためなんでしょ?」

 「えへへー。分かる?」

 アスカは少し恥ずかしそうにしていたが、あっさりとそれを認めた。そんなアスカ
 に、ヒカリは驚いてしまった。

 『あのアスカがこんなにもあっさりと認めるなんて……前までだったらむきになって
 否定してたのに……。それだけ碇君の事が好きなのかな。それに、トゲトゲしてた
 雰囲気が無くなったし、いつも張り詰めてたような感じも無くなってる。すっかり
 可愛くなっちゃって。碇君がアスカをこんなに変えちゃったのかな。だとしたら、
 碇君って結構すごいのかも……』

 「ん? どうしたの、ヒカリ?」

 「え? ううん、何でもない。それじゃあ私、ミサトさんに挨拶してくるね」

 そう言って、ヒカリはミサトのもとに行き、礼儀正しく挨拶をしていた。

 「ミサトさん、今日は私まで誘って頂いて本当にありがとうございます」

 「あら~、確か洞木さんを誘ったのは鈴原君だって聞いたけど~~~?」

 ミサトは、さも楽しそうにそう言った。ヒカリは一気に赤くなる。

 そして、それを見ていたシンジとレイ。

 「ねぇ碇くん。ミサトさんってほんと誰でもからかうのね」

 「そうだね。ビールと人をからかうのが生き甲斐みたいだね」

 二人がそんな事を話していると、ヒカリがミサトのもとから逃げてきた。

 「碇君、綾波さん、おはよう」

 「おはよう、委員長」

 「おはよう、洞木さん」

 「アスカから聞いたんだけど、今まで色々と大変だったんでしょ? でも二人とも
 元気そうで安心したわ。本当に良かった」

 「ありがとう。委員長も元気そうで良かったよ。みんなバラバラになっちゃって連絡
 がつかないから心配してたんだ」

 「ごめんなさい洞木さん。私が街をこんなにしちゃったから……」

 「それは違うよ、綾波」

 「そうよ綾波さん。みんな命懸けで私たちのために戦ってくれてたんだもの。これは
 仕方のない事よ。それに、けが人こそ出たものの、あれだけの爆発でも死者がいな
 かったんだから。綾波さんもそんなに自分を責めないで、ね」

 「ありがとう、洞木さん、ありがとう……」

 レイは、シンジ達以外にも自分の事を認めてくれる人がいる事がとても嬉しく、少し
 涙目になっている。そんなレイを見て、さすがのヒカリも少し驚いていた。

 「それじゃあ私、アスカと話があるから」

 そう言ってヒカリはアスカのもとに行き、少し声を低くしてアスカに話しかける。

 「ねぇアスカ、話には聞いてたけど、ほんと綾波さんって雰囲気変わったわね。
 私、あんなに嬉しそうに笑っている綾波さん、初めて見たわ」

 「まあね。前より付き合いやすくなったのはいいんだけど……」

 「だけど?」

 ヒカリはアスカの言いたい事が分からなかったので、アスカの視線を追ってみた。
 そこには、シンジの横に寄り添うように立ち、シンジと楽しそうに話しているレイ
 がいた。

 『あ、そういう事か』

 ヒカリはアスカの言いたい事が分かったようだ。

 「大丈夫よアスカ、何と言ってもアスカは碇君と一緒に暮らしてるんだから、
 その分有利じゃない」

 「あー、それが、ね。ヒカリにはまだ言ってなかったんだけど……」

 「?」

 「実は……レイも今、私たちと一緒に住んでるのよ」

 「え? 綾波さんも一緒にって……碇君と一緒に暮らしてるって事?」

 「そうなのよ……」

 「そんな……綾波さんまで碇君と暮らしてるなんて……。
 いや~碇君! 不潔よ~! 不潔よ! 不潔よ!
 不潔だわ~!!

 ヒカリは、いつもの『不潔よモード』に突入していた。

 「え? な、何、何?」

 シンジは、いきなりの事で何が何だかさっぱり分からなかった。

 「アスカだけじゃなく、綾波さんとも一緒に暮らしてるだなんて
 不潔だわ!!

 「ちょ、ちょっとヒカリ、そんな大きな声で言わないでよ。みんな見てるじゃ
 ないの。それに、私とシンジはただ一緒に暮らしてるだけで、何にもないん
 だから」

 「そ、そうだよ委員長。何か勘違いしてるんじゃないの?」

 「え、そ、そうなの? ほんとに?」

 「当たり前じゃないの。もぉーヒカリったら一体何考えてんのよ」

 「やだ、私ったら……てっきり……。それじゃあ、綾波さんも碇君とは何でも
 ないのね?」

 「何でもない? ……ああ、そういう事。碇くんとはキスした事があるけど」

 「あああ~~やっぱり~~。不潔よ不潔だわ~!!」

 「ちょ、ちょっとレイ! あんた何言ってんのよ! そういう事は普通、人には
 言わないものなのよ」

 「そうなの? じゃあアスカが碇くんとキスした事、洞木さんにも言ってないの?」

 「な、何言ってんのよあんた!!」

 アスカは慌ててレイの口を塞いだ。そして恐る恐るヒカリの方に振り向く。

 ヒカリは、全身をふるふると震わせていた。

 「…………アスカ、今の話、本当なの? 碇君とキスしたって……」

 「え、と、あの、その、何と言ったらいいのか……」

 「……ほんとなのね、アスカ? 本当に碇君とキスしたのね……」

 「う。キ、キスしたのは本当だけど……。で、でも、これには色々と事情が
 あって……」

 「デモもストライキもないわよ! やっぱりアスカ、碇君とそういう
 関係だったんじゃないの! 碇君も碇君よ! アスカや綾波さんと同棲してるだけ
 でも不潔なのに、両方とキスしただなんて、一体何考えてるのよ!!

 「そうよね~、普通そう思うわよね~」 うんうん

 「ミサトさん~、面白がってないで委員長止めて下さいよ。僕が何言っても
 聞いてくれなさそうだし……」

 ヒカリは、いまだに「不潔よ! 不潔よ!」と騒いでいる。それをアスカが必死に
 なだめようとしているが、全く効果は無かった。レイは、そんなヒカリの反応や、
 二日前のトウジ達の反応を見ながら、世間一般の常識を少しずつ理解していった。

 もっとも、その度にシンジやアスカを巻き込むのだが。


 こうして、海編は波瀾の幕開けとなった。


 <つづく>


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