「なんや、シンジの泣き虫は変わっとらんな」

 「ほんと。とてもエヴァのパイロットとは思えないね」

 軽口をたたきながらも、二人とも涙目になっていた……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第五部 Bパート


 そんな男くさい世界になかなか入れなかったレイが、控えめに声を掛ける。

 「……あの、ジュースとお菓子用意したから中へどうぞ」

 「あ、ありがとう綾波。それじゃあ二人とも中へ入って」

 シンジは涙を拭きながら、二人を招き入れようとした。

 「ええんかシンジ、ワシらお邪魔しても? 」

 「え? どういう事?」

 「だって、綾波がいるって事は、パイロットのミーティングか何か
 してるんだろ? 僕たちはまた今度でもいいんだけど……」

 「え……いや……そういうわけじゃないんだけど……」

 「それやったら、何で綾波がここにおるんや?

 「まさか、ただ遊びに来てるだけってわけじゃないんだろ?」

 「だから……その……話せば長くなるんだけど……どう言えば
 いいかな……」

 「?」×2

 「私も碇くんと一緒に住んでるの」

 シンジが言いにくそうにしていると、レイがあっさりと爆弾発言した。

 シンジは二人のリアクションに備え、目を閉じ、身を固くした。が、予想外に二人
 は何も言ってこなかった。

 どうしたのかと思い目を開けると 、トウジとケンスケはやや呆然としていた。

 レイの言葉の意味を理解するのに、少し時間が掛かっているようだった。


 そして……。


 なに~~~!? 綾波も一緒に住んどる~~~!?
 そりゃどういうこっちゃ、シンジ?」

 「そ、そう言えば惣流の姿が見えないけど……まさかシンジ、
 惣流追い出して綾波に乗り換えたのか?

 「何無茶苦茶言ってんだよ! ちゃんとアスカもいるよ。
 今日は委員長の所に遊びに行ってるだけだよ」

 「それやったら何か? シンジはミサトさんと惣流だけやのうて、綾波とも
 一緒に住んどるっちゅう事か?」

 「さらにイヤ~ンな感じ」

 「許さん! たとえミサトさんが許しても、ワシは絶対に許さん!
  シンジ、ワシらまだ中学生やぞ。そんな事が許されてええ思とるんか……」

 「ト、トウジ……。何も泣かなくても……」

 「だいいちシンジ、ここにはもう部屋なかったじゃないか。綾波はどこで寝泊まり
 してんだ? 惣流が綾波と同じ部屋で寝るとは思えないし……。ま、まさか、
 シンジの部屋で寝てるんじゃないだろうな!?

 「あ~~~! なんちゅうこっちゃ! ワシの知っとる臆病で
 気の弱いシンジはどこに行ってしもたんや~」

 「諦めよう、トウジ。人間は変わるものさ。もう僕らの知ってる
 シンジはいないんだ」

 「何でそうなるんだよ!? そんなワケないだろ!壁に穴開けて隣と繋いで
 るんだよ。……もう、ちゃんと説明するから中に入ってよ」

 「よーし!徹底的に説明してもらおやないか」

 「そうそう、徹底的にね。隠し事は無しだぞ、シンジ」

 『はぁ~、やっぱりこういう反応をしたか……。ま、分かってはいたけど……』

 シンジは、二人の反応が予想通りだったので、やれやれといった感じで溜め息を
 ついていた。

 一方、レイは、そんな三人をキョトンとした目で見ていた。

 多くの人と関わって生きるために様々な常識を身に付け、年頃の男女が一つ屋根の
 下に住むのがあまり一般的でない事は知っているのだが、トウジやケンスケがなぜ
 ここまで大騒ぎするのかは良く分からなかった。

 『どうしてこんなに大騒ぎするのかなぁ? 好きな人といつも一緒にいたい
 と思うのは普通だと思うんだけど……』

 レイはそう思ったが、あえて二人には聞かなかった。そして、それはシンジにとって
 は幸運だった。もし、レイがトウジたちに質問していたら、今頃シンジはどうなって
 いた事か……。

 ともかくレイは、シンジ達と一緒にリビングへやってきた。リビングには、レイの
 用意したお菓子とジュースが四人分、用意されていた。


 シンジはいつものように自分の席に座る。そしてレイは、まるでそうするのが
 当然のように、シンジの隣に座る。トウジはその事を何とも思わなかったよう
 だが、ケンスケは目ざとく気が付いたようだった。

 『これは……。シンジのやつ、絶対、綾波と何かあったな……。少なくとも、
 心が通じ合ってる。絶~~っ対に全て聞き出してやるからな。覚悟しろ
 よシンジ。

 ケンスケのメガネは怪しく光りだしていた

 シンジはトウジとケンスケに、レイと暮らすようになった経緯を話し始めた。
 もちろん、二人に話すと問題のありそうな所は省いているが……。

 所々でレイも話をフォローしてくれたので、話ベタなシンジでも何とか説明する事
 ができた。

 「なるほどなー。ま、誰でも一人は寂しいもんやからな。あないな部屋で一人で
 住んどったら、寂しゅうなってもしゃあないわな」

 「ほんとだ。壁に穴が開いてて隣と繋がってる」

 「それやったらそれと早よ言うてくれたらええやんか。シンジも水くさい
 やっちゃなー」

 「何言ってんだよ! 僕が説明する前に勝手に大騒ぎしたのはそっち
 じゃないか!」

 「だけどシンジ、いきなりこの状況を見て、誤解するなって方が無理だよ」

 「まったくや。シンジもそう思うやろ?」

 「う。た、確かに……」

 「そうなの、碇くん?」

 「多分、今のが一般的な反応だと思うよ」

 「ふーん。そうなんだ」

 「しかし、シンジも大変やな。さらに忙しゅうなったやろ?」

 「え、どういう事?」

 「家事の事だよ。シンジはこれまで、炊事、洗濯、掃除と殆ど一人でやってきたん
 だろ? 綾波が増えたって事は、これまで以上に仕事が増えるって事だろ?」

 「あ、その事。僕も最初はそうなるかと思ったんだけど、綾波は何でも手伝って
 くれるから、前より楽になったくらいだよ。本当、綾波には感謝してるよ」

 「そんな、感謝だなんて。私はただ、碇くんのお手伝いがしたいだけだから……」

 「あ、ありがとう綾波。うれしいよ」

 「碇くん……」

 二人は見つめ合い、二人だけの世界に突入しかけた。

 しかし。

 かーーーっ! こない目の前でいちゃつかれたらやっとれんわ、
 まったく」

 「ほんと。見てるこっちが恥ずかしくなるよ。喉が乾いて仕方ないよ」

 「まったくや」

 そう言って、二人ともジュースを飲み干す。

 「シンジ、ジュースおかわりや」

 「僕も」

 「あ、はいはい。すぐ持ってくるよ」

 シンジは、赤くなりながらも立ち上がろうとした。

 「あ、碇くん。いいわ、私がやるから。碇くんは座ってて」

 「え? いいよ、綾波。そんな事までしてくれなくても」

 「ううん、いいの。私にやらせて」

 「でも……」

 「碇くん、私、前に言ったでしょ。お客さん扱いされたくないって。だから、
 私に任せて。ね。

 「僕は綾波の事をお客さん扱いなんてしてないよ。綾波は一緒に暮らしてる家族
 なんだからさ。綾波こそ何だか無理して僕の事を手伝おうとしてない? 綾波は僕
 に気を遣う必要なんてないんだよ。普通にしてくれれば、それでいいんだよ」

 「私は無理なんてしてない。私はただ、碇くんと一緒に何かしてるのがうれしいの。
 碇くんのために何か役に立てるのがうれしいの。だからお願い、私に任せて」

 「あ、綾波、ありがとう。うれしいよ、本当にうれしいよ……。

 シンジはレイの言葉に感動し、手を握り、レイを見つめている

 「碇くん……」

 「綾波……」

 レイもシンジを見つめている。二人は、今度こそ二人だけの世界
 突入してしまった。

 二人は何をするわけでもなく、ただお互いを見つめ合っていた。

 そんな時、ふと視線を感じ、そちらに振り向いた。

 するとそこには、ニヤニヤしているトウジとケンスケがいた。

 (ま、無理もないよな)

 「あ、僕たちの事は気にしないで、続けて続けて」

 「しかし、ほんま二人とも仲ええなぁ。手ぇなんか握って見つめ合ったりして。
 このままどうなるんかと心配したわ」

 「え?あ……ご、ごめん、綾波

 シンジは真っ赤になりながら、慌ててレイの手を離す。

 「私は別にいいのに……」

 レイは少し残念そうにしていた。

 「しかしトウジ、今の会話聞いたかい? お互いの事をかばい合ったりして、あれ
 ってまるっきり新婚夫婦の会話そのものだよな」

 「ああ、まったくや。今の様子からすると、案外そうなる日も近いんちゃうか?」

 「言えてるね」

 二人に冷やかされ、シンジもレイも真っ赤になっている。しかし、あえて二人は
 否定しようとはしなかった。

 レイは、照れながらもうれしそうにさえしていた。

 「……しかし、この場に惣流がおったら、さぞ面白い事になるやろ
 な」

 「確かに面白い事になるだろうね。想像しただけでも楽しいや。……そうだ。
 シンジ、今度カメラ持ってくるからさ、惣流の前で今のように綾波とイチャ
 ついてくれないか? ぜひ撮影したい」

 「そんときゃワシも呼んでくれよな、シンジ」

 「二人とも恐ろしい事言わないでよ。こんな所アスカに見られたら
 何されるか……。考えただけでも恐ろしいよ」

 「なるほど。それほど惣流の事を恐れるって事は、今までにも何度か
 惣流のやきもちが爆発した事があるって事だな」

 「うっ!」

 「てー事は、それだけしょっちゅう綾波とイチャついとるっちゅうこっちゃ
 な、シンジ」

 「うっ!」

 シンジはすっかり二人に見抜かれていた。トウジとケンスケは、シンジとレイを
 ニヤニヤしながら見つめている。

 「あ、あの私……ジュース持ってくるから……」

 二人の視線に耐えられなかったのか、レイは逃げるようにキッチンへ向かった。

 レイがいなくなったのをいい事に、二人の質問はさらに具体的になった。

 「シンジ、綾波と何かあったんだろ? 僕たちにだけこっそりと教えて
 くれよ」

 「そーそー。ワシら親友やろ?親友の間で隠し事はいかん。ほら、
 綾波もおらんようになったんや、いい加減白状せえ」

 「な、何言ってんだよ二人とも! 何もあるわけないだろ!」

 「隠すなよ、シンジ。何にも無いのに普通あんなにまではしてくれないぞ」

 「せや。誰にも言わん言うとるやないか。そなにワシが信用でけへんのか?」

 「だから、本当に何も無いんだからしゃべりようがないじゃないか!」

 実際には色々とあったのだが、さすがにそれらの事を話すとどうなるかくらいは
 シンジにも分かっていたので、絶対に話さないと心に決めていた。

 そして、シンジが絶対に話さないつもりなのを感じ取った二人は、作戦を変える
 事にした。

 こういう時のトウジとケンスケは、恐ろしいほどに息が合う。目配せも無しに、
 お互いの考えが分かったようである。

 「ところでシンジ……」

 シンジへの尋問(拷問?)は


 <つづく>


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