新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第四部 Fパート (最終回)


 シンジは軽い二日酔いの中、目を覚まし、目覚まし時計を止めた。

 「いてててて。一口も飲んでない僕がこれなんだから、ミサトさん達は大丈夫なの
 かな~?」

 そう思いながら着替えを済ませ、キッチンにやって来た。そして、そこで信じられ
 ないものを目にした。

 寝る前にきれいに片付けたはずのテーブルの上に、ビールの空き缶が山積みされて
 いたのである。

 「こ、これは一体!? ま、まさか……」

 「あ~シンちゃ~ん、おっはよ~~~」

 「おはようシンジ君、相変わらず早いわね」

 「お、おはようございます。え? まさか二人とも、今までずっと飲んでたんです
 か?」

 「そ~よ~。ちょうど今、最後の一本を飲み終えた所よ」

 「はぁ~~~」

 シンジは溜め息をつく事しかできなかった。

 「じゃあ、『今日は休みます』ってネルフに連絡しておきます」

 (いいのかネルフ、そんな事で)

 「な~に言ってるのよ、シンちゃん。私たちは休んだりなんかしないわよ~」

 「え? でも……」

 「そうよシンジ君。私たちはまだまだ若いんだから、こんな事くらいでは休んだり
 しないわよ」

 「タフなんですね……」

 シンジはあきれるしかなかった。

 そんな事を話している時、レイが入って来た。

 「おはよう、碇くん」

 「あ、綾波。おはよう」

 「あれ? 二人とももう起きてるんですか? おはようございます。早いんですね」

 「違うんだよ綾波。二人ともずっと飲んでたんだよ」

 「え!? 一晩中? タフですね」

 一緒に住んでいると思考が似てくるのか、レイはシンジと同じ事を言った。

 「おはようレイ。そう言うあなたも早いわね。どうしたの?」

 「私は碇くんの手伝いです」

 「シンジ君の? どういう事?」

 「それがね~リツコ、レイはこうして、毎朝シンちゃんと一緒に朝ご飯を作ってる
 のよ~」

 「そうだったの。あら? 言われてみればお揃いのエプロン。やるわね、レイ」

 そ、そんな事……

 リツコに冷やかされて、レイは少し赤くなり、うつむきながらエプロンの端を指で
 いじっていた。

 その表情としぐさを見て、リツコは軽い衝撃を受けた。

 『あのレイが恥じらいの表情を見せるなんて……。レイとの付き合いは長いけど、
 こんな顔見るのは初めてね……。これもシンジ君の影響かしら』

 「碇くん、今日は何を作ればいいの?」

 「う~ん、そうだな。ミサトさん達は何がいいですか?」

 「あ、私はいいわ。何も欲しくないから」

 「私もいいわ。コーヒーだけちょうだい。思いっきり濃いやつを」

 「私もね」

 「はい。コーヒー二つですね。加持さんはどんなんだろ? 朝食べるのかな?」

 「加持君は朝は食べなかったはずよ」

 「そうですか。じゃ綾波、今日は目玉焼きにしよう。三人分作ってくれるかな?」

 「ええ、分かったわ。目玉焼き三人分ね」

 そう言って、レイはフライパンを火にかけ、卵を準備し始めた。そんなレイを、
 リツコはじっと見つめていた。

 「レイ、あなたいいお嫁さんになれるわよ」

 「は、はい。ありがとうございます!」

 リツコのこの一言を聞き、レイは嬉しそうに微笑んだ。映像で見せられないのが
 残念なほど、この笑顔は綺麗だった。

 (単行本3巻の笑顔並みと思って下さい)

 その笑顔を見て、リツコはさらに衝撃を受けた。

 『レイ、こんな私にも微笑んでくれるの? あんな事をした私に……。ありがとう
 レイ。本当にありがとう』

 リツコは、レイの笑顔を見て、随分と救われた気になっていた。


 レイが目玉焼きを作る横で、シンジはコーヒーメーカーでコーヒーを入れつつ、
 みそ汁を作っていた。

 そんな二人を、ミサトとリツコはニヤニヤしながら見ていた。

 「ねぇミサト、こうして見るとあの二人、まるで新婚さんみたいね。お揃いの
 エプロンだし、とっても仲がいいし」

 「そーなのよ。もう毎日見せつけられるのよ。参っちゃうわ」

 「確かに、これは一人身にはつらいわね」

 「でしょ~~~」

 「でも、毎日これじゃ、さぞアスカの機嫌も悪いでしょうね」

 「ええ、毎日朝から不機嫌よ。そんなにシンちゃんとレイが仲良く朝食作るのが嫌
 なら自分も起きてくればいいのに、シンちゃんに起こされるまで寝るって所が、
 いかにもアスカらしいでしょ」

 「そうね。でも案外、アスカはシンジ君に起こされる事に喜びを感じてるんじゃ
 ないのかしら?」

 「あ、そうかも知れないわね」

 二人がそんな事を話している所に、シンジがコーヒーを持ってきた。

 「あの……二人とも、そういう事は本人に聞こえない所で話してもらえませんか?」

 「な~に言ってるのよ、シンちゃん。幸せ者が冷やかされるのは宿命よ」

 「なら、ミサトを冷やかしてもいいわけね」

 「あう!」

 「ねえシンジ君、私と賭けをしない?」

 「賭けですか?」

 「そう。ミサトが料理を覚えるのが早いか、加持君が入院するのが早いか」

 「そんな分かりきったもん、賭けになんないわよ」

 「あれ? アスカ珍しいね。起こさないのに起きてくるなんて」

 「これだけ賑やかにしてたら、寝てらんないわよ」

 「ははは。それもそうだね」

 「ちょっとアスカ、賭けにならないってどういう事よ?」

 「あら、私の口からハッキリ言わせたいの? そんなの、みんなが加持さんの入院
 に賭けるに決まってるじゃない。だから、賭けは成立しないのよ」

 「なるほど」

 「ちょっとリツコ、なに納得してんのよ。『私が料理を覚える』が来れば、超大穴
 じゃないの」

 「……ミサト、自分で言ってて虚しくない?」

 「…………ちょっとね」

 そんな事をしているうちに、加持も起きてきた。

 「いや~、ここの家は朝が早いんだな。しかし、葛城がこんな時間に起きてくる
 なんて信じられんな」

 「違うんですよ加持さん、ミサトさん達は一晩中飲んでたんですよ」

 「ほ~。そりゃまた元気なこって」

 「あっきれた! 信じらんないわね全く。こんなのがネルフの作戦指揮と技術開発の
 責任者かと思うと……それで良く使徒に勝てたわね。ま、これも私たちパイロット
 が優秀だったからね。……ところで二人とも、その格好でネルフに行くの? 昨日
 と同じ格好じゃ、変な噂がたっても知らないわよ。

 さすがに、アスカは女の子らしい心配をする。

 「ん~そうね。確かにこれじゃまずいか」

 「ミサト、私に合う服貸してね。何かあるでしょ」

 「まー、何かあるでしょ」

 こうして、シンジ達が朝食をとる間、二人は身支度をし、加持も申し訳程度に髪を
 とかしていた。

 そして、六人で仲良く出社。

 しかし、シンジ達はミサト達から少し離れた所を歩いていた。あまりに強いアル
 コールの臭いのため、近くにいると気分が悪くなる上、すれ違う人がみんな振り返
 るので恥ずかしかったためである。もっとも、ミサト達は何とも思って無かったが。

 シンジの右側でアスカが歩き、当然左側にはレイが歩く。知らない人が見れば、
 美女二人を独占している極悪人
 に見える事だろう。実際そうだが……。

 「しかしシンジ君、両手に花だな。ま、苦労も絶えないだろうけどな」

 「見てる分には面白いけどね」

 「本当ね」

 後ろを歩くミサト達は、シンジ達を温かく見守っていた。


 ネルフに着いてからも、あまりのアルコールの臭いで注目の的だった。ゲンドウも
 冬月も、怒るよりも呆れて何も言えなかった。

 徹夜と大量のアルコールのため、体はボロボロだったが、もう二度と会えない、
 死んだと思っていた加持との再会、そして加持との婚約が決まったミサト。過去を
 振り切る事を決めたリツコ。二人の心は晴々としており、その顔は生き生きとして
 いた。また、加持もこれまでの働きが認められ、特殊監査部の主任に任命された。
 実際にスパイ活動をするのは、部下に任せる事になるので、今後は、危険な仕事を
 する事は殆どなくなるだろう。

 これで、ミサトとの結婚に関しては、何の問題も無くなったのである。

 なお余談になるが、読者の方の予想通り、ミサトの婚約を知った日向君が、次の日
 二日酔いで遅刻したのは言うまでもない。


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