新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾四 シンジハチャメチャ! 酔いどれてプッツン

 - Cパート -


 「何言ってんだよ! 無能のくせに!!」

 「な、何っ!?」

 「シ、シンジ君!?」

 ざわざわざわざわ……

 「だってそうじゃないか! この前、参号機が乗っ取られた時の無能
 ぶりは何だよ! トウジを助けろって言えば僕だって助けようと努力
 したのに、倒せなんて言うから混乱してしまったんだよ! 父さんが
 的確な指示を出さないからトウジは……。

 おまけに使徒に対して戦力の逐次投入(撃破)なんて最もマヌケな事
 やったじゃないか! ミサトさんがいなきゃ何にもできないんだろ!」

 「ぐ……」

 「それに、エヴァの開発なんかは全部リツコさんに任せてるみたい
 だし、仕事の殆どは冬月さんがやってるんだろ! 父さんはただの
 無能な飾りだってみんな言ってるんだよ!」

 「シンジ、いい加減にしろ!!」

 「碇、落ち着け」

 「碇君、少し言い過ぎ……」

 「ごめんよ綾波、でも、これは父さんのためなんだ。誰かがはっきり言ってやらない
 と駄目なんだよ。父さん、いい加減にしろって言ったよね。いい加減にするのは
 父さんの方だよ。エヴァを動かせるのは僕たちだけなんだろ? だったら僕たちを
 大事にしろよ。いつもいつも綾波に大怪我させて、綾波が可哀相じゃないか」

 「碇君……」

 『私をかばってくれるの? 守ってくれてる? 嬉しい……』

 「いつもいつも一番危ない目に遭うのは僕たちなんだよ。なのに自分は安全な場所
 から偉そうに無能な事しか言わないで、良く役目を果たしてるなんて言えるね。
 だいたい、子供に頼らなきゃ何もできない組織にも問題があるよ。ま、そんな
 非常識な組織のトップが父さんだってんだからお似合いだよね」


 「……センパイ、耳が痛いですね……」

 「そうね、確かに仕方ない事とは言え、十四歳の子供を戦わせてるのは事実だし、
 私達はシンジ君の犠牲の上に生きてるようなものだものね」

 「それにしても、シンジ君ってよっぽどストレス溜まってたんですね。お酒飲んでる
 とはいえ、あそこまで言うなんて」

 「まぁ、父親があれじゃあストレスも溜まるわね」

 「でも、言ってる事は筋が通ってますね」

 「正論で理論武装した、最も手に負えない酔っぱらいね」

 「そうですね。でもセンパイ……」

 「ん? 何、マヤ?」

 (小声で)

 「シンジ君があそこまで碇司令にきつい事言ってるのに、レイちゃんが止めない
 のは意外でしたね。少し言いかけたけど、それ以上何も言わなかったじゃないです
 か」

 「レイの事をかばっての発言だったみたいし、レイもそれ以上言えなかったのよ。
 それに、なんか嬉しそうにしてたしね」

 「そうですね、あんなレイちゃん見るのは初めてですね」

 『さーて碇司令、レイの変化を見て心中穏やかじゃないでしょうね。どう出るかし
 ら?』


 「……ぬうぅぅぅ!!」

 「碇、落ち着け!」

 「ええい、放せ冬月! 放さんか!!

 『なぜレイがシンジに怒らん! 前は私の事を悪く言ったシンジを
 叩いていたのに、なぜだ!?』

 「落ち着いて考えろ。確かにシンジ君の言ってる事は正しい。我々は彼らの協力なし
 では何もできんのだ。お前もその威圧的な態度を何とかしろ」

 「子供のダダに付き合ってる暇などない! シンジ、私のやり方が
 気に入らんのなら、ここから出て行け!!

 「二言めにはそれだ。そう言えば何でも聞くとでも思ってんの? いいよ別に。僕は
 乗りたくて乗ってるわけじゃないんだから。困るのはそっちの方だと思うけどね」

 「碇、冷静になれ」

 「そうですよ司令、今シンジ君に出て行かれたら……」

 「役に立たん奴に用はない!!」

 (小声で)

 「碇、初号機はあれからダミーを受け付けんのだぞ。それにレイの搭乗も拒否して
 いる。今 初号機を動かせるのはシンジ君だけなのだぞ。初号機は戦力としては
 勿論だが、何より計画の要だ。シンジ君の協力なしでは何もできんのだぞ。お前にも
 分かっているはずだ」

 「シンジなど脅せばすぐに言う事を聞く」

 「では、無理に初号機に乗せて暴れたらどうする? それこそ手が付けられんぞ」

 「またLCLの濃度を上げて気絶させれば良い。それだけの事だ」

 「今度は彼女(初号機=ユイ)が抵抗するのではないか? お前のやり方は傲慢
 すぎるからな」

 「……」

 「とにかく、一度シンジ君と腹を割って話し合え。お前は父親なんだからな。いいか
 碇、とにかく、今は使徒の殲滅が最優先だ。下手に出て何とか説得しろ。間違っても
 怒らせるんじゃないぞ。どうも彼は酔ってるようだからな」

 「酔ってる? ……葛城君、どういう事か……」

 ゲンドウがミサトに詰め寄ろうとした時、大きな爆発音と激しい振動が伝わって
 くる。

 『……助かった。使徒さまさまね』 (ミサト)

 「レイ、アスカ、とにかくあなた達だけでも出撃して! シンジ君も
 すぐに出撃させるから!」

 「はい、分かりました。碇君を守るために出撃します。それと司令、碇君に酷い
 事言わないで下さい

 「な!? レ、レイ!?」 (ゲンドウ)

 「さすが綾波、いい事言う」 (シンジ)

 「じゃあ碇君、行ってくる」

 「うん、頑張って」 にっこり

 「碇君……うん!

 「はん! シンジが出てくるまでもなく、私一人でやっつけてやるわよ」

 「あ~そうしてくれ。僕は今やる気ないから」

 「二人とも急いで!」

 二人を送り出すと、ミサトは忙しそうにあちこちに指示を出す。もっとも、ゲンドウ
 に問い詰められたくないので、忙しいフリをしているようだが……。

 「シンジ、お前もさっさと出撃せんか!!」

 「綾波を取られたからってヒステリー起こして みっともないよ、
 父さん」

 うぐぐぐぐ!! ぷち ぷち ぷち (血管の切れる音)

 「碇! 抑えろ、抑えろ!」

 シンジとゲンドウの不毛な言い争い (はた目には親子ゲンカにしか見えない) が
 続いている頃、地上では既に戦闘が始まっていた。

 パレットガン、ポジトロンライフル、バズーカなど次々と兵装ビルから取り出し、
 使徒に向けて放つが、全てATフィールドで防がれていた。

 「くっ! ATフィールドは中和しているはずなのに何でやられないの
 よ!?」

 アスカは必死で攻撃を続けるが、全く効果はなかった。その時、使徒の目とおぼしき
 部分が鈍く光りだす。

 「弐号機、防御!」

 「分かってるわよ!」

 アスカは武器を捨て、腕を交差させ、ATフィールドを最大にする。
 と同時に使徒から攻撃が来る。

 きゃあぁぁぁ!!

 目に見えないその攻撃は弐号機を吹き飛ばし、後方の兵装ビルをなぎ倒した。

 「アスカ!! アスカの状態は!?」

 「はい、命に別状はありません。ただ、弐号機の腕部にかなりのダメージ、その他
 にも機体の数カ所の損傷が認められます。今すぐどうこうではありませんが、戦い
 が長引くほど不利です」

 「くっ! 何なのよ一体!? ATフィールド最大でこれなわけ?
 おまけにこっちの攻撃は届かないし……。こんな奴ら、どうやって倒せって
 言うのよ!?

 「二人で接近してATフィールドを中和、プログレッシブナイフで仕留めるのが効果
 的だと思うわ」

 「分かってるわよそんな事。でも、どうやって近づくのよ? さっきの攻撃見たで
 しょ?」

 「私がおとりになるわ」

 「ちょ、ちょっと!」

 「待ちなさいレイ、危険すぎるわ!」

 「ですが、このままでは……」

 「何とかシンジ君を向かわせるからそれまで耐えて! いい、決して
 無茶はしないでよ」

 「分かりました」

 「無茶するなったって、こんなヤツ、シンジが来たってどうなるもんでもないわよ。
 また暴走させようってーの?」

 「とにかく耐えて」

 そう言ってミサトは通信を切り、シンジに頼み込む。

 「シンジ君、お願い。レイとアスカが危ないの。初号機に乗って
 二人を助けて。今それができるのはシンジ君だけなの。お願い!

 「……しようがないですね。ほんとはやりたくないんだけど。二人に死なれるのは
 嫌ですから」

 「乗ってくれるのね」

 「はい、父さんが土下座して頼むのなら出撃します」

 「へっ?」

 「な、何だとシンジ!? き、貴様!!


 <つづく>


 ざわざわざわざわ……


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