新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 弐拾参 シンジ、うれしはずかしプロポーズ


 時に、西暦2020年。

 使徒が再び人類の前にその姿を現した。死海文書に無いこの出来事のため、ゼーレ
 の老人達は大いに慌てる事になった。だが、小規模とはいえ活動を続けていたネルフ
 の迅速な対応により、多大な損害を出しつつも、何とか使徒の殲滅に成功した。
 人類は、忘れ掛けていた使徒の恐怖を改めて思い知らされた。

 そして時は流れ、西暦2025年。

 再び現れた使徒の最後の侵攻があってから五年あまりが経とうとしていた。
 いつまた、使徒が攻めてくるか分からないという緊張はあるが、街は復興し、世界は
 束の間かも知れない平和を満喫していた。

 そして、それはエヴァのパイロット達にとっても例外ではなかった。

 自分に自信が持てず、常に存在理由を求めていた気弱な少年は、戦いを繰り返して
 いく中、いつしか自信と責任感が付いてきていた。そして、愛する一人の女性を守り
 たいがために、少しずつ強くなっていき、大人の男になりつつあった。

 そして、常にシンジに寄り添い、見守り続ける赤い瞳の少女、彼女もまた、一層魅力
 的な大人の女性へと成長していた。

 痛みを伴う真実、現実、様々な葛藤……それでも二人は一緒にいたいと望んだ。
 いつしか二人は、気になる仲間から、恋人同士と呼ばれる関係になっていった。
 そして、今日もまた、二人は何度目になるのか分からないほど繰り返したデートを
 していた。

 最初はぎこちなく、何を話せばいいのか全く分からなかった二人だったが、特別な事
 を話す必要はなく、特別な事をする必要もなく、ただ二人でいられればそれが一番
 幸せだと気付いてからは、二人にとって二人きりでいられる時間が、最も幸せな時間
 となっていた。

 だが、そんな楽しい時間も、今日はもう終わろうとしていた。レイのマンションが
 見えてきたためである。シンジはデートの後、必ずレイを部屋まで送り届ける。
 そしておやすみのキスをしてから分かれるのがいつものデートの終わり方だった。
 ちなみに、シンジはデートの場所が少しくらい遠くても、帰る時は歩く事が多かっ
 た。なぜならそうする事によって少しでもレイと長く一緒にいられるから……。
 レイもまた、シンジと同じ気持ちだったので、少しくらい疲れても文句を言うつもり
 は全くなかった。

 マンションに近づくにつれ、さらにゆっくり歩く二人だったが、とうとうレイの部屋
 の前まで辿り着いてしまった。

 「碇君ありがとう、送ってくれて。今日はとっても楽しかった」

 「ほんと? 良かった。僕も綾波と一緒にいられて本当に楽しかったよ」

 「碇君……嬉しい……」

 「綾波……」

 「……ねぇ、碇君」

 「ん? 何、綾波?」

 「今日の私の服装、何か気付かない?」

 「え? え……と……その……いつも通り良く似合ってるし……あの……
 とっても……綺麗だよ」 (赤~)

 「あ、ありがとう……。でも……そうじゃないんだけどな……」 (赤~)

 レイは顔を真っ赤に染めながらも、少し悪戯するかのように、シンジの前でくるっと
 一回転してみせた。

 「あ」

 「気が付いた?」

 「その服……確か僕がプレゼントした服だよね」

 「うん、服だけじゃないよ。この鞄も、この靴も、このアクセサリーも、みんな碇君
 からプレゼントしてくれた物なの。本当は、今日は全部碇君からプレゼントして
 くれた物を身に着けたかったんだけど、下着だけは私が買った物を着けてるの」

 「ははは、さすがに女性の下着を買うのは僕にはちょっと無理だからね」

 「それでね、碇君にお願いがあるの。いいかな?」

 「お願い? 何かな?」

 「私ね……欲しい物があるの……一つ……」

 「嬉しいな、綾波がおねだりしてくれるの初めてだね。何かな? 恥ずかしいけど、
 女性の下着でも何でもいいよ。遠慮なく言って」

 「ありがとう碇君。私ね……指輪が……欲しいの」

 「え、指輪?

 「そう……。この指に……指輪が……欲しいの」

 そう言ってレイは恥ずかしそうに左手の薬指を示す。

 「綾……波……」

 「だめ……?」

 不安と期待の入り交じった目でレイはシンジを見つめる。

 「だめなわけないだろ。僕が愛してるのは綾波一人なんだから」

 「碇君……」 (うるうる)

 「でも、先に言われちゃったな。昨日の僕の悩みって一体何だったんだろ」

 「え?」

 「本当はね、今日、綾波にプロポーズしようと思って指輪買ってるんだ、ほら」

 そう言ってシンジはポケットから指輪を取り出し、レイに見せる。

 「碇……君……」

 レイはシンジの見せた指輪を見て涙をこぼす。

 「ごめんね綾波、本当は僕の方から言わなくちゃいけない事だったのに……」

 「ううん、そんな事ない。碇君は私を想ってくれてるもの」

 「綾波、順番が逆になっちゃったけど、改めてプロポーズするよ。綾波、この指には
 僕の想いの全てがこもっている。綾波に受け取って欲しい。そして、この指にはめて
 欲しいんだ。これからもずっと、綾波にはこれからもずーっと僕の側にいて欲しい。
 僕と結婚して欲しい

 「碇君……。はい、一生あなたの側にいます。それが私の望み。ずっと、ずっと
 一緒に暮らしたい」

 「綾波、ありがとう」

 「碇君、ありがとう」

 レイは泣きながら微笑んでいた。そして、そんなレイの手を取り、シンジは薬指に
 指輪をはめる。レイは、これ以上ないと思えるほどの幸せな笑顔を浮かべて、左手の
 指輪を見つめる。
 そんなレイがたまらなくいとおしくなり、シンジはレイ抱きしめる。そして、どちら
 からともなく唇を重ねる……。


 苦しい戦いの連続だった。


 身も心も深く傷つき、血を吐くような思いの毎日。それらの嫌な思い出も、今日、
 この日のためにあったのだと思えば全てを受け入れられた。それほどまでに今の
 二人は幸せだった。そして、これからもずっと……。

 この日、シンジは初めてレイの部屋に泊まった。
 二人の心を重ね、溶け合うために……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 弐拾参

 シンジ、うれしはずかしプロポーズ <完>


 [もどる]