新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 弐拾弐 裁縫具0・1・2

 -後 編-


 「ちょ、ちょっとファースト、何よこれ!?」

 「返してくれる? まだ完成してないの」

 「これは何かって聞いてんのよ!! まさかシンジじゃないでしょう
 ね!?」

 「そぅ、良かった。碇君に見えるのね。返して

 そう言ってレイはアスカの手からシンジ人形を取り返す。

 「あんたバカぁ!? 何だってシンジの人形なんか作ってるのよ!
 呪いでもかけるつもり!?」

 「そんなつもりはないわ。さっき先生が言ってたでしょ。好きなものを作れ
 って。だから碇君の人形を作ったの」

 「んなっ!?」

 『はっ! まさか今のシンジに聞こえたんじゃ?』

 そう思ってアスカは慌てて振り返る。しかしシンジはトウジとケンスケに頼まれた
 のか、二人のマスコットの手伝いをしていて、今の話は聞いていないようだった。

 『ほっ……聞いてなかったようね……。しかし、いくらあの鈍感バカでも、
 ファーストが自分の人形をかばんにぶら下げてるのを見たら絶対意識するだろう
 し……シンジの事なんて別に何とも思ってないし、誰と付き合おうと関係ない
 けど、ファーストだけは別。ファーストなんかに取られるくらいなら私のモノに
 してやる。それには……まず……』

 何かいいアイデアが浮かんだらしく、アスカはシンジの元へ向かった。


 「シンジ」

 「え? 何、アスカ?」

 「私の人形作りなさい」

 「…………は?」

 「は? じゃないわよ。私の人形を作れって言ってるのよ。ちゃんとモデルになって
 あげるから」

 「な、何で?」

 「何でもいいの! とにかく作るの! 目の前にモデルがいるんだ
 から、本物同様可愛く作らないとコロスわよ!」

 「う、うん。分かった……」

 「分かればいいのよ、分かれば」

 強く言われると抵抗できないシンジは仕方なくアスカの人形を作る事にした。
 トウジとケンスケはシンジの事を『情けない』と思いながらも、面白そうなので
 何も言わず見守っていた。

 『……何で僕がこんな事を? ……でも言う通り作らないとアスカが怒るし……
 だけどどうしよう……この部屋の材料使えば等身大アスカ人形を作る事も
 できるけど、それはそれで色々と問題あるような気がするし……。やっぱりゲーム
 センターにあるようなデフォルメしたようなやつがいいかな。目を大きくして口もと
 笑わせてれば可愛く見えるし。となると、服装だな。学生服にするとスカートに
 しなきゃなんないから……下着が問題になるな……。ここは無難にプラグスーツ
 姿がいいな。うん、そうしよう』

 色々な葛藤の末、シンジはプラグスーツ姿のアスカ人形を作る事にした。


 そしてしばらくすると、アスカ人形が完成した。

 「はいアスカ、できたよ」

 「何よこれ!? 私、こんなに太ってないし、胸だってもっと大きい
 わよ!! 一体どういうつもりよ!!」

 「いや、ほら……これ人形だから、可愛くしようと思うとどうしてもこういう風に
 なるんだよ。結構可愛くできてると思うんだけど……ねえ、委員長もそう思うよね、
 ね?」

 「え、私? そ、そうね。親しみのもてるかわいい人形だと思うわよ。ちゃんと
 アスカだって分かる特徴もあるし。いいんじゃないのかな」

 「そう? まぁ、ヒカリがそこまで言うんだったらそういうもんなのね……」

 『ありがとう、委員長』

 『碇君も大変ね』


 「じゃあシンジ、これあげるわ。カバンに付けときなさい」

 「え? でもこの人形、僕が作ったんだけど……」

 「だから、シンジが作って私にくれたの。それを私がシンジにプレゼントするのよ。
 分かったかしら?」

 「…………はぁ」

 「ちゃんとカバンに付けときなさいよ! いいわね!」

 「う、うん」

 『ふふふ、これでシンジは私のモノってみんなに知らしめる事ができるわね。
 ファーストの作戦より私の方が一歩上だったようね』

 そう思い、勝ち誇ったかのようにレイを見る。するとレイは、慌てて何かを作って
 いるようだった。

 『? 今さら何をやってるのかしら? ……ま、何をやろうともう遅いけど』

 しかし、レイも負けてはいなかった。何かを手に持ち、シンジの元にやって来る。

 「碇君」

 「何、綾波?」

 「これ、私の手作り人形、碇君にあげる

 レイは自分をかたどった人形をシンジに手渡す。

 「あ、ありがとう……でも、どうして僕に?」

 「碇君に持ってて欲しいから。カバンに付けてて欲しいから…………だめ?

 「あ、あの……あ、ありがとう、綾波。うん、大事にするね」 真っ赤っ赤

 「むぅぅぅ!!」 (アスカ)

 「そう、良かった。お揃い、私もカバンに付けておくね」

 そう言ってレイはシンジ人形を取り出した。

 「え? 僕の人形? ……ど、どうして僕の人形作ったの?」

 「さっき先生が、す…… だぁぁぁ!! あんたは黙ってなさい!!」

 「す?」

 「男が細かい事気にするんじゃない! それよりシンジ、今すぐ
 自分の人形作って私にプレゼントしなさい! 今すぐよ!!

 「ええっ!?」

 「じゃあ碇君、私もモデルになるから私の人形も作って欲しい。プレゼントして
 欲しい」

 「ええっ!? 綾波も!?」

 『ど、どうしたんだろ二人とも。僕は一体どうしたら……。そ、そうだ委員長
 に……』

 シンジは何とかヒカリに助けてもらおうと、すがるような目でヒカリを見たが、
 これ以上面倒な事に関わりたくないとばかりに、目を逸らしてしまった。

 『そ、そんな~~~』

 『碇君も大変ね』

 トウジとケンスケが助けに入るはずもなく、それどころかシンジにレイとアスカの
 人形を大量生産させ、裏で売りさばこうとする計画が進んでいた。

 「シンジ!! さっさと作りなさいって言ってるでしょ!」

 「碇君、どんなポーズがいい?」

 二人の美女に言い寄られるという、どう見ても幸せな状態だが、良く分かっていない
 シンジに分かる事は、確実にクラスの男達の妬みを一身に受けるという事だけで
 あった。


 結局、シンジのカバンには初号機、シンジ、レイ、アスカの四つの人形、
 レイのカバンには零号機、シンジ、レイの三つの人形、
 アスカのカバンには弐号機、シンジ、アスカの三つの人形が飾られ、
 三人の関係が一目で分かる状態となった。

 『ひょっとして僕って……首輪を付けられた犬状態じゃないんだろう
 か……?』

 ようやくその事を理解したシンジを挟んで、今日もレイとアスカの女の戦いは
 続くのであった……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 弐拾弐

 裁縫具0・1・2 <完>


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