新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 弐拾 キッチンパニック!


 ある平和な日常における平和な会話。


 「…………ねぇファースト、あんたいまだに常識ってもんが
 理解できてないようね」

 「そう? 随分勉強したつもりなんだけど……どこかおかしい?」

 「おかしいわよ!! 普通、結婚して子供なんか産んだら
 プロポーション ボロボロになるものなのよ! なのにあんた、
 なに結婚前のプロポーション維持してんのよ! サギじゃない
 のよ!!」

 「そういうものなの?良 く分からないわ」

 「そういうものなの!! それで、そんな妻に愛想を尽かした
 ダンナが浮気に走る、というのが黄金パターンなのよ!
 ……まったく、このチャンスを狙ってたっていうのに……」

 「……あなたが何を狙ってたのか知らないけど、私は、碇君……あ、また間違え
 ちゃった。シンジのために綺麗になるの。シンジが私を選んでくれた時の姿の
 ままでいられるのなら、そんな常識は無視するわ

 「あのね、”無視するわ”の一言で無視できるようなものじゃないの。まったく、
 性格だけじゃなく体質まで変わってるわね」

 「そう?」

 「……しっかし……まさかファーストがシンジとくっつくとは……。いまだに信じ
 られないわね。そんな素振りなんて微塵も見せなかったのに……」

 「私はずっとシンジが好きだったもの。ただ、他の人にあえて知らせる必要がなかっ
 ただけよ。シンジ一人に私の気持ちが伝わってれば、それで十分だったから」

 「へいへい。のろけ話なんか聞きたかないわよ……。ところでレイ、話は変わるん
 だけど……」

 「珍しいわね、あなたが私の事を名前で呼ぶなんて」

 「そりゃあね、まじめなお願いする時くらい名前で呼んであげるわよ」

 「そう……で、なに?」

 「シンジと別れて」

 「い・や」

 「そんな事言わないでさ~。あんた結婚して子供まで産んで……もう十分幸せ味わっ
 たでしょ。そろそろシンジを私に返しなさいよ」

 「その言い方、日本語として正しくないわ。シンジはあなたのものだった事は無い
 し、何より、シンジは物じゃないわ。私と、この子にとって絶対に必要な人。何と
 言われても別れる事はないわ」

 「言っときますけどね、シンジに最初にキスしたのはこの私なのよ」

 「その事は聞いてるわ」

 「な!?」

 「でも、それは私がシンジに告白する前の事でしょ? それに、誰にでも一度くらい
 過ちを犯すものよ。私は気にしないわ」

 「ふ、ふん。本妻の余裕ってやつかしら」

 「本妻も何も、シンジの妻は私だけよ。今も、そしてこれからも。ところで、あなた
 はどうしていつもシンジにこだわるの? あなた、もてるんでしょ。その中から
 いい人選べばいいじゃないの」

 「そりゃあ、確かに私はもてるわよ。言い寄って来る男なんて掃いて捨てるほど
 いるわ。でもね、あいつら家事能力が全滅なのよね~。特に料理が全くダメ。シンジ
 の足元にも及ばないのよね~。やっぱりシンジが一番ね」

 「……あなた……そんな理由だけでシンジがいいって言うの? それに、自分で
 家事をしようとは思わないの?」

 「もちろんそれだけってわけじゃないわよ。それにね、女だから家事をしなきゃ
 なんないっていう考え方自体が古臭いのよ。その点、シンジは完璧よね。私のワガ
 ママも聞いてくれるし。あ~あ、ファーストはいいわね~。炊事洗濯掃除etc 何
 でもシンジがやってくれるんでしょ。羨ましい限りね全く……」

 「私、それらの事は全て一人でやってるわ。もちろんシンジは手伝ってくれる
 けど……私の事を一番に考えてくれるから

 「はん! のろけ話なんて聞きたくないって言ったでしょ! ま、いいわ、今日は
 これくらいにしといてあげるわ。それより、おなか空いたからそろそろ食事に
 してよ」

 「あなた……今日もうちで食べてくの?」

 「いーじゃない別に。隣に住んでんだし、材料費はちゃんと出してるし。あんたの
 料理中、この子の面倒見てあげてんだし……。それとも、私がシンジ引っ張り
 回して、外で食事してきてもいいの? 私は別にそっちでもいいんだけど」

 「今から作るわ。言っとくけど、肉は無いわよ」

 「分かってるわよ。いい加減慣れたわ。それにしても、シンジは良く肉の無い食事に
 耐えられるわね。あいつ肉料理好きだったのに」

 「私がシンジのために愛を込めて作る料理だからよ。シンジも嬉しいって
 言ってくれるし」

 「はぁ~~~。ファーストの口からそんなセリフが出るとはね。もういいわよ。
 さっさと料理してきなさい」

 「そうするわ」

 そう言って、レイはキッチンに消えていった。

 『ふっ……この私がいつまでもおとなしくしてると思ってたら大間違いよ。シンジ
 なんて、この私が本気で迫ればイチコロなんだから。この子だって私になついてる
 し、世間の目があるからしばらくはおとなしくしてたけど、そろそろいい頃よね。
 ふっふっふっ……見てなさいよファースト、最後に笑うのはこの私なんだから』

 一人で何やら企み、含み笑いをしているアスカの頬に、何か冷たい物が触れる。

 ぴたっ

 「ひっ!?」

 「何だか邪悪な波動を感じたんだけど……気のせいかしら?

 「ファ、ファースト……あんたいつの間に?」

 「私の気のせい?」 ぴた ぴた

 「き、気のせいよ。決まってるじゃないの……。だ、だからこの包丁どけてくれ
 ない? 危ないでしょ」

 「平気よ。私はあなたと違って刃物(包丁)の扱いは慣れてるもの」

 「ハン! 何言ってんのよ。この私以上に刃物が似合う女なんてこの世にはいない
 わ。何しろ、プログナイフに始まってスマッシュホーク、ソニックグレイブ、果て
 は量産機の武器まで何でも扱えるんだから」

 「そう。でも、生活には役に立たないわね」

 「う」

 「とにかく、おかしな事は考えない事ね」

  ムカッ

 「気に入らないわね、その態度。武器の扱いが実生活に役に立たないかどうか、その
 身で確かめてみる?」

 「そう? でも忘れないでね。私、刃物使うの上手よ」

 「ほーぉ、言うわね。ちょっとキッチンから一本借りるわよ」

 「ええ、好きな物を使うといいわ」

 そして、アスカは一本の刺身包丁を持ってくる。

 「ふっ ふっ ふっ……」

 「…………」

 二人の間にすさまじい火花が散っており、まさに一触即発状態だった。

 と、そこに……

 「…………またやってんの、二人とも? 今日は派手だね、危ないよ」

 「あ、シンジ! お帰りなさい」 だきっ

 「ただいま、レイ」

 「ごめんなさい。ちょっとたてこんでたからお出迎えできなくて……でも、お帰り
 のキスはちゃんとするね」 ちゅっ

 「くぉらっっ!! ファースト! よりによって、この
 私の目の前でーーーっ!!」

 「私は妻だからいいの」

 「ええーい! こーしてやる!!」

 チャキィーン!!

 アスカは包丁で切りかかろうとしたが、レイに受け止められ、火花が散る。

 シンジは、そんな二人をやれやれといった感じで見つめながら、とりあえず何が
 起きたのか分からずにはしゃいでいる我が子が巻き込まれないように安全な場所に
 避難させる。

 「二人とも……ケガしないように程々にね。じゃ、今日は僕が料理作っておくから
 それまでには仲直りしてね」

 「ごめんなさい。明日はちゃんと作るから」 カキン!

 「シンジ、たまには肉料理食べさせなさいよね。ま、久し振りのシンジの手料理、
 楽しみにしてるわ」 チャキィーン!

 二人は実際に火花を散らしながら、余裕でそう告げる。

 シンジも、いつもの事なので慣れているのか、それほど心配している様子もなく、
 キッチンへ向かう。


 そして碇家では、シンジの料理を作る音と、包丁のぶつかり合う音が
 絶妙なハーモニーで奏でられたという……。


 碇家の平和(?)な一日の、平和な一コマだった。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 弐拾

 キッチンパニック! <完>


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き

 う~ん……なんかアスカファンを敵に回したような気がする……。
 ま、まぁ、この埋め合わせはいつかするという事でご勘弁を。

 ところで、シンジとレイの子ってどうしても女の子という
 イメージしか湧かない。なぜだろう……。

 特に名前は決めてないので、各個人の思い入れのある名前を
 付けてやって下さい。……一度も名前は呼んでないけど。


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