新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾伍 ハッピーバースデイ・シンジ (True)

 - Cパート -


 「そうだ。僕、ケーキ買ってくるよ」

 「え、ケーキ?」

 「うん、どういった理由があるのか知らないけど、ケーキの上に年の数だけローソク
 立てて火をつけるんだ。それを一息で消すと何となく誕生日って気がするんだ。僕
 一人だからいいかと思ってたけど、綾波にとっては初めての誕生日だから、ちゃんと
 したいからね。ちょっと行ってくるよ」

 「あ、碇君、ケーキなら葛城三佐と赤木博士が買ってくるって言ってた」

 「あ、そうなんだ。……でも二人とも遅いな。ケーキ屋さん、ネルフの帰り道にある
 のに。何してるのかな?」

 「仕事が遅くまで掛かってるのかも」

 二人がそんな事を言っている時、ミサトとリツコは何をしているかというと、キッ
 チンの隅からリビングの様子を伺っていたりする。

 「ね、ねぇミサト、シンジ君をびっくりさせようと思ってこっそり帰ってきたのは
 いいけど、何だか出ていきにくい雰囲気ね……」 ひそひそ

 「そ、そうね。アスカがいないみたいだったから、急遽レイとの二人っきりの
 時間をプレゼントって企画だったんだけど、まさかこんな展開になるとは
 意外だったわね」

 「それにしても、シンジ君って結構キザね。誕生日をプレゼントだなんて、見てる
 こっちが恥ずかしくなってくるわ」

 (だったら覗くな。というツッコミは、書いてる最中作者が山ほど入れてます)

 「でも、レイがあんなに喜んでるんだからいい事よ。シンジ君もやっぱり男の子、
 やる時はやるわね」

 「でもどうするのミサト? このまま見てたら更に進展しちゃうかも知れないし……
 それこそ、ただの覗きになっちゃうわよ」

 「そうね~~~それはそれで面白いんだけど、後でシンジ君に恨まれるのも嫌だし、
 おなかも空いてきたし……ここはそろそろ出ていった方がいいわね」

 「ええ、その方がいいわね」

 「リツコ、クラッカーの準備いい?」

 「もちろんよ、ちゃんと買ってあるわ」

 「じゃ、せーので行くわよ」

 「ええ、ミサトこそケーキ落とさないでよ」

 「わーかってるって。じゃ、せ~~~のっ!

 パァーーーン!!

 スパパパーーーン!!

 「おめでとーーー!!」

 「お誕生日おめでとう、シンジ君!」

 「う、うわっ!?」

 「きゃっ!」

 「クワ~~~?」

 突然の出来事に、シンジ、レイ、ペンペンは飛び上がるほど驚いていた。

 「ミ、ミサトさん!? リツコさんも? い、いったいいつ帰って来たんですか?」

 「もっちろん、たった今帰って来た所よ。んふふ、シンちゃんったら、レイと
 二人っきりの世界に浸ってて気が付かなかったんじゃないのぉ~~~?」

 「な、な、何言ってるんですか!? 僕は別に……

 「照れない照れない。あそうだ、レイ、あなたも十五歳になったんですって?
 おめでとう」

 「あ、ありがとうございます」

 「ミサト!!」

 「え? あ、しまった!!

 ミサトは慌てて手で口を塞ぐ。しかし、時すでに遅かった。

 「……どうしてミサトさんがその事知ってるんですか? 綾波の誕生日決めたの、
 ついさっきですよ」

 「え、えーと、だから……その……」

 「…………見てたんですね……」

 「う……ご、ごめん。でもほら、最初から覗くつもりじゃなかったのよ。そうよね、
 リツコ」

 「ほんとよシンジ君、ただちょっとびっくりさせようと思っただけなのよ。でも、
 何だか出にくい雰囲気だったから……その……」

 『見られてた……』

 その思いから、シンジは真っ赤になっている。そんなシンジを見て、ミサトとリツコ
 は、シンジが怒っていると思い、慌てた。

 「ごめんなさいシンジ君、ほんとに悪気はなかったのよ、信じて」

 「謝るから許して。ね、ほら、ケーキやフライドチキン買ってきてあげたし、ね、
 ね、今日はシンジ君やレイの誕生日、めでたい日よ。そんなに怒ってちゃだめよ。
 お願いだから機嫌直して、ね(はぁと)」

 二人は一生懸命、シンジに謝っている。シンジにしても、見られてたのは恥ずかしい
 が、本当に悪気はなかったようだし、何より自分の誕生日を祝ってくれているので、
 嬉しくないはずがなく、怒る気持ちは全くなかった。

 「……はい、ありがとうございます。ミサトさん、リツコさん、嬉しいです」

 「ほんとにごめんなさいね」

 「でも良かった。シンジ君が機嫌直してくれて」

 「あ、そうだ。リツコさん、見てたんなら知ってますよね。綾波の誕生日、今日に
 してもいいですよね?」

 「いい……ですよね?」

 シンジの問いかけに、レイも心配そうにリツコを見る。

 「……ええ、もちろんいいわよ。六月六日、レイの誕生日として登録しておくわ」

 リツコの言葉を聞き、シンジとレイは手を取り合って喜んでいた。

 「良かったね、綾波!」

 「ありがとう! みんな碇君のおかげ。ほんとにありがとう」

 「ごめんなさいね、レイ。あなたの気持ちに気付いてあげられなくて……寂しい
 思いをさせたみたいね」

 「いえ、いいんです。碇君のおかげで私にも誕生日ができたんです。もう私は寂しく
 ありませんから」

 そう言って、レイは嬉しそうに微笑む。

 『……本当に嬉しそうね。まさに恋する乙女ね。良かったわね、レイ』

 リツコはそんなレイを見ていて、優しい気持ちになっていた。

 「それじゃあ、改めて、シンジ君とレイの十五歳の誕生日を祝って、
 ぱぁーーーっとやりましょ、ぱぁーーーっと!!

 ミサトはそう言うと、冷蔵庫の中からビールやジュースをたくさん取り出した。
 そして、小皿を取り出し、買ってきた料理を並べる。リツコも色々とナイフや
 フォークなどの準備をしている。

 そして、ケーキの上に十五本のローソクを並べ、火をつける。


 ♪ハッピパースデー トゥーユー

  ハッピバースデー トゥーユー

  ハッピバースデー シンちゃん&レ~イ~

  ハッピーバースデー  トゥ~~~ユ~~~


 「じゃあ綾波、一息で吹き消すよ

 「ええ」

 「じゃあ、せーの!

 フゥーーーッ!

 ローソクの火は見事に消えていた。

 「おめでとう、二人とも!」

 「十五歳の誕生日、おめでとう」

 「クワックワ~!(おめでとう~)」

 ミサトとリツコ、そしてペンペンに祝福され、シンジとレイはとても嬉しそうに
 している。

 「ありがとうございます。ミサトさん、リツコさん、ペンペン、ほんとにありがとう
 ございます」

 「私……嬉しいです。ありがとうございます」

 「さーて、じゃあ早速食べましょう。私もうおなかペコペコなのよ。シンジ君、
 ケーキ切ってくれる? あ、アスカの分、ちゃんと残しておいてね」

 「はい、分かってます。じゃあペンペンも入れて六等分ですね」

 「ちょっとミサト、シンジ君は今回の主役なのよ。本人に切らせてどうするのよ。
 ミサトが切ればいいじゃないの」

 「う。で、でもほら、私が切るよりシンジ君が切る方が綺麗なのよ。それに、
 綺麗なケーキにナイフ入れるのは主役の権利よ」

 「まったく……物は言いようね。でも、それならレイにもその権利があるわよ。
 レイだって今日が誕生日なんだから」

 「あ、そうか。レイも誕生日だって知ってればもう一つケーキ買ってきたんだけど。
 今からじゃもうお店閉まってるだろうし……」

 「あの……私は別に……碇君が切ってくれれば……」

 「まぁまぁレイ、そんなに遠慮しなくてもいいのよ。……あ、そうだ! いい事
 思い付いちゃった。主役が二人でケーキが一つなんだったら、二人で一緒に
 切ればいいのよ

 「え、二人でですか?

 「あら、いい考えね、ミサト」

 「でしょ~~~。さ、シンジ君、ナイフ持って」

 「は、はい」

 「じゃあレイもシンジ君の手の上からナイフを持ってね」

 「あの、こうですか?」

 「そーそー、いい感じね。二人とも手を切らないように気を付けてね」

 「あの……じゃあ綾波、ここから切るよ」

 シンジは自分の手に添えられているレイの手の温もりに赤くなっていた。

 「ええ、ここね」

 レイはシンジの手の動きに合わせて、二人でケーキを切った。

 「ん ふ ふ ふ ふ。なんだかウェディングケーキを切ってるみたいね、
 二人とも」

 「あら、ミサトもそう思った?」

 「そりゃぁね~。なんか妙に暗示的よね~」

 「そうね、何年後の姿かしらね?」

 二人にそう冷やかされてシンジは赤くなる。そして、ちらっとレイの方を見てみる。
 すると、同じように赤くなり、自分の方を見ていたレイと目が合ってしまう。二人
 はますます赤くなり、固まってしまった。

 そんな二人の様子を、ミサト、リツコ、ペンペンは面白そうに、優しく見つめて
 いた。

 六月六日、その日はシンジ、そしてレイにとって、ただ自分の誕生日というだけでは
 なくなった。お互いにとって最も大切な人が生まれた事を祝う日となっていた。

 翌年の誕生日には、シンジはレイのために、レイはシンジのために、心をこめて
 ケーキを作り、お互いの気持ちを確かめ合った。

 そして、シンジとレイはその後も二人きり、または祝ってくれるたくさんの親しい
 人たちに囲まれて、いつまでもいつまでも幸せな誕生日を迎え続ける事ができたの
 だった。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 拾伍

 ハッピーバースデイ・シンジ (True) <完>


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き

 はっと気が付くとまたアスカが出てない……アスカ派の人達に恨まれたかも……。


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