「アスカ、逃げ出した後」の物語は前回で一応完結したのですが、あの後、レイ
 が生きている事を知ったシンジとアスカ、特にアスカがどういう反応をするのか
 がとても気になって気になって、その事ばかり考えていたら、仕事中、危うく
 指を一本飛ばしそうになりました。(マジ)

 そこで、自分の身の安全のため、後日談を書きます。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 九 アスカ、逃げ出した後

 - Cパート -


 アスカがシンジと共にネルフに戻って二週間ほど過ぎていた。その間、アスカの
 シンクロ率は徐々に回復し、今はエヴァの起動に何ら問題ないほど回復していた。

 そんなアスカは、上機嫌で鼻唄まで歌いながら、プラグスーツから私服に着替えて
 いた。

 「……どうしたのアスカ? 随分機嫌いいみたいだけど……」

 「え? 珍しいわね、ファーストが私に話掛けてくれるなんて。ふふふ……あのね、
 今日、私の誕生日なんだ。それでね、シンジがお祝いに食事に誘ってくれたのよ。
 えへへ、いいでしょ」

 「…………」

 「あ、ごめん。今のあなたに言っても分からなかったわね……ごめんなさい」

 アスカは決して嫌味ではなく、心から申し訳なさそうにそう言った。レイは一命は
 取りとめたものの、記憶を無くしてしまっていて、かわいそうに思っているのだ。
 自分以外の人の心配ができるほど、アスカの心にはゆとりができていた。

 しかし、レイの反応は、アスカの予想外のものだった。

 「……いいわね……本当、うらやましい……」

 「え? ファースト、あなた……記憶が……戻ってるの?」

 「ええ。最近、少しずつ、ぼんやりとだけど……。私が何を考え、何を感じ、どう
 いう想いを持っていたか、少しずつ思い出してきたの……。でも、私は、余りに
 大事な時に記憶を無くしていた……。今さら自分の気持ちに気付いても、もう碇君
 はアスカの事を……」

 「ちょっと待ちなさいよ。それじゃあ、ファーストが記憶を無くしてるうちに、私が
 シンジを奪ったみたいに聞こえるじゃないの?」

 「え? 違う。私はそんな事が言いたいんじゃない。ただ私は、碇君に愛されている
 アスカがうらやましいと思って……」

 「同じ事よ。ファーストが少しでもシンジの事を想っている以上、周りの人達は
 そう見るわ。ファーストが記憶を無くしてる間にシンジを奪った卑怯な女ってね。
 私はそんなドロボーネコみたいな真似はしない。私は決して卑怯な真似はしない。
 常に正々堂々と生きるって決めたの。……シンジに助けられた命だもの。みっとも
 ない生き方はできないわ」

 「……アスカ……」

 「ファースト、あんたシンジの事が好きなんでしょ? 私との事が気になったから、
 さっき私に聞いてきたんでしょ?」

 「……多分、そうだと思う」

 「それじゃあファースト、今日の食事、あんたも来なさい。そこでシンジに告白
 するといいわ

 「え!?」

 「私に遠慮する必要なんて無いわ。シンジが好きなら、そう伝えればいいのよ。
 自分の気持ちに素直になればいいのよ。私みたいにね」

 「でも……いいの? 私が碇君の事好きだって伝えてもいいの?」

 「ええ、いいわよ。もちろん、私はシンジを譲る気なんて無いけどね。さっきも
 言ったでしょ。私は常に正々堂々とやるってね。そのためよ。……それに、ファー
 ストに助けられた借りもまだ返してないでしょ。このままじゃ、何か後ろめたいの
 よ。だから、ファーストもシンジに告白しなさい。そうすれば、貸し借り無しだし
 私もファーストに何の遠慮もなくやれるってもんよ。だから、私のためでもあるの。
 ね、だからファースト、勇気を出して」

 「……アスカ、変わったね」

 「そう?」

 「うん。今までのアスカだったら、私にそんな事言ってくれなかった。やっぱり、
 碇君のおかげ?」

 「んー、多分そうね。でもファーストだって相当変わったわよ。初めて会った時に
 は、絶対に男女間の事で悩んだりするような子じゃないと思ってたけど、それが
 こんな風になるんだもんね。ファーストだって、随分シンジの影響を受けてんじゃ
 ない」

 「ええ、そうね」

 「それじゃあファースト、正々堂々やりましょ。もちろん私は負けないけどね」

 そう言って、アスカはレイに手を差し出した。

 「ええ、分かってる。もちろん私だって負けないから」

 そう言ってアスカの手を握り返し、微笑んだ。アスカにとって、それは初めて見る
 レイの笑顔だった。アスカの中には、既にレイに対するわだかまりは無く、レイも
 アスカを受け入れていた。

 二人は明らかに恋のライバルなのだが、同じ男性を好きになった者としての、奇妙な
 連帯感があった。

 そして、二人はお互いを刺激し合いながらも、いつしか親友となっていった。

 それは、将来、シンジがどちらかを選ぶ時が来たとしても、変わる事はなかった。


 <完>


 やー、何とかこれで自分への補完はできた、と。

 「違う、俺のアスカ様はこうじゃない!」 とか、
 「こんなのレイちゃんじゃない!」 とか言われそうだけど、まぁ、これも
 一つのカタチという事で……。

 あーしかし、この後の事も気になる……。

 はっ!これは無限地獄!!


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